湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第21節(2010年8月28日、土曜日)

 

フムフム、たしかに、レッズに足りなかった「何か」が充填されはじめた・・(RvsA, 1-1)

 

レビュー
 
 「湯浅さん・・本当に残念でしたネ・・悔しくてたまりませんよ・・」

 帰りの駐車場で、レッズファンの二人連れの方に声を掛けられました。「そうですね〜〜・・」と、わたし。

 「本当に・・今日は勝ちたかったナ〜〜・・」

 その方たちは、わたしから離れて行きながら、本当に悔しそうな心からの言葉を絞り出していました。それに対して、小さな声で、「そうだヨな〜〜」と、わたし。たぶん彼らには聞こえなかったと思う。とにかく(その二人連れの方に対して・・)「声を掛けてくれて、有難うございました」と、この場を借りて挨拶する筆者なのでした。

 彼らの悔しい気持ちは、よく分かりますよ。ロスタイムでの同点ゴールだからネ。選手たちの多くも、タイムアップのホイッスルを聞きながら、その場に倒れ込んでいた。

 それは、とりもなおさず、レッズのサッカー内容が良かったことを、サポーターの皆さんだけじゃなく、選手自身も「体感」していたからに他ならないということです。次につながる、とてもポジティブな刺激じゃありませんか。彼らは、足りなかった「何か」を充填するような良いサッカーを展開したのですよ。

 前節で「覚醒」した原口元気。この試合でも、攻守にわたって、強烈な闘う意志を前面に押し出していた。だからこそ、たしかに部分的にではあったけれど、相手が(それもアントラーズ守備ブロックが・・だぜ!)恐怖心を抱くくらいの危険な勝負プレーをブチかますシーンも、何度も(積極的に)繰り出した。組織コンビネーションでも(特にボールがないところでの動きの量と質が良!)、単独ドリブル突破チャレンジにしても。

 また、この試合で守備的ハーフコンビを組んだ細貝萌と柏木陽介も、本当に素晴らしい「ファイト」を魅せつづけた。「彼らが中盤ゾーンで魅せた、強烈な闘う意志と、効果的なせめぎ合いプレーによって、我々も、効果的に攻め返すことが出来た・・」。フォルカー・フィンケが、そう、この二人を称(たた)えていた。

 わたしも、その言葉にアグリーだった。だけど・・

 ハーフタイムに、アントラーズのオズワルド・オリヴェイラ監督が、こんな指示を出したそうな。

 「後半も、前半のように、アグレッシブな守備をつづけること・・」

 わたしは、そんなオズワルド・オリヴェイラ監督の言葉に「も」アグリーだった。ゲームを支配する根本的なバックボーンである「ディフェンスの量と質」で、たしかにアントラーズに一日の長があると感じていた筆者だったのですよ。だから聞いた。「この試合結果は、オズワルドさんにとって、フェアなモノだったでしょうか?」

 「いや・・まあ、その質問には微妙なニュアンスで答えるしかないかな・・たしかに、チャンスの量と質で考えれば、アントラーズに軍配が上がると思う・・でもレッズは、作り出したチャンスをしっかりとゴールに結びつけた・・逆にアントラーズは、チャンスをしっかりと決めるという課題を抱えている・・とはいっても、最後の最後には、チャンスを決めて同点に追いつけたというポジティブな成果もあったけれどネ・・とにかく、チャンスを決められたことは、我々にとって大事だったし、ポジティブに考えるべき出来事だったんだ・・」

 ゲームだけれど、それは、とてもハイレベルな「動的均衡」と呼べるようなエキサイティングな展開になった。

 たしかに、全体的にはアントラーズが(アグレッシブで忠実な組織ディフェンスをベースに!)イニシアチブという視点で(微妙に)一日の長があったとするのがフェアな評価だと思う。でも、両チームともに、流れのなかからは、そう簡単にチャンスを作り出せなかったのも事実。だから、彼らが作り出したチャンスのほとんどは、セットプレーからだった。

 でもアントラーズには、それ以外にも、中距離シュートがある。小笠原満男、マルキーニョス、野沢拓也・・。彼らは、チャンスを見計らい、鋭いミドルシュートを飛ばすのですよ。だからレッズ守備も、それに対処しなければならず、だからこそ、不用意なスペースも空いてしまう。それに対してレッズは、たまにポンテが打つくらいだからネ。

 実はわたしは、この試合で守備的ハーフに入った柏木陽介のミドルシュートに、ものすごく期待していたのです。ちょっと前のゲームで、途中から彼が守備的ハーフのポジションに下がったことがあった。そのとき柏木陽介が、二本もつづけて、素晴らしいミドルシュートを放ったのですよ。皆さん、覚えていますか?

 それは、守備的ハーフというポジションの特質でもあるわけです。そう・・後方から、バイタルエリアの空いたスペースへ飛び出して中距離シュートを見舞う。守備的ハーフのポジションに入ったら、そんなチャンスが増えるというわけです。

 たぶんレッズでは、まあ、ポンテとエジミウソンを除き、ミドルシュートでは、柏木陽介が、一番「巧い」と思います。だから、もっともっと打たなきゃ(打たせなければ!!)ダメ。わたしは、味方にチャンスを作ろうとするあまり、自分でシュートにチャレンジしない柏木のプレーを観ながら、とてもフラストレーションを溜めていました。

 もっと、もっと、柏木陽介がミドルシュートを打てるようなシチュエーションを、チームとして演出するというイメージトレーニングも「あり」じゃないですか・・フォルカーさん・・

 ・・サッカーってさ・・ホントは、とってもシンプルなボールゲームなんだよ・・決して、美しいコンビネーションで相手のウラに広がる決定的スペースを攻略するだけが仕掛けじゃない・・たまには、相手がビックリするようなアバウトな放り込み(アーリークロス)や、ドカ〜ン!!といったロングシュートをかましたりする・・それがあってはじめて、効果的な攻撃の変化を演出できるようになるわけだし、その後の、緻密なコンビネーションや、サイドゾーンからのクロス攻撃が活きてくる・・

 まあ・・とはいっても、前述したように、レッズに足りなかった「何か」が、着実に充填されはじめたことは確かなようだ。そのことは、このゲームを観ながら「感じ取って」いた。そう、強烈な闘う意志の絶対的ベースになるはずの「何らかのこだわり」・・。

 ・・ボールを奪い返すことに対する「こだわり」・・シュートチャンスを作り出す粘りと汗かきプレーに対する「こだわり」・・そのチャンスを、しっかりとゴールに結びつけることに対する「こだわり」・・そして、それが、勝者のメンタリティーを育んでいく・・

 たしかに、レッズにとっては残念な「結末」になってしまった。でも、チームの「自覚の向上」とともに、サッカー内容が良い方向へ進んでいきはじめたことも確かな事実だからネ。

 だからこそ、強烈な闘う意志(≒何らかのこだわり≒勝者メンタリティー)をもって、粘り強く、勝ち点を積み重ねていくという「地道なプロセス」に対するモティベーションも、ポジティブに高揚していくと思う次第なのです。

 これからのレッズのキーワードは、強い意志を内包する「勝者のメンタリティー」と、「地道な勝ち点積み上げプロセスを着実に進んでいくための忍耐力」・・ってなことですかね。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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