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2006_ワールドカップ日記・・久しぶりにエーリッヒ・ルーテメラーと旧交を温めました・・日本代表とドイツサッカーについて・・(2006年5月25日、木曜日)

「日本は素晴らしいスピードで発展をつづけていると思うよ・・(昨年ドイツで行われた)コンフェデのギリシャ戦やブラジル戦のようなサッカーを展開したら、この大会でも、世界が注目するような存在感を発揮できるはずだ・・」

 この日は、久しぶりにエーリッヒ・ルーテメラーと旧交を温めました。これまでに私のコラムに何度も登場しただけではなく、「The対談」の記事でも紹介したドイツサッカー協会の重鎮の一人。いまは、ドイツにおけるプロコーチ養成システムの総責任者だけではなく、ドイツのB代表監督も務めています。また今回のワールドカップでは、元ドイツ代表監督のベルティ・フォクツとともにスカウティングを担当することになっているとのこと。要は、全スタジアムで観察しているドイツサッカー協会のテクニカルスタッフが送ってくる戦術的な情報を分析・処理し、様々な活用を想定した、効果的なデータベースを作成するということです。

 もちろん彼自身も、ドイツ協会が本拠を構えるフランクフルト(ワールドカップスタジアムのすぐ裏手に協会の本拠がある)を拠点に動き回り、10数ゲームを観る予定とのこと。もしかしたら、この「戦術的な情報の分析&処理プロセス」を取材させてくれるかもしれない。ちょっと期待しておきましょう。

 ところで、冒頭で紹介した、日本代表に対するエーリッヒ・ルーテメラーの高い評価だけれど、これは(個人的に)おかしかった。何故かというと、(昨年のコンフェデレーションズカップでの)メキシコ戦の後に彼がくれた日本代表に対するコメントは、冒頭のニュアンスとはかけ離れた、かなり厳しいものだったからです。そのときのコメント骨子はこんな具合でした。「1対1での闘う姿勢が感じられないし、運動量も足りない・・テクニックは相手が上なんだから、もっと(攻守にわたって)仕掛けていかなければゲームを掌握されてしまう・・また高さに対する対策も不十分だったし、これじゃ・・」。

 そのことに言及しても、「たしかに、メキシコ戦での出来は良くなかったよな・・でもその後は、何かから吹っ切れたようにプレー姿勢が大きく高揚したと感じた・・両サイドバックがどんどんオーバーラップするような攻撃的なフォーバックにシフトしたしな・・攻守わたって、サッカーが本当に積極的になったよ・・とにかく組織プレーが素晴らしく機能した・・それこそ日本の専売特許だよな・・」と、涼しい顔で「正反対に近い評価」を語るのですよ。まあ、当たり前です。サッカーは、試合によって(相手や状況によって)大きくコンテンツが変わってくるからネ。

 ナンバーの記事でも、(最後は字数の関係でカットせざるを得なかったけれど)メキシコ戦で厳しい評価をしたエーリッヒ・ルーテメラーに、ギリシャ戦とブラジル戦を見せたかった・・と書いたものです。そのナンバーの記事については、「こちらのコラム」を参照してください。

 ところで、冒頭で出てきた、エーリッヒ・ルーテメラーとの「The 対談」記事の内容ですが、それは、ストリートサッカーの要素をクラブでのレギュラートレーニングにも導入すべき・・というものでした。才能は教えられるものじゃなく、生まれてくるのを待つしかない・・でも、そんな限られた才能たちをオーバートレーニングで潰してしまっては元も子もない・・だからこそ、選手たちが主体で楽しめるような環境作りが大事・・そのために、システムとして、ストリートサッカーの要素をクラブでのレギュラートレーニングに組み込む工夫が必要・・といった内容の対談だったわけです。

 ドイツでも、1990年の半ば頃から、テクニックというキーワードを中心にした育成方針が徹底されるようになってきました。そんな流れのなかで行った、エーリッヒとの「ストリートサッカー要素」に対するディベートだったわけです。そして、そんなドイツサッカー界の努力が、徐々に実を結び始めている・・。

 「そうなんだよ・・いまポルトガルで行われているU21のヨーロッパ選手権だけれど、今回のドイツ代表は、本当に良いチームになっているんだ・・ドイツ的な粘り強い組織プレーだけじゃなく、個人の才能も大きく開花しているしな・・1996年のヨーロッパ選手権をドイツが制したときの陰の立て役者だった(守備的ハーフとして素晴らしい汗かきパフォーマンスを発揮した)ディーター・アイルス監督は、本当に良い仕事をしている・・まあ最終的な成績がどうなるか分からないけれど、とにかくサッカーの内容だけは大きく進歩しているはずだ・・残念なのは、このチームからオドンコールとかポドルスキーとか、シュヴァインシュタイガーやハーンケ、ラームといった主力組がフル代表に取られちゃったことだよな・・それでもディーター(アイルス監督)は、ものすごく前向きなポジティブ指向でチームを引っ張っている・・」

 その言葉どおり、一昨日に行われた初戦では、ドイツは、強豪のセルビア・モンテネグロを「1-0」と破りました。そして今日は、予選リーグの二戦目。ドイツはフランスと対戦します。あっと・・あと一時間半後にキックオフだ・・でも、この試合は、聞くところによると、テレビの権利関係がネックになってドイツではテレビ観戦できないとのこと。ホントに残念だよね。どうも、サッカーの現場が経済によって浸食され過ぎているのかもしれない・・と感じているのは私だけではないはずです。とにかくドイツは、徐々に、「美しさと勝負強さが高い次元でバランスしたサッカー」という以前の栄光を取り戻しつつあるのかもしれません。そう・・1972年のヨーロッパチャンピオンに輝いた「ドリーム」ドイツ代表チームのようにネ・・。

 



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