湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第9節(2006年4月23日、日曜日)

 

攻守にわたる全力の仕掛けプレーに対する強烈な意志が基盤になっているからこそ、動と静のバランスが高みで安定しはじめたヴァンフォーレ・・(ヴァンフォーレ対マリノス、1-0)

 

レビュー
 
 「(プロ)サッカーはエンターテイメントだ・・」。しっかりと自らのサッカー内容で勝ち取った劇的なヴァンフォーレの勝利を観ながら、昨シーズンのレイソルとの入れ替え戦で昇格を決めた大木監督が、記者会見でそんなことを言っていたのを思い出していましたよ。

 エンタメ・・?! 当時の大木さんは、「それは、観客の方々がもう一度観たいと思うようなサッカー・・」と定義したものです。そして「J1」に昇格した今シーズン、そのコンセプトを見事に体現した魅力あふれるサッカーで輝きを放つヴァンフォーレ。まあ、大したものだ。安全・安定指向の(勝利至上主義の)戦術(規制)サッカーではなく、攻守にわたり、あくまでも「自ら仕掛けつづける」積極サッカー。それについては、当時の入れ替え戦をレポートしたコラムを参照してください。

 サッカーの魅力の本質は、何といっても「才能ベースの美しさ」です。でも、それ以外にも、魅力を形作るファクターは多いと思っている湯浅なのですよ。例えば・・。

 イレギュラーするボールを足で扱うという不確実性がスタートラインだから、サッカーの基本的な特性は、瞬間的に変化する状況のなかで、常に主体的に(=自由に)プレーせざるを得ないボールゲーム・・っちゅうことになるでしょう。要は、状況を的確に判断し、素早く決断して、勇気と責任感をもって「吹っ切れた」能動アクションを実行していかなければ、決して良いサッカーを展開することは叶わない・・ということです。もちろん、そのアクションには、常に多くのリスク要素が内包されている。だからこそ、それを実行していくためには、本質的な「闘う強い意志」が必要になってくるというわけです。そしてそこにも、サッカーの魅力の本質的な部分がある。ロナウジーニョに代表される天賦の才によって演出される「美しさ」だけではなく、そんな闘う意志もまた、観る人々に感動を与えるものなのです。

 ヴァンフォーレの選手たちは、(なるべく高い位置で)相手からボールを奪い返すという守備の目的と、シュートを打つという攻撃の目的を達成するために、一人の例外なく、常に「仕掛け」つづけます。とにかく、ボール絡みでも、ボールがないところでも、守備でも、攻撃でも、仕掛けつづける。その絶対的なベースは、もちろん豊富な運動量。シーズン当初は、その運動量が非効率に空回りしたことで、後半に運動量がガクッと減退するということが頻発したけれど、それでも大木さんは、決して「戦術に逃げ込む」ようなことはなかった。

 いくつかのヴァンフォーレの試合を観察したけれど、とにかく彼らは、攻守にわたって主体的に仕掛けつづけることで、とことんサッカーを楽しんでいると感じますよ。相手がマリノスだろうと、ビビることなく、とにかく全力で仕掛けつづける・・だからこそ、攻守にわたって、一つひとつのプレーが「有機的に連鎖」しつづける・・一人ひとりが脳裏に描く組織的な仕掛けイメージが高い確率で現実のものになっていく(ボールのないところでの忠実な動きをベースに、幅と深さのある素早いショートパスコンビネーションが、仕掛けのコアツールとして機能しつづける!)・・だからこそ、主体的にサッカーを楽しめる・・ファンにとっても、そんな全力の闘う意志を前面に出して楽しみつづける選手たちを観るのは楽しいことに違いない・・それが観戦リピートにつながる・・。素晴らしい善循環じゃありませんか。

 ヴァンフォーレは、攻守にわたる全力の仕掛けプレーに対する強固な意志が基盤になっているからこそ、動と静のバランスが高みで安定しはじめていると感じます。誰もが、攻守にわたる仕掛け(リスクチャレンジ)へ向けた強固なマインドを持っている・・だからこそ、足を止めている場面でも、それは「無為な空白」ではなく、あくまでも「次の爆発のタメ」だと捉えられるし、そのことをチームメイトたちも確信できる・・だからこそ相互信頼のレベルが際限なく高揚していく・・。ヴァンフォーレの善循環は、どこまでつづくのか・・。

 



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