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2002年トヨタカップ・・個の才能を見るのは楽しかったのですが・・(レアル・マドリー対オリンピア=2-0)・・(2002年12月3日、火曜日)

例によって、トヨタカップの独特な雰囲気がスタジアムに広がっています。息を呑んでグラウンド上のプレーを追う観客席・・それです。静かな、静かな興奮。もちろんそれは、ニュートラルなグラウンドでのゲームだからに他なりません。観客の皆さんは、すべからく「良いサッカー」を観にきているのでしょうからね。

 さて試合。まず感じたのは、オリンピアが、しっかりとゲームの準備をしてきたということです。選手たちのイメージトレーニングも万全のようで、中盤で「追いかけすぎる」選手は一人もいません。互いのポジショニングバランスをしっかりと取り、そして、そのバランスを「ブレイク」した後は(レアル選手をマークした後は)、必ず、最後の最後までマークしつづけるのです。

 そこでは、強引に協力プレスをかけるなどといった「蛮勇」にはしる選手は一人もいない。まさに、イメージ通りに、しっかりと「我慢」をつづけるオリンピアなのです。なかなかいいですよ。レアルのボールの動きにも活性化の兆しが感じられません。まあそれには、オリンピアが展開するクレバーな守備「以外」の要因もあるのですがネ・・。

 そして立ち上がり、オリンピアが、二度チャンスを作り出します。結局ゴールを奪えませんでしたが、そのシーンを見ながら感じていたものです。やはりサッカーの基本はディフェンスだ・・それがしっかりとしていることで、次の攻撃に、長い距離を走るフリーランニングや勝負のオーバーラップ等々の「勢い」が出てくるものだ・・。

 とはいってもそこはレアル。いつものソリッド感がまだ充実してこない立ち上がりの5分を過ぎたあたりからゲームをコントロールしはじめるのです。

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 それにしてもロナウド。動きませんネ〜〜。このコラムは、まず「そこ」から入りましょうか。先週のチャンピオンズリーグ「ACミラン対レアル」について書いたレポートを参照してください。そこには、プリントメディアで発表した文章もいくつか挿入してありますので・・。

 ということで、ロナウドは、まだ「最前線のフタ」といったプレー内容から完全には脱却できていない・・。だから、中盤でのボールの動きにも勢いが出てこない・・なんて感じていた前半13分、そのロナウドが「局面で爆発し」先制ゴールを決めてしまいましたよ。

 左のロベカルから、ラウールを狙ったパスが送り込まれます。ラウールは、そのパスを「スルー」して、すぐにパス&ムーブ。要は、ロナウドからのリターンパスをイメージしていたということです。でもそのパスは、ロナウドへピタリと合ったものの、相手ディフェンダーに狙われていた。そこでロナウドの天才が閃いたというわけです。そしてスッと、アタックを仕掛けてきた相手ディフェンダーとすれ違い、そのまま持ち込んで「才能シュート」を決めたのです。それはそれで、素晴らしいゴールでした。やはり、ロナウドは、局面を「個」で打開するチカラでは世界屈指だ・・なんて思っていました。

 先制ゴールを決めて試合をリードしたレアル。とはいっても、彼らのサッカーは決して褒められたものではありません。ここのところの停滞サッカーから脱していませんし、ロナウドのプレー姿勢(基本的なプレーアイデア)にも、まだポジティブな変化は見られないのですよ。

 でも、(もう何度も繰り返したように)やはり局面的には、彼の才能が光り輝きつづけます。前半27分に魅せた、後方からのタテパスを、「三人目の動き」をスタートしたジダンへ、ダイレクトで流したプレーは秀逸でしたし、ドリブル突破など、単独で局面を打開するチカラも「やはり」レベルを超えているんですよ。ジダンへのダイレクトパスのシーンでは、完璧なタイミングとコース、そして強さのボールを受けたジダンが、自然な流れのなかでシュートまでいきしまた(シュートミス!)。

 ちょっとロナウドを批判し過ぎる湯浅なのですが、もちろんそんな私も、今までのレアル選手とはちょっと異質なロナウドの「プレー・キャラクター」が、レアルのサッカーに溶け込むことで、チームの次元がアップすることを願って止まないのです。

 また前半34分には、右サイドからドリブルで持ち込んだフィーゴを起点に、彼とロナウドが夢のようなダイレクトのパス交換を魅せましたよ。鳥肌が立ちました。そして思ったものです。局面ではあれほどのプレーができるのに・・なんてネ。

 とにかくレアルのチームメイトたちが、ロナウドを、「壁としてうまく使う」というイメージでプレーしているのは確かなようです。大きな動きがありませんから、まあ、そんなチームメイトたちのイメージは自然な流れでしょう。いくらロナウドでも、彼へのパスと「同時」に三人目や四人目が決定的スペースへ走っていたら、それはダイレクトでリターンパスを返すでしょう。

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 さて後半。どうも、レアルのサッカーが好転する気配をみせません。ボールの動きが活性化しない。もちろんそれは、ボールがないところでの動きが停滞気味だからに他なりません。

 チャンスを作り出す能力では、かなりの差があるレアル。それでも、どうも「個の勝負」に頼りがちになっているのです。立ち上がりのロナウドのシュートにしても、ロベカルの「宇宙的」なロングシュートにしても、タメからの、ここしかないというタイミングの「横パス」を受けてドリブルで突破していったロナウドのプレーにしても、右サイドから二人、三人とかわして素晴らしいシュートを放ったフィーゴのエキサイティングプレーにしても・・。

 まあ、物事を「白か黒か」というふうに考えるのは低次元ですから、あくまでもバランス(グレイ)という発想を持とうとしているわけですが、その視点で、今のレアル(もっと言えば、ロナウドが入ったレアル)では、「組織ファクター」が本当に減退していると感じ、残念でならないのです。もちろん最後の仕掛けでは「個の勝負」になる場面も多いわけですから、大事な攻撃ファクターではあるのですが、でもそれだけではネ・・。

 後半では、30分くらいに飛び出した決定的シーンがエキサイティングでした。中央ゾーンで仕掛けていこうとしたレアルですが、どうも詰まり気味ということで、ジダンから、左サイドでフリーになっていたロベカルにパスが出ます。そしてそこからの、素早いタイミングのラストクロス(もちろんグラウンダーパス!)によって、ニアポストスペースでの最終勝負シーンが演出されたのです。そうです、ラウールが、ここしかないというタイミングとコースで動き出し、ニアポストスペースでのダイレクトシュートをイメージし、全力で飛び込んでいたのです。それだよ! 思わず声が出てしまって・・。

 後半38分、ロナウドに代わってグティーが登場します。そして入った早々に、フィーゴからのニアポストゾーンへのクロスに飛び込み、ヘディングシュートを決めます。そして、レアルのサッカーが、急に、本当に急にペースアップします。

 ペースアップの意味は、組み立ての段階でボールを動かしているときに、常に、ボールのないところでの「三人目」「四人目」の動きが出てきたということです。追加ゴール。そしてグティーが登場してからのサッカーの好転。それって、何かを意味している?!

 この試合でのロナウドは、少しは「自分のこだわりイメージ」を軟化させようと努力する傾向は見せていましたから、あまり露骨に「ダメ! ダメ!」とは書きたくない湯浅なのですが・・。とにかくそれも、彼に対する期待の現れだとご理解ください。

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 この試合でのMVPは、疑いもなくマケレレでした。攻守にわたる、骨身を惜しまない実効プレーは、レベルを超えていましたよ。もちろんロベカルも素晴らしかったですがネ。

 ところで試合後に、友人のヴァンサンと再会しました。フランスフットボール誌の著名ジャーナリストです。

 「どうだった・・ロナウド。オレは、まだまだ不満だけれどな・・」という私の問いかけに対し、「今日は良かったじゃないか。少なくても、まったく動かないリーグ戦の出来からすれば、かなり進歩していると思うよ」とヴァンサン。まあそれには異論はないのですが、「でも、グティーと交代してから、レアルのサッカーが格段に活性化したことはたしかだと思うよ。何といっても、ロナウドがいたときは見られなかった、三人目、四人目の動きも出てきたしな・・」ってな私の意見に対して、「フムフム、まあ確かにね。それでも、彼の個人能力の高さが、この試合ではうまくリンクしていたじゃないか。もう少し時間をやらなけりゃな。とにかく、彼がレベルを超えた能力をもっていることだけは確かなことなんだから」と、ヴァンサン。

 そうですネ。もう少し時間が必要なのでしょう。とにかく、こんな難しい状況をどのように打開していくのか。デル・ボスケ監督の仕事が、ものすごく楽しみです。

 ところでデル・ボスケ監督。試合後のインタビューで、「我々のチームはスターで成り立っているのではない。スター以外の選手たちで成り立っているのだ・・」というコメントを残しました。深遠なコノテーション(言外に含蓄される意味)を内包する発言じゃありませんか。まあ、「スターで成り立っている・・」なんて発言したら、彼の存在価値が問われてしまいますからネ。

 とにかくサッカーは、本物のチームゲームなんですよ。一つの細胞が、少しでも機能性を減退させたら、すぐにそれがチーム全体に波及してしまう。サッカーは、有機的なプレー連鎖の集合体・・ですからネ。ではまた・・




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