湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第32節(2010年11月23日、火曜日)

 

二試合をつづけてアップしちゃいました・・(MvsR, 1-4)(FRvsC, 1-2)

 

レビュー
 
 さて今日は、二試合を「ハシゴ」です。まずマリノス対レッズ。そしてつづけて、フロンターレ対セレッソの(ACLの椅子を懸けた)勝負マッチ。

 さて、まずはマリノス対レッズ。

 「(前節の)ガンバ戦の出来は決して悪くはなかった・・何本もチャンスを作り出した・・それでも決めることが出来なかった・・それに対して、このマリノス戦では、とても効率的にチャンスをゴールに結びつけることができた・・」

 フォルカー・フィンケの弁だけれど、ゴールという話題だからね、どうしても質問せざるを得なかった。「たしかに前節のガンバ戦のサッカー内容は悪くなかったと思う・・でも、おっしゃるようにチャンスをゴールに結びつけられなかった・・レッズは(チャンスメイクのチカラがあり、多くのシュートを打ったという側面もあるけれど・・)ゴールを決める決定力が、リーグのなかでも低い方だと言わざるを得ないが、その原因は何だと思うか?」

 それに対してフォルカー・フィンケが、こんなニュアンスのことを言っていた。・・レッズは正しいベクトル上にいる・・ゴール決定力にしても、多くのシュートを打つことをターゲットにしたミニゲーム形式のトレーニングを、とても多くこなしている・・もちろんそこでは、しっかりとゴールを決めることを、多くの刺激とともに意識させている・・そのことで、シュートを決めるための集中力とイメージ構築が徐々に養われていく・・ただ、決定力というのは(それが心理・精神的な部分にも大きく影響されることもあるから!?)一朝一夕で、本当の意味で身に付くというものではない・・やはり、忍耐が必要だ・・忍耐強くつづけることでのみ、実の詰まった果実を得られるということだ・・

 そう・・継続こそチカラなり・・。

 それにしてもこの試合でのレッズは、効率的にゴールを決めていった。ポンテの先制&追加ゴールしかり、後半の、同じようなカウンター気味の攻めから右サイドを突き、そこからのグラウンダークロスを、立てつづけに決めた二つの追加ゴールしかり。

 ところでマリノス。この試合での彼らのサッカーも素晴らしかったと思う。特に前半。小野裕二、端戸仁、松本怜のヤングトリオをスリートップに、その後方を、中村俊輔、河合竜二、兵藤慎剛というベテラントリオが固める。タテの決定的スペースをフルパワーで攻め上がっていく突貫小僧たちと、それをバックアップ&コントロールするバランサー・・ってな構図かな。

 とにかく、そんなマリノスの仕掛けイメージがピタリとツボにはまるのですよ。

 松本怜が、レッズ右サイドバックの岡本拓也をドリブルで翻弄し、そのまま中へ切れ込んでキャノン中距離シュートをブチかます・・小野裕二が、山田暢久を振り回してフリーになり、バー直撃の中距離シュートを放つ・・それだけじゃなく、何度も何度も、左サイドを縦へのスルーパスとドリブルで切り崩していく松本怜、田中祐介、兵藤慎剛・・何度、レッズ右サイドの高橋峻希と岡本拓也がウラの決定的スペースを攻略されたことか・・

 ・・それでも、ツキにも恵まれたレッズ・・そんな、強烈な前半のマリノスの仕掛けを耐えきっただけじゃなく、カウンターから追加ゴールまで奪ってしまう・・でも、その直後に、まさに順当といえるマリノスの「追いかけゴール」が決まる・・そして後半・・もちろんレッズは、前半問題になった右サイドについては「戦術的な調整」をほどこした・・だからマリノスは、前半のように、効果的にタテのスペースを突いていけない・・

 ・・そして、前半のようなイメージで攻め切れないマリノスが、不用意に(中途半端なカタチで)ボールを失うというシーンが増えていく・・こうなったら、もちろんレッズのカウンターチャンス・・そしてレッズが、あれよ、あれよというまに、素晴らしいカウンターから、二つも素晴らしいゴールを決めてしまった・・っちゅう次第・・

 この試合のシュート数は、ホームのマリノスが「12本」。それに対してレッズは「6本」。いかにレッズが、質実剛健の攻めを展開したかということです。実の詰まった仕掛け・・。これも、忍耐強い日常の(イメージ)トレーニングの賜物!?・・フムフム・・

 ところで、レッズの4点目。それを演出したのは、左サイドでパスを受け、そのまま、抜群のテクニックとスピードのドリブルで中央ゾーンへ切れ込んでいった(要は、マリノス守備ブロックの視線と意識を一身に引きつけた!)サヌでした。そこから高橋峻希へ、そしてグラウンダークロスが、中央ゾーンで走り込むエジミウソンにピタリと合ったというゴール。

 その立役者のサヌだけれど、やっと彼も、日本サッカーに馴染んできたということなんだろうかネ。これまでの彼のプレーは、とても中途半端だったから、この試合での「積極プレー」は感動モノだった。

 要は、攻守にわたって、しっかりと自分なりに仕事を探しつづけ、一度イメージをつかんだら、まさに全身全霊で、勝負していったのですよ。攻撃ではシュートを打つために、守備では相手からボールを奪い返すために・・。

 そのことは、彼の、全力スプリントの量と質をみれば一目瞭然。攻守にわたる全力スプリントは、まさに「積極的に仕事を探している」からこそ出てくるプレーというわけです。具体的な目的イメージがあるからこそ、全力での(リスク)チャンレンジが出てくる・・。

 ちょっと、サヌを見直していた筆者でした。そう・・、原口元気にしても、セルヒオにしても、この試合でのサヌのプレーを、しっかりとイメージトレーニング教材にすべきだよね。あっと・・セルヒオについては、前節のガンバ戦では、しっかりと仕事を探していたとは思うけれど・・

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 さて次は、フロンターレとセレッソの勝負マッチ。

 全体的な印象は・・実際のゲーム内容からすれば、少なくとも、フロンターレの引き分け以上・・というのがフェアな評価だったと思う。それほどフロンターレは、優れた(強い)サッカーを展開した。

 特に前半は、本当に素晴らしかった。強烈で効果的な組織ディフェンスによってセレッソに攻め上がらせず(攻め込ませず)、効率的にボールを奪い返すたびに、センターゾーン、両サイドゾーンを効率的に突いていく鋭い仕掛けを繰り出す。

 その中心にいたのは、言わずもがなの「牛若丸」。そう・・中村憲剛。

 ドイツ、ブンデスリーガ2部のVfLボーフムへ移籍した、フロンターレと北朝鮮代表のエースストライカー、チョン・テセが、こんなことを言っていたらしい。「こちらに来て、中村憲剛の偉大さを痛感させられた・・」

 要は、いくらタテのスペースへ抜け出しても、タイミングよくタテパスを供給してくれる選手がいない・・ということなんだろうね。この試合での牛若丸のプレー(ゲーム&チャンスメイク)を観ていて、そんなチョン・テセの嘆きが本当によく分かった。

 やはり、牛若丸は、素晴らしい。

 ・・まず何といっても、簡単にボールを取られない・・彼のところでボールが「収まる」から効果的な「タメ」を演出できる・・そしてそのことで、後方からのバックアップや最前線選手の勝負のフリーランニングも、どんどん出てくる(ボールがないところでの仕掛けの動きイメージが活性化される)・・

 ・・もちろん牛若丸は、「タメ」から、目の覚めるような勝負のタテパスが供給する・・ジュニーニョやヴィトール・ジュニオールが、牛若丸がボールを持ったら、脇目も振らずにタテの決定的スペースへ抜け出していくのもよく分かる(フリーランニング=パスレシーブの動き=ボールがないところでの決定的な仕事・・などなど)・・牛若丸は、タテへの仕掛け人・・ホントに素晴らしい・・

 でも、そんな牛若丸がコアになり、何度も決定的チャンスを作り出した前半のフロンターレだったけれど、結局は、そのチャンスが実を結ぶことは一度もなかった。

 そして後半。それまで、ボールがないところでの動きに精彩を欠くことで、どうしても組織的にフロンターレ守備ブロックを崩せなかったセレッソが、フォワードの小松塁を投入するのですよ。それも、守備的ハーフの1人アマラウを引っ込めてまで(家長昭博が守備的ハーフに下がった)。そして、その起用が見事に当たる。最前線で動き回る小松塁によって、セレッソのボールの動きが、格段に活性化したのです。

 要は、前半のセレッソは、中盤の選手が(オレがゲーム&チャンスメイカーだという意識の強いタイプが!?)多すぎたということです。

 マルチネスとアマラウによる守備的ハーフコンビ・・その前に、日本有数の才能である、家長昭博、清武弘嗣、乾貴士のトリオが並ぶ・・。だから、誰も汗かきのフリーランニングを積極的に仕掛けようとしない・・だから人とボールの動きが沈滞する・・これじゃ、フロンターレ守備ブロックを振り回してウラのスペースを突いていけないのも道理・・ってな展開だったのですよ。

 そんな沈滞した「仕掛けの動きのイメージ」を、抜群のスピードと積極的なボールのないところでの動きで打破してしまう小松塁が登場したというわけです。人とボールの動きが活性化するはずだ。そして案の定(活性化した動きに乗るように・・)オーバーラップしてきた右サイドバック酒本憲幸からのニアポストクロスに飛び込んだ小松塁が、スリップヘッドでフロンターレゴールに流し込んで先制ゴールを奪ったという次第です。

 もちろん攻め上がるフロンターレ。でも、そんなフロンターレの前への勢いが災いする。一発カウンターから、センターフォワードのアドリアーノに追加ゴールを奪われてしまうのです。

 そこで、セレッソのアドリアーノとフロンターレのヴィトール・ジュニオールがタテパスを競り合ったシーン。最初にボールを支配下に置いたのはヴィトール・ジュニオール。でも、その直後に(ちょっと後方から!?)アドリアーノにショルダーチャージを喰らわされて前へ吹っ飛んでしまうのです。

 まあ・・ファールに取ってもおかしくない微妙なプレー。でもレフェリーは、そのまま流した。これで、「0-2」。そして、ここから、このゲームの中心テーマに入っていくわけです。

 残り20分間に魅せつづけたフロンターレの最後の反攻に内包されていたコノテーション(言外に含蓄される意味)・・

 それは、まさに、フロンターレの真骨頂という勢いと実効が伴った「爆発的な攻撃」でした。観ている方は、セレッソの応援団やベンチも含めて、誰もが手に汗握っていたに違いない。そして後半34分。ヴィトール・ジュニオールが「2-1」となる追いかけゴールを決めるのですよ。

 その追いかけゴールが決まる前も、そしてその後も、フロンターレは、何度もセレッソゴールを脅かしつづける。ゴール以外にも2-3本はあった・・誰もが、「エッ、どうしてゴールに入らないの?」という絶対的チャンスが・・。

 でも決まらない。サッカーの神様の所業!? それじゃ詰まらないから、両監督に聞いた。・・あの不可思議な現象を、ツキとか神様以外で、何とかうまく表現して下さいナ・・

 でも、どうも、「それだ〜っ!」っていう感覚をシェアできるようなコメントは出てこない。さて〜〜・・

 シュートを決めるという現象について、私に、こんなことを言った往年のドイツ名選手がいた。

 「シュートする前から、ゴールに入っているボールが見えるようじゃなければ(そこまで確信レベルを高揚させなければ)ダメさ・・そんな確信があれば、ものすごく落ち着いてアクションを完結できる・・もちろん、それでも入らないこともあるけれど、そんな・・まあ、言葉じゃ、うまく表現できない感覚だけれど・・そんな確信のフィーリングさえ持っていれば、確実に、ゴールを決められる確率はアップしていく・・これは経験的なものだけれど、でも実際に決定力は大きくアップしていったんだよ・・その絶対的ベースは、もちろん、日常のハードトレーニングさ・・何度も、何度も、反復する・・まあ、オレは下手な選手だったから、それしかなかったわけだけれど、それでも、ゴールを決められるケースが増えてくるに従って、オレのモティベーションも、宇宙レベルまで高まっていったネ・・あははっ・・」

 そんなニュアンスのことを言ったのは、ドイツの伝説的ストライカー「ボンバー・ゲルト・ミュラー」でした。

 なんか、マリノス&レッズ戦もフロンターレ&セレッソ戦でも、決定力っちゅう、つかみ所のない要素がテーマになった。そのコノテーション(言外に含蓄される意味)は、やっぱり、意志・・ですかネ。それではまた・・

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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