The Core Column
- The Core Column(35)_守備のエッセンス・・ アンティシペーション(≒想像力)・・そして、フランコ・バレージ・・(2014年4月29日、火曜日)
- ■バレージが魅せたスーパーカバーリング・・
オ〜〜ッ!!
そのとき、息を呑み、そして驚嘆の声が出た。
1994年アメリカワールドカップ決勝。イタリア対ブラジルのワンシーン。
イタリア守備ブロックの至宝、フランコ・バレージが、ブラジルの絶対的チャンスを、身を挺(てい)して防いだのだ。
その顛末は、こうだ。
ブラジルの中盤で気を吐くマジーニョが、アルベルティーニとドナドーニの間をドリブルですり抜け、そのままイタリアゴールへ迫ろうとしていた。
その前に立ちはだかったのが、フランコ・バレージ。
もちろんマジーニョは、バレージと勝負することだけは避けたかったに違いない、次の瞬間、スパッと、左へ「カット」し、中央へ切れ込んでいった。
イタリアのゴール正面を、ペナルティーエリアの外枠に沿って(バレージから見て)左から右へドリブルするマジーニョ。
その眼前には、バレージの良きパートナーであるマルディーニがマークする(ブラジルのストライカー)ベベトがいる。そして、その後方には・・。
そう、まったくフリーのロマーリオが、「漁夫の利」シュートをブチかまそうと、虎視眈々と待ち構えていたのだ。
ロマーリオは、横へドリブルするマジーニョが、ベベトを「飛び越え」、その背後にある(自分が狙っている!)決定的スペースへ、ラスト横パスを出すと確信していた。
でもそこには、もう1人、そんなロマーリオの確信イメージを「感じ取って」いるプレイヤーがいた。
そう、フランコ・バレージ。
彼には見えていた。ドリブルするマジーニョが、ロマーリオの前に空いた決定的スペースへラスト横パスを出す(未来の!)シーンが見えていたのだ。
素晴らしいアンティシペーション(予想)能力。そう、想像力。
バレージは、そのラスト横パスが出される瞬間・・、いや、そのラスト横パスが出される直前のタイミングで、「シフトダウン」してフル加速し、その最終勝負スポットへ急行したのだ。
ベベトと、(マルディーニからベベトのマークを受け渡された!)イタリア右サイドバック、ムッシの「背後を通り抜け」ていくバレージ。
そして最後の瞬間、身体を投げ出し、見事に、ロマーリオのダイレクトシュートをブロックしたのだった。
最初に、マジーニョの前に立ちはだかってから、最終勝負スポットまで移動した距離は10メートルくらいだったろうか。
その間バレージは、仲間のマルディーニとムッシ、ブラジルのベベト、そしてもちろん、ラスト横パスを出したマジーニョという4人のプレイヤーを追い越していた。
それは、自軍ゴール前を横切る、全力ダッシュのスーパーカバーリングだった。
もちろんバレージは、右サイドバックのムッシが、ベベトとマジーニョにばかりに気を取られ、自分の背後にある(ロマーリオが狙う!)決定的スペースが最終勝負スポットになることなどまったくイメージできていないことを、百も承知だった。
だからこそ、「エイヤッ!!」という意志のパワーで、最終勝負スポットへ飛び込んでいったのだ。
それは、いまでもヨーロッパエキスパートの間で語り継がれている「伝説的な守備シーン」なのである。
■ディフェンスを、限りなく主体的、能動的なモノへと進化させる・・
守備の目的は、相手からボールを奪い返すこと。ゴールを守るというのは「結果」にしか過ぎない。
そして、誰もが知っているように、ディフェンスは、相手の攻撃アクションに「反応する」というのが基本メカニズムであり、ほとんどの場合、受け身にプレーせざるを得ない。
でもこのコラムでは、そんなディフェンスを、限りなく能動的で主体的なモノへと進化させていくことをテーマにディスカッションしたい。
そんな主体的な能動ディフェンスが結実した最高のクリスタル(結晶)こそが、美しいインターセプトなのである。
■守備(ボール奪取)のスターは、何といってもインターセプト・・
フランコ・バレージが魅せた、伝説的なスーパーディフェンス。
それは、分類としては、まあカバーリングに入るんだろうけれど、そのバックボーンは、インターセプトと同じだ。
そう、アンティシペーション(予想能力)。
前述のスーパーカバーリングは、バレージが、マジーニョのラスト横パスを、完璧に「予想」できていたから成就した。
そんなカバーリングに対して、パスを、レシーバーが触る前に、その相手とフィジカルコンタクト無しに奪い取ってしまう(パスをカットしてしまう!)のがインターセプトだ。
とてもスマートで美しい守備(ボール奪取)。
ただ、それを成就させるためには、カバーリングと同様に、次のパスを確実に予想する能力と、それを実行する勇気が問われる。
私は、ここで言うアンティシペーションを「想像力」とも表現するのだが、そのバックボーンは、「経験ベースの感覚」や、それをバックボーンにする「自信」などであり、それによって得られる「心の余裕」なのだと思っている。
それがあるからこそ、「確信」をベースに、リスク(インターセプト)にもチャレンジしていける。それも、中途半端な「反応」アクションではなく、主体的な全力アクション(強烈な意志の爆発!)だ。
言葉を換えれば、「経験を自分のモノにするチカラ」とか、「そこで培われた感覚的な能力」とも言えそうだ。そして、それらが、「自信」という「心の余裕」を生み出すというわけだ。
もちろん、そんな心理・精神的ファクターを確立するプロセスは、人によって千差万別なんだろうけれど・・。
そして、そのクリスタル(結晶)として、美しいインターセプトが演出される。
そんな、(人によって千差万別の!?)心理ベースを確立していくプロセスは、確かに興味深くはあるけれど、ここで、そのテーマをディスカッションしようとは思わない。
そうではなく、美しいインターセプトを目指す上で、もっとも重要な、個人的、組織的なファクターに注目したいのだ。
まず個人的なファクターだが、その第一が、「主体的に考えつづける」という姿勢を高みで安定させることだ。そう、優れた学習能力。
繰り返しになるけれど、それは、様々な経験(体感)を、本当の意味で「自分のモノにするチカラ」ととも言い換えられる。それがあって初めて、美しいインターセプトを成就させられる。
そして、もう一つ。組織的なファクターがある・・。
■イメージがシンクロしたディフェンスの「連動性」こそが命・・
インターセプトという美しいクリスタル(結晶)を生み出すための、組織プレー。
そう、どのように相手からボールを奪い返すのかという守備のチーム戦術(プロセスイメージ)と、それを基盤にした「ディフェンスアクションの連動性」だ。
チェイス&チェック(守備ハードワーク)を忠実に繰り返すだけではなく、同時に、周りの守備アクションも連動させることで、相手攻撃の「自由度」を抑制していく。
もちろん「それ」には、パスの可能性を狭めるという意味も含まれている。そして、だからこそ、その忠実なアクションが、次の美しいインターセプトを生み出すとも言えるのだ。
■連動性の絶対的なバックボーンは、守備のハードワーク・・
忠実なチェイス&チェック(ハードワーク)によって、相手の「自由度」を抑制するからこそ、周りのチームメイトたちが、より明確に、次のボール奪取勝負の具体的なイメージを描ける・・と書いた。
もちろん、「あの」バレージにしても、チームメイトのハードワークなしには、「次」を正確に予想するのが難しいことは言うまでもない。
これは、本当に大事なポイントだ。そう、粘り強いハードワークこそが、美しいインターセプトの絶対的ベースなのである。
もちろん、ハードワークを遂行する選手と、クリエイティブワーク(美しいインターセプト)を創造する選手は、その時々の状況によって変わってくる。その役どころを、事前に決めておくことなど出来ない相談だ。
だからこそ、全員が、「チームメイトにボールを奪い返させる・・」という発想でプレーすることがスタートラインなのだ。
そう、「味方に使われる」というマインドの、ハードワーク遂行姿勢が基本なのだ。そのなかで、たまには、インターセプトを魅せるチャンスも訪れるだろう。
もっとも次元の低いディフェンス姿勢は、「アナタ走る人・・ワタシ、ボールを奪う人・・」なんていう高慢なマインドなのだ。
とはいっても、フランコ・バレージのような「天才リベロ」が守備ブロックを引っ張っている場合は、チト違う。
そこでは、守備ハードワークに徹することで、バレージに最後のカバーリング(インターセプト)を任せるというイメージでプレーするのが最善だという共通理解があるのだ。
もちろん、あくまでも自然発生的に「そうなっていく・・」というニュアンスだけれど・・。
繰り返すけれど、そんな、「互いに使い・使われるというメカニズム」を、最高に機能させるための大前提は、誰もが、「味方にボールを奪い返させる・・」というマインドで、「まず」守備のハードワークからゲームに入っていくことなのである。
■そして最後に、「個」の意志と勇気こそが効果的「ブレイク」の源泉というテーマも・・
冒頭の、フランコ・バレージが魅せたスーパーカバーリング。
もちろん、バレージの優れた感覚(才能)がバックボーンだけれど、そこには、深い自信に支えられた意志と勇気という要素もあった。
勝負スポットに、より近い(より有利な状況にある!)チームメイトがいるにもかかわらず、自分が率先して、リスキーな勝負に打って出るという強い意志と勇気である。
相手ボールホルダーに気を取られ、次の決定的スペース(最終勝負スポット!)をイメージできていないチームメイトがいる。それは誰にでも起こり得る。
それに対して、そんな「イメージ空白プレイヤー」が置かれている状況とは関係なく、「オレがやる・・」という強い意志と勇気をもって、リスキーな最終勝負をブチかましていく選手がいる。
ここが、サッカーのサッカーたる所以なのだが、(繰り返しになるけれど!)そんなイメージ空白プレイヤーと、想像力あふれる創造プレイヤーは、どんどん入れ替わっていくんだよ。
だからこそディフェンスは、互いに「使い、使われながら」助け合わなければならないというわけだ。もちろん、(またまた繰り返しになるけれど・・)バレージのような天才がいる場合は、ちょっと事情が違ってくるけれど・・。
ところで、そんな、ボール奪取アタックを仕掛けていく最終勝負シーン。
そこでは、必然的に、守備のチーム戦術に則った基本ポジショニングのバランス、カバーリング(マーキング)といった決まり事を、放り出さざるを得ない。
私は、そんなディフェンスの最終勝負プロセスを、単に「ブレイク」と呼ぶことがある。
そう、基本タスクを超越した、まさに「自分主体」のリスクチャレンジのことである。
その瞬間、意志と勇気のカタマリとなったチャレンジャーは、戦術的な「決まり事」から自らを解放し(ブレイクし!)、もっとも大事なコト」に全力で立ち向かっていく。
守備で「も」、最後は、「個」の意志と勇気が雌雄を分けるのだ。
そのことが言いたかった。
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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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