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リーガエスパニョーラ・・レアルの悩みはつづく?! その(3)・・マジョルカ対レアル・マドリー(1-5)・・(2002年12月9日、月曜日)

このゲーム(マドリー)については、別のメディアで書こうと思っていたのですが、コノテーション(言外に含蓄される意味)が深かったもので、とにかく「データベース」として記録だけはしておこうとキーボードに向かいました。

 レアルの悩みはつづく?! 何言ってるんだよ! この試合の前の時点でリーグ2位だったマジョルカに、それもアウェーで、「1-5」の圧勝だったじゃないか!!・・なんていう声が聞こえてきそうですが、いやいや、そんな単純な構図ではありませんでしたよ。

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 前回のトヨタカップでのコメントで書いたように、まだまだロナウドの存在が、チームのゲームイメージのなかにインテグレートされていない(本当の意味で組み込まれていない)と思うのです。もちろんロナウドが、2ゴールという「結果」を出したにもかかわらずですよ。この「結果と、本当のプレー内容の乖離」というテーマについては、昨日アップした小野伸二に関するレポートの前段で書いた「大宅映子さんの発言」を参照してください。

 要は、彼が「アクト」するのは、まさに、攻撃での最終勝負シーンだけ・・本当に、それだけだということです。組み立て段階にアクティブに絡んでくるわけでもなく(要は、ラウール等とタテのポジションチェンジをしたり、最前線のポイントとしてタテパスを受ける動きを入れたり等々のボール絡みプレーがない!)、最前線で立ち止まり、自分の「足許」にパスが入ってくるのを待つだけなのです。もちろん最前線からのディフェンスが出てくるはずもありません。先週アップした「トヨタカップ・レポート」で書いたように・・。

 ゲーム自体は、本当に面白くエキサイティングなものでした。最初の決定的チャンスは、マジョルカ。それをしのいだマドリーが、前半7分に、フィーゴ、ラウールのコンビネーションに乗ったロナウドの「怪物ゴール」で先制します。でもその後も攻め立てられ、何度も決定的ピンチを迎えてしまうマドリー。そして前半18分には、マジョルカのエトーに、「順当!」という同点ゴールを叩き込まれてしまいます。その後は、エキサイティングな一進一退の展開がつづきます。でも内容ではマジョルカに軍配。どうしても、良い攻めが展開できず、守備もちょっと不安定気味のマドリーなのです。「最前線にフタをしてしまっているロナウド」が目立ちつづけるマドリーといったとこひろ。それに対して、ダイナミックな中盤守備をベースに、何度もマドリーのゴール前まで迫るマジョルカ。

 後半。ゲームが、同じような「感じ」で立ち上がった直後の出来事でした。後半2分。中盤で横パスを受けたジダン。その瞬間の彼は、最前線との素早いコンビネーションをイメージしたに違いない・・。それでも「最前線のフタ」は、例によって動かずに足許パスをイメージしたまま。ロナウドには、相手マークが狙いを定めていますから、一瞬ジダンが迷うのも当然です。そして結局はトラップミスになってしまい、ボールが前方に流れてしまいます。猛然とそのボールに迫るジダン。その勢いが、相手ディフェンダーのミスを誘い、結局はこぼれたボールがロナウドの足許へ転がってしまうのです。そしてそこからは、「怪物」の本領を発揮した単独勝負で(またぎフェイント)突破し、目の覚めるようなシュートを、マジョルカゴールの右隅に決めてしまいます。これでマドリーの「2-1」。フ〜〜・・なんて溜息が出ていましたよ。

 その後は、またまたマジョルカペース。何度も決定的なチャンスを作り出します(11分の、フリーキックからのエトーのヘディングシュートは、もう100%チャンスでした!)。まあ、このままの流れだったら「2-2」の同点になるのも時間の問題かも・・なんて思っていた矢先の後半17分。やってくれました、ラウールが。左サイドのロベカルから、タテの決定的スペースへ抜け出したマケレレへパスが通され、そこからのバックパスをそのままロベカルがキャノンシュート! でも最後は、ゴール前に詰めていたラウールが、ほんのちょっと触ってコースを変え(このソフトタッチは、まさに才能!)、そのままボールがゴール右隅に飛び込んでいったという次第。次は、後半20分。右からのCKのシーンです。まずエルゲラがヘディングで叩きつけ、それが相手に当たってこぼれたのですが、そのボールがラウールの目の前に転がってしまったという次第。ドカン!! ということで、「4-1」。

 この時間帯から、徐々にマジョルカの中盤守備の勢いが減退していきます。まあゲーム展開からすれば当然の成り行きです。あれだけチャンスを作り出しながらも決めきれず、逆にマドリーに、ワンチャンスをどんどんと決められてしまう・・。また、フィーゴへのファールによる退場が追い打ちをかけてしまう・・。そして最後は、モリエンテスとグティーのコンビネーションからとどめの一発が決まりました。

 ものすごくエキサイティングで拮抗した面白いゲーム。でも終わってみたら、数字的にはマドリーの圧勝なのです。これぞサッカー・・ってな内容のゲームではありました。

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 美味しいところだけでしかアクションを起こそうとしないロナウド。それでも、決定的な場面ではレベルを超えた仕事をしてしまう「怪物」。ゴールを決めることが仕事のストライカーだから、それでいい?! いや、私はそうは思っていないのですよ。なんといってもレアル・マドリーには、サッカーの進歩の担い手として大きく期待していますからね。

 組織プレーと個人勝負プレーがハイレベルにバランスした高質サッカー。相手の予想を超える「攻撃の変化」を演出しつづけながら、全方位で、どこからでも相手守備ブロックを崩していくことができる・・。そんな高質サッカーに対する期待があるわけですが、それが、ロナウドという「フタ」によって、「変化の幅」がものすごく制限されていると感じるのです。

 「あなた達は組み立てる人・・私はフィニッシュする人」。それでは、いずれそのうちに限界が見えてくるのは明らか・・だと思うのです。攻撃の普遍的なコンセプトは、何といっても「変化」ですからね。また「フタ」によって、特にジダンのプレーがおかしくなっていると感じます。彼の場合は、マケレレというサポートパートナーだけではなく、最前線プレーヤーも積極的に絡んだコンビネーションを基盤にしたボールの動きの変化の演出こそが真骨頂ですから・・。

 
 とにかく動かないロナウド。前半40分には、こんなシーンがありました。中盤でボールをもったラウールから、例によって、最前線の右サイドで止まってパスを待つロナウドへタテパスが出されます。同時に、左サイドでロベカルがスタートします。もちろん、ロナウドとの最終勝負のコンビネーションをイメージして。でもラウールからのパスが、ほんのちょっとズレでしまったことで、ロナウドがトラップミスをし、そしてそこで諦めて「止まりつづけて」しまったんですよ。まだ爆発スタートすれば間に合うにもかかわらず。でもロベカルは、そのトラップミスの後でも走るのを止めませんでした。ものすごい勢いでロナウドを「追い越して」いくロベカル。そして本当に、そのこぼれ球に追いついてしまうのです。ズバッ! カカトで、怠惰なロナウドへ、バックヒールパスを返すロベカル。結局は、わずかにラインを割ったということでゴールキックになってしまいましたが(実際にはボールはラインを割っていなかった!)、その、万感の意志が込められたロベカルの全力ダッシュは感動モノでしたよ。もしかしたらそれは、ロナウドに対する強烈な「皮肉」だったのかも・・。「なんで、まだ間に合うのにアクションを止めちゃうんだよ!!」。

 そんなプレー姿勢のロナウドがいるにしても、レアル・マドリーのサッカーが、ロナウドに合わせるカタチで「変容」しながら、このまま「うまく」機能してしまうのだろうか・・。多分それはないと確信している湯浅なのです。

 とにかく、今のレアル・マドリーが置かれている状況は、自分の勝負イメージにこだわりつづけるレベルを超えた才能を、いかに「組織」というチームコンセプトに組み込んでいくのかという大きなテーマを抱えているということです。

 「規制と解放のバランス」、または「組織と個のバランス」という普遍的なテーマ。その視点で、いまのレアル・マドリーは、ものすごく面白い「学習教材」なのです。これからも、注意深く彼らのプロセスを追っていこうと思っている湯浅です。

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 さて、湯浅は、これから10日間くらい「オフ」に入ろうと思っています。明日のチャンピオンズリーグはレポートするかもしれませんし、来週のリーガ・エスパニョーラもビデオにとっておこうとは思っていますが。それではまた・・。




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