湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第1節(2011年3月6日、日曜日)

 

レッズのサッカーを観ていて、「自由と規制のバランス」というテーマに思いを馳せた・・(VIvsR, 1-0)

 

レビュー
 
 まあ、たしかに個のチカラの単純総計という視点じゃ、レッズに一日の長ありだよね。でも「そのアドヴァンテージ」が、うまくゲーム内容に反映されてこない。

 要は、「個のチカラの単純総計バリュー」を増幅させるためのチーム戦術が機能していないっちゅうことです。

 だから、「単純総計バリュー」では明らかにレッズの後塵を拝するヴィッセルでも、チーム戦術イメージが明確にシェア(共有)されていることで(攻守にわたる組織的ハードワークを忠実に積み重ねていくことで!)互角以上に対抗できる。まあ、その視点で、和田昌裕監督の優れた仕事に拍手しなければいけない(彼については、昨シーズン最終戦コラムを参照して下さい)。

 そんな、攻守にわたるプレーイメージが統一された優れた組織サッカーを展開したヴィッセルだったけれど、このコラムでは、レッズを中心に論を展開していきます。悪しからず・・

 たしかにレッズは、チャンスの量と質で(まあ、鈴木啓太が退場になるまでは・・)ヴィッセルを上回っていたよね。でも結局は、それを実際のゴールに結びつけられなかった。決定力不足・・!? ツキに恵まれなかった・・!?

 まあ、その議論はさて置き、リーグが開幕したこの時点でもっとも重要なテーマは、何といっても、今シーズンのレッズが取り組む、基本的なチーム戦術です。要は、選手たちが共有していなければならない「プレーイメージ」の内容・・。

 今シーズンのプレシーズンマッチ・コラムでも書いたけれど、私は、基本的なポジションと、そのバランスを出来るかぎりキープするというイメージが強調され「過ぎ」だと感じます。だから、徐々に全体的な運動量も落ちてくる・・そして前後分断サッカーに陥ってしまう・・

 選手たちのプレーイメージ(チーム戦術的なピクチャー)を制限し過ぎることで、個々のプレー(イメージ)の発展性の芽を摘んでしまうゼリコ・ペトロヴィッチ!? それは言い過ぎかもしれないけれど、多分そこには、『自由と規制のバランス』という深〜いテーマが潜んでいるはずですよ。

 またまた、ちょっと分かり難くなってしまった。そこら辺のメカニズムを簡単に表現するとサ、こうなるわけですよ・・

 ・・田中達也と原口元気によって構成される両サイドハーフが、まさに「その決められたサイドゾーン」に張り付きつづける・・そのことで、両サイドバックのオーバーラップ(リスキーな仕掛けにチャレンジしていく意志)が、とても窮屈になっている・・要は、サイドゾーンでの「タテ方向の」ポジションチェンジが、うまく機能していないということ・・

 ・・ゼリコ・ペトロヴィッチが描く仕掛けのイメージは、こんな感じ!?・・

 ・・サイドからの仕掛け(特に、原口元気と田中達也のドリブル突破に対する期待!?)・・サイドハーフが「常に、そこ」に張り付いているわけだから、もっと逆サイドへの展開を(サイドチェンジを!)多用して仕掛けていく・・もちろん、後方からのロングボール「も」効果的に活用する・・後方で(特に永田充がボールを持ったら!?)最前線や2列目の選手は、相手最終ラインのウラに広がる決定的スペースへの飛び出しを意識する、などなど・・

 ・・そんなチーム戦術的なプレーイメージだから(!?)、両サイドハーフのプレーイメージに「柔軟性」が欠けるようになっていく・・だから、サイドゾーンでのタテのポジションチェンジ(サイドバックの効果的なオーバーラップなど)も出てこない・・だから、相手が怖がるような『仕掛けの変化』を演出することも叶わない!?・・

 ・・それに対して中央ゾーンでは、マルシオ・リシャルデスと柏木陽介が絡む「縦横無尽のタテのポジションチェンジ」が繰り返されている・・まあ、そのバックボーンは、マルシオ・リシャルデスが、守備でも、そこそこ機能できるからだろうネ・・

 自由(プレーイメージを解放することでサッカーの美しさや楽しさを追求していく姿勢)と、戦術的な制限(勝負強さを追い求める姿勢)をいかにバランスさせていくのか・・。

 それは、チームマネージメントにとって永遠のテーマだけれど、やはり、選手の発展(ひいては日本サッカーの発展!)というテーマからすれば、まだまだ日本は、「プレーイメージを解放していくベクトル」を強調しなければいけないと思うよ。要は、より自由に、選手たちが、勇気と責任感をもって積極的に意志決定するような(しなければならないような)雰囲気を醸成するという方向性が重要だと思うのですよ。

 リスク・チャレンジのないところに発展もない・・。それは、イビツァ・オシムが、口を酸っぱくして言いつづけたことだよね。

 もちろん勝つことも大事だよ。でも、勝ち点を追い求めるあまり、チームの「リスクチャレンジへの積極性という意志のダイナミズム」を収縮させてしまうのは本末転倒だよね。

 もちろん、逆に、自由(美しさ)を追求し「過ぎる」ことで、攻守にわたる組織ハードワークが矮小化してしまうのも本末転倒。そのバランスを取ること(チームの目的を明確にしたうえで、全ての戦術的な要素を分析して取りまとめ、それをうまく機能させること!)は本当に難しい。だからこそ「それ」が、チームマネージメントにとっての永遠のテーマなのです。フムフム・・

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 2010年4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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