湯浅健二の「J」ワンポイント


2014年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第27節(2014年10月5日、日曜日)

 

最高レベルのエキサイティングマッチ・・そして普通ではないグラウンドコンディションでの対応力・・(アントラーズvsガンバ、 2-3)(レッズvs徳島、 2-1)

 

レビュー
 
いや、ホントに、ものすごくハイレベルでエキサイティングな仕掛け合いマッチだった。心から、堪能した。

さすがに、現在の「J」において、最高クラスのチーム力(チーム戦術の高い浸透度と選手たちの強い自信など・・)を誇る両チームの激突だ。

とにかく、両チームともに、決して「受け」に回ることがない。

要は、チーム全体が「引いて」しまうような、受け身のプレー姿勢になることがほとんどなかった・・ということ。

そんな積極的なプレー姿勢は、両チームが、(ボールを失った後)できる限り「高い位置」でボールを奪い返そうとしていたことにも、如実に現れていた。

そう、相手にボールを奪われた次の瞬間からはじまる、攻撃的なプレッシングディフェンス。

そこで両チームが魅せつづけた、攻守の切り替えの素早さと「内容」が、本当に素晴らしかったんだよ。

もちろん・・

そんな、ショートカウンターをイメージした(!?)最前線からのディフェンスだけじゃなく、相手が(全体的に)攻め上がってくる状況(全体的に下がって守 備ブロックを組織するような状況)では、忠実&ダイナミックなチェイス&チェックと、周りのチームメイトたちによる「ボールがないところでの忠実な守備ア クション」が、とても効果的に連動しつづける。

とにかく、ゴール数でリーグトップを争う両チームだから、ともに、素晴らしい攻撃力(攻め上がっていく意志に支えられた最終勝負の仕掛けパワー)を魅せつづけるんだ。

そんな、彼らの「仕掛け合い」は、ホントに見応え十分だったんだよ。

とはいっても・・

まあ、とても微妙なニュアンスだけれど、私は、攻守にわたって、(攻撃の中心ダヴィがいないにもかかわらず!!)アントラーズに、わずかに「一日の長」があると感じていた。

リスクチャレンジへの意志!? ホームアドヴァンテージ!? 最終勝負シーンにおいて、3人目、4人目のフリーランが出てくる程のチーム戦術の浸透度!? 攻守にわたる「サッカーの基本」を積極的&忠実に実行していく意志!?

なんか、うまく表現できないネ。

まあ、アントラーズの方が、チーム全体が、一人の例外もない一つのユニットとして、攻守にわたって「躍動」していた・・っちゅう表現が妥当かな。それが、この試合での彼らの2ゴールの「内容」に集約されていた!?

とにかくアントラーズには、攻守ハードワークをサボるような選手は、一人もいないわけだから・・。

その視点で、監督トニーニョ・セレーゾに(その優れた心理マネージメント能力に!)大拍手なのですよ。

あっと・・。もちろん、ガンバ監督の長谷川健太も、優れたプロコーチだよ。

でも私は、彼が、ある意味で「特殊」なチーム戦術を「機能」させなければならないという難しいミッションにも取り組まなければいけないと思っているわけだ。

そう、宇佐美貴史という天才。

ガンバの場合は、チームメイトたちが(宇佐美貴史がやらないことを大前提にした!)攻守ハードワークを積み重ねることで、より効果的に宇佐美貴史の才能を「活かしていこう」という、暗黙の了解がチーム内にあると思う。

その「暗黙の了解」を、効果的に心理マネージしているのが、監督の長谷川健太というわけだ。

中盤での組み立て「にも」手を出しはじめた宇佐美貴史だけれど・・

攻守ハードワークという視点じゃ、チーム貢献度でマイナス点っちゅう感じ。

まあ、中盤での「つなぎ展開」では良いところをみせていたけれど、彼の才能が、もっとも実効あるカタチで光り輝くのは、何といっても、決定的なチャンスメイクだからね。

その視点で、この試合の宇佐美貴史は、まったくといっていいほど「消えていた」んだよ。それが・・

そう、同点ゴール場面(後半26分)でのドリブル突破&(パトリックへの!)ラストクロス。

左サイドのペナルティーエリア角ゾーンでボールを持った宇佐美貴史。

立ちはだかるのは、アギーレジャパンでも頭角を現し、この試合でも抜群のセンスでチームの重心になっていた柴崎岳。

宇佐美貴史は、その柴崎岳を、いとも簡単に抜き去ってしまうんだよ。

立ちはだかる柴崎額のステップを正確に「読んで」、(両足が同時に地面に着いた瞬間を狙って!?)スパッとボールをタテへ運んでいった。

そのスピードには目を見張らされた。まさに、天才的なドリブル勝負だった。

そこで宇佐美貴史が魅せた、相手を抜き去るドリブルの「リズム」。特筆だった。

このテーマについては、当HPでの新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照して下さい。

ちょっと冗長になりはじめた。

とにかく、後半ロスタイムに入ってからアントラーズ作り出した絶対的なヘディングシュートチャンスや、その後に唐突にブチかまされたリンスの決勝ゴール等など、手に汗握らせる素晴らしいエキサイティングマッチだった。乾杯っ!!

そして私は、そんなエキサイティングマッチに舌鼓を打ちながらも、宇佐美貴史という「大天才」が、本当の意味で「ブレイクスルー」することを願って止まなかったのでした。

ということで、レッズ対徳島ヴォルティス・・。

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ヨ〜〜シッ!!!

レッズの勝ち越しゴールが決まったとき、思わず声が出た。

とにかく、「このグラウンドコンディション」だから、(ロジカルな!?)組織コンビネーションからのチャンスメイクは、とても難しいからね。

ということで、レッズが挙げた二つのゴールは、両方ともセットプレーからだった。

まあ、言わずもがなだけれど、柏木陽介がブチかました、フリーキックからのスーパー同点ゴールには、心からの拍手をおくっていた筆者でした。

そして、冒頭の勝ち越しゴール。

このゴールシーンでは、自分の背後スペースへ走り込んだ那須大亮へ、胸で「フリック(ダイレクト)パス」を送り込んだ李忠成に拍手するしかない。

まあ、那須大亮から(背後から!?)声が掛かったのかもしれないけれど、とにかく、「そこ」にボールを送り込んだ李忠成には、「0.5点」以上を差し上げなきゃいけない。

あっと・・試合。

そこでは、何といっても、瞬間的な「状況変化」への対応力と、ピッチ状況を、しっかりとイメージして効果的にプレーできる創造力(インテリジェンス)が問われた。

ボールが「水溜まりで止まってしまう」という状況変化に対して、いかに素早く状況を把握し、考え、そして行動を起こせるか・・という対応力(想像力と意志力)。

そして、グラウンドの「どのゾーン」に水が溜まり、どのゾーンで「普通にボールが走るのか」という状況把握に対するイメージング力(≒インテリジェンスベースの創造力!?)。

例えば柏木陽介。

ボールが止まることを(逆にスムーズに転がることを!)イメージしてパスを出したり、状況変化を素早くイメージしてセカンドボール奪取のために効果的な「寄せ」を魅せつづけたり。

もちろん、ボールが走るゾーンでは、普通のコンビネーションをリードする。

ホントに、アタマが良いネ、柏木陽介。

もちろん私も、彼が(イビツァ・オシム以来!)日本代表に選ばれていないことに、チト違和感は感じている。

たしかに彼の場合は、絶対的なフィジカル能力(スピードとパワー!?)で、「世界と闘えるのか!?」という疑問符がつきまとう。

でも私は、彼が、様々な意味で、自分のディス・アドバンテージ(劣っている部分)を、クレバーな戦術プレーで克服しつつある・・と思っている。

要は、ボールを奪い返すという守備の目的と、シュートを打つためにスペースを活用するという攻撃の目的を、フィジカル的に劣っているからこそ、戦術的にとても巧妙なプレーを駆使して達成していると思うのです。

次の「勝負所シーン」を、素早く、そして正確にアタマに描写できる・・とかね。

だから、豊富な運動量を絶対的なベースに、タイミングよい「爆発スタート&フルスプリント」を駆使して、誰よりも「早く」、その勝負所シーンに、絡んでいける。

もちろん、相手が「世界」だったら、同じ条件で競り合ってもノーチャンスだよね。

でも、クレバーな(ボール無しの!)動きを駆使して相手の視野から「消え」、そして、勝負所に先回りして(!?)、スッと顔を出す・・っちゅうわけだ。

柏木陽介は、そんな、クレバーで効果的な「戦術プレー」を、不断の努力で身につけつつある(自分のモノにしつつある!?)と思う。

「・・しつつある・・」とは、失礼な表現かもしれない。

「いま」の彼の全体パフォーマンスからすれば、「既に完成の域にある・・」と評価するのがフェアかもしれないね。

あっと・・

普通ではないグラウンド条件でのサッカーというテーマだった・・。

もちろん、柏木陽介だけじゃなく、選手全員が、とてもハイレベルな「対応力と想像力」を発揮したと思う。

そのチカラを支えているのが(闘う!)意志。

そして、その意志力を鍛え、高みで安定させているのが、ストロングハンド、ミハイロ・ペトロヴィッチというわけだ。

とにかく、この試合では、普通ではないグラウンドコンディションでの対応力(発想の柔軟性)が試されたというのが、もっとも興味深いテーマだったですかね。

そしてそこには、増幅しつづけるレッズの勝者メンタリティーというテーマも内包されていた。

冒頭コラムで登場したアントラーズやガンバ、そしてフロンターレというライバル。これからも、タイトルをめぐる「四つ巴」の激闘がつづくでしょ。

そんなリーグ終盤の紆余曲折へ向けて、レッズの勝者メンタリティーが、充実していく。いいネ・・

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ところで、ブラジルW杯に、後藤健生さんと「スカイプ」を介して繰り返したディスカッションをまとめた、ライブ感あふれる「ナマ対談本」が出来上がりました。

その新刊については、「こちら」をご参照ください。ではまた・・

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 最後に「告知」です。

 実は、ソフトバンクではじめた「連載」だけれど、事情があって、半年で休止ということになってしまったんですよ。

 でも、久しぶりの「ちゃんとした連載」だったから、とてもリキを入れて書いていた。そして、そのプロセスを、とても楽しんでいた。自分の学習機会としても、とても有意義だったしね。

 そして思ったんですよ、この「モティベーション機会」を失ってしまうのは、とても残念だな〜・・ってね。

 だから、どこかで連載をはじようかな・・と、可能性を探りはじめた。そこでは、いくつか良さそうなハナシもあったし、メルマガでもいいかな・・なんてコトも考えた。

 でも・・サ、やっぱり、書くからには、できるかぎり多くの方々に読んでもらいたいわけですよ。でも、可能性がありそうな(メルマガも含めた)連載プラットフォームとしては、やはり私のホームページにかなうモノはなかった。

 ということで、どうなるか分からないけれど、とにかく、私のホームページで、新規に、連載をはじめることにしたのです。

 一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

 そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

 とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書こうかな。もし、うまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れてから立ち上げた新ビジネス」、そして「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

 ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、一週間ごとにアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

 もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

 まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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