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2008_ヨーロッパの日本人・・稲本潤一と長谷部誠・・(2008年5月5日、月曜日)

それにしてもビックリしたな、本当に・・。とにかく、前半のフランクフルトの守備姿勢が、いい加減そのものだったのですよ。数日前のブンデスリーガ、シュツットガルト対フランクフルト戦のことです。

 これじゃ、相手に何点叩き込まれても当然の帰結といったところ。実際、立てつづけに3ゴールを奪われただけではなく(前半の3分、6分、そして18分!)、それ以外にも数本、まさに決定的という大ピンチに陥ったからね。

 要は、前半のフランクフルトの守備には「起点プレー」がなかったということです。ボールホルダーに対するチェイス&チェックが甘く、次のパスレシーバーへのマーキングもいい加減。これじゃ、次のボール奪取勝負を仕掛けていく(狙うイメージを脳裏に描写するための)絶対的な基盤である「守備の起点」なんて、まったく出来やしない。要は、相手ボールホルダーのプレーを制限するようなプレッシャー(マーキング)がなかったということです。その「起点」が出来てはじめて、効果的な(組織的)ボール奪取勝負を仕掛けていけるのに・・。

 フランクフルトは、ポジショニングバランス・オリエンテッドな組織ディフェンス戦術を志向しているのでしょうか・・。それは、互いのポジショニングバランスを巧みにマネージすることで、相手の人とボールの動きを制限し、ボール奪取勝負を仕掛けていくポイントに狙いを定めるという発想ベースの守備のやり方です。

 とはいっても、それにしても、素早く忠実で効果的なチェイス&チェックを繰り返すことは絶対条件です。相手ボールホルダーがフリーでプレーできるんじゃ(とにかくボールホルダーや次のパスレシーバーに対するマーキングの間合いが考えられないほど空いてしまっている!)どんな守備戦術だって機能するはずがない。フ〜〜・・

 後半になって稲本潤一が登場し、しっかりとしたチェイス&チェックや味方との協力プレスを仕掛けていきます。「そう・・それだよ・・イナいいぞ・・ガンバレ・・」なんて声が出たものでした。でも、そんな後半の立ち上がり(ホイッスルが吹かれた2分後)には、シュツットガルトのカカウに、夢のようなロングシュートを決められてしまうのですよ。それは、稲本が、カカウにボールがわたる直前の相手パスレシーバーにプレスを仕掛けていった直後のこと。パスを受けたカカウは、まったくフリー。そして余裕をもってロングシュートを打つ対戦に入っていったというわけです。そんな大ピンチにもかかわらず、周りのフランクフルト選手は、まさに「ボケッ」と突っ立ち、そのカカウのシュート準備モーションに見入っていましたよ。フ〜〜・・

 そのシーンは、前半の怠惰なプレーイメージそのものでした。まあ、後半に入って、中盤でのディフェンス意識は(稲本が展開するチェイス&チェックなどの刺激プレーによって)好転しはじめたと感じたけれど、最終ラインの意識は、前半同様に中途半端だったというなんだろうね。

 これじゃ、ジリ貧の「流れ」にはまり込んでしまうのも当たり前。組織的なボール奪取勝負を展開するための絶対条件は、すべての選手の、ボールを奪い返すことへの(リスクチャレンジも含む主体的な)意志が、しっかりと有機的に連鎖しつづけるということだけれど、この試合でのフランクフルト選手たちの「意識」は、まさにバラバラの極みだったということです。それじゃ、いくら一人が感張っても、まさにホンモノのムダ走りになってしまう。

 立ち上がりから(4点目を奪われた後でも)激しいチェイス&チェックや積極的なボール奪取勝負など、忠実な汗かきディフェンスからゲームに入っていった稲本だったけれど、前述したように、いくら汗かきの仕掛けを展開しても、周りのチームメイトが、そのボール奪取勝負の流れに「乗って」くれないのだから致し方ない。

 もちろん局面では、素晴らしいディフェンス能力(パワフルな競り合いとテクニカルなボール奪取勝負など)を魅せてくれたし、ボールを奪い返した後の展開でも、落ち着きと正確性を兼ね備えた展開パスを魅せてくれたけれど、結局は、攻守わたるボールがないところでのプレー内容が減退していくのです。

 彼は、日本代表では、まったく違う「プレーイメージ」で臨んでいかなければなりません。稲本潤一のキーワードは、中盤での守備のリーダーシップということになるだろうね。そのためにも、率先して、様々な汗かきプレーに精を出さなければならないのですよ。彼は、攻守にわたる、中盤でのダイナミズムの高揚というテーマに取り組まなければならないのですよ。守備でのダイナミズムが高揚すれば、自然と「次の攻撃」にも勢いが乗っていくモノだからね。守備こそが、すべてのスタートラインなのです。

 その視点で、岡田監督が、中盤からのダイナミックな守備(積極的なボール奪取勝負)をチームコンセプトに掲げているのは大正解なのですよ。守備の勢いさえ充実してれば、自然と、次の攻撃のダイナミズム(リスクチャレンジへの意志)も高揚していくモノなのです。

 そんな守備のダイナミズムというテーマに取り組まなければならない稲本潤一。もちろん鈴木啓太との兼ね合いもあるだろうけれど、ほんのちょっとでも、「オレはボール奪取勝負を狙うから、そのファウンデーションの起点プレーはやってネ・・」などといった怠惰なプレー姿勢が見えたら、彼の価値は地に落ちてしまうでしょう。

 彼の、局面でのボール奪取勝負は、フィジカル的にもテクニック的にも、そして守備の戦術的にも、まさに日本屈指です。ただ「それ」は、組織的な汗かきプレーが十分に機能してはじめて存在感を発揮するのです。海外体感の広さと深さでは日本人トップの一人である稲本潤一のことだから、そんな「メカニズム」に対する理解は、当たり前の環境になっているはずだけれど・・。

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 さて、バイエルン・ミュンヘンをホームに迎えたヴォルフスブルクの長谷部誠。攻守にわたって、高みで安定したパフォーマンスを魅せつづけくれました。

 高みで安定したパフォーマンス・・。その中心的な意味合いは、何といっても、自ら仕事を探しつづけられるだけの意志の強さ。よく言われる「意志さえあれば、おのずと道が見えてくる・・」という言葉。それは、長谷部のためにあるといっても過言じゃないかもしれない。

 とにかくサボらない。守備では、ボールを中心に、チェイス&チェックはもちろんのこと、常に次のボール奪取勝負や協力プレスへの参加をイメージしつづける。また攻撃でも、ボールがないところで動きつづける(味方のパスターゲットになる汗かきプレー≒ケースによっては勝負パスを呼び込むプレーになる!)意志は言うまでもなく、ボールを持ったら、例によっての軽快で正確なボールコントロールから(世界の猛者のなかで、あれだけ自信をもってコントロールできるのは大したもの!)シンプルなパス&ムーブを積み重ねたり、チャンスとみたら、後ろ髪を引かれることなく「勇気をもった」リスクチャレンジへとシフトアップしていく。フムフム・・

 前半5分には、こんなシーンがあった。

 味方のチェイスによってこぼれたボールを拾い、躊躇することなくタテのスペースへ向けて全力ドリブルで突進していく・・そのドリブルを阻止しようと、ドイツ代表のシュヴァインシュタイガーが、身体をぶつけたり手で引っ張ったりしながらチェイスするけれど、そんな抵抗をモノともせずに加速をつづける長谷部・・そして最後は、シュヴァインシュタイガーを切り返しで振り回し、中央ゾーンに上がってきた守備的ハーフ、ゲントナーへの正確なグラウンダーパスを通してしまう・・。

 あの競り合い状況で、落ち着いて切り返したプレーは、彼が余裕をもってプレーしていることの証明です。物理的にだけではなく、もちろん心理・精神的な余裕もみせられている。それは、味方にとっても頼もしい態度なのですよ。だからこそ味方からパスが回されるというわけです。まあ、大したものだ。

 とはいっても、自ら勝負コンビネーションをリードしたり、エイヤッ!の勝負ドリブルを仕掛けたりといった「個の勝負」ではまだ遠慮がちだね。彼にはチカラがあるわけだから、もっと自己主張していいはず。まあ、自信体感を積み重ねることで確信レベルが高揚してくれば、自然と、レッズ当時の爆発ドリブル勝負などの魅力的な個人勝負も出てくることでしょう。

 彼については、ドイツのエキスパート連中も、おおむねポジティブに評価しています。それについては「前回のコラム」を参照してください。長谷部には、究極の組織プレイヤーという基盤イメージのなかに「唐突な(そして高い実効レベルの)個人勝負プレイヤー」という味付けもある・・といった高質なバランス感覚に「も」磨きをかけて欲しいと思っている湯浅でした。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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