湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第33節(2011年11月26日、土曜日)

 

やっぱりリーグ終盤の緊張感は並じゃない・・(RSvsC, 1-1)

 

レビュー
 
 「・・田中順也は信頼できる若手の成長株だ・・彼を交替でグラウンドに送り込むときは、チームの特徴を変えるという役割を期待しているし、彼も、そんな期待に存分に応えてくれている・・」

 「・・相手にとっても、あのような(才気あふれる!?)若手が途中からゲームに入ってきたら、それまでのイメージがちょっと狂うはず・・彼には、そんな(相手を惑わす!?)攻撃の変化を期待しているわけだ・・たしかに調子の振幅が大きな時期もあったが、今の彼は調子を取り戻し、エスパルス戦と今日のセレッソ戦でも大いに結果に貢献してくれたと思う・・」

 レイソル、ネルシーニョ監督が、私の質問に応え、そんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。その質問は・・

 「・・前節のエスパルス戦でもそうだったが、この試合でも、田中順也をグラウンドに送り出してから、サッカーの勢いがアップしたと思う・・前節では、それで逆転まで持ち込んだし、この試合でも、逆転しそうなところまで雰囲気が高揚した・・それは、ネルシーニョさんが意図し、期待していたことだったと思うのだが・・もちろん、そんなに具体的には、話せないだろうけれど・・(この最後の言葉を聞いて、優秀なコミュニケーターの公文栄次さんがニヤッとしながらネルシーニョに通訳してくれた)」

 前節のエスパルス戦のコラムは「こちら」を参照して下さい(そのコラムでは田中順也を取りあげなかったけれど、たしかに彼は、そこでも存在感を発揮していたよネ・・)。そのコラムのテーマは、「規律プレーと解放プレーの高度なバランス」ってな、ちょっと小難しいモノになってしまった。

 要はサ、極力、ピンチに陥ってしまう危険性を「抑制」しながらも、攻撃ではしっかりと攻め上がり(リスクにもチャレンジして!)出来るかぎり多くのチャンスを作り出す・・ということです。

 とはいってもサ、皆さんもご存じのように、ちょっとでも全体バランスが崩れたら、「二兎を追う者は一兎をも得ず・・」ってな体たらくになっちゃう。フ〜〜・・難しいネ。

 ここで言う、ちょっとでも全体バランスが崩れたら・・というのがミソなんだよ。そう、不確実な要素が満載されたサッカーは、究極の心理(ボール)ゲームだからね。

 例えば、チームメイトたちが、ちょっとでも「アイツはいい加減だから、守備は任せられない・・」って感じるような選手がいたら、さあ大変・・。その「いい加減ヴィールス」が、すぐにでもチーム全体に蔓延してしまうことで、誰もが後方で足を止め、安全な(要は相手にとってまったく怖くない!)プレーに終始するようになってしまう・・。

 この場合は、「いい加減ヴィールス」によって、チーム内の相互信頼メカニズムが機能不全に陥り、自信と確信のレベルが地に落ちてしまう・・っちゅうことだね。

 また例えば、絶対に負けられない(失点できない!)っちゅうゲームを戦う場合、もちろんチームは、自然に(無意識のうちに!?)安全・確実なプレーを志向するようになっていくでしょ。そんな展開では、攻撃のサポートの勢いが、どんどんと減退していくのも道理だよね。そう・・このゲームの前半にみせたレイソルのようにね・・

 たしかに、この日のセレッソは、キム・ボギョン、マルチネス、そして倉田秋の三人を守備的ハーフ『トリオ』として最終ラインの前に配置し、彼らを中心に、レイソル攻撃のコアである二人のブラジル人(レアンドロ・ドミンゲスとワグネル)をしっかりと抑えるというイメージを徹底した。

 要は、セレッソのクルピ監督が、中盤ディフェンスを強化するというイメージを徹底したということです。まあ、そんなだったから、前半の(ちょっと安定志向に過ぎた!?)レイソルが攻めきれなかったのも道理ということか・・。

 とにかく前半は、両チームともに、ゴールのニオイという意味じゃ、まさにゼロに等しかった。まったくといっていいほど決定的なチャンスを作り出せなかったんだよ。そりゃ、観ている方にとっちゃ、退屈そのものっちゅうゲーム展開になるのも当然だね。

 とはいっても私は、そのゲームが(特にレイソルにとって!)ギリギリの勝負が掛かった緊迫マッチということで、両チームが内包する「心理バックボーン」と、両チームのゲーム戦術的な意図も含めて、面白く観察していたけれど・・ネ。いや・・ホントだよ・・決してアクビなんか出たりしなかったよ・・ホントだよ・・あははっ・・

 でも後半は、立ち上がり2分に、セレッソの上本大海が先制ゴールを叩き込んだこともあって、(田中順也の交代も含め)どんどんと『ゲームのダイナミズム』が高揚していった。

 レイソルだけじゃなく、同点に追い付かれてからのセレッソも、より積極的にリスクへチャレンジするようにゲームフローが変容していったのです。そこからは、どちらに勝負が転んでもおかしくないというエキサイティングな勝負マッチになっていきました。

 そんな積極的な仕掛け合いになったら、やはり地力で一日の長があるレイソルがイニシアチブを握るのは自然な流れだよね。ということで、ゲームが活性化してからのチャンスの量と質という視点では、明らかにレイソルに軍配が上がることも確かな事実でした。

 一言だけ、後半から交代出場した水野晃樹について。とても不満・・彼の才能レベルからしたら、あんな程度の勝負プレーじゃ、誰も納得しない・・

 後半10分あたりに、右サイドバックとして登場した水野晃樹。わたしは、彼に、爆発的な「上下動」を期待しました。当然だよね。彼が秘めるチカラは十分に分かっているのだし、その才能プレーに舌鼓を打ちたいと期待するのは当然でしょ。でも・・

 たしかに、数本はあったよね、彼の才能を感じさせてくれるリスクチャレンジ勝負プレーが・・。でも、ほんの数回だけ。どうして、もっと積極的に勝負所に絡んでいかなかったのか?

 ・・次のディフェンスなんて気にしちゃダメだ・・チャンスになったら、そんなモノ放り出し、全力でサポートに押し上げて行かなきゃ(勝負のパスを呼び込む全力スプリントを敢行しなければ)ダメだ・・もし攻撃の途中でボールを奪われてカウンターを喰らいそうになったって、そのときは必死に戻ればいいじゃないか・・とにかく、彼に必要なことは、全ての勝負所に絡んでいくという積極的な(攻撃的な)意志なんだよ・・それが、まったくといっていいほど感じられなかった・・

 とても残念だったけれど、私は、そんな彼の、ちょっと受け身で消極的なプレーを観ていて、すぐに原口元気のことが脳裏に浮かんだ。そう、この二人は、もっと、もっと、意志を高揚させ、攻撃的なプレー姿勢を前面に押し出していかなきゃダメなんだよ。

 才能あるプレイヤーこそが、攻守にわたって、もっともっと闘う姿勢を前面に押し出していかなければならないんだ。それがモダンサッカーの絶対的トレンドなんだよ。世界の「上ずみの才能連中」にとって、それこそが、まさにサバイバル原則なんだ。フン・・

 ということで優勝争い。もう、大変なことになった。それでも私は、この試合でレイソルが勝たなくてよかったと思っているのですよ(2試合連続の大逆転ドラマだって手の届くところにあったけれどネ・・)。

 そうなった場合、レイソルにとっちゃ、(この試合の2時間後にキックオフされたアビスパ戦に勝利を収めたことで)実質的な残留を勝ち取ったレッズとの最終戦は、「引き分けでも・・」っちゅう試合になるわけで、それは、とても、とても危険なシチュエーションだからね。

 とにかく3チームともに「アウェー」を闘う。それも、絶対に勝たなければならないというリーグ最終戦。とても分かりやすいじゃありませんか。

 そこでは、多分、三者三様の「絶対に勝たなければならないゲーム運び」が観られるに違いない。

 ・・最初からガンガンに攻め倒してしまう・・ピンチを極力低減させるような安全・確実な展開から、セットプレーやカウンターから蜂の一刺しを喰らわせる・・(同じような意味合いだけれど・・)意図的に相手を来させて、一発ロングパスの必殺カウンターを見舞う・・等など・・さて〜〜・・

 ということでギリギリの勝負マッチだけれど、最後の最後に効いてくるのは・・やっぱり「勝者のメンタリティー」ということかな・・。

 もちろんその中には、リーグを制した経験がモノを言う・・という視点も含まれている。でも私は、やはり「新しいリーグ王者の名前」には、とても大きな価値が内包されていると確信しているし、これまでの闘い方(サッカー内容)も含めて、レイソルを支持しまっせ。

 ということで、今から、最終戦のレッズ対レイソルが楽しみで仕方ない。

 あっと、アビスパ対レッズの試合については、機会を改めてレポートするつもりです。ということで、今回はここまで・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。