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05_天皇杯決勝・・おめでとう浦和レッズ、そしてギド・・You deserved it!・・(レッズ対エスパルス、2-1)・・(2006年1月1日、日曜日)

この試合についてもポイントを絞り込みましょう。この試合で決定的な意味をもっていたのは、何といっても、後半20分に魅せたギド・ブッフヴァルト監督の決断でした。岡野と赤星を交代させる・・それまで二列目にポジションしていた山田暢久を右サイドバックへ・・そして赤星を二列目へ・・。

 この試合はラジオ文化放送で解説していたのですが、ピッチレベルを担当する河合貴子さんからの、「赤星が出る準備をしています・・」というレポートを聞いた瞬間、「そうだ! ギド、それだ!」と心の中で叫び、「この交代は、赤星と岡野の交代でしょう・・そして山田が右サイドバックに下がり、赤星が山田のポジションに入る・・」と、すぐに言葉になっていました。とにかく、後半のレッズ右サイドの(守備での)不安定さは、度を超していましたからね。要は、エスパルス左サイドから仕掛け上がってくるチェ・テウク(それと山西)に、そのサイドを担当する岡野雅行が完全にアップアップ状態になってしまっていたということです。

 そこでの岡野は、フリーで決定的スペースへ走り込まれたり、ドリブルで振り切られたり、はたまた安易なボール奪取勝負を外されて置き去りにされたり・・。そんな守備でのミスは、ポールがないところでの勝負アクションだったり、実際にはゴールにつながらなかったことで目立たなかったわけだけれど、実は致命的なものでした。勝負はボールがないところで決まる・・。その都度わたしは目をつぶりましたよ。少なくとも2-3回はあっただろうか。たしかに、守備的ハーフの酒井とのコンビネーションミスもあったけれど、問題の本質は、岡野の集中が切れ気味で、ボールウォッチャーになってしまう状況が続出していたということです。それまで、攻守にわたって優れたプレーを展開していた岡野雅行だったけれど、あれだけ「次のプレーに対するイメージ描写が狭まってきたら」もう限界だよね。逆にエスパルスは、チェ・テウクが仕掛ける左サイドでのチャンスを敏感に感じ取り、そのサイドを(ドリブルでの仕掛けや最終勝負のパスレシーバーとして)重点的に活用しはじめたからコトは重大だった・・。

 だからこそ、ギドの的確な判断と決断に拍手をおくっていたというわけです。それこそが、この試合の勝敗を分けたキーポイントでした。実際にその後のゲーム展開は、ガラリと流れが変わりましたからね。レッズのサッカーに落ち着きが戻ってきただけではなく、それによる「確信レベルの高揚」によって、組み立てや仕掛けに関わってくる人数も「実効あるカタチ」で増やすことができるようになりましたからね。そしてそれが追加ゴールにつながる・・。

 それにしても見事なゴールでした。長谷部、赤星、ポンテが絡んだダイレクトコンビネーションだけではなく、最後の瞬間に、しっかりとニアサイドの決定的スペースへ「相手より身体半分飛び出した」マリッチの嗅覚にも舌を巻く。マリッチは、それだけではなく、少なくともあと2本は、決定的なカタチでシュートに入っていました。ファールやオフサイドになってしまったけれど、彼が絡む最終勝負シーンは見所満載でしたよ。決定的スペースに入り込みシュートできる体勢でパスを受けられること・・そして、ボールをしっかりとゴールへ入れられること・・。それこそが「決定力」と呼ばれる超次元ファクターを体現する現象かもしれません。素晴らしい「ボックスプレイヤー」であるマリッチについては、準決勝レポートでも書いたから、そちらも参照してください。

 とにかく、素晴らしくダイナミックなエキサイティングマッチでした。あくまでも互いの積極的な仕掛け合いがぶつかり合いつづけるダイナミックな均衡サッカー。堪能しましたよ。もちろんそれには、エスパルスが立派なサッカーを展開したからに他なりません。立ち上がりはゲームを支配されながら、まず守備ブロックを安定させ(彼らのゲーム展開意図のとおり?!)、それをベースに徐々に盛り返しながら、しっかりとシュートチャンスまで演出しつづけるエスパルス。彼らのサッカーでは、何といっても、読みベースの守備ブロックが秀逸でした。忠実でダイナミックな「チェィス&チェック」・・そんな守備の起点をベースにした周りの次のボール奪取勝負アクション・・それらの守備プレーが有機的に連鎖しつづける・・。なかなか見所がありましたよ。聞くところによると、現役時代はアントラーズやエスパルスで守備的ハーフとして一時代を築いたコーチのサントスさんが、この試合限りで退団するとか。エスパルスが展開した、忠実でクレバーな「組織ディフェンス」には、サントスさんの教えも大きく貢献していたに違いありません。彼が日本サッカー界に残した功績は高く評価されるべきものです。またいつか、コーチとしてのサントスさんの勇姿をみたいものです。

 さて、ギド・ブッフヴァルト。もう何度も書いたことだけれど、とにかく、リスクチャレンジ姿勢と高い守備意識をベースにした前へ向かう攻撃的なプレッシングサッカーでチームを発展させつづけた功績に対し、心から敬意を表する湯浅なのです。シーズン開幕当初、BSジャパンではじまった「サッカーTVワイド」でわたしが受け持っているコーナーの初回ゲストとしてギドと対談したとき、「どんなにうまくいっているチームでも、ちょっとしたことで急に負けが込んでしまうというネガティブな現象(悪魔のサイクル)に見舞われてしまうものだ・・そんな状況でも、決して守備的な戦術サッカー(ネガティブな制限サッカー)になど方向転換しないよね・・」というわたしの問いかけに対し、大きくうなずいたギドが、「積極的な攻めの姿勢こそが最高の防御だ・・結果がついてこなかったとしても、決して受け身のディフェンス戦術などは採らず、あくまでも攻撃的なプレッシングサッカーを貫くよ・・」と断言していたことを今でも鮮明に思い出します。

 そしてフタを開けた、2005シーズン立ち上がりでの連敗&最下位への転落。それでもギドは、やり方を変えるなどという素振りは全くみせませんでした。チャンスがある者は、誰でも攻撃の最終シーンに絡んでいかなければならない・・誰もがリスクにチャレンジする姿勢を常に前面に押し出してプレーしなければならない・・それでも、選手全員の高い守備意識をベースに、次の守備においてバランスを崩すことはない・・。オシムさんも言っているように、リスクチャレンジに優る発展リソースはないということです。もちろんそんなレッズでも、この試合でもみられたように、チーム全体の「リスクチャレンジ・マインド」が減退し、心理的な悪魔のサイクルに落ち込んでしまうようなネガティブシーンも「まだ」多々あります。でも、基本的な方向性が定まっているからこそ、そんなネガティブ現象を、誰もがすぐに「課題や問題点」として明確に意識できる。レッズでは、そんな「ポジティブ環境」も整いつつあるということです。もちろん、サポーターの皆さんも含めてネ。

 イレギュラーするボールを足で扱うという不確実な要素が満載されているからこそ、最後は、自分主体の判断と決断で、責任をもって、(リスクチャレンジも含めて)自由に、そして積極的にプレーしていかざるを得ないというのがサッカー。その意味でも、浦和レッズが、社会的なイメージリーダーとしても機能を果たすせるところまで存在感を高めていくという高い理念を持って精進しつづけてくれることを願って止みません。




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