湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第15節(2010年7月27日、火曜日)

 

アントラーズの勝負強さというテーマ・・(AvsAL, 2-2)

 

レビュー
 
 ホントに「勝負」に強いネ〜〜・・アントラーズ。後半には、まさに順当ともいえる逆転ドラマまで魅せてくれた(まあ最後は同点にされちゃったけれど・・)。

 彼らの勝負強さの源泉。それは、攻守の基本を、強い意志をもって、しっかりと全力で実行しつづけているから・・という表現に集約されると思う。そんなプレー姿勢にこそ、プロコーチ(監督)のウデが如実に現れてくる。オズワルド・オリヴェイラ・・。本当に良い仕事をしていると思いますよ。

 そんなアントラーズが繰り出す「グラウンドの現象」を、何とか、言葉で表現することにトライしてみましょうかネ。ではまず守備から・・

 ボールを失った次の瞬間、とにかく素早く勢いがあり、メリハリのある「攻撃から守備への切り替え」から、まず最低一人は、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)を全力で追い詰めていく。そう、忠実でクリエイティブな「爆発チェイス&チェック」。そして、相手の攻撃を遅らせるだけではなく、周りのチームメイトが素早く戻ってディフェンスの組織を構築しちゃう。

 「とにかく彼らは、リトリート(素早い戻りからの守備組織の整備)が忠実で素早い・・」。以前、ガンバの西野朗監督が、わたしの「アントラーズの特長でもっとも効果的なものは?」という質問に対して、そんなニュアンスのことを言っていたっけ。

 もちろん、高い位置でのボール奪取(=ショートカウンター)を狙うのが最初のイメージ。それが叶わなかった場合に、前述した素早いリトリートから、相互のポジショニングバランスをベースにした「受け渡しマンマーク」を忠実に実行していく。

 要は、追いかけ過ぎず、かといって相手のボールホルダー(次のパスレシーバー)を自由にさせ過ぎないように追い込んでいくという組織ディフェンスを忠実に積み重ねているということです。そこではもちろん、相手のボールの動きをコントロールし、自分たちが主体になってボール奪取ポイントを絞り込んでいくという攻撃的な守備イメージがバックボーンにある。

 そんな組織ディフェンスの「重心」として機能しているのが、言わずと知れた、小笠原満男と中田浩二の「ダブル・ボランチ」。ここでは、彼らの、攻守にわたる実質的なプレー内容から(クリエイティビティー=創造性=の水準から)彼らをボランチと呼ぶことに躊躇(ちゅうちょ)しません。

 この二人の役割分担は、とても明確。中田浩二が、ちょっと下がり気味のアンカー的なフォアリベロという役割を担い、小笠原がリンクマンとして機能する。もちろん小笠原満男も、しっかりと汗かきのチェイス&チェックを仕掛けていくけれど、彼のイメージの基本線は、自分が主体になったボール奪取シーン・・ということだろうね。フムフム・・

 そんなディフェンスの組織プレーに、本山雅志(フェリペ・ガブリエル)や野沢拓也といったサイドハーフも、忠実に、そして全力で参加してくることは言うまでもありません。また、たまには、最前線から、マルキーニョスや興梠慎三(この試合では大迫勇也)が全力で戻って相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)を、後方のチームメイトとサンドウィッチにしてボールを奪い返しちゃう。

 とにかく、アントラーズの勝負強さの絶対的バックボーンは、「そんな」質実剛健のディフェンス(チームに深く浸透した優れた守備意識!!)にあるわけです。

 そして攻撃。

 例えば・・ハーフウェイ付近で小笠原満男がボールを持って前を向く・・その瞬間、最前線のマルキーニョスが、まずオフサイドラインに平行の横方向へスタートを切り、そして急激に方向転換してタテの決定的スペースへ抜け出していく・・そんな一発コンビネーション・・もちろんマルキーニョスは、そこでタテパスをもらえなくても、何事もなかったかのようにスッと最前線トップの位置へ戻り、次のワンツーコンビネーションの「壁」やポストプレーに備えたり、次の決定的スベーへの抜け出しフリーランニングを狙ったりする・・

 例えば・・フェリペ・ガブリエル、野沢拓也、大迫勇也、マルキーニョスが、どんどん走り回るなかで複合的に絡んでいく「ワン・ツー・スリー・フォー」といった流れるようなコンビネーション・・

 例えば、マルキーニョスや大迫勇也、野沢拓也や小笠原満男といった個の才能が魅せる、エイヤッ!のドリブル突破チャレンジ・・

 例えば、一度スタートしたら、常に3-4人は積極的に押し上げる危険なカウンターや、抜群のイメージシンクロを魅せる破壊的なセットプレー・・等々・・

 やはりアントラーズの攻めは、組織プレーと個人勝負が、とても高い次元でミックスしていると思う。だからこそ、相手ディフェンスにしても、仕掛けの流れを潰すためのターゲットイメージを絞り込み難くなる。

 アントラーズが順位でトップに君臨するバックボーン・・!? フムフム・・

 ところで、そんな勝負強いアントラーズが、最後の最後でアルビレックス新潟に同点ゴールを叩き込まれて引き分けてしまった。それも、ホームで・・。だから質問した。

 「アントラーズの大迫が、サッカー内容からすれば案の定ともいえる逆転ゴールを流し込んだとき・・さて、これで勝負は決まったなと誰もが思ったに違いない・・でも、豈図(あにはか)らんや、アルビレックスに同点ゴールを入れられて引き分けてしまった・・抜群に勝負強いアントラーズにしては、選手の足が止まってボールウォッチャーになってしまったことも含め、らしくない失点だった・・そこのところ、オリヴェイラさんは、どのように捉えているか?」

 「あのような失点シーンは、私が就任してからも、何度かあったと覚えている・・たしかに集中切れが原因の失点だった・・Jリーグは、実力が伯仲したコンペティションだ・・だから、少しでも集中力のレベルが落ちたら、確実にやられる・・そのことは、常に選手たちに言いつづけている・・この試合は、中二日だったということで、前節のジュビロ戦の後の時間は、なるべく回復に当て、同時に、多くのミーティングの機会をもった・・そこでも、集中力を持続させることがとても大事なテーマだというハナシを積み重ねた・・それでも、あのような失敗はある・・ただし、その失敗については、選手自身が、もっとも良く分かっている・・大事なコトは、それに対する反省を、選手自身が主体的にやるということなんだよ・・」

 いいね・・オズワルド。優れた心理マネージャーの面目躍如じゃありませんか。

 ・・その失敗のことは、選手自身が一番よく分かっている・・反省は、選手自身が主体的にやることが大事・・

 まさに、そういうことだよね。最後は自由に、主体的に判断、決断し、勇気と責任感をもってリスクにもチャレンジしていかなければ何も得ることは出来ないのがサッカーだからネ。今回の岡田ジャパンもそうだった。ワールドカップ(世界の強者との勝負)という巨大な刺激にビンタを喰らわされ、自分たち自身が「こうやりたい」という意志を示したことで、チームが一つにまとまり、パフォーマンスが何倍にも膨れ上がった!? 

 やはり、オズワルド・オリヴェイラ監督にしても、常に持ちつづけているメイン(心理マネージメント)テーマは、主体性(自己主張パーソナリティー!?)を、いかに発展されるのかっちゅうことなんだろうね。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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