湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2018年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第13節(2018年5月6日、日曜日)
- 前半と後半では、まったく「別ものゲーム」になったわけだけれど、その「豹変現象」は、両チームにとって、進化をうながす良い刺激になったコトでしょう・・(ベルマーレvsベガルタ、1-3)
- レビュー
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- ・・まあ、後半も、このままのサッカーで、3点、4点、5点、6点とゴールをブチ込まれて惨敗すれば、それは、それで、受け容れるしかない・・
・・それは、チカラのない証拠なんだから、オレは何も言わない・・
・・クラブにしても、そのことがはっきりすれば、次の戦略的なチーム作りのステップへ入っていけるわけだから、見方によっては、前向きの惨敗と言えるかもしれないナ・・
・・私は、ハーフタイムで、そう選手たちに語りかけたんですよ・・
・・何せ、前半のサッカーは、私がチームを受け持った7年のなかで、まさに最低の内容だったわけですからね・・
ベルマーレ、チョウ・キジェ監督の弁だ。
そんなチョウさんのハナシを聞きながら・・
・・何か・・いいね〜・・ホントに・・
・・彼の言動からは、秘めたる実力(優れたインテリジェンスとパーソナリティ!?)に裏打ちされた本物プロの雰囲気が、強烈に放散されているじゃネ〜か!・・
・・なんて思っていたっけ。
何せ・・
そう、後半のベルマーレは、まったく「別ものチーム」へと豹変したわけだからサ。
誰もが、チョウさんが、ハーフタイムに「どんな劇を飛ばしたのか・・」って、興味津々になるのも道理だったんだよ。
その前半にベルマーレが展開した「最低サッカー」だけれど・・
グラウンド上の現象としては、まず何といっても、まったくといっていいほど組織ディフェンスが「連動」していなかったというポイントを挙げなきゃいけない。
・・チェイスの寄せが甘い・・次のパスレシーバーに対するチェックも甘い・・等など・・
それじゃ、素晴らしい組織プレー(後述)を展開するベガルタが、自由自在に「自分たちのサッカー」をブチかませるのも道理じゃネ〜か。
それが・・
そう、後半開始のホイッスルが吹かれた、その立ち上がりから、ベルマーレのサッカーが、3段シフトアップしたと感じたんだ。
いや、シフトアップしたら、加速は弱くなるから、シフトダウンの方が、表現としてはいいかな!?
あっ・・蛇足・・
とにかく、ベルマーレのダイナミズム(闘う意志)が、数段アップしたことが言いたかったのさ。
その「数段アップ」を表すグラウンド上の現象は、前述したディフェンス内容が、格段によくなったっちゅうことだよね。
そう、ボールホルダー(次のパスレシーバー)への寄せの勢いが倍増し、その周りで連動しつづけるボールがないところでのマーキングも、格段に厳しくなったんだ。
もちろん、そんな流れだから、ボールをめぐる「デュエル」の内実も、ベルマーレが主導権を握るような展開になった。
そして、ベルマーレの攻撃に火が点いたっちゅうわけさ。
そう、全てのスタートラインは、守備にあり・・なんだ。
その内実によって、次の攻撃が決まる・・といっても過言じゃないんだよ。
とにかく後半のベルマーレは、攻守にわたって、イニシアチブを握りつづけたんだ。
そして「案の定」、レフェリーが、ベルマーレに「PK」を与えた。
ここで、「案の定・・」と書いたのには、背景がある。
このレフェリーは、前半に、ベルマーレ守備に対して二度も「PKの判定」をくだした。そのファールシーンが、両方とも、とても微妙だったにもかかわらず・・。
だから・・
ベガルタ渡邉晋監督も、「後半は、レフェリーが、ベルマーレにPKを与えるからナ・・って、選手たちには注意していたんですよ・・そして案の定・・」なんてジョークを飛ばしていた。
もちろん、その発言に、会見場は爆笑につつまれた。
いいネ〜〜、渡邉晋。余裕がある。あっと、彼については後述するんだった・・
ということで、「追いかけゴール」をブチ込んだベルマーレ。これで「1-2」だ。
彼らは、その後も、何度かの決定的チャンスを造りつづけた。
そんなベルマーレの「豹変ぶり」こそが、このゲームでの一番のテーマなんだろうネ。
ところで、その豹変のバックボーンは?
もちろん、不確実なサッカーが、本物の心理ゲームであるという事実だね。
あっと・・
チョウさんには、こんな質問も飛んでいたっけ。
・・チームに、疲労がたまっていたという視点はどうですか??・・
それに対してチョウさんは、間髪を入れずに、こんなニュアンスの内容をコメントした。曰く・・
・・疲れ??・・まったく、そんなことはない・・彼らは、スイッチが入れば、もっと走れるし、闘える・・そのことは、後半に証明された通りだ・・
いいね〜・・、チョウ・キジェ。
そうなんだよ。
たしかに「疲労」というファクターは、全てのコーチが考慮しなきゃいけない大事なフィジカル・マネージメント・ファクターではあるけれど、でも、限界は、以外と高いんだ。
だから優れたコーチは、選手たちが、自分の悪パフォーマンスの理由として「疲れ」なんていうファクターを挙げるのを許さない。
そう、多くの場合、それは単なる逃げの言い訳に過ぎないわけだから。
あっと・・またまた議論が、明後日の方向へ・・
とにかく、私は、チョウ・キジェの心理マネージメントの内実にも(自分の学習機会として!)注目しているということも言いたかったんだ。
そう、選手たちが、限りなく主体的に考え、工夫し、勇気をもってリスクにもチャレンジしていけるように進化している・・というポイント。
このポイントについては、先日の「レッズ戦コラム」をご参照ください。
ということで・・
後半のベルマーレは、自分たちが主体になって(要は、積極的、攻撃的に!?)実力以上の(!?)パフォーマンスを発揮する最高の「闘う意志」をブチかましつづけたっちゅうわけさ。
そのポイントに関する私の質問に、チョウさんは、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれたっけね。曰く・・
・・実は、わたし、後半はよくなると確信していたんですよ・・
・・でも、そんな改善プレーが、どうして前半から出てこなかったのか・・
・・そこが、大いに不満なんです・・
そう、チョウさんは、前半でも、選手たちが、主体的にサッカー内容を改善させられるかもしれないと期待していたらしいんだ。
でも、実際は・・
まあ、その事実も含め、この「主体性プレー」こそが、全てのコーチが志向すべき、心理マネージメントのターゲットだっちゅうコトも言いたかった筆者なのであ〜る。
へへ・・
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ということで、素晴らしい組織サッカーを展開しているベガルタ・・というテーマ。
この試合でも、「彼らのサッカー」が炸裂した。
前線では、たしかに石原直樹がワントップに入っているように映っていた。
でも実際は・・
そう、石原直樹、西村拓真、野津田岳人、中野嘉大、そして両サイドの蜂須賀孝治と関口訓充が、まさに縦横無尽にポジションを入れ替えながら(まあ両サイドバックは、自分たちのサイドが
主体だけれど・・)、抜群の人とボールの動きをベースに、どんどんとスペースを攻略していったんだよ。
ところで、前半のベルマーレの悪パフォーマンスだけれど・・
たしかに彼らは受け身で消極的だったけれど、「そうなった背景要因」として、抜群にダイナミックな、攻守ハードワーク満載の組織サッカーを展開したベガルタという点も挙げなきゃいけない。
まあ、不確実な要素が満載のサッカーは、究極の「相対性ボールゲーム」でもあるっちゅうことだよね。
そうそう・・
リーグを代表するストロングハンドの一人、ベガルタ渡邉晋監督だけれど・・。
彼が、後半について、こんな興味深いコトを言っていた。
曰く・・
・・後半になって押し込まれることは予想していたし、実際に、そんな展開になった・・
・・もちろん、名将と呼ばれる監督だったら、そこで守備的な選手を入れたり、配置を換えるとかで、ドッシリと構える(守備ブロックを堅牢にする!?)などの対策を打ってくるんでしょうが、私は、守りに入るようなコトはしたくなかった・・
・・そうなんですよ・・
・・押し込まれても、決して守りに入らないという覚悟があったんです・・
・・たしかにリスキーではあったけれど、最後の最後まで、我々のサッカーで闘いつづけ、そして勝ち切れたこの試合は、ものすごく重要な意味を内包していると思っています・・
・・とにかく後半は、守備で受けるのではなく、あくまでも、攻撃で受けたかったんですよ・・
いいね〜、渡邉晋。
たしかにベガルタは、押し込まれながらも、たまには、しっかりと押し返し、ベルマーレ守備ブロックを悩ませる時間帯を、何度も創りだしていたよね。
だからベルマーレも、前後の人数とポジショニングのバランスを、「エイヤッ!!」ってな感じで、フッ切って崩し切るところまでいけなかった!?
まあ、このポイントについては、議論の余地はあるけれど・・
とにかく私は、だからこそ、ベガルタにとって、ゲームを牛耳った前半ではなく、しっかりと「攻撃で受けられて」いた後半のサッカー内容こそが、とても価値のあるモノだと思っているのサ。
コラムが、チト長くなり過ぎているような・・
あ〜〜っ・・でも、エモーションが止まらない・・
とにかく、それほど、エキサイティングで、深い、深〜い学習機会を内包していた「ベルマーレ対ベガルタ戦」だったんだ。
その意味でも、両チームには、感謝しかない・・
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最後に「告知」です。
どうなるか分からないけれど、まだ、連載をつづけています。
一つは、選択したテーマを深める「The Core Column」。
- そして、もう一つが、私の自伝、「My Biography」。
自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。
ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・と思っている次第。
もちろん、トピックスのトップページに「タイトル」をレイアウトしましたので、そちらからも入っていけます。
- まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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