湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第11節(2009年5月9日、土曜日)

 

足が止まったら、いくらサンフレッチェでも普通のチームに成り下がっちゃうのも道理だよね・・(ジェフvsサンフレッチェ, 2-1)

 

レビュー
 
 「我々の場合は、後方から数的優位の状況を作り出していくのですよ・・3人目、4人目の選手が後方からオーバーラップすることで、必要なときに、タイミングよく最前線で数的に優位な状況を作り出す・・最初から前線の人数を増やしたからといって攻撃的なサッカーが展開できるわけじゃないからネ・・」

 試合後の記者会見で、サンフレッチェのペトロヴィッチ監督が、そんなニュアンスのことを言っていた。いや、実際には、通訳の「杉浦大輔さん」が上手く意訳することで(言葉を補足することで)素敵な表現になったといった方が正確かもしれないね。

 わたしゃ、ドイツ語が分かるんですよ。だから、杉浦さんがサッカー大好き人間であること、(多分)サッカー関係でドイツ語圏の国に留学した経験があること、そしてもっと言えば、本当はコーチとして仕事をしたいと「も」思っていること(もしかしたらドイツ語圏のどこかの国で私のようなコーチライセンスを取得しているのかもしれない・・!?)等がよく分かるのです。

 コーチとしてのウデは知らないけれど、少なくとも杉浦大輔さんは、優秀な「コミュニケーター」だよね。ドイツ語が上手いだけじゃなく、グッドパーソナリティーだし、グッド・インテリジェンスでもある。ペトロヴィッチ監督は、とても大切なパートナーを獲得したということだね。

 あっと・・ハナシが逸れた。ということで(全体的な走りの量と質をハイレベルに維持することを絶対的なベースに!!)後方からの押し上げによって演出する数的優位な状況というテーマ。

 サンフレッチェが展開する、攻守にわたる魅惑的な組織サッカーの本質は、まさに「そこ」にありということだね。ペトロヴィッチ監督のプロコーチとしてのウデに対して「レスペクトの拍手っ!!」なのです。ということで、サンフレッチェが展開するサッカーの基本的なメカニズムについては、この「Jリーグコラム」も参照してください。

 サンフレッチェは、この試合でも、先制ゴールをブチ込むまでは、まさに次元の違う(美しい)クリエイティブ組織サッカーを展開していた。私や、サッカーマガジンのサッカー博士、国吉好弘さんも含め、この試合に駆けつけた多くのジャーナリスト仲間の方々も「それ」を見に来たと言っていたですが、それも頷(うなず)ける。

 でも堪能できたのは、サンフレッチェが、見事な、本当に見事な「組織パス・スーパーゴール」を挙げるまでだったですかネ。まあ、その後も何度かはチャンスを作り出してはいたけれど、走りのポテンシャルが、どんどん減退していくのにしたがって、まさに普通のチームに成り下がってしまった。フ〜〜・・

 それでも私は堪能していましたよ。それに、サンフレッチェの組織サッカーについて、ちょっと「新しい視点」も考案できたしね。それは、こんな感じ・・

 ・・サンフレッチェの仕掛けでは、最終勝負プロセスまでも、徹底してパスで崩すというイメージが浸透している・・だから、相手ゴール前で、相手ディフェンダーの視線と意識を「釘付け」にしてしまうような、見事な人とボールの動きを展開しているときでも、その「先」では、仲間の最低でも一人は、スッと、相手守備ブロックの「背後スペース(=決定的スペース)」に入り込んでいる・・

 ・・まさにそれは「動的なタメ」と表現するに相応しい創造的な組織パスプレー・・そして、そんな組織パスでの最終勝負プロセスイメージが浸透しているからこそ、仕掛けの変化としてのドリブルシュートも自然と出てくるし、それが出てきたからといって、次の仕掛けプロセスのイメージが崩れることもない・・等々・・

 先制ゴールは、まさに「徹底組織パスでの崩し」が実を結んだといったところでした。

 ポンポンポ〜ンとボールを動かしつづけるなかで、高萩洋次郎が、「スッ」と相手ディフェンダーの視野から「消え」る。そして彼が次に出現したのは、柏木陽介がダイレクトで送り込んだ、ジェフゴール前の決定的スペースへのラストパスを受けたときだったのです。エッ!?・・なんでオマエは、まったくフリーで「そこ」にいるんだよ・・なんてネ。いや、ホント、とても、とても素敵なゴールではありました。

 でも、その後は、ペトロヴィッチ監督が、「14日間で5ゲームも消化したことの疲れが出てきた・・だから、スペースへのスプリント(全力ダッシュ)など勝負の動きがうまく出てこなかった・・それでも、追加ゴールを挙げるチャンスはあったわけで、それを決めきれなかったのが主な敗因だと思う・・」と言っていたように、まったくといっていいほど「サンフレッチェ的な仕掛け」でウラのスペースを突いていくような最終勝負が観られなかった。まあ・・それは残念ではあったけれどネ・・

 対するジェフだけれど、アレックス・ミラー監督は、記者会見デスクに座るなり、開口一番、こんなことを言っていた。「この試合は、内容的には、ここ数試合なかで最悪だった・・それでも、内容がよくても勝てず、このようなサッカーで、強いサンフレッチェに勝利を収めてしまう・・まあ、それもサッカーということだ・・」

 この試合でのジェフのサッカーは、ミラー監督からすれば、そんなに良くなかったんだね・・フ〜ン・・。それでも私は、サンフレッチェの組織的な仕掛けプロセスがうまく機能しなかったのは、疲れによって彼らの足が止まり気味になっていたこと(後方からの押し上げによる最前線での数的優位シチュエーションがうまく演出できなかったこと!)だけじゃなく、創造力あふれた忠実プレーを展開するジェフの守備による「抑え」がよく効いていたことも重要なバックボーンだったと思っているのですがネ。

 とはいっても、先日のコラムでも書いたように、この試合でも、最前線の巻誠一郎が「孤立」してしまうシーンが繰り返されたとも思う。

 もちろんカウンターの流れがうまく演出されれば、深井正樹、谷沢達也(工藤浩平)、またアレックスや中後雅喜といったチームメイトがバックアップに上がっていくけれど、組み立て(遅攻)の流れになったら、そのバックアップが遅れ気味になってしまったことは確かな事実だった。もちろん、ポストとして踏ん張る巻誠一郎を追い越していく(ウラのスペースを活用するというイメージの!)勝負のフリーランニングも出てこない。だから巻誠一郎が孤立してしまう。

 とはいっても、大住良之さんが質問していたように、巻誠一郎の「ガンバリ」は、本当に感動モノだった。最前線からのチェイス&チェックという汗かきの守備プレーを絶対的なスタートラインに、攻撃でも、最前線で動き回ることでタテパスの支点(ポストプレー起点)になったりする。大住良之さんが言うように、たしかに「それ」には、サッカーにおける本質的な「感動エッセンス」が詰め込まれていた。

 この試合については、こんなところでした。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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