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2011_アジアカップ・・勝者メンタリティーの充実!?・・本物のダブルボランチ・・そして本田圭佑・・(日本vsカタール、3-2)・・(2011年1月21日、金曜日)

タイムアップのホイッスルを聞きながら、またまた、「フ〜〜ッ!」なんていう深〜〜い溜息が口をついていた。

 そしてすぐに、「これ」だよ・・この極限サッカードラマ(最高の学習機会!)こそが、世界のトップサッカーへつながる「ギリギリの体感」を積み上げていくための絶対的ベースなんだよ・・この日本代表チームは、日本にとっての本物のアイデンティティー(誇り)になった・・我々サッカー人は、彼らに心から感謝しなければならない・・またこの勝利は、ザッケローニのチーム作りにとっても、本当に素晴らしい(心理)マネージメントベースになるはずだ・・これで勝者メンタリティーが高揚しないはずがない・・なんていうテーマに思いを馳せていた。

 それにしても、ホントにすごいゲームだった。シリア戦と同様に、日本に退場者が出てからの極限ドラマ。

 シリア戦では、川島永嗣が退場になった次の瞬間に(PKで)同点にされたけれど、そこから勝ち越しゴールを奪った。そしてこの試合では、吉田麻也が退場になった次の瞬間に(フリーキックで)勝ち越しゴールを奪われたけれど、そこから感嘆の大逆転ドラマを完遂した。

 実は、わたしは、吉田麻也が退場になって勝ち越しゴールを奪われたとき、そこまでのゲーム展開から、正直、「こりゃダメかもしれない・・」なんていうネガティブな感覚に苛(さいな)まれたモノでした。面目ありません・・。

 そんなギリギリの大逆転劇。そこで、まずスポットライトを当てなければならないのは、サウジ戦コラムの「締め」でも書いたけれど、日本代表が誇る「本物のダブル・ボランチ」、長谷部誠と遠藤保仁のスーパーコンビが魅せつづけた、冷静な質実剛健プレーだよね。

 シリア戦でも、日本のフィールドプレイヤーが一人足りなくなり、それに乗じてシリアが攻め上がってきた状況で、この二人が、インテリジェンスあふれるパス構成(中盤のリーダーシップ)で日本の攻めをコントロールしていたっけ。

 ・・クールに、そしてクリエイティブ(効果的)にボールを動かしつづける遠藤保仁・・彼が主導するクレバーなゲームコントロールは、シリアやカタールがブチかましてくる(ボール奪取の)仕掛けエネルギーを、本当にうまく逆利用していた・・遠藤保仁は、まさに「空気投げ」の仕掛け人だ!・・

 ・・そんな遠藤に対し、同じように冷静なパス構成をイメージするなかで、タイミングを見計らい、相手の視野からスッと「消え」ては最前線へ抜け出すような決定的フリーランニングを魅せるだけじゃなく、たまには爆発的な勝負ドリブルも繰り出していく長谷部誠・・

 決勝ゴールは、この二人が演出した。

 ・・左サイドでカタール守備を引きつけた(カタール最終ラインのポジショニングバランスを混乱させた)遠藤保仁・・そこからのバックパスを、最前線で一瞬フリーになった香川真司へ、冷静に、そして力強く、ズバッという音がするくらい鋭く正確なラスト(グラウンダー)タテパスを通した長谷部誠・・

 この二人は、日本代表チームにおいて、バルセロナのスーパー中盤コンビ、シャビ&イニエスタに例えられるほどの存在(攻守にわたる、汗かき&クリエイティブ&ダイナミックな実効コンテンツ)だと思いますよ。もちろん長谷部と遠藤が、シャビ&イニエスタと比べられることを喜ぶかどうかなんて知ったこっちゃないけれど、まあ、とにかく彼らが、いまの日本代表にとって、代替の効かないダブルボランチであることだけは確かな事実です。フムフム・・

 言葉で表現するのは難しいけれど、このダブルボランチの『相互信頼』レベルは、天文学的なレベルにまで高まっていると言っても過言じゃないね。そして、その絶対的ベースが、攻守わたって、全力で「汗かき仕事を探しつづけられる」プレー姿勢(強烈な意志)なのです。

 次のテーマは、岡崎慎司の「タテへの飛び出し」。いまの日本代表にとって、それほど重要な「武器」はない。そしてこの試合では、香川真司も、タテ方向への積極的な意志を表現できるようになっていった。試合を通した発展・・。まあ、そういうことだね。

 とにかく、相手ディフェンスブロックのウラに広がる決定的スペースを突いていくようなチャレンジプレーが出てこなければ、何もはじまらないのですよ。相手守備ブロックにとっても、自分たちの「眼前」でしかアクションしない攻撃じゃ、まったく怖くない。

 それが、岡崎慎司や香川真司のように、常に、ウラの決定的スペースを狙っているような選手がいたら、ハナシはガラリと変わる。

 そんな、タテへ抜け出そうと、虎視眈々とディフェンダーのスキ(意識の空白)を狙い続ける「突貫小僧」たちがいれば、もちろん相手守備ブロックも、それに対応するように守備イメージを調整しなければならなくなるということです。そしてもちろん、相手の最終守備ラインが、ちょっと下がり気味になることで、その眼前の「ヴァイタルエリア」も、より効果的に活用できるようになる。

 でも・・サ、この試合で日本代表が、ウラの決定的スペースを(サウジアラビア戦のように!?)効果的に攻略できるようになるまでには、ちょっと時間が掛かったよね。いや・・、時間が掛かったというよりも、ウラ突きの仕掛けにチャレンジする頻度が全体的に足りなかった・・という表現の方が正確かもしれない。

 そのことが、冒頭で書いたように、吉田麻也が退場なって勝ち越しゴールを決められたときに私が「めげ掛けた」主な背景要因だった。

 「こんな低級なオフェンス(攻め)の内容じゃ、一人足りなくなったこともあるから、同点に持ち込むのはホントに難しくなったよな〜〜(その時点じゃ、逆転することなんて考えも及ばなかった・・日本代表の皆さん・・甘く見てスミマセン!!)」

 そんな、初戦のヨルダン戦で(部分的にはシリア戦でも!)感じられた停滞サッカーが、この試合でも見られたということです。

 たしかにポジションチェンジは少しは活性化しているけれど、それが、相手ディフェンスを攻略していくために十分な効果を発揮しない。そりゃ、そうだ。決定的な仕掛けの流れのなかで、スムーズにダイレクトパスがつながるような人とボールの動き(ダイナミックなコンビネーション!)が、まだまだ足りないのだから。

 要は、オーストラリアや韓国、はたまた、サウジアラビア戦で日本代表が魅せたような、本当の意味でダイナミックな「縦横無尽のポジションチェンジ」が見られなかったということです。

 私は、その大きな要因の一つを、敢えて(彼の、世界へ向けた本物のブレイクスルーを期待するというニュアンスも込めて・・)本田圭佑に負わせようと思います。

 「この試合での本田圭佑は攻撃ブロックの『フタ』に成り下がっていた!?」 まあ、そんな厳しい評価が成り立ちそうなパフォーマンスだったけれど、とにかく彼が、日本代表チームにとって「諸刃の剣」であることは確かな事実だよね。

 たしかに、彼に(彼の才能プレーに)対する期待が大きいのは良く分かる。でも、それで、彼の攻守にわたる実質的なプレーコンテンツに対する正確な評価を誤ったら、それは、チームのモラルの減退というネガティブな現象も含め、確実にチーム総合力を蝕(むしば)んでいく。

 要は、本田圭佑のポジティブな部分とネガティブな部分を、しっかりとバランス良く評価しなければならない・・ということです。その視点で、この試合での本田圭佑は、前線ブロックの「フタ」に成り下がる時間帯が長すぎたと思う。

 とにかく彼は、全体的な運動量が足りていないというネガティブな事実も含め、自分を中心にボールを動かすことしかアタマにないように感じる。だから、パス&ムーブはほとんどなく、動かないで、バックパスや横パス(自分への足許パス)ばかりを要求する。それも、遠藤保仁や長谷部誠に対してまで・・!!

 私は、よく、こんな表現を使います。良い選手は、互いに「使い・使われるメカニズム」を、深〜く理解し、実践できるものだ・・。その意味で、本田圭佑には、まだまだ課題が山積みなのです。

 攻撃ブロックに、そんな「動きのないプレーイメージ」の選手が一人でもいたら、人とボールの動きを基盤にしたコンビネーションが「加速」していかないのは自明の理じゃありませんか。

 またディフェンスも問題。特に、チェイス&チェックという汗かきプレーに強い意志が感じられない。彼の場合、「取り敢えず追いかけた・・」という、アリバイ守備で終わってしまうシーンがほとんどなのですよ。これじゃ、チームメイトから信頼されるはずがない。特に、ダブルボランチには・・

 本田圭佑は、とても素晴らしい才能に恵まれている。(ザッケローニも含めて!?)誰もが大いなる期待を抱くのは当たり前でしょ。でもサ、彼はディエゴ・マラドーナやメッシじゃない。だからこそ、彼もまた(才能に恵まれているからこそ!)日本が志向するホンモノの組織サッカーの代弁者でなければならないと思うのですよ。

 攻守にわたる、全力の組織(汗かき)プレーにも長けた素晴らしい個の才能・・。それこそが、本田圭佑に期待されているプレイヤー像なのです。

 彼は、率先して日本代表の人とボールの動きを「モティベート」するなど、攻撃のリーダーとしてのチーム内ポジションを確立しなければならない存在なのです。

 前半の同点ゴールシーンで魅せた岡崎慎司への(事前のアイコンタクトをベースにした!)ダイレクト・ラストパスだけではなく、その他の仕掛けシーンで繰り出したダイレクトパス&コンビネーションの起点としてのプレー、はたまたパワフルでスピーディーな勝負ドリブルなど、その才能を疑う者はいないでしょ。

 だからこそ、まだまだ目立ち過ぎる「悪いエゴイストのプレー」が残念で仕方ない。もし彼が、本当の意味で、攻守にわたる汗かきプレー(使われるプレー)の意味合いを理解し、それに誠心誠意精進できたら、絶対に、このチームの(少なくとも攻撃の)リーダーとして、チーム内で尊敬される存在になれるはずです。

 本田圭佑については、一昨日アップした、オーストラリア対バーレーン戦のコラムも参照して下さい。

 とにかく、本当に心から、勝ってよかったと胸をなで下ろしている筆者でした。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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