The Core Column


The Core Column(40)_勝負はボールがないところで決まる・・フリーランニングと日本代表・・(2014年6月3日、火曜日)

■スペース攻略という、めくるめく快感・・

「出せ〜〜っ!!」

そのとき私は、ありったけの声を張り上げながら、フリスプリントで決定的スペースへ抜け出した。

そう、最終勝負の全力フリーランニング。

それは、ドイツ留学中に私がプレーしていたチームでのワンシーンだ。

もちろん、マークしていた相手ディフェンダーがボールを見た瞬間を狙ってスタートした。

また、走り方にしても、オフサイドを避けるため、まずセンターゾーンへ入っていき、仲間のボールホルダーが、タテパスを出せるタイミングを狙って、ウラの決定的スペースへ急激なギアチェンジで飛び出した。もちろん「回り込み」という動きの変化を入れながら。

そんな「工夫」が功を奏し、ベストタイミングで送り込まれたスルーパスを、まったくフリーで受けることができた。

それは、まさに、決定的スルーパスを「呼び込む」勝負のフリーランニングだった。そして、飛び出してきたGKの「鼻先」で、ゴールへのパスを決めた。

快感のガッツポーズ。私は、恥ずかしながら、自分のアクションに酔っていた。

そして、ここが大事なポイントなのだけれど、その快感が、脳裏の記憶タンクに深く刻み込まれ、その後も、チャンスになりそうな状況になったら、常に、その「イメージ」が呼び覚まされるようになったのだ。


いや、呼び覚まされる・・というよりも、身体に染みついた「感覚」として、チャンスになりそうな状況には、「自然と身体が動き出す・・」ってな表現の方が正確かもしれない。

そして、プレーの進化を実感する。

それは、発展へのモティベーションという意味合いでも、とても大切な「感覚」だったのだ。

そう、優れたプレーの絶対的バックボーンは、何といっても、「成功と失敗の体感」を積み重ね、それを脳裏に(血のなかに!?)刻み込んでいくことなのである。

■3人目の動きの成功体感・・そして、「次」をイメージしていなかった失敗体感・・

そのとき、「何か」を感じた。

多分「それ」は、最前線のセンターゾーンで、後方からのタテパスに備えていた味方ワントップが、一瞬投げた視線だったのだろう。

そう、アイコンタクト。

「アッ・・ヤツが、オレを見た・・これは、来る・・」

次の瞬間、中盤にいる味方ボールホルダーから、ズバッという強烈なグラウンダーパスが、そのワントップの足許へ送り込まれた。

そのときの記憶は定かじゃないけれど、多分、中盤の味方ボールホルダーがタテパスを出した瞬間には既に、自然と身体が動いていたと思う。

もちろん、味方ワントップの横に空いたスペースへのフルスプリントだ。

そして案の定、そのワントップが、ダイレクトで、私が走り込む私の眼前スペースへ、まさに「置く」ようにボールをコントロールしたんだよ。素晴らしいダイレクトパスだった。

でも・・

そのダイレクトパスは、まさに理想的な強さとコースに送られてきた。私が、良い体勢でボールをコントロールできるのも道理だ。

でもそのときの私は、今でもはっきりと思い出せるのだが、次の最終勝負へ向けた「プレーの流れ」を、まったくイメージできていなかったのだ。

フリーでボールをコントロールしたにもかかわらず・・。

それは、まさに最終勝負の「起点」じゃないか。でも私は、事前に、そこからの「次の勝負プレー」をイメージできていなかったんだよ。

案の定、私がスタートを切ったのと、ほぼ同時に、「その先」の決定的スペースへ、他のチームメイトが走り込んでいた。そう、4人目の動き。

でも私は、最終勝負パスを出せなかった。つまり、私のところで、その「ダイレクト・コンビネーション」が途絶えてしまったということだ。

「ヘイッ!!」

もちろんその「4人目」のパスレシーバーは、怒りをぶつけてくる。

「アッ!」

私は、その怒りエネルギーをブチかまされる直前には、「4人目の動き」に気付いていた。でも、そのフリーランニングに合わせた「次の勝負イメージ」を描くのが遅れた。

またそこでは、「失敗したくない・・」というネガティブな意識が作用していたかもしれない。

もし、事前に「4人目の動き」まで明確にイメージし、「そこ」へもダイレクトでパスを回せていたら・・。

でも私は、そんな、相手の急所を突く必殺コンビネーションをポシャらせてしまった。

そのとき、自分に腹が立った。4人目の動きを忠実に実行したチームメイトへの済まないという気持ちもあった。

たしかに大きな失敗だった。でも逆に、そこには、ポジティブな「学習機会」という要素もあった。

その失敗は、私にとって、これ以上ないほどの「刺激」にもなっていたのだ。

強烈な「刺激」をともなった苦い失敗体感。

だからこそ脳裏に「より」深く刻み込まれ、コンビネーションイメージを進化させていくための「意義深い記憶」になったのである。

■「フリーランニング」という概念・・

このコラムで取りあげたかったテーマは、ボールがないところでの動きの量と質。

それは、コンビネーションを成就させるための絶対的ベースだ。

その代表格が、相手マーカーから「フリー」になってスペースへ走り込むフリーランニング。

スペースでパスを受けるだけじゃなく、相手マーカーを「引きつける」ことで、味方が使えるスペースも作り出せる。そこには、様々な意味合いが内包されているのだ。

ところで、この「フリーランニング」という表現だけれど、それを使いはじめたのは、たぶん私が最初だと思う。1995年に刊行した初の著書、「闘うサッカー理論(三交社)」で登場させた。

実は、この表現は、ドイツ語の「Freilaufen」の直訳なんだ。まあ、私の功績は、その言葉の末尾を「ing」という分詞形にしたことくらいかな。

とにかく私は、ドイツ留学中に、このコンセプトを叩き込まれたんだよ。

そう、ボールがないところでの、積極的、主体的なアクション。だから私は、「パスを呼び込む(引き出す)動き・・」などとも呼ぶ。

ここで、例によっての「ちょっとした寄り道」だけれど・・

もちろん、止まっていても、パスを受けたりスペースを作るという目的のために、動くよりも効果的なケースだってある。

だから私は、総称として、「ボールがないところでのアイデア(イメージ創造)と物理アクションの実効コラボレーション」なんて呼ぶこともあるわけだ。

とにかく、どんな(ボールがないところでの)プレーでも、当面の目標はスペースの攻略であり、最終目的がシュートであることに変わりはない。

■そして、スペースの攻略というテーマに回帰していく・・

スペース攻略は、(決定的)スペースで、ある程度フリーでボールを持つこととも言い換えられる。

そして、(いつも書いている通り)そのプロセスには、大きく分けて二つある。

一つは、才能ドリブラーが、相手を抜き去ってスペースへ入り込んでいくこと。

そしてもう一つが、フリーランニングとパスを組み合わせるコンビネーションによって、ある程度フリーでボールを持つチームメイトを演出することだ。

もちろん、スペース攻略のプロセスでは、ドリブル(個人プレー)と組織パスコンビネーションを分けて考えることなんて出来るはずがない。

実際には、この二つの要素が、常に組み合わされているのだよ。

でもサ・・、一つのスペース攻略(シュートへの!)プロセスで、勝負ドリブルと組織パスコンビネーションのどちらが、もっとも重要なプレー要素なのかは、明らかでしょ。

そう、スペース攻略(≒シュート)を演出する決定的アクションの主役は、何といっても組織パスコンビネーションなんだよ。

それこそが、サッカーが「パスゲーム」だと言われる所以なんだ。

言葉を換えれば、組織コンビネーションのなかに、ドリブル勝負というスパイス(≒仕掛けの変化)を、いかに効果的にミックスしていくのかがテーマというわけだ。

もちろん、ディエゴ・マラドーナには、そんなサッカーの常識なんて、まったく当てはまらないけどサ。あははっ・・

■最後は、ボールがないところで勝負を決める日本代表というテーマで締めよう・・

前述したように、スペース攻略(=シュート)の王道プロセスは、組織パスコンビネーションだ。

そして、「ホンモノのドラブラー」がいない(今の!)日本代表チームの強みも、「そこにしか」ない。

だからこそ、パスを受けるための、ボールがないところでの動きの量と質が、決定的に重要な意味をもってくる。

もちろん、ここで、ボールがないところでのパスレシーブの動き(フリーランニング)をケーススタディしようなどとは思わない。何せ、サッカーでは同じプレーは二度とないからね。

とにかく、言いたいことは一つだけ。

それは、ザック・ジャパンもまた、「なでしこ」同様に、組織サッカーを絶対的なベースとして勝負に臨んでいく以外に「道」はないということだ。

活発に、そして創造的に、人とボールを動かしつづける組織(パス)コンビネーションによって、相手守備ブロックの穴(スペース)を攻略していくのである。

だからこそ、ボールがないところでの動き(≒フリーランニング)の量と質をアップさせていかなければならない。

そして、「勝負はボールがないところで決まる・・」という普遍的コンセプトの化身として、世界中に日本サッカーをアピールする。

いいね〜・・、今から期待が高まるじゃないか。

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(告知)

実は、私も、決勝までの1ヶ月間、ブラジルで過ごすのですよ。そう、ブラジルW杯。もちろん、プレスIDの申請も、承認されています。

とはいっても、交通インフラなどが厳しいブラジルだから、ドイツW杯の時みたいに多くのゲームを見られるわけじゃない。まあ、とにかく今は、ブラジルのサッカー文化を堪能しようと意気込んでいる次第なのです。

ということで、「The Core Column」と「My Biography」は、しばらくお休みにします。まあ、とはいっても、「不定期」でコラムをアップするかもしれないけれど・・。

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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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