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2008_ドイツ報告、その1・・あははっ・・クリストフ・ダウムに上手く「ハメ」られてしまった・・(2008年7月26日、土曜日)

「ここに、オレの長年の友人が日本からはるばる来てくれた・・彼のことは、皆さんにも紹介しなければいけない・・」

 ゲーム後の共同記者会見が終わったタイミングを見計らい、そうマイクに向かって言った「その男」は、壇上の会見席からスッと立ち上がり、通常の退席方向じゃなく、階段を降りて私の方へ近づいてきたのですよ。そのときの私の心境。「オイ、ふざけるなヨ・・止めろって・・フ〜〜、仕方ネ〜な〜」

 ということで、仕方なく、記者席に座っていた私も立ち上がって彼へと歩み寄り、ガチッと強烈な「ハグ」を交わすのです。

 ヤツは、これ以上ないほどの強烈なチカラで私を抱きしめてくる。負けてなるモノかと、私も渾身の力をふり絞って彼を抱きしめる。その間、たぶん5秒くらい。でもわたしには、10分、20分にも感じられた。もちろん我々の周りを取り囲んだカメラマンの方々が次々とシャッターを切りつづける。もうこうなったら、絶対に負けないぞ! エッ、何に対して「負けないぞ!」なのかって・・!? それは、後述。

 それは、今日ケルンで行われたブンデスリーガのテストマッチ、1FC.ケルン対バイエルン・ミュンヘンのプレスコンファレンス(記者会見)での一コマ。その「男」とは、1FC.ケルンを、1シーズン半で見事に「一部ブンデスリーガ」に返り咲かせたプロコーチ(監督)クリストフ・ダウムです。ということで、ブンデスリーガの超名門クラブである1FC.ケルンは、今シーズンから、久しぶりにブンデスリーガ一部で闘うことになったわけです。

 たしかにクリストフ・ダウムとは、数年ぶりの再会ということになるよね。もちろんその間も、顔を合わせそうになったことは何度もあったけれど、不思議と「ニアミス」だけになっていた。その代わりといっては何だけれど、クリストフの長年の現場パートナー(ヘッドコーチ)である、ローラント・コッホと話す機会の方が多くなっていた。

 ローラント・コッホは、プロコーチ養成コースの同期生であり、私がもっとも信頼するプロコーチの一人です。クリストフ・ダウムと、このローラント・コッホの「コンビ」が、1FC.ケルンを「再び」率いることになった昨年、ローラント・コッホと、ケルンのレストランで「対談」しました。そのときの記事は「こちら」を参照してください。

 あっと・・クリストフ・ダウムとの関係だけれど、1976年にドイツ留学を果たしたとき、最初に参加したチームが「1.FCケルン」のアマチュアチームだったわけですが、そこでクリストフ・ダウムがプレーしていたということです。彼には本当に色々と世話になった。その後、彼が「1.FCケルン・プロチーム」の監督に昇格してからも(ローラント・コッホが彼のヘッドコーチになったことも含めて)関係が深くなりました。また、ギド・ブッフヴァルトやマティアス・ザマーもいた当時の「VfBシュツットガルト」や、ミヒャエル・バラックが所属していた当時の「バイヤー・レーバークーゼン」にも足しげく通ったことを思い出します(クリストフとローラントは、「VfBシュツットガルト」で初めてのリーグ優勝を果たす!)。ところで、クリストフ・ダウムと直接話す機会が「ちょっと薄く」なりはじめた背景だけれど、クリストフ・ダウムが公人として超有名になったことだけではなく、「例のこと」も少しはあったのかもしれない。

 そのことについては、2003年の春に、雑誌ナンバーで発表した文章を参照してください。その文章については、明日、わたしのHP用として処理してから掲載することにします。テーマは、もちろん「ドイツサッカー」。すでに5年が経過した記事だけれど、内包されているエッセンスは今でもピチピチでっせ。ということで、明日までお待ちください。

 さて、このコラムの本題である「クリストフにはめられた」ことの意味合いですが、その前に、ちょっと今回のドイツ出張の背景から。前節の「Jリーグレポート」でも書いたとおり、いまドイツに滞在しているのですが、それは、ビジネスのためのミーティングと、ドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟が主催する「サッカーコーチ国際会議」に出席するためです。

 あっと・・ゲームだけれど、監督がユルゲン・クリンズマン(2006年ドイツワールドカップでドイツ代表を率いた往年のスター選手)に変わったバイエルン・ミュンヘンのサッカーにも、徐々に良い兆しが見えはじめているように感じます。

 攻守にわたる、ダイナミックなチャレンジングサッカー。ファンだけではなく、選手たち自身も心から楽しみにしていると公言してはばからないクリンズマンの積極サッカー。今シーズンのバイエルンは、ドイツ国内だけではなく、国際舞台でも存在感を発揮してもらいたいものです。

 そんな、主力メンバーが全員残留した、イメージシンクロレベルの高いバイエルン・ミュンヘンに対し(たしかに多くの時間バイエルンに支配されていた)一部ブンデスリーガの「新参者」1FC.ケルンも、鋭いカウンターなどで対抗するなど、大いなる可能性を感じさせてくれました。結局ゲームは「0-0」で終わったけれど、実質的なシュートチャンスの量と質を比較すれば、やっぱりバイエルンの「惜敗」とするのがフェアな論評になるけれど、ケルンも本当によく闘い、今シーズンの可能性が高いことをしっかりと示したと評価することも忘れてはいけません。

 皆さんも、長谷部誠のヴォルフスブルクや小野伸二のボーフム、はたまた稲本潤一のフランクフルトだけではなく、1FC.ケルンも応援してくださいネ。私にとって1FC.ケルンは、今でも唯一の「マイチーム」なのですよ。そして、その1FC.ケルンが、クリストフとローラントのコンビに率いられて一部に復帰してきた。こりゃ、応援するしかないじゃありませんか。ブンデスリーガ二部時代には、ほとんど記事を書かなかったけれど(ゴメンなさい!)今シーズンは出来る限り注目しようと思っています。

 ということで、ここからは、彼らのサッカー内容ではなく、プロコーチとしての「クリストフ・ダウム」にスポットライトを当てることにします。

 試合後に、有名なドイツ人フリーランスジャーナリスト、グレゴール・デリックスと、ヨーロッパ選手権とか、今年のブンデスリーガなどについて長々とディスカッションしました。彼については、この「対談記事」を参照してください。そのグレゴールと、クリストフ・ダウムについても話し合ったのですよ。

 そこでグレゴールが、面白い表現をした。

「クリストフが有能なプロコーチであることは疑う余地はないよ・・ジャーナリストの仲間内でも・・まあオレも含めて、クリストフは素晴らしいコーチだと高く評価されているし、誰もがケルンでの仕事をつづけてもらいたいと思っているんだ・・ただ、ヤツは、たまに強烈に社会を挑発することがあるんだ・・」

 そこで一度言葉を切ったグレゴールがつづけます。「例えば、同性愛カップルは子供を教育するべきじゃない・・とかサ・・この発言には、多くのメディアや組織が噛みついたものだよ・・そりゃ、大変な勢いでディベートが盛り上がったものサ・・まあ、クリストフ・ダウムの影響力の強さが証明された事件でもあったわけだけれど、同じようにヤツは、サッカー的な常識に対しても、挑戦的な発言を繰り返すんだ・・そりゃ、本音のところでは、誰もが、ヤツの言うことには一理以上のモノがあるとは思っているわけだけれど、形式にこだわる保守的な連中にとっちゃ大変カチンとくる発言も多いわけだよ(彼は同性愛を支持するグループは、社会的な住所を得たという意味で既に保守派に属するのかもしれないと考えているようです)・・まあ、それも、彼のコーチとしての能力を高く評価している人々にとっては、常識に対して常に自問自答しつづけるヤツのポジティブな探求心の表れだと考えるわけだけれどな・・」

 ナルホド、ナルホド。私は、話を聞きながら、腹をかかえて笑い転げたい心境になりましたよ。そして、グレゴールに対して、こんなことを言ったわけです。

 「さっき、記者会見が終わったとき、クリストフがオレにハグしにきたよな・・そのシーンはグレゴールも見ただろう・・あれは、ヤツ独特の、パーソナティーの表現だったんだよ・・オレは、そのことをよく分かっていたから、心のなかで、テメ〜〜、オレのことを利用するなよ・・って思っていたんだ・・でもまあ、ああなっちゃったら、もうやらざるを得ないよ・・あそこでハグを拒否しちゃ、雰囲気が完璧にシラけちゃうだろうしネ・・何といってもクリストフは30年来のトモダチだからな・・とにかくそのときの感覚は、絶対にテメ〜を主役にしないぞ!ってなものだった・・」

 ちょっと一息ついてから続けました。「オレが留学した最初の頃、クリストフは、自分の都合は二の次にして本当に色々なことで助けてくれたんだよ・・だからオレは、ヤツの根本的な人間性は分かっているつもりなんだ・・基本的には、とても優しく誠実なヤツだってネ・・だから、クリストフが、オレのことを利用しても、まあ笑って許せるんだよ・・多分ヤツは、多くのメディアの前で、アジアから来た古くからの友人に対して、究極の誠意をボディーランゲージで表現することで『オレは普通の感性を超越しているんだゼ』という雰囲気をデモンストレーションしたということなんだろうな・・もちろん、その後の記者からの質問に対して、彼はケンジ・ユアサといって、日本の著名なフリーランスジャーナリストだ・・彼とは、学生時代に苦楽をともにした・・今でも、深いディベートが出来る友人だし、異文化との対峙という視点でも、彼のような存在は、オレのコーチとしての能力を発展させてくれる思っている・・なんて答えていたしナ・・」

 そうそう・・、そんなクリストフの「常識はずれのダイナミック・アクション」は、チーム(心理)マネージメントにおいて、意図的に「波風を立てる・・」とか「刺激を放散し続ける・・」なんていう方法論にもつながることかもしれないね。

 優れたコーチは、その言動を誰にも「予測」させない・・。そしてその言動は(時間が必要なケースも多いけれど)最終的には、チームの目的を達成するプロセスに、すべからく効果的に貢献するものなのだ・・。

 ちょっと時差ボケが・・。ホント、歳を感じますよ。ということで今日はここまでにして、また明日。その明日だけれど、まず1100時にトレーニングを観察し、その後にクリストフ&ローラントと旧交を温め、その足で、国際会議が開催されるヴィースバーデンまでの「200キロ」を移動します。フ〜〜・・

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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