The Core Column
- The Core Column(31)__「トラップ&コントロール」という根幹テクニック・・そして、バルサとフロンターレの「動きのリズム」・・(2014年4月1日、火曜日)
- ■天才たちのボールコントロール・・
「ウワッ!!」
いつものことだけれど、そのときも、頓狂な声を出してしまった。
バルセロナのイニエスタが、高〜く上がったロングパスを、足の甲をつかって、ピタリと、まさにピタリと足許にトラップしてしまったのだ。
それでは、マークしていた相手ディフェンダーがアタックできないのも道理。少しでも遅れたタイミングで仕掛けたら、最初の「タッチ」でボールを「別な場所」へ運ばれ、簡単に置き去りにされてしまう。
また、そのディフェンダーは、イニエスタがトラップする直前に、「アッ・・イニエスタに見られた!」とも感じていたはず。
イニエスタが、直前に、ほんの一瞬ディフェンダーへ視線をはしらせたのだ。それでは、アタックのために「寄せ」ていくのを躊躇するのも当たり前だ。
そしてイニエスタは、身体を硬直させているディフェンダーの眼前で、ピタリとボールをコントロールしながら、そのディフェンダーを「見ている」というわけだ。
そりゃ、頓狂な声だって出るさ。そして、溜息まじりに、こんな思いも脳裏をよぎるんだよ。
・・そうそう・・このトラップ&(ボールを見ない!)コントロールこそが、全ての基盤になるテクニックだっけ・・
バルセロナが展開する、人とボールが動きつづけるポゼッションサッカー。その絶対的なバックボーンに、レベルを超越したボールコントロールがあることは衆目の認めるところだろう。
そして、それがあるからこそ、彼ら独特の、人とボールが、素早く、広く動きつづける「リズム」を、高みで維持できるというわけだ。
■サッカーの根幹テクニックは、トラップ&コントロールにあり・・
サッカーのテクニックには、トラップ&コントロール、ボールキープ、キックやドリブル、フェイントやヘディング、また守備では、ショルダーチャージやタックル、守備フェイント、GKのキャッチングやパンチング、またセービングなどがある。
そのなかでも、ボール(パス)を止めて「自分のモノ」にするトラップ&コントロールは、そこから「全て」がはじまるという意味でも、サッカーの根幹テクニックと呼べるものだ。
サッカー経験がある方ならば、「ボールを止める体感」が、アタマの記憶タンクに詰め込まれているはず。根幹テクニックは、キックではなく、トラップ&コントロールなんだ。
それが(ある程度)出来るようになったところから、サッカーが、それまでとはまったく次元の違う、魅力的な「ドゥー・スポーツ」になるのさ。
■優れたトラップ&コントロールが確固たる「動きのリズム」を生み出す・・
・・そうなんだよ。
チーム戦術(サッカーのやり方イメージ)には無限のアイデアがあるけれど、そのどれを取っても、ボールがしっかり止まらないことには、何もはじめられないんだ。
ここでまた、FCバルセロナに登場してもらおう。
彼らが展開する人とボールの動きは、まさに「ドリ〜ム」だけれど、そのバックボーンには、チーム全体でしっかりとシェアされている共通の展開イメージと「動きのリズム」がある。
そして、その共通イメージとリズムを正確に「トレース」するための必須アイテムが、優れたトラップ&コントロールというわけだ。
とにかく、ヤツらのトラップ&コントロールの質は尋常じゃない。
どんなボールでも、足許にピタリと「収め」てしまったり、トラップの瞬間を狙ってアタックしてくる相手を、一発のボールタッチで(相手アクションの逆を取るようなトラップ&コントロールによって!)翻弄し、置き去りにしちゃったりする。
その超絶テクニックを見るたびに溜息が出る。でも、そこでハタと考えるんだよ。
・・とはいっても、トラップ&コントロールが素晴らしいのは、彼らに限ったことじゃない・・世界一流チームの選手たちは、すべからく、巧みなトラップ&コントロールを魅せるじゃないか・・
そう、確かに・・。
ただ、バルセロナに一日(以上)の長があるのは、彼らに、「その先」が備わっているからなんだ。
それは、チーム共通の展開イメージを確実にシェアするための優れたトラップ&コントロールであり、それによって生み出される、人とボールの動きを司(つかさど)る確固たる「リズム感」なのだ。
そう、優れたトラップ&コントロールを絶対的ベースにした確固たる「リズム感」こそが、「バルサ」が魅せつづけるスーパーな組織サッカーの根幹ファクターなのである。
■「動きのリズム」を大切にする川崎フロンターレ・・
急にドメスティックな話題へ飛んでしまって恐縮だが、深く感動させられたことで、是非ここで川崎フロンターレを取りあげたいと思った。
いまの彼らが展開する組織(パス&コンビネーション)サッカーが、とにかく秀逸なんだよ。
私のHPで書いた文章の引用だけれど・・
いまのフロンターレでは、とにかく、組織(パス)サッカーの「リズム」が素晴らしい。
トラップ&パス&ムーブ&リターンパス&トラップ&パス&ダイレクトパス・・etc・・ってな感じ。
とにかく、「次の展開」を明確にイメージ(シェア)する、素早く、正確なトラップ&コントロールが素晴らしいんだ。だからこそ、リズミカルに、次から次へとボールを素早く動かしつづけられる。
チーム全体が、ある一定の、人とボールの「動きのリズム」で統一されているフロンターレ。風間八宏が掲げるコンセプトが、花開きつつあると感じる。
チーム全体が明確にシェアする、「動きのリズム」。繰り返しになるけれど、その大前提こそが、優れたトラップ&コントロールなのだ(もちろん、柔軟にダイレクトパスもミックスするよ!)。
またそこには、その「動きのリズム」のなかに、レナトや大久保嘉人という天才が繰り出すドリブル勝負も、しっかりと「組み込まれている」という大事なポイントもある。
もちろんこの二人とも、基本的には、チーム全体の「動きのリズム」に積極的に乗っていく。でも一度、スペースに入り込んでフリーでボールを持てたら、躊躇(ちゅうちょ)なく、ドリブル勝負に「も」チャレンジしていくんだよ。
天才ドリブラーの勝負チャレンジだからね、普通だったら、周りの味方は「様子見」になってしまうことが多いでしょ。でもフロンターレは違う。
チームメイトたちの「動きのリズム」には、イメージとして(!)そのドリブル勝負も組み込まれているんだよ。だから、人の動きが止まってしまう(様子見になってしまう!)ことがない。
また、ドリブル勝負にチャレンジする天才連中にしても、そのまま抜け出していくだけじゃなく、最後の瞬間に、(確固たるリズム感をトレースするように!!)スペースへ抜け出したチームメイトへ、ラストスルーパスを送り込むというオプション(選択肢)だって持てる。
とにかく、優れた「動きのリズム」というテーマには、変化や最終勝負の「オプションの広がり」といった攻撃のコノテーション(言外に含蓄される意味!)も内包されているということだ。
■優れた「動きのリズム」が目指すところは・・
攻撃の目的はシュートを打つこと。ゴールは単なる結果にしか過ぎない。
そして、その目的を達成するための当面の目標イメージは、何といっても(決定的なウラの!)スペースを攻略することだ。
たしかに、ドリブル勝負でディフェンダーを抜き去れば、その「目標」を達成できる。ただ、やはり原則は(パス)コンビネーションによるスペース攻略なのだ。
そう、優れた「動きのリズム」が目指すところは、パスコンビネーションで、相手守備ブロックの穴(=スペース)を突いていくことなのである。
素早く、広く、確実にボールを動かせば、相手の意識と視線を引きつけること(足が止まったボールウォッチャーにすること!)だって容易だろう。
そして、そのことで空いたウラの決定的スペースを、爆発的なレシーバーの動きと鋭いヤリで(=スルーパスで!)一気に突き通してしまうのである。
■最後は、フロンターレのスーパーゴールで締めよう・・
2014年「J」シーズン第5節、フロンターレ対グランパス戦での決勝ゴールシーン。後半23分のことだ。
センターサークル付近でタテパスを受けた大島僚太。
一発トラップ&コントロールで前を向き、次の瞬間には、最前線の右サイドにいる小林悠の足許へ、ズバッという強烈なグラウンダーのタテパスを送り込む。
事前に周りの状況が「見えて」いたからこその早業(はやわざ)。
そして、そこからの人とボールの動きが、まさに秀逸の極みだった。もちろん、そのバックボーンに、確固たる「動きのリズム」があったことは言うまでもない。
勝負のコンビネーションはつづく。
トラップ&コントロールで素早くボールを「自分のもの」にした小林悠から、彼を追い越した牛若丸(中村憲剛)へ、そして、外に開いている森谷賢太郎へと、素早くボールが動きつづける。
森谷賢太郎は、ダイレクトで、寄ってくる小林悠へボールを「戻し」、その小林悠が、上がりつづけていた牛若丸へボールを「戻し」たのだ。
この時点で、(決定的スペースで!)ボールを持つ牛若丸は、完全にフリーになっていた。
そう、まさに、完璧な『最終勝負の起点』である。
ここで、ちょっと脱線し、「ボールが戻ってくる」という現象について・・。
フランツ・ベッケンバウアーが、ニューヨーク・コスモスでプレーしていた頃、こんなニュアンスの内容を、ドイツのメディアにコメントしたことがあった。
「アイツら、ホントに下手くそなんだよ・・何せ、一度オレがパスを送ったら、もう二度とボールが戻ってこないんだからな・・」
フランツは、ハイレベルなボールポゼッションのことを言っていた。優れた「ボールの動き」がなければ、創造的な変化に富んだ攻撃なんて出来っこない・・。
彼は、低級なサッカーを、「ボールが戻ってこない・・」というキーワードで表現したのである。
でも、フロンターレは違う。
彼らのポゼッションサッカーでは、タテ方向の(リスキーな!)ボールの動きが活発であり、その流れのなかで、スムーズに、そして効果的にボールが「戻され」るのだ。
そのときも、忠実な「パス&ムーブ」でスペースへ入り込んだ牛若丸へ、しっかりとボールが戻されてきたというわけだ。
そして、フロンターレが演出した目まぐるしいボールの動きが、グランパス守備の視線と意識を奪い、彼らの思考とアクションをフリーズさせてしまう。
グランパス守備は、自分の周りで起きている、(ボールがないところでの!)フロンターレの仕掛けアクションを十分にケアーできなくなっていたのである。
そのとき、自軍ゴール前の決定的スペースで、フリーの大久保嘉人がラストパスを待ち構えていたにもかかわらず・・。
そして案の定、素早く(一発で!)ボールをトラップ&コントロールして振り向いた牛若丸から、大久保嘉人へのラスト(クロス)パスが送り込まれた。
たしかに、グランパス牟田雄祐のタックルが数センチ「遅れた」という幸運にも恵まれたけれど、その直前にフリーになった大久保嘉人に、正確で鋭いラストパスが送り込まれたという事実は重い。
最後は、これまた素早いトラップ&コントロールでボールを収めた大久保嘉人が、冷静にグランパスゴールへ蹴り込んだ。
それは、風間八宏が志向するサッカーコンセプトを、まさに夢のように体現した決勝ゴールだったのである。
私は、心のなかで、風間八宏に拍手をおくっていた。
牛若丸(中村憲剛)を中心に演出された、美しすぎる決勝ゴール。
それは、「トラップ&コントロール」と「動きのリズム」を中心にコラムを書こうと思ったことの大きなモティベーションだった。
ホントだよ・・エイプリルフールじゃないよ・・あははっ・・
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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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