湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第21節(2010年8月29日、日曜日)

 

魅力的なサッカーを展開したマリノス(と中村俊輔)・・それに小野裕二とアーリアについても・・(MvsAL, 3-0)

 

レビュー
 
 「何か・・こう・・マリノスには、そこはかとない倦怠感がただよっていますよね〜〜・・」

 前半も15分を過ぎた頃でしたかね、記者席で隣にすわるジャーナリスト仲間の方に、軽率にも(!?)そんな言葉を投げかけてしまいました。どうも、マリノスのサッカーに覇気を感じなかったのですよ。そんなネガティブなイメージを引っ張る代表格が、中村俊輔だった。でも実際は・・

 「とにかく立ち上がりは、アルビレックスの三人の外国人にプレーをさせないというイメージを徹底させました・・その流れが落ち着いてくれば、徐々にマリノスのペースに持ち込めるはずだという確信のもとにネ・・」

 試合後の記者会見で、マリノス木村和司監督が、そんなニュアンスのことを言っていた。そしてわたしは、ちょっと恥じ入っていた。まあ、チームの「ゲーム戦術的な意図」を正確に把握することは難しいわけだけれど・・

 そして前半も20分を過ぎたあたりから、たしかに、マリノスがゲームの主導権を握りはじめるのです。そして、後半のゴールラッシュ。

 いや・・、結果としてのゴールを「表現の中心」に据えるのは正しくないかもしれません。とにかく(特に後半の)マリノスのゲームドミネーション(ゲーム支配のコノテーション=言外に含蓄される意味合い)とチャンスメイクの量と質には、特筆の価値があったと言いたかったわけです。

 そのサッカーは、観ている方にとっても、プレーしている方にとっても、楽しくて仕方ないモノだったに違いない。そしてそれは、日本サッカーにとっての「何かポジティブなモノ」の積み重ねという意味合いでも価値があった・・とまで言うのは大袈裟だろうか!?

 そして、そのゴール(&チャンスメイク)ラッシュの中心にいたのが、言わずと知れた中村俊輔。

 わたしは、守備での汗かきチェイシングとか、効果的な協力プレスだけじゃなく、攻撃でも、意図をもった爆発ダッシュが(組織プレーに対する意志のレベルが!)大きく減退している中村俊輔のプレー姿勢にガッカリしていたのですよ。W杯以降では、これが、彼を観る最初のゲームだったわけだからね。

 でも、前述したように、このゲームでの彼のプレー内容も、徐々にアップしていった。たしかに守備は(アルビレックスの外国人に対する強烈でしぶといアタック以外は!?)どうもお座なり。また攻撃でも、ボールがないところでの動きが鈍重だった(もちろん自分が中心になったコンビネーションでは、パス&爆発ムーブはするけれどネ・・)。

 それでも、彼を中心に動きつづけるボール(ムーブメント)コントロールはサスガだったネ。もちろん「その現象」には、チームメイト全員が、心から信頼する中村俊輔のことを「常に探している」というバックボーンもあったよね。彼が動けば、必ず「そこ」にボールが集まる・・っちゅうわけです。

 そして「ここから」、微妙なニュアンスの文章に入っていくことになるわけです。欧米では、そんなプレーは、ディエゴ・マラドーナにしか許されないけれど、マリノスでは、彼が完璧な「中心」ということでチームメートのイメージが徹底されている。だからこそ、わたしにとっては「サボリ」とも映る怠慢プレーがミックスしていても、全体としては素晴らしい結果を生み出せる。

 別な見方をすれば、先制ゴールになった山瀬功治へのスーパーな(タテ)スルーパスや、自身が二点目を叩き込んだ、これまたスーパーな「右足ミドルシュート」といった、中村俊輔にしかできない素晴らしいプレーが出なくなった(パフォーマンスレベルがちょっとでも減退した)次の瞬間には「引退」の二文字が待っているということになるのかもしれないネ。

 まあ、あれ程の天才だし、欧米で日本サッカーのレピュテーション(名声)をアップさせてくれただけじゃなく、特にイビツァ・オシムから岡田武史にかけての日本代表が志向した「究極の組織サッカー」を引っ張りつづけた特別な存在だからね・・引き際も「スパッ」と清廉なモノになることを心から祈っていますよ。

 でも反面、わたしは、日本代表で、もう一旗揚げて欲しいと心から願って「も」いるのです。次の代表監督には、まず、中村俊輔を、代表復帰へと説得して欲しいと思っているわけです。でも、現実的には、難しいかもしれないね。中村俊輔も、歴史的なスターのご多分に漏れず、ある意味「lost his edge」状態(代表チームに対するモティベーションや目標イメージ喪失状態)に陥っているのだろうし・・ネ・・。そこから、再び極限モティベーションで・・というのは、本当に、とても難しいことだから・・

 あっと・・ちょっと、中村俊輔について書きすぎたかもしれない。とにかく、素晴らしい輝きを放散した中村俊輔のプレーを観ながら、ちょっと「こだわり」が甦ってきたモノで・・。

 中村俊輔以外では(もちろんマリノスの全員が素晴らしいプレーを魅せたけれど・・)特に、17歳のスーパードリブラー、小野裕二には驚かされた。それだけじゃなく、スッと、相手の背後から決定的スペースへ抜け出していく感覚も素晴らしい(何度も、中村俊輔から決定的なスルーパスやロビングパスを受けていた!)。

 とにかく、彼のドリブルシュートがレベルを超えている。シュートに入るまでのアクションは、もう天才的なのです。だからこそ、彼の決定力トレーニングを望みます。要は、その瞬間の彼は、シュートすることしかアタマにないということです。そうではなく、ゴールを決めることを、もっと強烈に意識・イメージしなければならないと思います。その感覚は、特別なトレーニングで、必ず発展します。木村和司監督には、小野裕二を「本当のブレイクスルー」へ導いてくれることを心から期待しまっせ。

 そして、このコラムの「トリ」が、長谷川アーリアジャスール。彼は日本人です。

 これまでは、攻撃的ミッドフィールダーや守備的ハーフとしてプレーすることが多かったアーリア。でもこの試合では、たった13分だけだったけれど、ワントップでプレーした。そして、彼が秘める、素晴らしい潜在能力を魅せつけられた。

 素晴らしいボールコントロールから展開する、日本人離れした「ポストプレー」や、相手を恐怖に陥れる強烈なコンビネーションを牽引する「コア・プレー」、大迫力の勝負ドリブル、そしてシュート・・などなど。

 背が高くて足が速い。守備でも忠実な汗かきを魅せつづける。ヘディングが弱いとのことだったけれど、そんなのは、トレーニングをしっかりとやりさえすれば、すぐにでも進歩する。

 わたしは、そんなアーリアのプレーを観ながら、次のブラジルW杯での、日本代表のワントップを想像していた。いや・・ホント・・とても、リアリスティックな「夢」でしたよ。ちょっと、血湧き肉躍る想像ではありました。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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