湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2009年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第3節(2009年3月22日、日曜日)
- アントラーズの順当勝利・・ということで両チームのパスサッカーに焦点を当てよう・・(アントラーズvsサンフレッチェ, 2-1)
- レビュー
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- この試合、残念ながら所用が重なってしまったためにスタジアム観戦は叶いませんでした。でも、中継のカメラアングルが適切だったこともあって、ストレスなくテレビ観戦ができた。カメラワークについては大いに不安だったのですが、ホントによかった。
ということで、この試合からは、両チームが展開した「パスサッカー」におけるシオとコショーの意味・・なんていうテーマをピックアップしましょうかネ。
パスサッカーだけれど、予想していたとおり、縦横無尽のポジションチェンジを繰り返す人の動きと、素早く広いボールの動きを、高い実効レベルでスムーズに連動させてチャンスを作り出していくという視点で、アントラーズに一日の長がありました。
その背景要因として、アントラーズが、組織パスプレーに「付加価値」を与える個人プレーの量と質でサンフレッチェに優っているという点にスポットを当てるのが妥当かな。昨日のレッズコラムでも書いたけれど、要は、仕掛けの流れのなかで、いかに効果的に「変化」を演出していけるのかというテーマのことです。
アントラーズには、後方からは小笠原満男、中盤には本山雅志、最前線にはマルキーニョスという個の勝負プレー能力に「も」長けた組織プレイヤーが揃っているからね(まあ・・大迫勇也も個のチカラを魅せたけれど・・)。彼らが、組織的なパスサッカーの流れに、要所で個性的なアクセントをミックスしていくことで攻撃に「変化」を与え、そのことでアントラーズが展開するパスサッカーの質が高まり、全体的にゲームを支配しつづけたということです。
ここでハタと考えた。サンフレッチェにも、柏木陽介やミキッチといった個人能力に長けた選手がいるし、ワントップの佐藤寿人にしても、抜け出しやポストプレーなどで素晴らしいアクセントになっているよな〜〜。
まあ、この試合に限ったことだけれど、サンフレッチェは、それぞれの個人能力のレベルと、攻守にわたる組織プレーの「あうんの呼吸」という視点で一日の長があるアントラーズの「相似小型」だったと言えるのかもしれないね。
とにかく、この試合に限った全体的なゲーム内容からすれば、まさに順当という結果に落ち着いたという考え方に、ほとんど方はアグリーのはずです。もちろんサンフレッチェは、これから、彼らの組織パスサッカーが、アントラーズに優るとも劣らないことを証明していくとは思うけれどネ。
そんな高質なサンフレッチェの組織パスサッカー。昨年の天皇杯レポートでも書いたけれど(そのレポートは「こちら」)とにかく素晴らしいよ。
まず何といっても、ボールを動かすこと(要は、トラップ&パス≒タッチ&パス)に、チーム全体が共有する一定の『リズム』がある。だからこそ、ボールが動いているなかで、どんどんと周りの味方もスペースへ動くことができる。「あのリズムだったら、次はこのスペースにボールが回されてくる!!」。誰もが、そんな確信をもって動けるということです。
また、サンフレッチェの人とボールの動きには変幻自在のリズムがある・・なんていう視点もある。
常にスピーディーなものではなく、彼らの場合は、状況に応じて「落ち着いて、ゆっくりと」ボールを動かすシーンも多い。決して焦らず、冷静沈着にボールをキープするのです。もちろん「そんな流れ」のときは、周りの人の動きにも、ある程度の落ち着きがあることは言うまでもありません。いつも全力で動きつづけていたら、そりゃ90分間なんて持たないよな。
ただ、ひとたびタテへの仕掛けパスが送り込まれたら、さあ大変。パス&ムーブやフリーランニングに代表される周りの人の動きとボールの動きによる組織コンビネーションの流れが、急激にスピードアップしていくのです。そこには、統一された複数の選手の「意図」が、人とボールの動きに「乗って」次々と連鎖しつづけているといった雰囲気さえある。そう、強烈な意志をベースにしたムーブメント。
そんな最終勝負の流れに入ったときのサンフレッチェは、三人目や四人目のフリーランニングが効果的に噛み合うなど、本当に夢のようなコンビネーションプレーを繰り広げていく。多分レッズのフォルカー・フィンケ監督も、サンフレッチェの素晴らしい組織コンビネーションを高く評価していることでしょう。
そんな、複数のパスレシーブの可能性(最終勝負のオプション!)があるからこそ、サンフレッチェは、仕掛けの実効レベルを常に高く維持できるのですよ。仕掛けにおける「変化」と「オプションの広さ」が彼らのキーワードということですかね。
彼らの組織コンビネーションでは、仕掛けの流れに入ったとき(いや、その直前のタイミングで既に!)周りの味方が(ボールのないところでの)勝負の動きをスタートしているケースが多い。例えば、柏木陽介が良いカタチでボールを「保ちそうになった」次の瞬間には、最前線の佐藤寿人が、相手ゴール前の決定的スペースへの飛び出しアクションをスタートさせている・・とかネ。
またサンフレッチェの組織パスサッカー(組織コンビネーション)には、こんな隠れたキーワードがあるかもしれない。あくまでも落ち着いた雰囲気ではあるけれど、それでも実際には「素早いリズムで間断なくパスがつながれていく・・」とかネ。
素早く、シンプルなタイミングでボールを動かしながら、チャンスとなったら、まさに「自然体の雰囲気」で仕掛けのタテパスまで出してしまうのですよ。シンプルなタイミングでボールが動きつづけるから、相手マークも、うまく間合いを詰めるタイミングをつかめない・・そんなチャンスを逃さず、スバッ、スバッと、正確なタテパスと、そのレシーバーを起点にした組織コンビネーションをスタートさせてしまう(もちろん三人目、四人目のフリーランニングも含めてネ!)。
いや、ホントによくトレーニングされたチームだと感心させられます。ペトロヴィッチ監督の、プロコーチ(心理マネージャー)としての確かなウデを感じますよ。
それに、このアントラーズ戦では、しっかりと守備に人数を掛けることで守備ブロックを安定させるという、これまでとは違った側面も提示した。もちろん彼らの組織コンビネーションサッカーでは、攻守にわたって、常に人数が必要なわけだけれどネ。そう、良い(魅力的な)サッカーをやるためには、やはりしっかりと走ることが最も大事なコトなのですよ。
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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