湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第1節(2011年3月5日、土曜日)

 

イナモト〜、アンタは、もっともっと出来るぞ〜〜!!・・(FRvsMO, 2-0)

 

レビュー
 
 まあ・・、チームの総合力からしても、実質的なゲーム内容からしても、とても順当なフロンターレの勝利ではありました。

 それにしても、ゲーム立ち上がり20-30分間にモンテディオが魅せつづけた、エキサイティングな「前からプレッシング」サッカーは見応え十分だったネ。フロンターレはタジタジ。また「その後」も、たしかに実質的なゲーム支配という視点ではフロンターレに一日以上の長があったけれど、それでも、チーム一丸となって攻守に「連動しつづける」モンテディオのサッカーには、心から共感していた筆者だったのです。

 小林伸二監督は、相変わらず良い仕事をしている。

 ところで、前の文章で「フロンターレはタジタジ・・」とは書いたけれど、それは心理・精神的な雰囲気という視点であって(相手の勢いに押され、ちょっと消極的に様子見だった!?)、物理的・戦術的な流れからすれば、相馬直樹監督が言うように、「落ち着いて凌(しの)げた・・」というのが実際のところだったと思いますよ。

 たしかにゲーム立ち上がりのモンテディオは、フロンターレを押し込んでいったけれど、結局は、可能性の大きなシュートチャンスを作り出すところ(フロンターレ守備ブロックを振り回し、裏のスペースを攻略するところ!?)まではいけなかった。もちろん何度か、惜しいシュートシーンは作り出したけれどね・・

 それに対してフロンターレは、立ち上がりのモンテディオの勢いを「落ち着いて凌いで」からは、徐々にゲームペースを握り、何度も、決定的スペースを攻略するなかでチャンスを演出した・・またサイドからの崩しでも、最後は、しっかりと決定的なクロスまでもっていくシーンが目立っていた(特に小宮山尊信は優れた積極プレーを魅せた!)・・。

 そんな俯瞰(ふかん)したグラウンド上の現象の実質的なコノテーション(言外に含蓄される意味)こそが、チームの実力・総合力の差を如実に現しているっちゅうことが言いたかった筆者なのです。回りくどくてスミマセン・・

 もちろん、そんな「俯瞰的なゲーム内容」を形作っているのは、攻守にわたる、個人戦術的な局面勝負の内容、グループ戦術的な内容、そしてチーム戦術的な内容ということになるよね。ちょっと表現が大袈裟に過ぎるけどサ・・あははっ・・

 まあ、観ていれば、とても重要な(局面の)ボール奪取シチュエーションでは、そのほとんどでフロンターレが勝っていたのは一目瞭然だし、また攻撃でも、数人が絡む組織コンビネーションの量と質といった視点で、フロンターレが上回っていたのは誰の目にも明らかだったよね。その事実が、シュート数の差となって結果に表れた。

 優れたサッカーを展開したフロンターレだけれど、そのコアには、やっぱり稲本潤一と中村憲剛が仕切る「タテのライン」があったというのが私の見立てです。

 守備では、味方のチェイス&チェックを予測ベースに、肝心な勝負所では、稲本潤一が効果的なインターセプトでボールを奪い返す・・攻撃では、中村憲剛が、タメや勝負ドリブルなど駆使するだけじゃなく、それをベースに危険な組織コンビネーションをリードしたりする・・ってな感じ。

 ということで、今日は、稲本潤一にスポットライトを当てようと思います。私は、かなりの時間、稲本潤一が展開した、攻守にわたるプレー内容を注意深く追っていた。ボール絡みのプレーだけではなく、ボールがないところでのアクションも・・

 例えばボール奪取勝負。相手にパスを出させる狡猾なポジショニングはもちろんのこと、勝負の瞬間の、狙いを定めたアクションの素早さ、巧みさ、フェアさなどには目を見晴らされる。さすがに世界を渡り歩き、本場の現場コーチ連中からも高く評価されたボール奪取能力じゃありませんか。

 また攻撃でも、シンプルなタイミングで、タテへの正確なフィードを魅せるだけじゃなく、落ち着いたボールキープから(タメから)相手の視線とアクションを引きつけ、その「裏のスペース」に展開パスを通して味方に仕掛けさせるといった創造的なゲームメイクも秀逸でっせ。

 わたしは、稲本潤一が魅せつづける素晴らしい局面勝負プレーに舌鼓を打っていたけれど、やっぱり(優れた才能に恵まれているからこそ!)まだまだ不満。稲本潤一の能力が、攻守にわたって、もっと機能すれば、確実にフロンターレは強くなる。だから、相馬直樹監督に聞いた。

 「さすがに稲本潤一は、攻守にわたって素晴らしい一流プレーを披露した・・でも逆に、だから不満もつのった・・ボールを奪い返せるのに勝負へ行かず、ウエイティングでお茶を濁したり、押し上げるチャンスなのに、行かずに後方に留まっていたり(バランシング意識は分かるけれど・・)・・わたしの目には、どうもサボリが目立つという印象なのですよ・・相馬さんは、そんな稲本潤一のプレー姿勢を活性化させようとは思いませんか・・?」

 実は、このテーマは、以前彼が所属していた、ドイツブンデスリーガのアイントラハト・フランクフルトのコーチと話し合ったときに抽出されたモノだったのです。要は、イナモトは、あれだけの能力に恵まれているのに、どうもアクションが(意志が)足りない・・ってね。もし彼が、もっと積極的にプレーしていけば(攻守にわたってより積極的に仕事を探しつづけたら・・)もちろん(Jのなかで!)最高のボランチという評価を独り占めできるのに・・っちゅうことです。

 でも、相馬さんは、「稲本は、グループとして、とても優れた仕事をしてくれていると思っている・・」と、にべもない。そんな〜・・。そりゃ、わたしの質問は「クセ」があるし、ちょっと挑発的でもありまっせ。でもサ・・同じサッカー人として、決して「深層に(言葉の背後に)隠された悪意」なんてありませんよ。いや・・ホントだよ・・。

 今日のフロンターレが魅せたコンパクトな組織サッカーは、組織プレーのなかに、(選手たち自身が!?)が積極的に「個のリスクチャレンジ勝負プレー」も効果的にミックスさせていくという戦術的なポイントでも、とても高質なものだったし、わたしは、町田ゼルビア当時も含めて、相馬直樹監督を(まあ、期待というニュアンスも強いけれど・・)高く評価しているのです。

 相馬直樹監督が出したコメントでも、至るところに、選手たちの自主性を高揚させるのが監督の重要なミッションである・・っちゅうフィロソフィーが感じられた。いいね・・。まさに「それ」こそが、優れたコーチの隠し味なんだよ。何せサッカーでは、始まってしまえば、監督・コーチが出来ることは、とても限られているわけだからネ。

 そうそう・・、そんな相馬さんのコメントニュアンスを体感したことで、稲本潤一の、「もう一旗揚げるぞ!!」っちゅう積極プレー姿勢(意志)が高揚していくことに対して「も」期待が高まっていった筆者だったのでした。

 イナモト〜〜!・・アンタは、もっと、もっと出来るんだゾ〜〜!!・・これからでも遅くないじゃないか、日本サッカー界のために、もう一旗揚げようぜ〜〜!!!・・そうじゃなければ、アンタが秘める素晴らしい才能が惜しいってもんじゃね〜か〜!!!!

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 2010年4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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