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2013_ドイツ便り(その6)・・「The 対談」・・中野吉之伴(なかのきちのすけ)とユース選手の意識の発展をテーマに話し合いました・・(2013年7月31日、水曜日)

「その言葉づかいを聞いて、一体アレは何なんだろうって思いましたよ・・あれじゃ、子供たちが、自分から考えるようにならないだろうな〜、とも感じましたしね・・」

 今回の「The 対談」の相手は、ドイツへサッカー留学し、フライブルクで12年も暮らしている中野吉之伴です。

 彼と最初に会ったのは、ドイツのフランクフルト。東京の知り合いから、中野吉之伴さんが是非会いたいと言っているのですが・・という連絡を受けたのがキッカケでした。2004年の2月あたりだったと記憶しています。

 今回の国際会議で、その中野吉之伴と再会し、ユース選手たちのコーチングについて意見交換したことで、このテーマで対談をアップしようと思った次第。

 彼は、日本の新聞社の「現地通信員」として情報を流すだけではなく、最近では、様々な雑誌やインターネットマガジンで、とても質の高い原稿をアップしています。

 いまは、A-ライセンスまで取得している中野吉之伴。もちろん目標は、私と同じ「プロライセンス」の取得でっせ。

 また、コーチとしても、現地クラブで活躍している。

 主にユースの監督。日本でいう小学生から高校生まで、広くカバーしているけれど、最近は、成人チームの予備軍である「ユースA」を主にコーチしている(もちろん監督として=ここからは全てコーチという表現に統一します)とのこと。

 そんな中野吉之伴ですが、今では、地元でも認められる存在です。

 彼とは、もう10年来の知己だし、それが自然ということで、「タメグチ的」な書き方にしました。

 その中野吉之伴と、主に、ユース年代のコーチングについて話し合いました。とても、興味深いコンテンツのオンパレードだった。

 ということで、冒頭の発言。それは、彼が帰国したときに見学したあるユースチームのトレーニングでのことでした。

 彼は、そのユースコーチの方の、トレーニングでの言葉遣いなど、選手を扱う態度に対して疑問を投げかけたんだよ。

 「そうなんですよ・・日本では、選手たちが主体的に考えるようになることを重要なテーマにしていると思っているんですよ・・でもあれじゃ、子供たちが自主的に考えるようになるとは、とても思えないんですよね・・」

 「それは、一体どんな言葉遣いというか、態度だったんだい?」

 「オメ〜〜等、いったい何回いったら分かるんだ・・オメ〜〜等を分からせるために、たくさんの時間とエネルギーがムダになるじゃネ〜か・・ホント に〜〜・・どうして、そんなプレーしか出来ないんだ〜等など・・とにかく、そんな、子供たちのモティベーションを奪い取っちゃうような態度に終始していた んですよ・・」

 「そりゃアタマに来るだろ・・オレもさ、そんな低級なコーチングを観察させられたことがあるよ・・あるときなんか、我慢できなくなってサ、後からその若 いコーチに、一体キミは何を考えているんだ・・キミには、コーチングの何たるかが分かっていな〜い!!・・なんてサ、説教 を喰らわせたことだってある・・」と、私。

 「いま中野が言ったように、日本では、協会が主導し、選手たちが主体的に考えることをメインテーマに置いている・・でも、そのことが末端まで浸透していない・・そりゃ、サッカー協会が努力していることは知っている・・でもサ・・」

 「ところで、ドイツじゃ、選手に対するコーチのレスペクトというか、選手たちの人間性をしっかりと尊重することは当たり前の心理的な環境になっているん だろ??・・コーチの方から彼らのことを認めなければ、主体性がアップするはずがないしね・・中野の場合も、そうなんだろ??」

 「それはそうですよ・・今では、彼らの意見をしっかりと取り入れながらも、自分が理想とするイメージへ近づくようにリードできているとは思います・・それでも・・」

 「それでも??」

 「いえ・・最初は、自分のやりたいサッカーが、まさに中心だったんです・・要は、選手たちに押しつけ過ぎたということなんですが・・それで、選手たちに反発されたこともあったんですよ・・」

 中野吉之伴がつづけます。

 「あるときなんか、これから試合が始まるというタイミングで、選手たちに、その日のゲーム戦術が拒否されてしまったこともありましたね・・そりゃ、 ショックでしたよ・・でも、そのことがキッカケになって、その背景をしっかりと見つめ直すようになった・・そして、そんな、自分を見つめ直すプロセスを積 み重ねることで、自分の悪いところも徐々に見えてくるようになったんです・・」

 中野吉之伴が、ノリノリで話しつづける。

 「そう・・自分の悪いところを積極的に自覚しようという姿勢で選手に接することで、選手たちも、本当の意味で心を開きはじめてくれたんです・・そうですね・・そこらあたりから、コミュニケーションの本当の意味が分かりはじめたのかもしれません・・」

 「・・そうです・・選手たちの人間性まで含めて、本当の意味でレスペクトできるようになった・・だからこそ、今じゃ、ヤツらとケンカしたり、強烈な意見の交換をするなんてことも許容できるようになったんです・・」

 「・・そして、ここが大事なポイントなんですが、昔とちがって、そんなぶつかり合いからのネガティブなこだわりが、長く、わだかまりとなって残ることが なくなったんです・・そこで初めて、互いにレスペクトできる関係が、いかに大事か、互いの信頼関係がいかに原則的なモノかが、理解できるようになったと思 うんです・・」

 もう中野吉之伴は止まらない・・

 「もちろんドイツにも、冒頭に出てきた日本のコーチのような方もいますよ・・選手たちの主張に聞く耳をもたず、自分の考えをゴリ押しするようなコー チ・・私は、そんなコーチたちの失敗を何度も見てきました・・その体感もあったんでしょうね、だからこそ、自分を見つめ直して開くことができたのかもしれ ません・・」

 「そこで、もっとも大事だったコトは、ある意味で自分のプライド・・というか、コーチとしての表面的な存在意義をかなぐり捨てられたっちゅうことなんだ ろうね・・自分の権威を守ろうというコーチが多いからさ・・それって、肩書きだけなんだけれどね・・敬愛は、仕事の内容によるということさ・・まあ、中野 は、その間違ったプライドから解放されたからこそ、本当の意味で、素直で価値のあるディベートとコーチングが出来るようになったとも言えそうだな・・」

 ・・と、私・・

 「そうですね・・そのようにも表現できるんでしょうね・・とにかく選手たちとは、根本的なところで互いに信頼できているからこそ、たまには厳しい口調で 言い合うことができるし、それが後に残らないと思うんですよ・・そのことを体感できてからですかね、本当の価値あるコーチングというモノが見えてきたの は・・」

 ・・と中野吉之伴・・

 「日本じゃさ、少しでもネガティブなコトを言ったら、そのネガティブな雰囲気が、すぐに何倍にもふくれ上がって受け取られちゃうだろ・・日本では、まだ まだ、ディベートの文化が育っていないからね・・またコーチ連中にしても、自分はコーチだからと、その肩書きが作りあげた立場から抜け出すことが出来ず に、それをベースにした態度に終始する・・それじゃ、考えるということも含めて、選手たちの自主性をアップさせることなんて夢のまた夢だよな・・」

 ちょっと喋りすぎの筆者だけれど、そこのところを中野吉之伴に聞いた。

 「ところで、選手とコーチが近づきすぎても、コトを進めることは出来ないよな・・そこのところを、どのようにマネージしているの?」

 「ドイツでは、選手たちの自主性を尊重するコーチングが主流ですよね・・ヨーロッパだから、子供たちにしても、自己主張は日本人のユースとは比べものに ならないほど強いじゃないですか・・ドイツでは、それを良いことだと考えます・・だからコーチも、その主張を尊重することで、できる限り主体的な発展がで きるようにリードしようとするんですよ・・でも・・」

 「でも・・??」

 「でも、そんなやり方が高じて、選手たちが、自分がやりたいコトだけに執心しちゃうことも多いんです・・ここが大事なポイントだと思うんですが、私は、 選手たちと、しっかりと意見をぶつけ合いながらも、最後は、できる限り自分が理想とするイメージに近づくようにマネージできるようになったと思っているん です・・」

 「もちろん衝突はあるんだろ??」

 「ええ、もちろん・・そんな状況でこそ、自分の知識とか(人間としての経験)が活きてくると思うんです・・とにかく、そんなぶつかり合いは日常茶飯事で すよ・・だからこそ、私の選手たちは、主体的に成長できているとも思うんです・・ちょっと自慢しているように響いちゃって、気恥ずかしいんですが・・」

 「いや、中野は、もっともっと自慢していいよ・・もちろん、日本で自慢し過ぎたら難しいだろうけれどサ・・日本じゃ、まず、組織内での信頼を築かなきゃ いけないよね・・人間性も含めてね・・そんな信頼関係が浸透してきてはじめて、主張するところは、しっかりと主張できるようになるよね・・また、だからと いって回りから煙たがられることも少なくなる・・」

 ・・と、私・・

 「冒頭で、ある日本のコーチの方の態度に触れましたが、私が観た日本でのトレーニングでは、選手たちがしっかりと考えるように工夫されたトレーニングも 多かったですよ・・先ほども言いましたが、ドイツにも、自分の考え方、やり方を、過度に強いることでユース選手たちを萎縮させちゃうコーチもいるわけだか ら、事情は同じなのかもしれませんね・・」

 「・・でも、やはりユース選手たちの基本的な姿勢は、日本とドイツじゃ、かなり違いますよ・・日本は、集団の方が尊重されるし、ドイツじゃ、組織ではな く、まず個人ですからね・・主体的に考えることも含め、自己主張の内容が大きく異なってくるのは当然ですよ・・生活文化が違うということなんでしょう ね・・」

 「それで、どうなんだい?・・集団意識の強い日本のユース選手たちが、主体的に考え、勇気をもって決断してリスクにもチャレンジするように導いていく自信はあるのかい??」

 「それは・・ありますね・・今では、湯浅さんが言うように、自信が、確信にまで深化していると感じているんですよ・・」

 「そうそう、その積極的な姿勢がいいんだよ・・もちろん中野の場合は、優れた人間性が絶対的なベースであることは言うまでもないけれど、それは、ひけらかさなくても、人は感じるモノさ・・そしてそれが信頼へとつながっていく・・とにかく、ガンバレ〜〜!」

 日本サッカー・・

 個の才能に、組織プレーの大事さを自覚させることで(考えさせ、自分にとって最良の方法を工夫させることで!?)攻守にわたるハードワーク「にも」精進させる・・

 日本サッカーは・・というか、日本のコーチは、まだまだ、その視点で十分な指導力を備えているとは言いがたいと思いますよ。

 いまは「まだ」、究極の組織サッカーを目指すのが最良の道だとは思っているのですが、いつかは、サッカーの「王道」と言える、組織コンビネーションと個 の勝負プレーを巧みに(効果的に)バランスさせるような、よりハイレベルなサッカーを目指さざるを得ないことは目に見えている。

 そのためにも、本当意味での「優れた個の能力」を発揮できる本物の「良い選手」を、どんどん輩出しなければならないし、そのためにも、日本のコーチは、ウデを鋭利に磨き上げる必要があるのですよ。

 中野吉之伴との「対話」によって、そんな「バランスの取れた王道サッカー」を希求する雰囲気を高揚させることへの意欲が駆り立てられていた筆者なのでした。

 あっと・・明日が最終日のサッカーコーチ国際会議については、追い追いレボートします。今回も、なかなか興味深いテーマがありましたよ。ではまた・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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