湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第12節(2010年5月16日、日曜日)

 

結果とは関係のないポジティブな視点でベルマーレを見ていた・・また、ガンバの宇佐美貴史についても・・(BvsGA, 1-3)

 

レビュー
 
 「それは・・そう言って頂けるのは嬉しい限りですが、何せ結果が明確になってきていますからネ・・」

 「1-3の敗戦という現実があるのに、こんな質問は場違いかもしれませんが・・ 前回のゲームのときも(たしかベガルタ戦)反町さんがおっしゃっていたように、わたしは、ベルマーレのサッカーが上向いていると思っているのですよ・・この試合でも、選手一人ひとりがしっかりと(攻守にわたって)仕事を探しつづけられていたし・・」

 反町康治監督が、わたしの(ちょっと骨子がボケまくった)質問に対して、冒頭のようなコメントを出してくれました。いや・・ホントに・・ベルマーレのプレーは、より自信に満ちたモノになっていると思いますよ。

 でも、だからこそ、ガンバとの「個のチカラの差」とか「局面での競り合い内容の差」を(反町康治監督も明確にコメントしていたように・・)より明確に体感できてしまうのかもしれない。

 要は、ベルマーレ選手が、しっかりと(強い自覚と意識をベースに、攻守にわたって)仕事をさがしつづけ、そこで脳裏に描写したプレーイメージを、全力で達成させようとアクションを仕掛けていくからこそ(積極的にガンバ選手へ向けて仕掛けていこうとするからこそ!?)より明確に、ガンバ選手との「個のチカラの差」が浮き彫りになってしまうということです。

 特に、後半は、かなり「やられ」ていた。いや・・、守備ブロックは、ゲームの最後まで、「破綻」というレベルまで崩されず、どちらかといったら、ある程度は安定してガンバの仕掛けを受け止められていたと思う。ただ、攻撃が・・ネ・・

 仕掛けで「究極の組織プレー」を繰り出していくためには、相手よりもたくさん走ることで、より多く、局面で「数的優位」を演出しなければならない。ただ、後半のベルマーレには、そんな究極の組織プレーを演出できるほどの(ガンバを凌駕するくらいの)運動量があったというわけじゃなかった。だから、瞬間的な局面では、やはり一対一の勝負シチュエーションが目立つようになってしまう。そこでは、明らかに、ガンバに一日以上の長があるからね。

 「たしかにガンバは、まだまだ本調子ではないし、外国人プレイヤーも含めて、ケガ人も多かった・・そんなガンバに、もちろん我々も多くのケガ人を抱えているとはいえ、最後は、明確な差を体感させられるカタチで負けてしまうというのが現実だったということです・・」

 反町康治監督のマインドは、ちょっとネガティブに傾き過ぎていたのかな・・!? もちろん最後は、例によってのユーモアで我々の笑いを誘うことは忘れなかったけれど、たしかに現実は厳しいかもしれないネ。

 要は、反町康治監督とチョウ・キジェコーチのコンビは、選手たちのチカラを十二分に引き出すような(それを組織的にうまくまとめ、ユニットとして機能させるような!)良い仕事を積み重ねてはいるけれど、いかんせん、選手の潜在能力に限界があることも確かな事実だということです。

 でもサ・・にもかかわらず、ここでいう「選手のチカラの限界」なんて、実際には、誰にも分からないということも確かな事実だよネ。必然的な(ロジカルな)努力を、全力で積み重ねていけば、必ず、何らかの成果を得られるものだと思うわけです。

 きれい事じゃなく、フットボールネーションにおける激烈にハードなトレーニングを数限りなく体感しているわたしは、本音でそう思う。もちろんベルマーレのプロセスでも、「それ」に準ずるくらい血ヘドを吐かなければならない。反町康治監督も、そのメカニズムを十分に理解しているでしょ。フムフム・・

 ところでガンバ大阪。西野朗監督が、冒頭で、こんなニュアンスのコメントをしていた。

 「ACLの敗退は、とてもショッキングな出来事だった(わたしは、お恥ずかしながら、気が萎えてしまってレポートしなかったけれど、その試合は、確かに、あからさまなホームタウンディシジョンのオンパレードだった!)・・ということで、今日のゲームは、そんな出来事から、日常のリーグ戦へと(気持ちを)切り替えるプロセスという捉え方もできると思う・・たしかに(ACLから何かを引きずっていた!?)前半の出来は良くなかった・・ただ後半は、うまくペースアップできたと思うし、タイミングよくゴールも決まってくれた・・この試合は、我々の良さと悪さの両面が出たゲームだった・・」

 また西野朗監督は、「いまの時点では、まったく上位が見えない状況にある・・この中断期間を利用して、さまざまなアプローチをしていかなければならないと思っている・・」と、ちょっと意味深なニュアンスの発言をしていた。ということは、既に、新外国人選手の目処がついている!? さて・・

 そんな新戦力のハナシが出たところで、こんな質問を投げかけてみた。テーマは、宇佐美貴史。

 「彼のような天才的な才能に恵まれた若者を、正しいベクトルへと導いていくのプロセスでは、どんなポイントが大事だと思うか?・・彼は、とにかく絶対的な運動量が不足している・・また、ディフェンスしない、ボールがないところで走らずに常に足許パスを要求する・・だから、仕掛けの流れに乗れない、乗らない・・周りのチームメイトも、仕掛けの流れがスタートしたら、完全に宇佐美を無視している・・彼らは、どうせヤツは走らないと思っているフシがある・・と思うのだが?」

 「彼のことを天才だなんて形容しないで欲しい・・そんな風にメディアが持ち上げることが、彼の発展を大きく阻害する・・湯浅さんも、彼の才能のレベルはよく分かっているはず・・そう・・彼は、まだまだ積み上げ(才能を本当の意味で開花させるための何らかの刺激!?)を必要としている・・もちろん、彼には、世界を見据えて発展しつづけて欲しいとは思っている・・ただ、結局は本人次第だから・・いまの彼は、自分がやりたいプレーのイメージを最優先している・・一度パスを受けてタメてから、コンビネーションやドリブルをスタートさせるとか・・わたしは、今の段階では”それ”でいいと思っている・・もちろん彼は、自分のイメージやプレーが通用しないという状況も経験するはず・・そこではじめて何らかの自覚が芽生えてくる・・そんなプロセスを経て、カラを破るのも、閉じこもってしまうのも彼次第・・もちろん我々も、できる限りのことはする・・でも最後は、自分自身の自覚がすべてだという事実は変えられない・・」

 西野朗監督が、そんなニュアンスのことを言っていた。わたしは、その言葉を聞きながら、そうだよな〜〜・・結局は選手自身の自覚次第なんだよな〜〜・・などと、わたし自身の経験も踏まえて、さまざまな事象を反芻していた。

 もちろん、選手を覚醒させるウデには確かなモノがある西野朗だからこその発言なんですよ。怒りや憎しみも含めた「人間心理のダークサイドパワー」も駆使する心理マネージメント。そのメカニズムを知り尽くしているからこその発言。そのメカニズムは、本当によく分かる・・

 何せ、覚醒しそうになったときに、用意してあった「逃げ場所」に避難してしまったり、「バカな取り巻き」が、その避難場所を提供したりするような次元の低い(インテリジェンスのレベルが十分ではない!?)選手も多いわけだからネ。特に、カネの動き方が尋常じゃなくなっている現代サッカーでは、「環境」が、とても不自然に「膨らみ過ぎて」いると感じるわけです。

 最後は自分自身の自覚・・。そんな西野朗監督の言葉には、本当に共感しますよ。フムフム・・

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 ところで、三年ぶりに新刊を上梓しました。4月14日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定したらしい。フムフム・・。タイトルは『サッカー戦術の仕組み』。岡田ジャパンの楽しみ方・・という視点でも面白いかもしれません・・たぶん。池田書店です。この新刊については「こちら」をご参照ください。

 



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