湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2014年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第29節(2014年10月22日、水曜日)
- リーグ終盤の「紆余曲折」が楽しみだ・・(レッズvsヴァンフォーレ、 0-0)
- レビュー
-
- そのとき、息を呑み込み、フリーズした。
後半のロスタイム。
レッズ守備の誰も追いつけない程のスーパースプリンター、クリスティアーノが、一発カウンターから、那須大亮をブッちぎってフリーシュートをブチかましたんだよ。
レッズファンの誰もがフリーズするのも当然だった。
そのとき私は、瞬間的に、ブラジルW杯ファイナルの後半立ち上がりに、スッと抜け出したメッシにスルーパスが通り、彼が、まったくフリーで左足シュートを放ったシーンを思い出した。
そう、誰もが、「コトが起きる」のを覚悟した瞬間。でも・・
そう、このメッシのシュートも、前述のクリスティアーノ同様に、ゴールを外れていったんだ。
とはいっても、この、「同じように」見える二つの現象の背景に潜むコノテーション(言外に含蓄される意味)は、チト違う。
ヴァンフォーレ甲府を担当しているエキスパートジャーナリストの方が言っていた。あっと・・、城福浩監督も、異口同音ニュアンスの内容をコメントしていたっけ。
そう、今シーズンのクリスティアーノが、チャンスを順当に決めていれば、チームは、こんなポジションにはいない・・。
フムフム・・
それに対してメッシ。
あのシュート状況は、まさに、彼の十八番だったんだよ。誰も、彼がシュートミスをするなんて思ってもみなかった。そんなメッシが、シュートを外した。
ということで、この二つの絶対的シュートシーンが内包する意味合いは(そのシーンが外部に放散する期待コンテンツは!!)まったく違ったっちゅうことだね。
メッシの場合は、完璧なゴール「だけ」がイメージされていた。それに対してクリスティアーノの場合は、チーム全体が不安に包まれた・・っちゅうわけだ。
フ〜ッ・・
とにかく私は、クリスティアーノの絶対的チャンスが内包する「何か」を感じていたんだ。
だから、城福浩監督とミハイロに、同じ質問を投げた。
城福さんには、「レベルを超えた勝負師、城福浩がイメージしつづけ、待ちつづけた瞬間が訪れた・・それは至福の瞬間だったはずだが・・?」ってね。
そしたら、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれたっけネ。曰く・・
・・クリスティアーノは、ゲーム展開の勝負所で、あのように使うつもりだった・・そしてイメージ通りのチャンスを作り出せた・・でも、オレの仕事はチャンスを作り出すのをお膳立てするところまでなんだよ・・そして、そのチャンスを決めるのが彼の仕事っちゅうわけだ・・
まあ、彼が言わんとすることはよく分かった。
そりゃ、あんなビッグチャンスを外すんだから、アタマにも来るだろうし、クリスティアーノが抱える根深い課題にも取り組まなきゃいけないわけだからね・・。
とにかく・・
めくるめく歓喜と、奈落の失望が、限界まで交錯しつづけるサッカーの面目躍如ってなシーンではあった。
余談だけれど・・
まだ奥寺康彦が在籍していた当時のヴェルダー・ブレーメンでのこと。監督は、「あの」オットー・レーハーゲル。
そのブレーメンが、ブンデスリーガ最終節マッチの後半ロスタイムにPKを獲得した。
別の会場では、ブレーメンと優勝を争っている「あの」バイエルン・ミュンヘンが、すでに大差で勝利を確実なものにしていた。
ブレーメンは、そのPKを確実に決めなければならなかった。ブレーメンは、「そのPK」さえ決めて勝利すれば、完璧なリーグ優勝をかざれるのだった。
私は、テレビの前で手に汗握っていたのだが、奥寺康彦の表情を確認しようとしていた次の瞬間、蹴られたPKが、右ポストを直撃し、無情にも跳ね返ってゴールラインを割っていったのである。
私も含め、ブレーメンファンの誰もが声を失った。そして、その瞬間、バイエルン・ミュンヘンのリーグ逆転優勝が決まった。
それが、奥寺康彦の、ブンデスリーガでの最後のゲームだったにもかかわらず・・。
―――――-
あっと、ちょっとハナシが錯綜した。
サッカーが、瞬間的に「天国と地獄」を行き交う究極の(心理)ドラマだということが言いたかった。
ここで、ちょっとハナシを展開し、一つのゲームの中で、何度も訪れる「真実のドラマの瞬間」というテーマにも入っていこうかな。要は、(ゲームの)雌雄を決する瞬間のことでっせ。
ミハイロが常に言っているように、どんなゲームでも、冒頭のような(!?)、ゲームの勝敗を左右する「真実の瞬間」が一度は訪れるモノだ・・ということです。
今シーズンのレッズは、そんな「真実の瞬間」を、意識と意志が何倍にも高揚しつづけている(≒勝者メンタリティーが大きく増幅している!?)選手たちがブ
チかますギリギリの(半歩先に足が出る!?)カバーリングとか、西川周作の、神がかり的なセービング等で、しのいできた。
もちろん、しのぎ切れなかったシーンもあったけれど、1年間を通じたリーグ戦では、そんな真実の瞬間の集積が、人々を、クライマックス(リーグ終盤)へと誘(いざな)っていくんだよ。
チームやクラブ、ファン、ジャーナリストといった全てのステークホルダーがネ・・。
1年間を通して、真実の瞬間を積み重ねた「紆余曲折」がクライマックスを迎えるシーズンの大詰め。それは、1年間を通したリーグだからこそのエキサイトメントなんだと思う。
そんな、年間を通したリーグ戦が、来シーズンからカタチを変えてしまう・・
このテーマについては、当サイトで新規にスタートした連載、「The Core Column」で発表した、怒りを込めて書いた「このコラム」を参照してください。
―――――――-
あっ・・、ホントに、ハナシが明後日の方向へいってしまった。スミマセン・・
ということで、試合。
皆さんも観られた通り、また、ヴァンフォーレ甲府の城福浩監督もコメントしていたように、ヴァンフォーレ甲府は、最高の闘う意志をもって、立派に、そして見事に、彼らの「ゲーム戦術サッカー」をやり遂げました。
攻守にわたるボールがないところでの「意志のプレー」の素晴らしい内容も含め、本当に立派だったと思う。
だからこそ、クリスティアーノが、「あの」カウンターチャンスを決めていれば、ヴァンフォーレ甲府にとっての完璧なドラマとして完結していたというわけです。
とにかく、そんな「ドラマの完結」を強烈にイメージした、抜群の忍耐(戦術)サッカーに対しても、心からの拍手をおくっていた筆者だったのです。
そしてレッズ。
そんな、極限の「闘う意志」をブチかましてくるヴァンフォーレに対し、「後半」は、とても、とても立派なサッカー(勝者メンタリティー)を魅せつづけたと思う。
もちろん、フリーキックや槙野智章のミドルシュートなど、素晴らしいチャンスも作りだした。
だから、もしレッズが勝利を収めていれば、まさに順当・・という形容が相応しいと思う。
でも、まあ、こんなこと(ツキに恵まれないゲーム)は日常茶飯事だし、1年間を通じて、「それ」も積み重ねていくなかで、本物のチャンピオンが、誰もが納得するカタチ決まっていくというわけだ。
だからこそ、確実に歴史が刻み込まれるし、「伝統」という無形資産も積み重ねられる。
でも、これまで10年以上も積み重ねてきた、その伝統が・・フ〜〜ッ・・
あっと・・またまた、愚痴が出た。
―――――――――
ところでこの試合での関口訓充。素晴らしかったね。
私は、今日の彼のプレーについて、「あの」最初の、勇気あふれるドリブル勝負が決まったからこそ、次、その次のリスクチャレンジ(ドリブル勝負)も、どんどんと、それも実効あるカタチで繰り出していけた・・と思っている。
・・そうそう・・ベガルタ時代の関口訓充は、こうだった・・やっぱり、単に、歌を忘れたカナリヤという(心理的な)ワナにはまっていただけだった!?・・
サッカーは、究極の心理ゲームなんだよ。だから、何度も失敗を繰り返すなかで、自信と確信を充実させていかなければならないんだ。
でも逆に、失敗を怖がるようだと、確実に「歌を忘れたカナリヤ・・」というワナにはまってしまう。
そうなんだよ・・ホントだよ・・サッカーは、決して「数字の羅列」なんかで語れるモノじゃないんだ。
とにかく、この試合じゃ、彼がボールをもつたびに、スタンドから、期待を込めた歓声が上がり続けたじゃないか。
ガンバレ〜、関口訓充〜!!!
―――――――
最後に、出来が良くなかった前半のレッズについて・・。
そこで展開された寸詰まりのサッカー。私は、「どうしてもっと、アバウトな放り込みを使わないんだ〜っ!!」・・って心のなかで叫んでいた。
ボールがないところでの動きが出てこないだけじゃなく、後方でボールをキープするチームメイトたちも、まったくといっていいほど、仕掛けのタテパス(リスクチャレンジパス)を出そうとしない。
だから、ヴァンフォーレ甲府のディフェンスも、自分たちの「眼前」で繰り広げられる「矮小な人とボールの動き」に対応するだけでよかった。
それじゃ、もちろんヴァンフォーレ守備のウラスペースなど、攻略できるはずがない。
だからこそ、仕掛けの変化としての、アバウトな放り込みタテパスやサイドチェンジにもトライすべきだったんだよ。
まあ、一度だけ、前半16分あたりだったけれど、左サイドでボールを動かすことでヴァンフォーレ守備を引きつけ、そこから素早く、右へサイドチェンジしたシーンがあった。
そこでは、最後にボールをもらった森脇良太が、中へ切れ込んでシュートまで行ったっけね。
またアバウトなロングパスだけれど、本当にやっと、前半の43分に出た。そう、柏木陽介からの(もちろん意図が込められていたんだろうけれど!)ロビングのタテパスが送り出されたんだ。
そこから、(確か、李忠成だったと思うけれど・・)ヘディングで競り合い、そのこぼれ球が、うまくつながってチャンスになった。
そりゃ、そうだ。
ロングパスが放り込まれたんだから、相手ディフェンスだって、カバーリングも含めて、ポジショニングが、ちょっと「散り」気味になってスペースが出来るよね。
だからこそ、レッズ選手たちの人とボールの動きも活性化する・・っちゅうわけだ。
――――――――
さて、これから終盤を迎えるリーグ展開。
今節では、ガンバが負けた。また、アントラーズも引き分けた。その結果、レッズは、2位との差を「5」にまで広げられた。
でも、残りのスケジュールでは、アントラーズやマリノス、ガンバ、鳥栖、グランパスといった、まさに、1年間を通したライバルたちとの直接対決がまっている。
これから盛り上がっていく、リーグ終盤へ向けての「紆余曲折」。そこで、これまで深化・進化させてきたレッズの勝者メンタリティーが、どのようなカタチで存在感を発揮するか。
自分自身の学習機会としても、いまから、楽しみで仕方ありませんよ。
ところで、頸椎ヘルニア由来の神経痛。
この10日間で、まさに劇的に改善しました。だから、多分この週末は、単車で鹿島まで駆けつけられると思う。
とにかく、お互い、これからの「紆余曲折」を、心から楽しもうじゃありませんか。
-
===============
ところで、先日、高円寺のパンディットという「トークライブハウス」で、下記の「ナマ対談本」に絡めて、後藤健生さんと対談をやったんですよ。
アナウンス(事前の告知)が足りず、参加していただいた方は少なかったけれど、その対談全体が、「You Tube」にアップされましたので、お知らせします。
2時間近くも話しまくったのですが、その第一部が「こちら」で、その第2部が「あちら」です。
- また、下記の「ナマ対談本」についても二人で語っている部分があるのですが、編集部が、それを、このように「編集」したのだそうです。まあ、ということで「こちら」もご参照アレ。
-
============
ブラジルW杯に、後藤健生さんと「スカイプ」を介して繰り返したディスカッションをまとめた、ライブ感あふれる「ナマ対談本」が出来上がりました。
その新刊については、「こちら」をご参照ください。ではまた・・
==============
最後に「告知」です。
実は、ソフトバンクではじめた「連載」だけれど、事情があって、半年で休止ということになってしまったんですよ。
でも、久しぶりの「ちゃんとした連載」だったから、とてもリキを入れて書いていた。そして、そのプロセスを、とても楽しんでいた。自分の学習機会としても、とても有意義だったしね。
そして思ったんですよ、この「モティベーション機会」を失ってしまうのは、とても残念だな〜・・ってね。
だから、どこかで連載をはじようかな・・と、可能性を探りはじめた。そこでは、いくつか良さそうなハナシもあったし、メルマガでもいいかな・・なんてコトも考えた。
でも・・サ、やっぱり、書くからには、できるかぎり多くの方々に読んでもらいたいわけですよ。でも、可能性がありそうな(メルマガも含めた)連載プラットフォームとしては、やはり私のホームページにかなうモノはなかった。
ということで、どうなるか分からないけれど、とにかく、私のホームページで、新規に、連載をはじめることにしたのです。
一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」。
そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」。
とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書こうかな。もし、うまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れてから立ち上げた新ビジネス」、そして「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。
ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、一週間ごとにアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。
もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。
まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・
-
===============
重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
==============
ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
-
-
-
-