湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第29節(2010年11月6日、土曜日)

 

FC東京は、決して降格するようなチームじゃない・・(FCTvsGA, 1-1)

 

レビュー
 
 「アリャ〜〜ッ!!」

 そのとき、不覚にも頓狂な声を出してしまった。それは後半42分のこと。同点に追い付かれたFC東京が、前半に魅せつづけていた勢いを甦(よみがえ)らせて勝ちにいった。そして、サッカー内容からすれば、まさに順当とも言える決定的チャンスを作り出した。でも、平山相太の右足シュートは、無情にも、ガンバゴール左ポストを外れていった。

 多分そのシュートは、ガンバ選手の足に当たっていたはず。でも結局はゴールキック・・。そしてその数分後、西村雄一レフェリーのホイッスルが響きわたった。タイムアップ・・

 「降格リーグ」真っ只なかのFC東京は、どうしても勝ち点「3」をゲットしたかったに違いない。彼らが展開したサッカーは、勝利にふさわしい素晴らしいモノだったのだから。でも・・まあ・・それもサッカー。大熊清監督は、サバサバした表情で、「残り5試合・・すべてを懸け、万全の準備をする・・そこには、戦術&技術的、フィジカル、そして心理・精神的なすべての要素が含まれる・・」ってなニュアンスのことを言っていた。

 そのコメントを出す大熊清監督からは、確信のオーラが放散されていた・・と、感じた。強敵のガンバを相手に、あれほどの立派なサッカーを展開したのだから、さもありなん。

 「たしかに引き分けに終わってしまったが、選手は、このゲームを(実質的な内容を!?)通して、確かな自信を獲得したに違いない・・それは、生き残りを懸けた最後の5ゲームに活きてくると思う・・」と、胸を張る大熊清監督なのでありました。

 それにしても、FC東京が魅せつづけたダイナミックサッカーは素晴らしいの一言だった。たしかに、一点をリードした後半には、ルーカス、宇佐美貴史という才能を投入してきたガンバに押し込まれる時間帯もあったけれど、決して流れのなかではチャンスを作らせなかった(同点ゴールは、コーナーキックからの中沢聡太のヘッド一発!)。

 そんなダイナミックサッカーのベースになったのは、今野泰幸、森重真人のセンターバックコンビと、徳永悠平と米本拓司で構成する守備的ハーフコンビが形作る「スクウェアー」。要は、この四人によって、守備ブロックの真ん中に作り出された「ボックス」のことだけれど、それが、ものすごく強力だったのですよ。

 ポジショニング・バランス・オリエンテッドな守備のやり方を「スタートライン」に、チェイス&チェックという守備の起点プレーを、忠実に、そして粘り強く仕掛けつづけるFC東京。そして、それをベースに、次、その次の選手が、効果的にガンバの攻めの芽を摘んでいく。

 私は、この四人が魅せた「組織守備ハーモニー」に、舌鼓を打っていた。一人がチェイス&チェックで仕掛けながらパスコースを限定する・・そして次の勝負所で、インターセプトやアタックを仕掛け、「スマート」にボールを奪い返してしまうのですよ。

 「前半のFC東京のプレッシング守備は、本当に素晴らしかった・・我々は、素早く、そして効果的に攻撃のツボを抑えられた・・」。ガンバ西野朗監督もシャッポを脱いでいた。

 もちろん、今野泰幸、米本拓司、徳永悠平による組織ディフェンス「も」素晴らしかったけれど、ここでは、やっぱり、「天才」森重真人のプレーを取りあげたい。

 これまで私は、森重真人のプレーに苦言を呈しつづけてきました。何せ、中盤に上がった彼からは、ほとんどと言っていいほど、攻守のダイナミズム(力強さ)が生み出されてこないんだからネ。でも、センターバックに入ったときの彼は、本当に素晴らしいプレーを魅せてくれる・・フ〜〜・・

 こんなシーンがあった。

 ・・相手フォワードがパスを受けようとしている・・その瞬間、森重真人が、一瞬アタックするような素振りをみせ、そして急に動きを止める・・でも相手は、森重がみせたアタックアクションをイメージしてボールを押し出す・・そこへ、待ってましたとばかり、森重真人が身体を入れ、スムーズ&スマートにボールを奪い返してしまう・・

 また、こんなシーンも・・。

 ・・ガンバのタテパスに合わせ、森重真人が大パワーで、中盤の高い位置まで前進しアタックを敢行する・・一旦ボールはこぼれるが、それをコントロールしたガンバ選手に対し、瞬間的に体勢を立て直した森重真人が、「ズバッ!」という音が聞こえてきそうな、激しく、深く、そしてスマートなスライディングタックルを仕掛けてボールを奪い返してしまう・・

 また森重は、攻撃でも、素晴らしい存在感を発揮していた。もちろん徳永悠平や米本拓司が、自分が上がった後のカバーに入ってくれるという安心感もあったのだろうが、とにかく、タイミングよく最前線へ押し上げ、とても魅力的で危険な最終勝負をリードしてしまうのです。ラストパスを出したり、最前線でヘディングの競り合いに勝ち、味方へラストパスを送ったり・・。

 彼のヘディングの強さは、もう広く知れわたっているでしょ。とにかく、守備でのヘディングの競り合いで負けることがない。もちろん「それ」は、攻撃でも、特にセットプレーで、強烈な武器になる。また(このゲームでは梶山がいなかったということもあったのだろうが・・)後方からの、仕掛けのロングフィードも正確で、相手にとって危険きわまりない効果を発揮していた。

 森重真人は、最初から中盤に入った場合、どうしても、ハードワークの不足が目立ちに目立ってしまう(とにかく運動量が足りない!)。そりゃ、そうだ。中盤の底は、何といっても、チームのダイナミズムの源泉なんだからね。そう・・、そこでは徳永や米本のような、汗かきのハードワーク「も」求められるのですよ。

 でも森重真人が、前述したように、最後尾からタイミングよく「攻撃にスポット参戦」してくるのならば、ハナシはまったく別。それは、とても、とても効果的だし、相手にとっての「脅威レベル」は天井知らずなのです。何せ、彼のミドルシュートやヘディング、またまた決定的なロングスルーパスは、超一流だし、味方も、森重真人がツボにはまったカタチでボールを持ったら(攻撃の起点になったら!)脇目も振らずに、ウラの決定的スペース目指して爆発フリーランニングをスタートしていたものです。

 私は、森重真人が内包する限りない可能性を想像しながら、こんなことを考えていた。

 ・・どうも森重は「斜に構えて」プレーしている・・一生懸命に走り回ること、全力でプレーすることをカッコ悪いとでも思っているのか〜〜っ??・・そんな姿勢じゃ、テメ〜〜のプレーが「このレベル」で頭打ちになってしまうのも道理だな・・やっぱり、優れた才能だからこそ、ドイツなどの本場に放り込むのがいい・・そう、環境こそが人を育てるということ・・もちろん、彼自身のため、引いては日本サッカーのために・・

 最後になったけれど、ガンバ西野朗監督の記者会見にも触れておきましょう。このゲームの会見でも、例によって「平坦」なしゃべり方で、たくさん語っていた。

 彼のハナシは、分かり難いことをたくさん並べ立てるけれど、そのなかに、とても「光る言葉」を散りばめるから、なかなか興味深い。

 ・・前戦と中盤のプレーが(互いのプレーイメージが)うまく融合しなかった・・選手やポジションを変え(過ぎ!?)たことで、結局うまくバランスが取れなくなった・・遠藤と明神のところをうまく抑えられたこともペースアップできなかったことの大きな要因の一つ・・ボールを奪い返したら、横パスやバックパスを極力減らし、とにかく素早くアタッキングサードへという基本的な攻めのイメージの徹底・・などなど・・

 そんななかでもっとも興味深かったのは、「同じタイミングで、チーム全体のエネルギー(ダイナミズム)を急激にアップさせるのは難しい・・」という発言だったね。

 要は、両チームのサッカーのテンポが変化しつづけるなかで、「ゆっくり落ち着くところ」と「急激にテンポアップしていくところ」をチームが一体となって(自分たち主体で!)明確にコントロール出来るかどうかというテーマのことです。 まあ・・攻守にわたるイメージシンクロプレー(コンビネーションプレー)とか、優れた連動性なんていう表現も使われるよね。

 まあ、そのテーマは、世界トップサッカーの共通のテーマでもあるよね。そこには、だからこそリーダーの資質が問われるというテーマもある。もちろん西野朗も、チームが「一つのユニット」として、メリハリある一体アクションを繰り出していけるために、共通の「サイン」を徹底させるなど、さまざまな工夫を凝らしているでしょ。

 でも、やっぱり、「例外なく、攻守にわたって、ボール絡みでも、ボールがないところでも、この状況では常に爆発的に組織アクションをスタートする・・」という共通イメージを徹底させる方が簡単だし確実だよね。そう、ワールドカップで優勝したスペイン代表やバルセロナのように・・ネ。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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