湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第27節(2010年10月23日、土曜日)

 

結果に囚(とら)われることなく、粘り強く勝者メンタリティーの深化を・・(JUvsR, 2-1)

 

レビュー
 
 どうだろうネ〜〜・・

 ・・ジュビロにしてみれば、柳下正明監督がいみじくも言っていたように、彼らがプランしたとおりの、とても粘り強い「戦術サッカー」で勝ち切ったという見事な3ポイントだった!?

 ・・逆にレッズにとっては、そんなに良いサッカーではなかったにせよ、勝者メンタリティー(≒シュート決定力なども含む心理・精神ファクター)が着実にアップしていることを感じさせてくれるような粘り強いサッカーで、ゲームをコントロールしながら先制ゴールまで奪ったのに、「あのような」失点を重ねるという悔しい敗戦になってしまった!?

 とにかく、ゲーム内容は、皆さんが観られたとおり、(まあ、最後の時間帯、少しはダイナミズムがアップしたけれど・・)全体的には、そんなにエキサイティングなものじゃなかった。

 その背景には、ジュビロが、しっかりとレッズの良さを「消す」というプラン(ゲーム戦術)から試合に入っていったということ「も」あった。ジュビロがイメージしたゲーム戦術の骨子。それは、個の才能がほとばしる危険なドリブル勝負をタイミングよく繰り出してくるレッズの攻撃を、しっかりとしたカバーリングを基盤にした協力ディフェンスで「まずしっかりと」抑え切るというもの。

 忠実マーク(まあ・・常に視野に入れておくこと・・)によって、ボールを持った「レッズの才能プレイヤー」のプレーを抑制し、そこに、二重、三重のサポートの輪を作ってボールを奪い返してしまうというイメージ。

 そんなジュビロのゲーム戦術(ワナ)にはまってしまった代表格が、セルヒオだった。この試合でのセルヒオは、以前のように、攻守の汗かき仕事を「自ら」探せない無様な消極プレーに終始してしまったわけだけれど、その大きな要因として、ジュビロ守備の徹底マーク「も」あったということです。とはいっても、その『意志が感じられない』消極プレーは度を越していた。

 マークが厳しければ、最初のタッチで、シンプルにボールを動かし、間髪を入れない瞬時の爆発スプリントで「次のスペース」でパスを受けるといった、忠実なコンビネーションをつづけなければいけなかった。でも実際には、ジュビロのワナにはまり(!?)、一瞬、ドリブル突破チャレンジに迷ったことでタイミングを失い、安全な横パスやバックパスに「逃げて」足を止めてしまうといった、まさに無様なプレーに終始した(ジュビロのワナにはまった!)。

 彼のプレーからは、ハイレベルな「意志」を感じることはなかった。相手の厳しいマークは当たり前・・そんなプレッシャーを「友達」にしてしまうだけじゃなく、それをパワフルにはね返してしまうくらいの「強烈な意志に支えられた勝負プレー」をブチかましていかなければならなかったのに・・。

 このことは、原口元気にも言える。たしかに、両人とも、しっかりと守備には入っていたし、パスレシーブの動きにしても、鋭いアクションを魅せる場面もあった。でも、肝心の、勇気をもったリスクチャレンジ(勝負プレー)をブチかましていくという意志が、澱(よど)んでいた。

 原口元気が、勝負をためらって、後方にいたセルヒオにバックパスする・・セルヒオは(前にスペースがあり、相手ディフェンダのポジショニングバランスが崩れているにもかかわらず!)、そのパスを受ける前から、まったく仕掛けていく意志をみせずに山田暢久までボールを下げてしまう・・。そんな無様な消極プレーを見せつけられたとき、思わず叫んだ。

 「フザケンナよ〜〜っ!!」

 もちろん、ジュビロ守備には大拍手。忠実で粘り強いディフェンスを魅せつづけ、エジミウソンだけじゃなく、原口元気やセルヒオの「個の勝負」を効果的に抑えつづけた(最後の時間帯でのレッズの大攻勢も抑え切った)。

 まあ、そんな展開だったからかもしれないけれど(!?)、ジュビロ守備陣にとっては、メインの抑制イメージには含まれていなかった「伏兵」の高橋峻希に、ドリブルで決定的チャンスを作られてしまった・・という現象が、興味深かった。

 たしかに、フォルカー・フィンケも言っていたように、ゲームの「全体的な流れ」からすれば、レッズが勝ってもおかしくない「流れ」ではあった。実際、先制ゴールが入り、その「ゴールという刺激」によって意志のパワーを大きく増幅させたレッズが繰り出していったダイナミックなサッカーは、本当に見応え十分だった。

 レッズ選手たちも、先制ゴールを叩き込んだときには(そのときのゲームの流れや全体的な雰囲気から!?)、勝利を確信していたに違いない。もちろん私も、先制ゴールとその後の展開を観ながら、レッズの3ポイントを確信していた。何せ、ジュビロのペースが上がってこなかったからね。

 柳下正明監督は、先制ゴールを奪われた後も、しっかりと落ち着いたゲームが出来ていたと言っていたけれど、わたしは、その時点のグラウンドの現象を観ながら、「落ち着いた(消極・落胆!?)プレー姿勢」と「意志が込められた(必然的な)忍耐プレー」の違いを噛みしめていたものです。

 要は、先制ゴール後の展開が、わたしの目には、レッズの勢いを抑えきれないジュビロ・・というふうに映っていたわけです。実際レッズは、何度か、追加ゴールを挙げるチャンスも作り出していたわけだからね。

 多分ジュビロは、ゲーム戦術に強く引っ張られていたことで(そんなゲーム戦術を粘り強くつづけていたにも関わらず先制ゴールを奪われたことで・・!?)、そのイメージをリセットし(プランを超えて!)積極的に押し返していく「流れ」を、主体的に演出することが叶わなかった・・ということだと思いますよ。まあ・・強いリーダーシップの欠如というテーマにもつながるけれどね・・。

 ゲームが、そんな「物理的&心理的な流れ」になっていったから、その先制ゴールの六分後に奪われた「茫然自失の同点ゴール」がレッズ選手に多与えた、心理的、精神的なショックは、計り知れないほど大きかった。

 あの、(ジュビロの)ロングボール一発による仕掛けの場面では(柳下正明監督は、そんな攻め方も意図していたと言っていたけれど・・)、まず何といっても、山岸範宏が飛び出してボールを奪うべきだった。山田暢久も、それをイメージしていたはず。でも・・

 たぶん山岸範宏は、その判断ミスに「引きずられて」いたに違いない。その後の相手クロスボールの場面でも、飛び出してボールに触れないという判断ミスを、二度、三度と繰り返してしまうのです。そして、そのうちの一本が勝ち越しゴールにつながってしまう。

 いまの私は、レッズが追い求めつづけている勝者メンタリティーの発展プロセスという微妙なテーマに注目しているわけなのですが、だからこそ単車で200キロ以上も走ってエコパに馳せ参じたわけです。でも・・

 もちろん「それ」もサッカーではあるけれど、これから、また250キロ近くを走って帰京しなければならないことを考えたら、どうもうまく「元気」を充填できない。まあ・・とにかく、事故など起こさないように気を引き締めて帰ることにしましょう。フ〜〜・・

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 ということで、やっと自宅に帰り着きました。

 ところで、途中、足柄サービスエリアに寄ったのですが、そこの豹変ぶりには驚かされた。やっぱり、民間ビジネスが「しっかり」と参画することで、すべてが変わるよね。そこには健全な競争がある・・っちゅうわけです。とにかく、扱っているお土産品やフードコートの料理など、すべてが一級品でした。足柄サービスエリアに入ろうとクルマが列をなすのも、さもありなん。

 ところで、コラム。実は、競技場では(書き終えたのに)アップすることが叶いませんでした。エコパには「報道用の無線LAN」は用意されていないし、まだ私は、お恥ずかしながら、携帯電話のデータ通信を使っていないもので・・

 まあ・・とにかく・・、単車をライドしながら、色々なことを考えつづけていたわけだけれど、そこで、このコラムの「締め」として相応しいテーマがアタマに浮かんだので書き足すことにしました。

 それは、もちろん、強い意志に支えられた「粘り強さ」。

 シュート決定力などの心理・精神的要素も内包する『勝者のメンタリティー』が発展しつづけている今のレッズだからこそ、結果に囚われることなく(もちろん瞬間的には、とても悔しい思いをすることもあるだろうけれど・・)淡々と、自らが描くプレーイメージを、グラウンドで(究極の主体性をもって!)表現しつづけることに対する意志を深化させることに集中すべきだと思うわけです。

 まあ、言われるまでもないことだとは思うけれど、とにかく「継続こそチカラなり・・」なのです。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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