湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2011年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第29節(2011年10月15日、土曜日)
- アルディージャの「見事な」粘り勝ちでした・・(RvsAR, 0-1)
- レビュー
-
- ・・先日のナビスコ準決勝からのポジティブな流れを高みで維持する立派なサッカーを展開したレッズ・・でも結果は付いてこなかった・・
対するアルディージャ。それは、それは忍耐強いサッカーで、結果までもつかみ取った。わたしは、そんなゲーム展開から、9月25日に行われた、レイソルとのアウェーゲームを観ているような感覚にとらわれていた。とにかくアルディージャは、素晴らしい粘りの(勝負強い)サッカーを展開したのです。
鈴木淳監督も、こんなニュアンスの内容をコメントしていたっけ・・
・・両チームにとって重要な一戦・・厳しい闘いになると思っていた・・そしてまさにレッズにペースを握られる展開になった・・幸いにも勝ち点3を取れたわけだが、そのバックボーンには、ハードワークと「勝ちたい」という意志があった・・たしかにレッズにゲームを支配されチャンスも作り出されたが、我々も、ゲームが進むなかでペースを掴み、チャンスも作り出せるようになったと思う・・時間の経過とともにボランチとセンターバックの関係がよくなったこと(適当な距離感とカバーリングの信頼感)も、その背景にあった・・などなど・・
たしかにアルディージャでは、自分たちがゲームの主導権を握って支配するという展開は少数派だよね。だからこそ、(もちろん下がって守備ブロックを固めるという、受け身で消極的なディフェンス姿勢ではなく!)しっかりと積極的なボール奪取プロセスを機能させるなかで、その後の、守備から攻撃への素早い切り替えと、そこからの仕掛けプロセスに関する「イメージ」をチーム全体が明確にシェアしていると感じる。
だからこそ、スムーズに「人とボールの動き」が連動する。
シンプルにボールを動かすなかで(忠実なボールがないところでの人の動きが絶対的ベース!)、ラファエルだけではなく、両サイドの橋本早十とイ・チョンスが「仕掛けの起点」を作り出す。要は、そこにボールが収まったら、周りのチームメイトが忠実にタテのスペースへ飛び出していくということです。そしてもちろん、高い確率で「そこ」へ仕掛けのパスが送り込まれる。
とにかくアルディージャは、全力で取り組む忠実ディフェンスがチーム戦術の絶対的な骨格であるからこそ(!?)、次の攻撃でも、「意志」が減退することなく、最後まで自分たちのイメージ通りに、積極的に仕掛けていけたということだと思う。
結局彼らは、レッズよりも多くのシュートを放った。もちろん「エイヤッ!」といったイチかバチかのミドルシュートも多かったけれど(途中でミスを冒してレッズにボールを奪われるよりはまし!?)、レッズから比べれば「少し小さめの可能性」に懸ける攻撃を、忠実に、そして粘り強くつづけていた。私は、だからこその成功だったと思うわけです。そう・・継続こそチカラなり・・
さてレッズ。
ゼリコ・ペトロヴィッチは、前述したナビスコ準決勝から、ケガの宇賀神友弥を除いて(代わりに野田紘史が先発)同じメンバーをグラウンドに送り出した。代表帰りの原口元気とスピラノビッチ、また、このところ高揚傾向にあるレッズの組織サッカーを牽引する一人、山田直輝もベンチスタートということになりました。
私は、その先発メンバー(チーム&ゲーム戦術)を大正解だと思っていた。そう、ウィニングチーム(素晴らしいサッカーを展開した成功チーム!)ネバーチェンジ・・
とにかく、準決勝のガンバ戦では、セルヒオと梅崎司が、ホンモノのブレイクスルーまでも期待させてくれるような、まさに「覚醒」という表現がピタリと当てはまる積極プレーを攻守にわたって披露したわけだからね。
彼らのプレー内容は、この試合でも高みで安定していた。とにかく彼らは、攻守にわたって良い「イメージの流れ」に乗っていると感じる。
でもアルディージャは、ガンバとは違って、より強く(!?)組織ディフェンスというコンセプトイメージ(意図と意志)に徹したプレーを展開するよね。また彼らは、レッズ対ガンバのナビスコ準決勝をしっかりとスカウティング(試合を観察)していたはず。だから、梅崎司とセルヒオは、まったくといっていいほど自由なスペースを見いだせなかった。
とにかく、彼らに対するマークはとても厳しかったし、少しでもボールの動きが停滞したら、すぐに協力プレスで潰されてしまうんだよ。
それでも、以前から比べれば、二人のプレーは、格段とも言えるほど、攻守にわたって効果的なモノへと変身しはじめていると思う。周りのチームメイトも、彼らがボールを持ったら、すぐにサポートへ急行するようになったしね(二人の球離れが良くなったということです)。
特にセルヒオは、積極的&効果的な守備参加やドリブル突破チャレンジだけじゃなく、パス&ムーブや、ドリブル突破と見せ掛けて(相手の視線と意識とアクションを引きつけた状態から)決定的スルーパスを送り込むなんていう素敵なコレクティブ(組織)プレーも魅せてくれた。
それは、後半7分にデスポトビッチがフリーで抜け出した決定的シュートシーンのことだよ。結局アルディージャGK北野貴之がブチかました素晴らしい飛び出し&(落ち着いた)セービングで弾かれてしまったけれど、アレが決まってれば・・。まあ・・ネ・・低次元のタラレバ・・
とにかく、そんな決定的チャンスも含め、良いサッカー内容でゲームの流れを掴んでいたレッズには、勝ち点3への期待が高まっていたわけです。でも、その雰囲気が、アルディージャ橋本早十の素晴らしいクロスと、ラファエルの必殺ヘッドで霧散してしまう。そのときのレッズサポーターの落胆は、まさに奈落・・だっただろうね。
それでも、いみじくもゼリコ・ペトロヴィッチが言っていたように、あれだけラファエルをフリーにしてしまったら失点も仕方ない・・ということです。これまでレッズは、ラファエルの異質な決定力には何度も痛い思いをさせられてきた。そんな彼を、肝心な所でフリーにしてしまったという失敗。良いイメージトレーニング素材じゃありませんか。
そして、原口元気や山田直輝が出てきた最後の時間帯だけれど、結局レッズには、同点や逆転劇を演出するだけのポテンシャルは残されていなかった。とにかくこの試合は、アルディージャの粘り勝ちという表現に落ち着くということですかね。
------------------
ところで、ゼリコ・ペトロヴィッチの辞任表明。もちろん私もその場にいました。
事情がよく分からないのでコメント等できないけれど、そのことで派生してくる様々な疑問や心配事が脳裏を駆けめぐる・・
・・その意志をクラブ側は知っていたのだろうか?・・ゼリコ・ペトロヴィッチは、既に数週間前に決断していたと言っているけれど、さて〜!?・・ところでクラブは、「その後」のマネージメントを効果的に実行していけるだけの体勢にあるのだろうか?・・また、辞意を表明した監督がチームマネージメントをつづけることには、とても難しいファクターが絡んでくるが・・などなど・・
とにかく、まず情報を収集することにします。
-
===============
重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
==============
ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
-
-
-
-