湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第15節(2010年7月28日、水曜日)

 

城福浩監督との対話・・(FCTvsJU, 1-1)

 

レビュー
 
 「ワールドカップ後のリーグ再開時点では、たぶんジュビロが、全チームのなかでトップ内容のサッカーを展開している(チームの一つ!?)と思う・・そんな、もっとも手強い相手に引き分けられたことは、それは、それで満足すべきなのかもしれない・・」

 今回は、Jリーグ監督のなかでも、ポジティブ(チャレンジング)インテリジェンスを代表する一人とも呼べる、城福浩監督のコメントを中心に、コラムをまとめようと思います。もちろん、彼のコメントといっても、私なりに、彼が言いたかったことを「意訳」しましたよ・・例によってネ。

 ということで、冒頭の城福浩監督のコメントにあるように、内容的にはジュビロが上回っていたという印象には、わたしもアグリーでした。

 「ジュビロには、前田遼一という素晴らしいスピアヘッドがいる・・とにかく、ジュビロは、ロングボールを最前線へ送り込むという、一つの、確信的な仕掛けプロセスイメージをもっている・・要は、前田遼一が、そのボールをしっかりとキープし、スイッチを入れられるということだ・・そんな選手がいれば、ウチにも、様々な仕掛けの選択肢が生まれるのだが・・」

 ちょっと「タラレバ」になりかけた城福浩監督だったけれど、もちろんすぐに、「いや・・いまの選手たちでも、同じように効果的な仕掛けが出来ないことはないはず・・まだまだ努力が足りないということだ・・」と、前向きに前言を修正していた。

 それにしても、「前田がスイッチを入れる・・」とか、「前田が、我々のディフェンダーの最低一人は引きはがしてしまう・・」なんていう素敵な表現をもってるね、城福さんは。

 もちろんその意味は、ジュビロの選手が、前田遼一の「キープ能力」に対して全面的な信頼を置いているからこそ、彼が最前線でボールをコントロールしたら、すぐに、後方からの、複数のサポートアクションが「湧き出してくる」ということです。また、後者の意味は、前田の素晴らしいキープ(タメ)が、相手守備ブロックの一人を「バランスした組織」から引きずり出すことによって、その組織に穴を開ける(スペースを作り出す)ということです。フムフム・・

 たしかに「そんなグラウンド上の現象」もまた、いまのジュビロの強さの象徴になっているよね。ビデオで観たけれど、再開直後のエスパルス戦でも、もちろん時間帯で浮き沈みはあったものの、全体的には、サッカーの内容で、ジュビロが上回っていたからね。強い、ジュビロ・・。FC東京のスカウティングスタッフだけじゃなく、わたしも、同じような印象をもったものです。

 まあ、全体としては「そんな」ゲーム内容だったわけだけれど、そのこととは別に、わたしは、FC東京の「ある選手のプレー内容」に、とても不満だった。だから質問をぶつけた。

 城福浩監督だったら、ディベートを創造的に展開させ、深められるだけのコメントを出してくれるに違いないという期待を込めて・・。そして城福さんのコメントは、案の定、その期待に十分に沿ったものだった。

 「森重真人・・たしかに彼は、とても優れた才能に恵まれている・・局面での競り合いの強さ、ボールキープの巧みさやクリエイティブなパスなども特筆だと思う・・ただ、走らない(プロだったら絶対に認められないサボリ!!)・・我々は、根本的に、攻守にわたるボールがないところでのプレーの量と質を評価する・・その意味では、森重真人は、中盤の重心なんていう存在じゃなく、単なる『重し』にしか過ぎなかったと思っているし、彼によって、FC東京の中盤ダイナミズムが大きく減退したとも思っている・・」

 そこで一息置いてから、質問の骨子をぶつけた。「そこで質問だが・・わたしは、何故、今野泰幸を守備的ハーフに上げ、森重真人を、いままでのようにセンターバックにしなかったのかという大きな疑問をもっている・・そのことについて、コメントをいただけないだろうか・・」

 わたしの目をじっと見つめながら、城福浩監督が、ゆっくりと口を開いた。

 「ある意味、ご質問の骨子は正しいと(正しい部分もあるとは)思います・・たしかに森重は走らない・・だから、彼によって中盤のダイナミズムがアップするということに対しては、あまり期待はできません・・それでも、彼は、ボールを持ったら、前へ展開していけるのですよ・・もちろん、局面での競り合いの強さやキープ力、また展開力などには疑いの余地はありませんよね・・」

 そこで一息ついた城福監督。わたしの目をしっかりと見据えながらつづけます。

 「たしかに今野泰幸をハーフに上げれば、中盤のダイナミズムは確実にアップするはずです・・ただ、彼が上がることによって、最終ラインでのカバーリングの機能性は、確実にダウンする・・わたしは、読みや忠実なプレーに対する意志という才能も含め、今野泰幸のカバーリング能力は、日本一だと思っているのです・・もちろん、その能力は、中盤ディフェンスでも発揮されるでしょう・・ただ私は、攻撃に入ったときには、彼の課題も浮き彫りになると思っているのですよ・・」

 そして城福さんは、コメントの骨子に入っていく。

 「森重の場合は、もちろんそれはリスキーなプレーではあるのですが、素晴らしく力強い(自信と確信にあふれた!?)キープから、前方へボールを展開していけるのです・・それに対して今野は、誤解を恐れずに言えば、より安全なプレーを選択してしまう傾向が強い・・そう、バックパス・・日本代表で彼が守備的ハーフに入り、前へ展開できる(しなければならない)状況であるにもかかわらず、結局バックパスをしてしまった(バックパスに逃げてしまった!?)シーンを観ながら、わたしはある判断をしていました・・彼には、前へボールを運ぶ能力が足りない・・と・・」

 「もちろん、これは私の判断です・・二人の能力(プレー性向!?)のプラス面とマイナス面をしっかりと分析、判断し、チームにとって、もっとも効果的なソリューション(解答・結論)を導き出す・・監督にとって、それは、もっとも重要なチーム戦術的タスクです・・もちろん人によっては、まったく違う判断が為される場合もあるでしょうが・・」

 そんな立派な城福浩監督のコメントを聞きながら、こんなことを思っていた。

 「素晴らしいコメントだよな〜〜・・誠実だし、誰もが理解できるシンプルなロジックにあふれている・・ほれぼれさせられる・・サスガに城福さんだ・・でもネ・・I understand your way of thinking, but I don’t agree fully and will reconsider about this subject for study・・」

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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