湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第29節(2010年11月7日、日曜日)

 

リーグ優勝争いレース終盤での監督の姿勢というテーマ(ブンデスリーガの逸話も)・・(AvsGR, 1-0)

 

レビュー
 
 「アントラーズは、素晴らしいチームだし、我々は十分にレスペクトしている・・でも、最後にチャンピオンとして笑うのは我々グランパスだ・・」

 試合後の記者会見で、ドラガン・ストイコビッチ監督が、高らかに宣言していた。私は、その話しっぷりを見ていて、ハッと、あることを思い出した。

 1980年代のドイツ、ブンデスリーガ。正確には思い出せないが(ここでは正確な数字など重要ではない・・)、そのとき、勝ち点「4か6(当時の勝ち点システムでだぜっ!)」の差で、二位のバイエルン・ミュンヘンを引き離していたヴェルダー・ブレーメンのオットー・レーハーゲル監督が(現ギリシャ代表チーム監督・・のはず・・加筆:今回のワールドカップ後に辞任したそうです・・)記者会見で、こんな言い方をしたことがある。

 その時点で、残りは数ゲームだったと覚えている。要は、普通の経験則から見れば(常識的に考えれば!)、バイエルン・ミュンヘンが逆転優勝することなど、まったく考えられない状況だったということです。

 「優勝するのはブレーメンかって??・・そうネ〜〜・・まあ、神様が支配する領域のテーマだし、実際にどうなるかなんて、誰にも分かりゃしないね・・もちろん我々の方が、有利な立場にいることは明白な事実だけれどネ・・」

 そんな、ちょっと、当事者意識と緊張感に欠けたオットー(レーハーゲル)の発言に対し、バイエルン(ミュンヘン)の、伝説的な名将ウド・ラテック監督の発言は、まったく次元の違うモノだった。

 「これほどポイントで離されていたら、もうブレーメンに追い付くのは不可能だと思うのだが・・?」

 そんな記者の質問に対し、「キミは一体なにを言っているのか?・・我々には優勝を果たせないだって〜!?・・まあ、キミには無理だろうが、私には分かるんだよ・・私は、バイエルンの逆転優勝について100パーセントの確信をもっているんだ・・その確信のバックボーンは、言うまでもなく、これまでの私の実績だ・・もう一度言う・・私には分かるんだよ・・もう、そんなくだらない質問をするのは止めにして欲しいね・・とにかく、シーズンが終わったときに、ランキングのトップとしてマイスター・シャーレ(リーグ優勝杯)を高々と掲げているのは我々バイエルンなんだ・・」と、ものすごいスピリチュアルエネルギーを放散するウド・ラテック。

 そんな発言についてコメントを求められたヴェルダー(ブレーメン)のオットーは、またまた、状況を俯瞰するような(まさに第三者コメンテーターのような!?)冷静なコメントを出すのですよ。勝負は、終わってみなければ分からない・・なんてネ。

 私が言いたかったことは、選手の心理マネージメント。実際、ウド・ラテックの言葉に、バイエルン・ミュンヘン選手の心は、ポジティブに突き動かされていた。当時の選手に聞いた・・

 「そう・・いま考えたらバカみたいだけれど・・当時の、ウド(ラテック)のオーラは、とにかくもの凄かったんだよ・・だからオレ達は、合理的な根拠なんて関係なく、心の奥底でウドの言葉を信じ、逆転優勝に対する確信がどんどんと高まっていったんだ・・もちろん、家族も含めて、外には、そんな本心は言わなかったよ・・気が違ったと思われたくなかったからネ・・あははっ・・」

 いや、ホントに面白いよね。シーズン終盤での、心理的なせめぎ合い。

 世界トップサッカーの経験と体感が豊富なピクシー(ドラガン・ストイコビッチ)も、その心理メカニズム(心理マネージメント)のことを十二分に理解しているんだろうね。だから、メディアをつかって、選手たちのマインド(優勝に対する確信レベル)を高揚させようとしていた!? フムフム・・

 もちろん、そこには、ドラガン・ストイコビッチという希代のイメージ価値もある。ピクシーが言えば、まだまだ「その迫真度」は高いでしょ。選手にしても、「あれだけの才能と経験と実績に裏打ちされたピクシーの言葉だから・・」と、心理の深層では、前述したバイエルン・ミュンヘン選手たち同様、確信度が深まっていくかもしれない。

 そんな「監督さん同士の心理ストラグル(心理戦争!?)」以外にも、実績(数字)という現実もある。要は、これまでグランパスは、リーグ優勝を果たしていない・・という厳然たる事実があるということです。それに対するアントラーズの実績については、もう語るまでもないよね。

 そんなポイントについて、オズワルド・オリヴェイラ監督に聞いてみた。わたしの経験という前段もあったから、またまた長〜い質問になってしまった。会見場にいた同僚の皆さん、スミマセン。ということで、オズワルド・オリヴェイラ監督のコメントです・・

 「私も、色々な監督のもとで仕事をした経験があるし、シーズン終盤には、様々なことが起きることを知っている・・特にJリーグの場合、シーズン終盤には、最後の最後までどうなるか分からないという展開が日常的だ・・天気予報や交通情報などと違い、サッカーの場合は分からない・・だからサッカーは難しいし、面白い・・いまの質問にあったように、そこで、我々の実績がどのように作用するのかについても、分からない・・とにかく、これからの五試合、特別なことではなく、これまで通りのサッカーをつづけていく・・もちろんそこでは、内容をしっかりとマネージし、常に高みで安定するようにコントロールすることは言うまでもない・・とにかく、失点数(得失点差)とか負け数などでは、アントラーズはトップなんだから・・サッカーじゃ、良いこともあるし、悪いこともある・・気分が乗っているときも、沈んだときもある・・とにかく、最後の最後まで、コツコツとやっていくさ・・ などなど・・」

 最後の「コツコツと・・」という言葉が素晴らしかったし、それを聞いて、これからのリーグ優勝争いに心が躍らされたものです。何せ、この試合での内容は、アントラーズに一日以上のアドバンテージがあったからね。

 でも、勝負という視点じゃ、最後の時間帯にトゥーリオが登場してからのグランパスが魅せた「勝つぞっ!」オーラは、レベルを超えていた。

 いや〜、面白いね。リーグ優勝争いについて、これから、もう一波乱あるに違いないと確信し、心を躍らせる筆者なのでありました。

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 あっ・・冒頭のブンデスリーガ逸話の「顛末」を書き忘れた〜〜・・スミマセン。

 そのシーズン、結局バイエルン・ミュンヘンが、まさにドラマの極みという逆転優勝を遂げました。

 それも、リーグ最終ゲームの終了間際に、ヴェルダー・ブレーメンが「PK」を得るという、まさに鳥肌が立つ展開だった。要は、そのPKを入れさえすれば、ギリギリのところでヴェルダー(ブレーメン)が逃げ切っていたということです。でも・・

 完璧なPKシューターと思われていたヴェルダーの主力選手(名前は忘れた!)が蹴ったボールは、信じられないことに、ゴールポストを直撃してしまったのです。まさに、「ウド・ラテックが放散したスピリチュアルエネルギーの呪い・・」としか思えない。そのシーンを見ながら、当時はブレーメンの選手として実際にグラウンドに立っていた(わたしのドイツ時代の戦友でもある)奥寺康彦も含めて、完璧にフリーズした。また、ヒザから崩れ落ちる選手もいた。

 この件については、奥寺康彦にも聞いて下さい。苦い思い出か・・それとも、何らかの特筆な学習機会だったか・・

 オットー・レーハーゲルにとっては(また、その顛末を注意深く観察していた全てのプロサッカーコーチ連中にとっても!)これ以上ないほど深〜い学習機会ではありました。

 実際、その後のオットー・レーハーゲルは、ブレーメンやカイザースラウテルン、はたまたギリシャ代表チームを率い、リーグやヨーロッパ選手権で、何度も頂点に立った。

 今度オットーに会ったら、是非、そのテーマについて質問してみよう。それでは、また・・

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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