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2011_アジアカップ・・その後のテーマ(その4)・・世界との最後の僅差を縮めていくために・・(2011年2月5日、土曜日)

なんかサ、昔を懐(なつ)かしく思い出してしまったですよ。

 何がって!? ビデオを詳細に見返しながら、様々な課題や、これから発展させていくべきポジティブなポイントなどを抽出する作業のことです。

 読売サッカークラブでコーチをしているときはもちろん、ドイツでも、友人のクリストフ・ダウムやローラント・コッホ、エーリッヒ・ルーテメラーといったドイツサッカー界の重鎮連中と、ビデオを見ながら、ア〜でもない、コ〜でもないって、大ディベートを展開したモノです。まあ、今じゃ、そんなビデオ分析を請け負う「外部カンパニー」も多いけれどネ・・

 そこで分析するポイントは、細部の小さなトコロ。

 例えば、味方がチェイシングし、相手ボールホルダーを追い込んでいるシーンでの周りのチームメイトのポジショニング。いかに効率的に「次」でボールを奪い返すかというテーマです。要は、インターセプトを成功させるためのポジショニングというテーマだけれど、そこで、相手にパスを「出させる」微妙な位置取りとか、インターセプトアクションに入るタイミングとかについての詳細なディスカッションを積み重ねるわけです。

 まあ、読売サッカークラブ時代は、わたし一人で(監督はオマエに任せるって帰っちゃうし・・)、黙々と、課題とグッドポイントの抽出作業に勤(いそ)しんだモノです。あの当時のビデオ機器は、もうホントにプリミティブ(原始的)だったから、詳細に見直そうにも、コマ送りがやっととか、とても大変な「汗かき作業」だったんですよ。だから、誰もつき合ってくれない。

 カリオカ(ラモス瑠偉)なんて、「湯浅さん、またビデオで研究ですか〜〜・・大変ですね〜・・オレ、これから六本木〜〜・・湯浅さんも後から来てくださいよ〜〜・・」なんて捨て台詞を残し、すたすたとクラブハウスを後にしていく。もちろん「ビデオ分析」は選手の仕事じゃないわけだけれど、でもちょっと溜息が口をついたモノでした。

 あっと・・またまた前段が長くなってしまった。ところで、「湯浅さんも後で六本木に〜・・」って言ったのは、カリオカじゃなく、別な選手だったかも・・例えば松木安太郎とか・・あははっ・・

 さて今回の「その後のテーマコラム」は、韓国との準決勝を取りあげます。それも、日本が(全体的には)とても良い組織サッカーを展開した前半。

 たしかに、前半に日本代表が魅せた全体的なサッカー内容(攻守にわたる組織プレー)は、とても優れていたし、両サイドバックのオーバーラップ&クロスから、同点ゴールも含めて、何度か決定的シーンを作り出した。ただ逆に、韓国の強烈な意志プレーにやり込められ、何度も危ないピンチを迎えたシーンも多かったのですよ。

 そして、その「事実」が、本田圭佑、長友佑都、そして前田遼一のスーパーコンビネーション同点ゴールも含めた、いくつかの素晴らしい決定的チャンスによって、かき消されてしまった感があるのです。だからこそ、敢えて、その時間帯を振り返ろうと思ったわけです。

 ここでは、一点をリードされていた前半30分前後からのピンチシーンをいくつか取りあげ、そこから、「世界との最後の僅差」っていう、わたしのライフワークテーマに入っていこうと思います。もちろん、世界との最後の僅差を縮めていくための「ビデオ・イメージトレーニング素材」としてね。

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 ということで、まず韓国のセットプレー。例によって、危険なコトこの上ない。ヘディングの強さもそうだけれど、彼らの場合は意志のパワーもプラスされるから、ヘディングの競り合いだけではなく、セカンドボール(こぼれ球)をめぐるせめぎ合いでも、粘り強く、二重、三重に、たたみ掛けるように押し込んでくる。

 前半29分のコーナーキック場面。

 ・・キ・ソンヨンが蹴ったボールが、競り合いから後方にこぼれる・・それを、香川真司の目の前で拾ったパク・チソン・・そのまま日本ペナルティーエリアへドリブルで突進していく・・香川真司は追い付かない・・そこへ、コーナーキックのために戻っていた前田遼一がチェックへいく・・

 ・・それが勝負の瞬間・・でも、前田遼一のアタックは工夫がなさ過ぎる(次の事態に対する予測が甘い!)・・彼は、最初から決死のスライディングをイメージしているべきだった・・でも彼は、たぶんスライディングは危険すぎると判断し(スライディングタックルというリスキープレーに逡巡し!)、結局、パク・チソンのドリブルへ寄っていく「だけ」になってしまう・・

 ・・次の瞬間パク・チソンは、前田遼一の鼻先で、チョンッ!とボールに触って前田遼一のチェックをかわしてしまう・・そして、そのまま前進しようとした次の瞬間、パク・チソンは、止まりきれなかった前田遼一と接触し、吹っ飛んでしまう・・

 ・・このシーンは、本当に微妙だった・・たしかにレフェリーも、ホイッスルを口元まで持っていった・・PK??・・でも結局ホイッスルが吹かれることはなかった・・それは、日本にとって、ラッキーこの上ないシーンだった・・

 ・・もちろん、世界トップの舞台で百戦錬磨のパク・チソンには、前田遼一のアタックタイミングが明確に見えていた・・そして自分が、その鼻先で、先にボールに触れることも分かっていた・・そして、ここが大事なポイントだけれど、パク・チソンは、前田遼一が、止まれずに自分が走るコースに入ってくること・・そして、自分を引っかけるコトを確信していた・・

 ・・でも、パク・チソンが、わざと前田遼一に「引っかけられよう」としていたワケじゃないのは確かなこと・・あくまでも彼は、フェアに「すり抜けよう」としていた・・それでも、パク・チソンには、たぶん最後は、前田遼一と接触することになるという確信「も」あった!?・・さて〜〜・・

 ・・とにかく、とても微妙な接触シーンではありました・・そこでは、稚拙な(真正直な!?)前田遼一のアタックイメージと、それをギリギリのところで上手く利用するという、パク・チソンの(世界舞台での経験をベースにした)クレバーな勝負イメージが、微妙に交錯していた・・とにかく、そのプレーがPKにならなくて本当にラッキーだった・・フ〜〜ッ・・

 前田遼一は、そこがペナルティーエリア内であることだけではなく、自分に、スライディングタックルを仕掛ける自信と確信がないこと、そして、あのタイミングではチェック&アタックが「届かない」ことを、100分の1秒のうちに判断&決断し、パク・チソンの「狡猾なワナ(!?)」にはまらない回避アクションに入るべきだったのです(パク・チソンの動きを避ける回避アクション!)。

 とにかくこのシーンは、前田遼一にとって、かけがえのない学習機会になったと思います。彼は、次の同じような勝負シーンでは、思い切ってスライディングするか、逆に安全に回避動作に入るかの決断を「素早く自動的に」に出来るようになるまで、このシーンを繰り返し見ることで脳裏に焼き付けなければなりません。そう、それこそが、世界との最後の僅差を突き崩すための効果的なイメージトレーニングなのです。

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 次が、前半31分の韓国フリーキックのシーン。キ・ソンヨンが蹴ったボールは、正確に、ファーサイドゾーンで待ち構えるク・ヂャチョルへ向かっていきました。

 でも、そのク・ヂャチョルをマークしていたのは、背の高さで大きなハンディを抱える長友佑都だった。そして結局、ク・ジャチョルに、かなり決定的なヘディングシュートを飛ばされてしまう。

 ゴールの枠を外れたのは、ほんの僅か。枠に飛んでいたら、GK川島永嗣もまったく届かなかった。あのシーンでク・ジャチョルのマークに入るのは、戻っていた前田遼一だろ〜〜・・フ〜〜・・

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 その2分後には、岩政大樹が冒したミスパスから(一人を経由して)ボールを持ったチ・ドンウォンに、爆発的な勝負ドリブルによって中央ゾーンを切り裂かれてしまいます。

 最後にチ・ドンウォンと対峙したのは岩政大樹。自分のミスパスから陥ったピンチに、ちょっと動揺していたこともあったんでしょうね、またスピードに自信がないこともあって、チ・ドンウォンとの間合いを詰め切れずに切り返されて(振り回されて)しまう。最後は、全力でカバーに戻ってきたマイティーマウス、長友佑都のアタックで事なきを得たモノの・・。フ〜〜・・

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 そして、その2分後の前半36分に、本田圭佑、長友佑都、そして前田遼一が絡んだスーパーコンビネーション同点ゴール(ゴールシーンについては「このコラム」を参照して下さい!)が生まれ、それまでの「悪い流れ」のイメージが霧散した・・と、思われた。でも・・

 その30秒後のことです(韓国キックオフ直後!)。パク・チソンが中心になった組み立てから最後にボールを持った韓国の左サイドバック、イ・ヨンピョが、余裕をもって中央ゾーンに目をやります。次の瞬間、韓国のトップ二人が爆発アクションをスタートした。

 日本ゴール前の決定的スペースへ斜めに走り込んでいくク・ジャチョルとチ・ドンウォン。そして次の瞬間、ボールを持つイ・ヨンピョから、正確なアーリークロスが、美しい糸を引いていった。

 そのとき、ク・ジャチョルとチ・ドンウォンをケアーしていた日本選手は三人。遠藤保仁、今野泰幸、そして岩政大樹。でも、最後の瞬間に、韓国の二人と競り合ったのは、今野泰幸一人でした。

 その今野泰幸にしても、自分がマークしていたわけではなかったチ・ドンウォンのアクションに対して遅れて対応せざるを得なかったことで、チ・ドンウォンに、フリーでヘディングシュートを飛ばされてしまうのです。

 そのヘディングシュートが川島永嗣の正面に飛んでくれたことは、本当にラッキーこの上ない現象でした。

 とにかく、このシーンでのポイントは、三人の日本選手のうち、今野泰幸しか、最終勝負の瞬間にアクションできていなかったということです。クロスボールをヘディングで競り合う「最後の瞬間」には、少なくとも相手に自分の身体を「あずけられる」くらい、タイトにマーク出来ていなければなりません。そうでなければ、相手は、フリーでヘディングシュートを飛ばしてしまう。

 特に岩政大樹は、走り込んでくるチ・ドンウォンに気付くのが遅く、結局ボールは、彼のアタマを正確に越えていきました。このシーンで岩政大樹は、アーリークロスを送り込んだイ・ヨンピョが蹴る直前から最後の瞬間まで、完全にボールウォッチャーになってしまったのです。

 これじゃ、走り込んでくるチ・ドンウォンのヘディングアクションを阻止できるはずがない。そして彼は、最後の勝負の瞬間には、完全にカヤの外・・

 ただし遠藤保仁の場合は、ちょっと事情が違っていたかもしれない。たしかにボールウォッチャーにはなっていたけれど、自分の後ろにはヘディングの強い岩政大樹がいる・・と、直前まで見ていたチ・ドンウォンのマークを岩政大樹に任せた「つもり」だったということかも・・!? さて〜・・

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 その後も、内田篤人のクロスから本田圭佑がヘディングシュートを放ったり、本田圭佑のラストパスを受けた前田遼一が、フリーで決定的なシュートを放ったりと、日本がゲームを「動かせる」チャンスはあったけれど・・

 このコラムで言いたかったことは、細部の小さなミスが命取りになる・・その傾向は、サッカーのレベルがアップすればするほど顕著になっていく・・ということです。

 わたしは、よく、サッカーはミスの積み重ね・・なんていう表現を使います。要は、だからこそ、ミスの体感をベースに、(その本質的なファクターをしっかりとイメージしつづけるという作業を通して!!)ミスを少なくする努力を、根気強く積み重ねた者が、よりよい結果を得ることができる・・ということです。

 ザッケローニも、細部の小さなミスの修正に多くの時間を割いたと聞きます。サッカーはミスの積み重ね・・。それは、ミスの体感を「次に活かす」という意味なのです。

 だからこそ、(ビデオを駆使した!?)効果的なイメージトレーニングと、それを(自動的にアクションが出てくるまで!)トレーニングの場で実践しつづけるという地道な努力こそが、世界との最後の僅差を縮めていくための、もっとも大事な作業になるのです。アレッ・・繰り返しが多い!? まあ・・ご容赦アレ〜・・

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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