湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2016年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第30節(2016年9月25日、日曜日)
- この試合では、サンフレッチェも賞賛したいね・・また、後半ロスタイムに起きた迫真ドラマの内実!?・・(レッズvsサンフレッチェ、3-0)、(フロンターレvsマリノス、3-2)
- レビュー
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- もちろんレッズのサッカーは、攻守にわたって、相変わらず「高質」だったよ。
また、球際でのギリギリの競り合いとか、攻守両面での「ボールがないところの動きの量と質」などなどのコノテーション(言外に含蓄される意味)に明確に現れてくる「勝者メンタリティーの内実」も、高いレベルにあったと思う。
それでも、サンフレッチェがブチかましつづけた「危険な仕掛け」については、素直に、評価しなきゃいけない・・と思うわけさ。
試合後の記者会見で森保一さんも言っていたように、たしかにサンフレッチェは、私がイメージする「ナイスプレー」を、粘り強く最後まで展開したと思うんだよ。
この、「強いサンフレッチェ・・」というテーマについては、新連載「The Core Column」において、2015年8月に、コラムを発表したことがあった。
そのコラムだけれど、もう、しつこいほど主張している、ボールを止めない「ダイレクトパスやダイレクトシュート」という特別なグラウンド上の現象について(ダイレクトという表現について!)論を展開した「このコラム」の冒頭で、「強いサンフレッチェ・コラム」への「リンクボタン」を付けておきましたので、そちらもご参照ください。
ということで、互いに素晴らしいプレーを展開したレッズ対サンフレッチェ。
この試合も、ゲームの流れに沿ってテーマを抽出しましょうかね。
まず、前半立ち上がりの15分あたりまで。
そこでは、皆さんも観られた通り、レッズが、完璧にサンフレッチェを凌駕した。
とはいってもレッズは、決定的スペースをめぐる「せめぎ合い」を、うまく繰り出していけなかったことで、決定的チャンスまでは至れない。
でも・・
そう、前半14分。
レッズの興梠慎三が、那須大亮からの超ロングボールを、上手くアタマで落とし、それを拾った駒井善成が、得意のドリブルで抜け出したんだよ。
誰もが、「アッ・・チャンスだ!!」と身体を硬くした瞬間。
そして、まったくフリーでペナルティーエリア右ゾーンに入り込んだ駒井善成は、間髪を入れず、同じペナルティーエリアの逆サイドで全くフリーになっていた高木俊幸へ、決定的な、グラウンダークロス(まあ・・正確な横パス!?)を送り込んだんだ。
もちろん高木俊幸は、そのまま右足一閃(ダイレクトシュート)!!!
それは、完璧にサンフレッチェ守備を崩して創りだした決定的なダイレクトシュートシーンだった。
でも・・
そう、最後の瞬間、サンフレッチェの塩谷司が、スッと、シュートコースへ入ったんだよ。そして高木俊幸のシュートを足に当てて弾き出したんだ。
たしかに事なきを得たわけだけれど、でもその瞬間、サンフレッチェ選手たちの目の前は、真っ暗になっていたはず。
何せ、完璧にディフェンスブロックが崩され、そして最後は、決定的なフリーシュートまで打たれちゃったんだからネ。
それは、まさに、「やられちゃった!!」っちゅう、ショッキングシーンだったんだよ。
でも、歴戦の勇者たち(サンフレッチェのことだよ!)は、そんなネガティブ体感を、逆に、次の闘いの刺激エネルギーとして活用しちゃうんだ。
そう、その「ネガティブ体感」という刺激によって、徐々に、サンフレッチェの攻撃をサポートする勢いが増していったんだよ。
冒頭の「強いサンフレッチェ・コラム」でも書いたように、決して彼らは、リトリートして(全体的に下がって)受け身のディフェンスを展開し、そこから(単発の!)カウンターを繰り出していく・・なんていうチームじゃない。
彼らは、「あうんの呼吸のカバーリング」を大前提に、とても効率的に(全体的な運動量は、かなり少ない!)、相手のボールを「追い込んで」いくんだ。
そして高い位置でボールを奪い返した次の瞬間には、少なくとも3人は、(ショート!?)カウンターの流れに、全力で乗っているっちゅうわけサ。
ピーター・ウタカがブチかます、パワフルでスピーディーなタテへの突破力(突進力)とキープ力やシュート力。
もちろん、そんな「最前線のコア」を中心に、その周りを、茶島雄介、柴崎晃誠、ミキッチ、柏好文といった「衛星サポートプレイヤー」たちが、組織プレーやドリブル勝負も含めて、しっかりとフォローしつづける。
もちろんその後方には、ゲームの流れをコントロールする青山敏弘が控えている。
前述した、前半14分の「冷や汗ピンチシーン」をキッカケに(!?)攻撃のペースをアップさせたサンフレッチェ。
一体彼らは、何度、決定的なチャンスを創りだしたんだろうか。
そこで目立っていた、「レッズがやられちゃったシーン」のメインアクターは、何といっても関根貴大だったね。
少なくとも3回は、ミキッチに、完璧に「視線のウラ」を取られて決定的スペースへ走り込まれてしまった。もちろん、PKを取られたシーンも含めてネ。
あの、ピーター・ウタカのPKが決まっていたら・・。ちょっと身震いが・・。
でも逆に、関根貴大にとっては、願ってもない「貴重な学習機会」でもあったわけさ。
関根貴大は、この、「視線のウラを取られたマーキングのミスシーン」については、もうハードディスクがすり切れるくらい何度も、ビデオを見返しましょうね。
自分の失敗は、観たくないでしょ。オレもそうだった。でも・・
そう、人は、失敗から「しか」、実効ある「学びの機会」を得ることはできないんだよ。
それ以外でも、(関根貴大ではないけれど・・)ピーター・ウタカに走り抜けられてスルーパスを決められちゃったり、茶島雄介にドリブルで抜け出されちゃったり・・等など。
まあ、このゲームには、ビデオを活用した「イメージトレーニング素材」は満載っちゅうことだね。
最後に・・
繰り返しになるけれど、レッズが展開したサッカーは、いつものように「高質」な組織サッカーだったんだよ。
それでも、(森保一さんが言っていたように!)トレーニングを積んできた、対レッズの守備イメージもまた、とても効果的に「機能していた」という事実は、しっかりと認識しなきゃいけない。
これからは、そんな、「レッズの強みを消しにくる」相手と対峙しなきゃいけないわけだから。
だからこその、「仕掛けの変化」っちゅうわけだ。
ダイレクトパス・コンビネーションで決定的スペースを突いていくだけじゃなく・・
・・ロング&ミドルシュート・・ズラタンや興梠慎三のアタマを使った(アバウトな!?)放り込みと、そこでのこぼれ球チャンス・・前節のFC東京戦で抜群の威力を発揮した、クロス攻撃(アッ、これは通常兵器か!?・・へへっ)などなど・・。
さて、シーズンが押し詰まったこれからにおいてこそ、レッズの勝者メンタリティーの本質(コノテーション=言外に含蓄される意味)が問われてくる。
期待しましょう。
あっと・・ちょっと蛇足かもしれないけれど、西川周作についても一言だけ。
彼が、たまに、(ドイツ代表のマヌエル・ノイヤーを彷彿させる!?)最後方フィールドプレイヤーのようにプレーすることについては、まったく異論はないよ。
でも・・
そう、たまに、(自信過剰で!?)やり過ぎになってしまうことがある。
このゲームでは、特に「それ」が目立っていた。
でも逆に、彼のギリギリのファインセーブも、目立ちに目立っていた。
このゲームでの西川周作は、自分が主役になった「ネガ&ポジ興奮ドラマ」を演出しようとしていたのか!?
まあ、それは冗談として・・
彼のロングフィードの有効性については高く評価するけれど、それでも、「あっ、難しいかも・・」って感じられたら、なるべく早い段階で、単純なクリアに「逃げる勇気」も必要だぜ。
ホントだよ・・
老婆心だけれど、ちょっとこの頃、ボールをもった西川周作の「マインド」が、チト過信に振れる傾向が強いと感じられるシーンが増えたようにも思うわけさ。
まあ、老婆心だけれど・・そう、老婆心・・
へへっ・・
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さて次は、後半ロスタイムに入ってから迫真のドラマがスタートした、フロンターレ対マリノスの一戦。
でも・・
そう、ホントに、その本物ドラマまでのゲーム展開は退屈だったんだよ。
大久保嘉人、エドゥアルド・ネット(この2人は出場停止)、そしてGKチョン・ソンリョン(ケガ)がいないフロンターレ。
それでも全体的なゲームの流れは、彼らが握っている。
もちろん、狩野健太のヘディング先制ゴールを追いかけるマリノスは、後半になって、より積極的に前へ仕掛けはじめはしたけれど・・サ。
そこで示そうとした(はずの!?)マリノスの積極性だけれど・・
私の眼には、マリノス選手たちが、次の守備でのバランス「ばかり」をイメージしている・・って映っていたんだ。
要は、タテのポジションチェンジや、前にチャンススペースがあったときに、自分の基本ポジションやマーク相手を放り出してでもフリーランニングで抜け出していく(ボールがないところでの勝負プレー!)っていう積極的な仕掛けマインドが十分じゃない・・っていう印象。
どうなんだろうね・・
私は、サッカーは、(攻守やポジショニングなど様々な意味合いを内包する!)つかみ所のないバランスというグラウンド上の現象を、自ら崩していくことで初めて、美しく魅力的なサッカーで結果も残せるまでにレベルがアップすると思っているんですよ。
だから、相手にボールを奪われて守備に入ったときに、崩れたバランスを、「いかに素早く、そして効果的に整えられるのか・・」というテーマに、自ら考えながら取り組んでいく姿勢こそが、「本物のバランス感覚」だと言いつづけているわけです。
そのバランス感覚には、もちろん、素早い攻守の切り替えや、フルスプリントでのチェイス&チェック等などに代表される「守備ハードワークへの積極姿勢」も含まれる。
でも指揮官が、選手たちのフィジカルと意志のレベルが、そんな創造性ハードワークに耐えられない・・と考えたら、そりゃ、リスクへのチャレンジを抑制する方向の心理マネージメントになるよな。
でも、そこには・・
指揮官の「言葉」が、少しでも、「セキュリティー寄り」になったら、選手たちのマインドは、その何倍も、石橋を叩いて渡るってな「安全志向」へ引っ張られ、リスクチャレンジへの姿勢が大きく減退してしまうという現実があるんだよ。
それほど、指揮官の姿勢(言葉)には、重要な意味が込められている。
もちろん、マリノスのモンバエルツ監督が、「リスクチャレンジのないところに進化・進歩もない・・」という絶対的な真理を理解していないはずがない。
何せ、イレギュラーするボールを足で扱うことで、不確実な要素が満載のサッカーだからネ。
もしかしたら、この試合でのマリノスは、選手たちの「物理的・心理的」ファクターが、うまく噛み合っていなかったということかもしれなかったけれど・・。
それでも、終盤になって、前田直輝や天野純がグラウンドに登場してからは、マリノスの仕掛けの内実が風雲急を告げはじめたんだ。
そう、中盤からの積極的なドリブル(前後スペースをつなぐ仕掛けドリブル)や、前後(タテ)のポジションチェンジ(タテの決定的スペースへの、味方を追い抜くフリーラン)といったリスキーなチャレンジプレーが増えていったんだ。
モンバエルツ監督も、「それ」を期待しての選手交代だったんだろうね。
たぶん彼は、一つのゲームの流れなかでの「忍耐」と「勝負所」を、とても強くイメージした采配を志向しているということなんだろうね。
まあたしかに、2点をリードされた状況だったから、何らかの「変化」をブチかまさざるを得なかったという背景はあったにしても、その采配が、「あの」後半ロスタイムでの、レベルを超越した迫真ドラマを生み出したという見立ては、あながち「外しては」いないと思うよ。
でも・・
そう、「やらざるを得ない・・」という状況に追い込まれるまで、積極的にリスクチャレンジを仕掛けていかなかったという印象は残るよね。
試合を観ながら、そんな煮えきれない思いに苛まれていた筆者だったのであ〜る。
へへっ・・
あっと、フロンターレ。
前述したように、主力メンバーを欠いていたとはいえ、彼ら(風間八宏)が志向する「イメージ」のサッカーを、ある程度は展開できていた・・と思いますよ。
だから、風間八宏さんに質問した。
・・誰が出てきても、フロンターレのサッカーを展開できるというのがテーマでしょ?・・
それに対して風間八宏さんは、例によって軽快に、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれたっけ。曰く・・
・・我々の「動き」のリズムですが・・トレーニングでは、全員が、同じイメージをもって(自ら考えながら!)プレーするようにコーチしているんです・・
・・その意味で、(部分的に、いつもと違う先発メンバーで臨んだ!)先日の天皇杯マッチは、よい学習機会になった・・
・・わたしは、それぞれの選手がもつ「眼」という表現をします・・要は、何が見えているのかというテーマですよね・・
・・まあ、それぞれの選手たちのイメージング能力とその内容が、しっかりと周りとシンクロしていることが大事だというテーマですね・・
・・でも、(先発の!?)チームを固めて(過ぎて!?)しまうと、その「眼」が、だんだんと限定されてきてしまうようにも感じるんです・・それは、まあ、ネガティブ傾向の現象と言えますかネ・・
・・トレーニングでも、レギュラーメンバーとサブメンバーがゲームをやったら、それぞれに長短ある「別々の眼」が対峙していると感じることがあるんです・・
・・それらが、良い意味で融合していくのは、もちろんポジティブなことだと思っています・・
・・要は、リズムが変わってしまう(減退してしまう)かもしれないとネガティブに考えるのではなく・・選手それぞれのイメージを、いかにうまく「同質化」し、効果的にミックスしていくのかというテーマに取り組んでいるということですね・・
チト分かり難いけれど、要は、攻守の目的を達成するために(攻撃=スペース突いてシュートまで・・守備=相手からボールを奪い返すまでのイメージの有機的な連動性)、いかに選手たちのイメージング内容を、うまく連動させられるか・・というテーマのことだよね。
チームは、「方向性コンセプト」を共有できれば、もちろん、前述した、「誰が出てきても、フロンターレのサッカーができる・・」っちゅうレベルに高まっていくというわけさ。
とにかく、これからも風間八宏フロンターレに(その動向に!)注目していきますよ。
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- あっと・・
- 私が愛用しているウエストポーチやバックパックについて、何人かの方から質問されたこともあって、友人のデザイナーが主催するブランド、「METAS」のプロモートをさせてもらうことにしました。
- この方は、有名メーカーのデザイナーから独立し、自らのブランドを立ち上げました。シンプルイズベスト・・スローライフ・・などなど、魅力的なキーワードを内包する「METAS」。
- とてもシンプル。でも、その機能性は、もう最高。お薦めしまっせ。
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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ、そしてチャンピオンシップ・・という「興行」について。
- 昨シーズンの「J」は、本当にツキに恵まれた。
- 何せ、年間最多勝ち点チームというリーグ頂点に立ったサンフレッチェが、「興行チャンピオン」にも輝いたわけだからね。でも、昨シーズンの二位クラブは、ガンバ大阪なんだってサ。要は、「興行チャンピオンシップ準優勝チーム」ということらしい。
- まあ、皆さんも感じられている通り、とても、変。まあ、協会側は、この不自然なリーグシステムを「まだ」つづけるつもりらしいけれど・・サ。フンッ。
皆さんもアグリーだと思うけれど、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。
まあ、以前の「2ステージ制」とは違い、昨シーズンから始まった「今回の興行」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになることだけが、救いかな。
ということで、その後のトーナメント(チャンピオンシップ)は、まさに「興行」。
そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる(刻み込まれなきゃいけない!)。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうわけだからね。
だから、サッカー人だけじゃなく、読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむべきだと思うわけなのですよ。
この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。
- そこでは、いかに(目的が歪んだ興行の!)2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。
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最後に「告知」です。
どうなるか分からないけれど、新規に、連載をはじめています。
一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」。
- そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」。
自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。
ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。
もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。
- まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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