湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2010年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第26節(2010年10月16日、土曜日)
- レッズの粘り腰ヴィクトリー・・ホントに「何か」が深化しつづけている・・(RvsC, 2-0)
- レビュー
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- マルチネス、アマラウ、アドリアーノ・・。彼らで構成するブラジリアン・トライアングルに、家長昭博、乾貴士、そして清武弘嗣といった、日本の「若き才能」たちが効果的に絡んでいく。そんなセレッソの仕掛けが、強力で魅力的なことは論をまたないよね。
そのなかで、ゲームの流れをコントロールしているのは、もちろんブラジリアン・トライアングル。
特に、中盤のリンクマンコンビ(守備的ハーフコンビ)のマルチネスとアマラウによる「必殺仕事人プレー」は、見応え十分じゃありませんか。もちろん、レッズ中盤で、攻守にわたって、前後をダイナミックに「連結(リンキング)」する作業に精を出す王様リンクマンコンビ、細貝萌と柏木陽介も素晴らしい。
だから、この試合での隠れた見所は、両チームの「仕事人コンビ」が繰り広げるギリギリのせめぎ合い・・という考え方も成立する。とにかく私は、そんな彼らのせめぎ合いに舌鼓を打っていた。
ゲーム展開だけれど、立ち上がりは、セレッソの「才能」連中がゲームを支配し、レッズを押し込んでいった。また、一点をリードされた後半でも、ボールを支配しながら、強引にチャンスを作り出そうとしていた。そして実際に、セットプレーから二度ほどビッグチャンスを作り出した(とにかく、アマラウとアドリアーノのヘディングは強烈に強い!)。でも、そんなセレッソでも、流れのなかでは、まったくと言っていいほどレッズ守備ブロックの背後スペースを突いていけない。
フム〜〜・・。セレッソの攻撃には何かが足りない。だから、クルピ監督に聞いた。
「セレッソの攻撃陣は、素晴らしい才能が揃っている・・シュート数でも、レッズの倍は打っている・・とはいっても、流れのなかから、コレゾ本物!、と言えるようなチャンスの演出という視点では物足りなかった・・要は、レッズ守備ブロックの背後のスペースを突いてけてなかったということだが、それは、パスと、それを受けるパスレシーバーの動きに問題があったと思う・・セレッソには、明確なコンビネーションイメージがあるとは思えないのだが・・」
「たしかに言われたとおりの部分もある・・でも、ドリブルを駆使して仕掛けていくプレーは、いまのセレッソの強み・・だから、彼らにも、それを要求している・・もちろん、決定的チャンスの数と実際のゴール数に大きな開きがあるという課題は抱えているが・・とにかく今のセレッソは成長の真っ只中にいる・・たしかにドリブルが多すぎるかもしれない・・ただ、そのプロセスでの微調整を繰り返していくことで、必ずチーム(組織コンビネーション)プレーも発展していくはずだ・・」
クルピ監督が、そんなニュアンスのことを言っていた。彼らの場合は、とにかく「まず」自分たちの強みを前面に押し出していくなかで(選手たち自身によって!?)工夫を懲らすという方法論を執っているということか。
もちろん「そんなマネージメント」もありだし、経過と結果がうまくバランスしはじめれば、本当の意味で、組織プレーと個人勝負プレーがハイレベルにバランスした、美しくて勝負強いサッカーを魅せられるようになるはずだけれど・・。
この試合でのセレッソの仕掛けだけれど、たしかに局面では、とてもスキルフルで(魅力的で)危険な勝負プレーを展開するけれど、そのアクションの流れに複数の選手が有機的に絡んでいかないことで(要は、タイミングの良いパスレシーブの動きが出てこないことで!)、レッズ守備には、明確に「次」が読めてしまうのですよ。
柏木陽介と細貝萌に代表されるのだけれど、とにかく何度、レッズの中盤プレイヤーたちが、スマート&スムーズにセレッソのボールホルダーを追い込んで効果的にボールを奪い返してしまったことか。
そんなだから(効果的にボールを奪い返しつづけることで!)レッズの自信レベルが、グングンと盛り上がっていくのも道理。そしてレッズは、セレッソとは一味も二味も違った、個人勝負プレーと組織コンビネーションが、絶妙に、そして有機的に「連鎖」する(これまた魅力的な)優れた仕掛けを繰り出していくのですよ。
先制ゴール場面。何本ダイレクトパス(素早いワントラップパス)がつながっただろうか。最後のエジミウソンのシュートにしてもダイレクトシュートだったわけだからね。
まあ、前述したように、その後はセレッソが(ゲームではなく!)ボールを支配する展開になっていくわけだけれど、そこでのレッズの守備も、とても集中していたと思う。
我々コーチは、攻守にわたって、ボールがないところで、どのようなプレーが為されているかを観て実効評価をするわけだけれど、この試合でのレッズ守備は、以前のように、肝心の所で集中を切らして相手へのマークが甘くなってしまう・・なんていうシーンは皆無だったね。
一度などは、(アッ・・危ないっ!!と思った!?)宇賀神友弥が、サイドから中央ゾーンへ全力スプリントで移動し、決定的なタテパスを受けようとしていた(確か・・)アドリアーノを見事にマークしてしまうシーンも目撃した。
もちろん乾貴士や家長昭博、はたまたアドリアーノが、危険なドリブルシュートをブチかますなんていう危ないシーンもあった(GKの正面に飛んだから事なきを得た!)。でも、それも数えるほど。あれほどボールを支配されたにしては、まったくといっていいほど、ベンチが冷や汗をかくシーンは目立たなかったというのがフェアな評価だと思う。
そして、この試合での本当のテーマに入っていくわけです。闘う意志・・
「レッズの闘う意志は素晴らしかった・・彼らは集中していた・・だからこそ、しっかりとチャンスをゴールに結びつけ、勝利までも手にすることが出来た・・」
そんなクルピ監督のコメントだけじゃなく、レッズのフォルカー・フィンケも、コメントの至る処に「闘う意志」という表現を散りばめていた。
そう・・優れた闘う意志・・それは、攻守にわたって、自ら(汗かきの!?)仕事を探しつづけるプレー姿勢など、多くの場合、攻守にわたる、ボールがないところでのプレーの量と質に表現される。
この試合でもレッズは、そんな優れた「意志」を前面に押し出しつづけ、最後の最後まで劣化することはなかった。それこそが、勝者のメンタリティーとかゴール決定力と呼ばれる、とても非論理的な、でもサッカーでは決定的に重要なファクター(要素)を、レッズ選手たちが『自分のモノにしはじめた』ことを象徴するグラウンド上の現象だったのかも知れない。
粘り強く・・決して諦めることなく・・相手が強くても、決してビビることなく勇気をもって・・最後の最後まで闘いつづける・・
そんなレッズ選手たちは、周りのファンの方々にとって、大いなる誇りであるに違いありません。そう、いまのレッズは、ファンの方々にとっての「明確なアイデンティティー」だとまで思う筆者なのでした。
最後に、何人かの選手を取りあげましょう。まず何といっても原口元気。
前回のコラムでは、元気がなくなった・・調子の波が大きすぎる・・などなどと苦言を呈した。でもこの試合では、最後の最後まで、攻守わたって、数試合前の「積極性」が見られた。フォルカー・フィンケも手放しで誉めていた。
そう・・原口元気は、神様から大いなる才能をさずかった。それを活用しなきゃ、バチがあたるぜ。そのためにも、イメージ的に、いまの二倍は走り回って(汗かきも含む)仕事を自ら探しつづけるという強い意志をもとう。それさえ持ちつづければ、必ず成功する。今日のスーパーゴールは、この試合での彼の素晴らしいパフォーマンスによって、彼自身が(自らの強烈な意志で)掴み取った栄光だった・・
とにかく今のレッズは、フォルカー・フィンケが言うように、前述した選手たちだけではなく、山岸範宏、サヌ(宇賀神友弥)、坪井慶介、「天才」山田、平川忠亮、田中達也にエジミウソンも含め、ベテランと若手が素晴らしいハーモニーを奏でる本当の意味でのチームになりつつある・・っちゅうことですかネ。
発展するチームを観察することほど楽しい作業はありません。まあ天気次第だけれど、来週土曜日のジュビロ戦(至エコパ)も観戦しに行こうかな・・なんて思っています。
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またまた、出版の告知です。
今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。
悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。
4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。
出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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