湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第16節(2010年7月31日、土曜日)

 

ジリ貧の「勝敗の流れ」を断ち切れないレッズ・・再び、チャンスをゴールに結びつけるという(核心の)テーマ・・(RvsAR、0-1)

 

レビュー
 
 わたしは、プロコーチ、フォルカー・フィンケを、「ロジカルな(戦術マネージャーという)側面」と「心理マネージャー的な側面(メンタルトレーナー)」の両方で、とても高く評価しています。また彼は、「既存の権威」とも確信と勇気をもって向き合う(対峙する)という、革新的なダイナミックパワー(主体的に、社会を良くしていこうとする前向きな行動姿勢)も備えています。

 要は、ドイツ代表とかドイツサッカー協会、はたまたビッグクラブとだって、必要とあらば、しっかりと「やりあう」ことに躊躇しない・・ということです。そんな彼に対する敬意は、わたしの古くからの友人であるドイツの名将クリストフ・ダウムや、(まあ数回程度の面識しかないし、彼はわたしのことを覚えていないだろうけれど・・)革新的なアイデアと実行力でドイツサッカー界での、存在感あふれる地位を確立したラルフ・ラングニックとも通じるものがあります。

 言いたかったことは、フォルカー・フィンケは優れたプロコーチであり、浦和レッズに必要な人材だということです。でも、どうも、ここにきて彼のイメージが大きくダウンしはじめていると感じるのですよ。とても、残念なことなのですが、そのことが、彼の仕事を、とてもやり難いモノにしてしまう可能性が高まりはじめている・・と思うのです。

 要は、内容と結果がシンクロ(合致)しないゲームが多すぎる・・ということです。

 「昨シーズンもそうだったが、とても優れたサッカーをやっているし、チャンスも作り出すけれど、それを決め切れず、逆に相手にワンチャンスをブチ込まれて敗退してしまう・・レッズには、そんなゲームが多すぎると思う・・だから、勝負弱いレッズというイメージが出来上がりつつあるかもしれない・・それは大変に危険なこと・・そのことで選手の自信と確信は、確実に揺らいでしまう・・そして悪魔のサイクルに陥ってしまう・・と思うのだが・・」

 そんな私の質問に対してフォルカー・フィンケが、「そうだ・・だから、とにかくゴールを決めなければならない・・ゴールさえ決まれば、選手も自信を回復させられる・・とにかく、チャンスを作り出しているのは確かな事実だ・・後は、そのチャンスをゴールに結びつけられれば、善循環がまわりはじめるに違いない・・」なんてニュアンスのことを言った。

 それに対して、わたしは異論を述べた。

 「たしかにロジカルにはそうだろう・・チャンスを作り出すことが大事だとは思う・・ただ、わたしの心の師匠でもあった故ヘネス・ヴァイスヴァイラーが、私にこんなことを言ったことがある・・チャンスを作り出すのは確かに大事だが、それをゴールに結びつけるのは、もっと大事だ・・それは、ロジカルなことじゃない・・とてもメンタルなことなんだよ・・そう意志のチカラ・・ヴァイスヴァイラーは、そんなことを言った・・私は、彼が、当時のドイツのスーパーストライカーだったディーター・ミュラーと、殴り合わんばかりのギリギリの雰囲気のなかで、繰り返しシュートトレーニングをやらせていたシーンをを数え切れないほど観察した・・そして思った・・チャンスを実際のゴールに結びつける作業は、とても大事なコトだし、意識して取り組まなければ決して改善しない・・」

 それに対してフォルカー・フィンケは、チャンスを作り出すこと「だけ」に特化させた先ほどのコメントニュアンスに、少し修正を加えた・・と思う・・。「たしかに、チャンスを作り出すことが出発点だ・・ただし、それを実際のゴールに結びつけることも大事だ・・それには、メンタル的な要素も大きく絡んでくる・・もちろん我々も、そのテーマに取り組んでいる・・私にも経験がある・・一度ゴールが決まりはじめたら、全てが好転する・・そして、その心理的な善循環が大きく膨らんでいくんだ・・」

 たしかに、実際のゴールを奪うというテーマに「も」レッズが取り組んでいることは知っている。でも、まだまだ、何かが・・足りない。

 例えば、シュートを打った後のセルヒオが、ポカンと(漫然と)こぼれたボールの行方を「目で追っている」・・とか、素晴らしいドリブル勝負から、これまた素晴らしいクロスボールを送り込んだ宇賀神友弥が、その場に立ち尽くして「状況ウォッチャー」になってしまっているとか・・。

 もちろん、決定的な仕事をした後に、その「成り行き」を確かめてから次の(より効果的な!?)アクションに入る・・という発想は分かる。

 でも、たまには、シュートや決定的ラストパス(ラストクロス)を送り込んだ次の瞬間に、間髪いれずに「キック&ムーブ」してみよう。「そこで眼前に広がっていく状況」がまるで違ったモノになるということをレッズ選手たちは知っているだろうか・・??

 このことは、選手からフォルカー・フィンケに聞いてみるといい。彼も、知っているはず。「決定的アクションの後の、ちょっとした(チャンスのニオイを嗅ぐような!?)動き」が、実際のゴールを決めるという『現象』にとって、ものすごく大事な『ニュアンス』を内包しているという事実を・・。

 また「そのこと」だけじゃなく、最後の瞬間の「強烈な意志の表象としての決定的アクション」にも、一人足りないことで、極限まで闘っていたアルディージャとの「違い」が出ていたと思う。アルディージャ選手は、必ず、ギリギリのタイミング「まで」闘い、最後は、決死のスライディングといった、「闘う意志の表象アクション」を魅せつづけていた。

 シュートをした後のセルヒオだって、そのまま次のアクションに入っていけば、「こぼれ球」をスライディングシュートできるかもしれないじゃないか。

 そんな「最後の最後までチャンスを逃さない・・」というプレー姿勢(態度)とか意志のチカラといったモノが大事なんだよ。ホントに・・

 ちょっと、そんな「テーマ」も、チームのなかで、再認識のために「流してみる」ことも、雰囲気を変えるという意味で効果的かもしれない・・なんてことを思っている筆者なのでした。

 この試合でも、優れた機能性が詰まった「コントロール・サッカー」を魅せつづけたレッズ。でも、相手のワンチャンスゴールに沈んでしまった。とても辛い・・。そこからの怒りやフラストレーションは、自分自身で処理するしかないけれど、それにしても、レッズ(チーム)が、何か「希望の光を放つような」プレーコンテンツ(変化の兆し)を魅せてくれるのが一番の特効薬だと思うわけです。フムフム・・

 とにかく、次には、そんな「希望の光の兆し」を感じたい筆者でした。

 それが出てこずに、同じような「ジリ貧の(勝敗の)流れ」がつづいてしまうようだったら、フォルカー・フィンケ体制はどうなってしまうだろう。とても心配。

 最悪なのは、その「流れ」をうまく利用した古い体制(体質)が、「お友達人事」によって、緩い「仲良しクラブ体質」を復活させてしまうことだよね。もしそうなったら、学習機会オブジェクトを、「FC東京の城福浩監督」に乗り換えることにしましょう。フ〜〜・・

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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