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- 「The 対談」シリーズ_第18回目・・ブラジル在住26年のサッカージャーナリスト、沢田啓明さんとの対談・・(2013年7月2日、火曜日)
- 「その家族の方々は、苦しかった当時のことを思い出して泣くんですよ・・本当に、大変な思いをして子供を支えていたんだなって感じましたね・・」
そう語るのは、ブラジル在住26年のサッカージャーナリスト、沢田啓明さん。彼が、ブラジル代表の「ある有名プロ選手のファミリー」の方々にインタビューをしたときのことだそうです。
今回は、以前からの知り合いだった沢田啓明さんとコンフェデレーションズカップの取材中に再会したことで、大会後にサンパウロで落ち合い、対談することでハナシがまとまったという次第。
とても評価の高い著述もある沢田啓明さんについては、グーグルなどで検索してください。
その沢田さんとの対談だけれど、具体的にどのような内容になるかは見当もつかなかったのですが、話しているうちにテーマも見いだせるだろうとランチの約束をしました。
そして実際に、会話が弾むなかで発見しましたよ、興味深いテーマを・・
それは、個のチカラの発展と社会性の関係性・・
えっ!? 何だソレはってか!?
スミマセン・・。要は、個のチカラをアップさせるためには何が必要なのか・・というディスカッションのことです。
そこで必要になってくる要素と、ブラジルという「本音の社会」と、日本という「建前の社会」が、どのように関係しているのか・・という視点です。
あっと・・もっと分かり難くなった!? スミマセン・・。まあ、いいや。先に進みます。
ということで、「本音と建て前」という視点のディスカッションだけれど・・
日本では、「本音」の部分について「ある程度の暗黙の了解」ができ上がっている(!?)ことも含め、あくまでも社会的な「和」を重んじる言動が支持される。
それが、優れた誠実さと謙虚さ、そして思いやりというポジティブな人間性が社会全体に浸透するバックボーンにあると思うわけです。
でも、イレギュラーするボールを足で扱うという不確実な要素が満載しているサッカーでは、本音の言動によるコミュニケーションが、進歩していくために大事になってくるのですよ。
要は、自己主張が強烈なブラジルの方が、控えめな(注意深い・・受け身の!?)態度が主流の日本に比べ、「個のチカラ」を伸ばすために、より有利かもしれないというディスカッションです。
スミマセン・・やっと分かりやすくなったですかね。フ〜〜・・
「たしかに、そのことはありますよね・・でも、それ以上に、ブラジルの子供たちが、常に、差し迫ったプレッシャーにさらされているということもあると思うのですよ・・」
沢田啓明さんがつづけます。
「ご存じの通り、ブラジルでは、貧富の格差はとても大きいですよね・・特に中産階級から下の貧民層は、生活するのに汲々としている・・だから、そんな中
産階級の下層から貧困層の子供たちが、まず目指すのは、プロサッカー選手というわけです・・まあ、一攫千金っちゅうことですね・・」
「でも、プロサッカーには富裕層から出てきた選手もいますよね・・?」
「たしかに、いますよ・・でも、そんな選手たちは完全に少数派です・・レオナルドやジュリオ・セザールといった富裕層出身の選手たちは本当に例外的な存在なんです・・」
沢田啓明さんがつづけます。
「プロサッカーでは、圧倒的に、金銭的に恵まれない階層出身の選手が多いんです・・逆から見たら、中流以上の階層の人々は、自分の子供たちがプロサッカーを目指すことを良しとしない傾向が強いとも言えますかネ・・」
「彼らは、サッカーに投資するよりも、もちろん教育を優先しようとするし、子供たちには、他のスポーツを勧めたりするんです・・そこには、ハングリーな貧困層の子供たちとの競争には勝てないと思っているという側面もあるのでしょうね・・たぶん・・」
「また、日系の選手が少ないことの背景には、日系の人々の多くが中流以上の階層に属しているということもあると思います・・」
「ところで、そんな子供たちは、どのようなステップを踏んでプロの階段を上っていくのですか?」
「手っ取り早いのは、プロクラブの下部組織に入り込むことです・・もちろん、厳しいセレクションがあるわけですが、そんな難関に、粘り強くトライしつづけるための強烈なモティベーションが、ファミリーの貧困というわけです・・」
「もちろん家族も、その子に才能があると思ったら、全面的にサポートしますよ・・自分たちの生活を投げ打ってでもネ・・」
「エッ!? 自分たちの生活を投げ打つ??」
「そうです・・クラブに通ってトレーニングするにもカネが掛かるじゃないですか・・会費が必要なケースもあるでしょうし、そこにバスなどで通うにもカネがかかる、用具にも・・」
「もちろんビッグなクラブは、スカウト網を整備しているわけですが、その目にかなった有望なユース選手に対しては、用具や移動費などだけじゃなく、その子がトレーニングに参加することで発生する家族的なマイナスも、もちろん補償する・・」
「要は、貧困層の家庭の場合、その子供が働くことで得られるカネも、重要な収入源ということが多いんですよ・・だから、スカウトしたビッグクラブは、その子が稼ぐはずだった収入についてもファミリーに対して補償するというわけです・・」
「そんな切羽詰まった状況でサッカーに励むわけですから、その子供たちのやる気も、天井知らずになるのは目に見えていますよね・・そう、ハングリーさ・・」
「でも、そんなスカウトされた子供たちはラッキーな方です・・普通は、プロクラブのセレクションを受け、それに合格しなければならないんですから・・これが、とても厳しい・・」
「湯浅さんも、カフーを覚えていますよね・・彼も、子供の時に受けたセレクションで、とても苦労した口なんです・・あの、カフーがですよ・・」
「彼は、何度も、何度もセレクションで弾かれてしまった・・ただ1度だけ、あの、テレ・サンターナの目にとまり、クラブのトレーニングに招待されたんですよ・・それがキッカケで、世界のカフーとして大きく羽ばたくことになった・・」
「セレクションって、とにかく厳しい世界なんです・・子供たちは、与えられた数分で、実力を認めさせなければなりません・・もちろん、パスをしようもの
なら、ボールが戻されてくることなんて奇跡に近い・・だから彼らは、手っ取り早く、個人プレーで目立とうとするわけです・・」
「その典型は、ドリブル突破ですよね・・でも、それだけじゃなく、正確なロングパスや効果的なタメからのスルーパス、また守備でも、勝負をかけたボール奪取のスライディング等も、目立つための効果的なツールです・・」
「もちろん、そこで熾烈なせめぎ合いが連続するのは言うまでもありません・・自分が目立つためにね・・そんな一つひとつのプレーについては、表現するまでもないでしょ・・」
そこで沢田啓明さんに聞いたんですよ。
「そんな厳しいセレクションを経て有名になった選手たちにインタビューしたこともあるんですよね?」
「ええ・・何度も・・選手だけじゃなく、その選手の家族の方々にもインタビューしたことがありましたよ・・」
そこまできて、冒頭の発言が出てきた・・というわけです。今は豪邸・・でも、当時は・・
家族の方々は、才能がある(そう確信した!)自分たちの子供を、自らの生活を投げ打ってでもサポートするのです。貧困から抜け出すためにね・・。
そんな、ハングリーな環境で育つユース選手たち。彼らが、誰に言われるまでもなく、「価値のある選手」になるために最大限の努力を怠らなくなるのも道理でしょ。
・・有名プレイヤーのワザを、ビデオなどを駆使して「真似」する・・良いプレーができるようになるために、自ら工夫する(考えつづける)ことが当たり前の心理環境になる・・チームにとって価値ある選手になるために、ハードワークも苦にならなくなる・・等など・・
そんなハードな環境だからこそ、個のチカラも、おのずとアップしていく・・
そうね・・。「環境こそが人を育てる」っちゅうことだね。
インタビューでも、雄名選手たちは、例外なく、心置きなくトレーニングさせてくれた家族に対する感謝の言葉を口にするということです。
ところで・・
とても興味を惹かれるのは、そんな、全てを投げ打って「投資」した子供たちだけれど、そのほとんどは失望に終わるという現実についてです。
「そうなんですよ・・そんな人たちに対する興味も大きいのですが、こちらも仕事でやっているので、どうしても、そこまで手が伸びないんです・・」
「でも、豪邸組の家族からは、彼らの周りで、日の目を見られなかった人々のことを聞かされたことがあります・・まあ、言うまでもなく、厳しい現実が待っ
ているわけですが、それでも、そういう人々をサポートする社会システムもありますから、最悪のケースは少ないとは思いますが・・」
沢田啓明さんは、そう、表情を曇らせるのです。そうだよね、成功するのは、ほんの氷山の一角のハズだから。
私も、ドイツで、そんなファミリーを知っていますよ。全員でサポートした子供だったけれど、結局最後は挫折してしまった。あまり経済的に恵まれた家庭じゃなかったけれど、そのこともあって、そんな彼らを見るのは本当に辛かった。フ〜〜・・
でも、そんな厳しい環境だからこそ、才能ある選手たちが、本当の意味で開花するという厳然たる事実もある。フムフム・・
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沢田啓明さんとの対談は、まだまだつづきます。
明日は、その他のテーマを、ランダムに綴(つづ)るつもりです。では今日は、こんなところで・・
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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