The Core Column


The Core Column(15)_2013年「Jリーグ」から考える攻守のバランスと意志のチカラ・・(2013年12月10日、火曜日)

■2013年「J」上位チームの得失点差に内包される意味は・・!?

まあ、もう語り尽くされたテーマかもしれないけれど、2013年シーズン上位チームのサッカー内容と、ゴール&失点のバランス状態が、面白い「関連性」を呈していたことから、今回は、このテーマを深掘りすることにした。

そう、攻守のバランス・・

もちろん、結果に恵まれなかったチームのサポーターは、他と比べて悪かった「数字」について不満をもつでしょ。

例えば浦和レッズならば、守備(失点数)がダメ過ぎた・・とかさ。

結果をみてみると、もちろん実際のサッカー内容に差異はあったけれど、トップツーのサンフレッチェとマリノスの得失点差(ゴール&失点のバランス状態)は、とても似通っていた。

そして結局、「リーグ最少失点」のサンフレッチェ広島がチャンピオンに輝いた。

もっと視野を広げ、6位の浦和レッズまでを俯瞰(ふかん)してみると、こんなことも見えてくる。

・・6位までのうち、上位2チームと(サンフレッチェ&マリノス)と4位になったセレッソ大阪の得失点差(ゴール&失点のバランス状態)が、ほぼ「同じ」・・というだけじゃなく・・

・・最終節でマリノスを破ったフロンターレ(3位)と、5位、6位(アントラーズとレッズ)の得失点差(ゴール&失点のバランス状態)も、ほぼ横並びだった・・

だから、「これは、ちょっと深掘りする価値がありそうだゾ・・」と、(軽薄にも!?)キーボードに向かった筆者だったのであ〜る。

■サッカーコーチが志向すべき理想サッカー・・

全てのコーチが目標とすべき理想サッカーは、「美しく勝つこと・・」であるべきだと思う。

ここでいう美しさの「源泉」だけれど、その絶対的ベースは、言うまでもなく、優れた組織サッカーだ。

サッカーが内包する美しさのリソースは、決して、マラドーナやメッシ、はたまたクリスティアーノ・ロナウドといった天才連中が派手に繰り出す個人勝負(ブッちぎりドリブル&スーパーシュート!)だけではないのですよ。

もちろん彼らが魅せる個人勝負には、鳥肌が立つほどの興奮を覚えるけれど、でも結局それは、美しさの「隠し味」ってな位置づけが妥当じゃないかと思うのだ。

そういえば、このテーマについて、国際会議に参加したブラジル人プロコーチと話し合ったことがあったっけ。

「美しさの源泉ネ〜・・それって、時代とか、そのときの代表チームのタイプによって、かなり変わってくると思うよ・・でも、普遍的なモノっちゅうテーマだったら、そりゃ、パスだろ〜・・まあ、相手のウラを取るコンビネーションとかネ・・」

そしてソイツは、こんな素敵なコトまで、ごく自然に語っちゃうんだよ。

「今でも、ブラジル人がもっとも好きなチームは、何たって、1982年スペインW杯のときのブラジル代表なんだよ・・あの中盤カルテットが展開したパス サッカーには興奮させられたからな・・あっと・・1970年メキシコワールドカップのブラジル代表もまだまだいけるよな・・」

「・・この二つのチームでは、とにかく、パスコンビネーションが美しかったんだ・・だからこそ、ジーコとか、ペレやトスタンといった個人の才能が、うまく活かされたんだよ・・」

「・・例えば、1970年メキシコワールドカップ決勝でのゴールシーンで、サッカーファンが一番好きなのは、なんたって、ペレからのノールックのアシスト を、オーバーラップしてきた右サイドバックのカルロス・アウベルトが、ダイレクトで叩き込んだ4点目なんだゼ・・ペレの、天才的なタメ(個人技)と、置く ようなノールックのラストパスが、イタリア守備のイメージのウラを完全に攻略した・・今でもブラジル人が愛して止まない究極のコンビネーションだよ な・・」

そうそう、この「究極のコンビネーションゴール」については、ドイツのコーチングスクールでも、よく教材として取りあげられたっけ・・

あっと・・ちょっと脱線しそうになった。

そう、「あの」ブラジル人でさえも、美しさの源泉は、コレクティブな組織(パスコンビネーション)サッカーにあり・・と考えているんだよ。

そのことが言いたかった。

そして、「美しく勝つとはっ??」っていうディスカッションが深まっていく・・

■2013年シーズンの「J」における傾向・・

もちろん、得点と失点の両方とも多かった3チーム(フロンターレ、アントラーズ、そしてレッズ)は、より積極的に攻め上がっていった。

この「積極的に攻め上がっていく・・」という現象がディスカッションテーマかな。

個のチカラに「頼り切る」ことができない日本サッカーの場合、積極的に攻めてチャンスを作りだすためには、必然的に、より多くの選手が必要になる。

そのことは、当然、「次のディフェンス」で人数が足りなくなる危険度が増すことを意味する。

それに対して、ゴールと失点が(比較的)少なかった3チーム(サンフレッチェ、マリノス、そしてセレッソ)の場合、傾向として、より「攻守のバランスを重視する」サッカーをイメージしていた・・ということ「も」言えそうだ。

この上位6チームのうち、得失点差で上回った3チームでは、失点が「20」くらい少なかっただけではなく、ゴールの数も、「10から15ゴール」少なかった。

ここで議論しているのは、あくまでも「傾向」だからネ、傾向。

ということで、この3チーム(サンフレッチェ、マリノス、セレッソ)の、ゴールと失点の「少なさの割合」が、より失点に偏っていたという事実が、注目に値するのである。

■そして、優勝するためには、まず守備を強化しなければ・・ってな議論が白熱する・・

・・たしかに、今の日本サッカーの内実(選手個々の実力レベルやパーソナリティーなどなど!?)を考えれば、「選択肢」は多くないのかもしれない・・

・・勝つためには(結果を残せる可能性をシステマティックにアップさせていくためには!?)・・まず何といっても失点を減らすべきだ・・そのために、攻撃を仕掛けていく人数を「うまく調整して」、次の守備に備えるべきだ・・

でも、本当に、そんな単純なディスカッションでいいのだろうか!?

私は、それでは、前述した、「美しく勝つ・・」という絶対的なコンセプトに逆行しちゃうだろうし、サッカーの、本当の意味での隆盛は望めないと思っているのだ。

でも、理想を追い求め「過ぎた」ら、周りは「クビを切られた監督」であふれちゃう!?

フ〜〜ッ・・

だからこそ、『バランス』と呼ばれるモノの本質を、しっかりと突き詰めて議論する必要があるのだ。

■そう、バランス・・そこでは「意志という生き物」が蠢(うごめ)く・・

ここが大事なポイントなのだが、これまでのリーグ成績の結果「だけ」をベースに、その「バランス」と呼ばれるモノを分析したら、とにかく「結果として」の失点を少なくするしかなくなり、前述の単純なディスカッションにはまり込んでしまうのだよ。

たしかに、そのようなサッカーでは、失点は少なくなるだろうけれど、観ている方も、やっている方も、面白くも楽しくもない(魅力のない≒サッカーにとって死活的な意味を内包する『自由』も失ってしまう!?)単なる、中盤での「つぶし合いマッチ」になっちゃう。

そうではなく、より「洗練されたバランス」を体現することで、しっかりとした「攻撃サッカー」を目指すのだ。

・・何が、洗練されたバランスだよ・・それじゃ、単なる言葉の遊びじゃネ〜かって!?・・

いや・・私は、この「洗練」という言葉のバックボーンに、『意志という生き物』が潜んでいるということが言いたかったんだ。

・・単純にディフェンスの人数を増やすのではなく・・リスクへチャレンジし過ぎる、まさに蛮勇とも言えそうな攻め上がりに対する自主規制の意識も高める・・

・・そう、攻守のバランスが「よりスマート」に取れたサッカーを志向するというベクトル・・

・・とはいっても、サッカーでは、ときには「蛮勇的なアクション」が必要なシーンだってある・・サッカーにゃ、「それ」を、勇気をもってブチかましてしかなければならないケースだって多いんだ・・

・・だからこそサッカーコーチは、そこでの、ある意味、錯綜した『心理メカニズム』への理解も、しっかりとアタマの片隅に置いておかなければならないんだよ・・

■「バランス」というグラウンド上の現象を左右するコアファクターこそが「意志」・・

ディスカッションを進めるために、テーマをシンプルにまとめてみよう。

「洗練されたバランス」が支配する優れた攻撃的サッカーでは・・

・・攻めるときに、そのときの状況で最大の人数を掛けられる・・それでも、どこで(どんな状況で)ボールを失ったか関係なく、次の守備では、そのときの状況に応じて、最高の人数バランスとポジショニングバランスが、素早く組織される・・

そのためには、もちろん、運動量を「それなり」にアップさせなければならないだろうし、闘う意志と集中力を、最後まで最高レベルで維持することも求められる。

そう、勇気と、自発的で意識的・主体的な行動を生み出す内的意欲・・である。

■レッズ監督ミハイロ・ペトロヴィッチとの会話・・

先日の、リーグ最終ゲームの数日前というタイミングで、レッズ監督のミハイロ・ペトロヴィッチと会食する機会があった。

もろちん、コーチの杉浦大輔さんも一緒だ。

そこで、「洗練されたバランス」というテーマを持ち出した。

酒の席だから、ちょっと野暮かな・・とは思ったけれど、まあそんな機会はめったにないから・・

ご存じのように、ミハイロ・ペトロヴィッチは、前述した「コーチが目指すべき理想サッカー」を突き詰めようとしている。

彼は、選手を「より解放」する方向に、心理マネージメントを推し進めている。

全員守備、全員攻撃をベースにした攻撃的サッカー・・それである。

そう、彼もまた、常に、「美しく勝つこと・・」を強く意識しているプロコーチなのだ。

だから、「素晴らしい成果」を目前に終戦になってしまったことに、とても落胆していた。でも・・

そう、彼の「正しい」チャレンジは決して終わらない。彼のコンセプトは、来シーズンも変わらないのだ。

もちろん、そのことは、アントラーズやフロンターレにも言えるし、サンフレッチェにしてもマリノスにしても(またセレッソにしても)、その理想イメージを追い求める「基本的な」姿勢に変わりはないと思う(でもいまは現実的な妥協をしている!?)。

そこで、杉浦大輔さんが、こんな興味深いことを言った。

「そうなんです・・全体的には、とても良い攻撃的サッカーで相手を凌駕しているのに、ココゾッていう場面で、集中が途切れて失点してしまうようなケースが多かったんですよ・・」

その発言が、私の「ボタン」を押した。

「そう・・その通り・・誰とは言わないけれど、とにかく素晴らしいサッカーで、ゲームの流れを牛耳っているにもかかわらず、信じられない凡プレーで失点して負けちゃったり引き分けちゃったりしたゲームは、ホントに数え上げたらキリがない・・」

「いま杉浦さんが言った、最終勝負シーンでの集中切れもそうだけれど、相手にボールを奪われたときの攻守の切り替えとか、全力での守備のハードワークにも、よく、意志に欠けたイージーな姿勢が見られるんだよ・・」

「ボクは、0.5人が足りないっていう表現をするんだけれど・・例えば、ボールを持つ(カウンターに入った)相手を全力を追いかけるとか、フルパワーで チェイス&チェックに入るとか・・また守備での最終シーンでは、決してボールウォッチャーにならないとか、マーク相手をフリーにしないといったときに限っ て集中が切れちゃうプレイヤーがいるんだよ・・」

「来シーズン、そんなプレーを少なくできれば、レッズは、確実に優勝レースのトップを走る存在になると思う・・そのためにも、うまく編集したビデオ教材が必要だと思う・・選手たちにしたって、映像でみせられたら、自分の怠慢プレーに納得せざるを得ないからね・・」

そんな言葉を、日本語とドイツ語のチャンポンでブチかましたっけ。その時は、ホントに、ちょっとリキが入った。

■「障害になる何か」を超越させるモノ・・

わたしは、『フリーランニング』も含め、『クリエイティブな無駄走り』とか、『ロジックを超越したリスクチャレンジ』などなど、サッカーを発展させるために、様々なキーワードを編み出したつもりでいる。

それらのキーワードの背景にあるべきモノ。それこそが、強い意志なのだ。

・・ボールがないところで(自分のマークすべき相手を放り出してでも!)決定的スペースへ飛び出していく意志・・相手にボールを奪われた次の瞬間に、全力スプリントで、チェイス&チェックや、後方のカバーリングへ戻っていく意志・・

・・それである。

繰り返しになるけれど、今回の(ちょっと冗長な!?)コラムでは、選手たちの意志を「正しい方向へアップさせていく」ことこそが、『バランス』を議論するうえで、もっとも重要なテーマだということが言いたかった。

選手たちの「意志と能力」を信用せず、あくまでも、堅い守備をベースにした「戦術サッカー」に奔る。

監督・コーチが、そのようなマネージメント姿勢だったら、もちろんチームは、「それ以上」に受け身で消極的なプレーに終始してしまうに違いない。

彼らは、選手たちが常に体感できるほど、リスクチャレンジへの積極的な意欲(強烈な意志)を、放散しつづけられなければならない。

「意志」さえ燃え立たせつづけられていれば、バランス感覚に欠ける「蛮勇リスクチャレンジ」を、まったく逆の、とても効果的な仕掛けに変容させられるのだ。

そんな「強い意志」のイメージ(雰囲気)がチーム内でしっかりと共有されていれば、それこそが、積極的な「リスクヘッジ」として効果的に機能するのである。

そう・・蛮勇を超越させる強烈な意志と集中力・・

そこがサッカーの奥深いところなのだ。

■優れた監督・コーチは、その心理メカニズムを深く理解している・・

ドイツサッカー史を彩るスーパープロコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーが、私に、こんなことを言った。

「いいか・・選手たちのディフェンスに対する意志が弱かったら、攻撃的なサッカーなんて望むべくもないんだぞ・・でも、その意志が充実してきたら、今度 は、積極的に攻め上がることに逡巡する選手たちの尻を引っぱたかなければならない・・そんなときに、選手たちをモティベートする効果的なアプローチがあ る・・」

「オレは、それで何度もチームを成功に導いたことがある・・それは、相手を勘違いさせるということなんだ・・相手の勢いが大きく勝っている・・だから今は戻らなければならないっていう、守りの心境にしてしまうのさ・・」

それは、本当に深い示唆に富んだ「教え」だった。

ものすごく微妙なディスカッションだけれど、敢えて・・

要は、普通だったら「バランスを欠いた蛮勇」というニュアンスの方が強い、人数を掛けた分厚いオフェンスを、(次のディフェンスを考えても!)余裕がある「積極的な押し上げ」だと選手たちが自信をもって感じられるような『イメージ環境』を整備しちゃうということだ。

もちろんそこでは、次の守備に対するチーム内での「相互信頼」を、とにかく深く、広く、定着させていかなければならないことは言うまでもない。

フ〜ッ・・

■そして、「洗練されたバランス」というテーマに回帰していく・・

何か、分かりにくいディスカッションを展開してしまったように感じるけれど・・まあ、「エイヤッ!」でアップしてしまおう。

『意志』がテーマの中心だけに、仕方ないと納得していただければ幸いだ。

とにかく、リスキーな攻撃へチャレンジしていく姿勢が、「強い意志」への確信をベースに、チーム戦術の「コア」になるような雰囲気が醸成されることを願って止まない筆者なのだ。

結果「ばかり」を追い求める「セキュリティ・サッカー」は、確実に、サッカーの本質的な価値を蝕(むしば)んでいく。

そのことを、日本サッカー界全体がしっかりと理解し、日本サッカーのステーキホルダー全員が一体となって、サッカーを、健全な発展ベクトルに乗せる努力を惜しんではいけないと思っているのは筆者だけではないはずだ。

さて・・エイヤッ!

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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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