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- 2007_オシム日本代表(番外編)・・「強い相手」という価値・・そして主体的な意志の高揚(セルフモティベーション)・・(2007年9月16日、日曜日)
- どうも皆さん、まだ外国です。ということで、今週末の「J」は見られない。その代わりといっては何ですが、ちょっと難しいけれど、標記タイトルについて簡単な考察をやろうと思いキーボードに向かいました。
スイス戦の後に発表したコラムのタイトルは、オシム日本代表が、正しいベクトル上で発展しつづけている・・でしたが、そのコラム骨子でもっとも重要だったのは、明らかに相手のスイスが強いチームだったという事実でした。後になって、「あっ・・そうか・・タイトル、間違えたかもしれないな・・」なんてネ。
あのコラムを書き上げたのは、早朝の0300時を過ぎたあたり。それに、(ちょっと寝てからの)移動が控えていたこともあって(また日本代表の早朝トレーニングにアテンドしようと思っていたこともあって)、タイトルをしっかりと考える余裕がなかったんですよ。だから、ごく一般的なタイトルになってしまったという次第。とにかく、そのゲームでの本質的なテーマは、「強いスイス」というポイントにありました。
スイスが強いチームということもあって、最初の時間帯での日本チームはビビり気味だった(相手をレスペクトし過ぎた!)。足が止まって決定的スペースを突かれ(それがPKの反則につながった)、相手のペースに呑み込まれてしまった(擬似の心理的な悪魔のサイクルに陥った!)。
もちろんそれは、ディフェンスが後手後手に回っていたからに他なりません。チェイス&チェック(≒意志エネルギー)が高揚していかないことで、うまく「守備の起点」を作り出せない・・だから、次、その次のボール奪取勝負シーンをうまくイメージできずに受け身のプレー姿勢が繰り返されるという悪魔のサイクルに日本代表が落ち込んでしまった。それでは、ポンポンと軽快に(要はハイレベルに)人とボールを動かしながら危険な個の勝負を挑んでくるスイスに押し込まれるのも道理というわけです。
ただ、前半も25分を過ぎたあたりから、内容で凌駕され2-0のリードを奪われるという「落ち込んだ状態」から、日本代表は、明らかに「主体的」に立ち直りはじめました。それは、確かな事実です。選手交代などの「外からの刺激」によってではなく、あくまでも「内的な何か」によって・・。
ゲームの流れが変容していったのは、スイスのクーン監督が言うような「(スイスに)選手交代のミスがあった・・」とか「日本のゴールに動揺した・・」などといったこととは関係ないということです。たしかに日本代表の後半のパフォーマンスは、(ハーフタイムでの)オシム監督の強烈でクリエイティブな刺激によって「より」引き上げられたわけだけれど、それにしても事後的な刺激だったわけだから・・。
ということで、前半25分すぎから見えてきた、日本代表のパフォーマンスアップ(ゲームの流れの変容)について、グラウンド上の現象を思い返してみることにしたという次第です。テーマは、もちろん、心理的な活性化のキッカケになった刺激現象。
これから書くことは、印象レベルの仮説です。またここでは、2-0とリードしたスイス代表が、ゲームの流れを落ち着いて(楽して!)コントロールしようとするイージーな(安易な)プレー姿勢に変わっていったという現象は考慮せず、あくまでも、日本代表の「主体的な」チャレンジ姿勢の高揚にスポットを当てることにします。
まず一つは、トゥーリオの前への押し上げ(前で勝負する姿勢の高揚)。彼は、高い位置でのボール奪取と、そこからの素早い攻め上がり(攻撃参加)をイメージしはじめていました。内容で凌駕され、2-0のリードを奪われているのだから、当たり前の意志の高揚ではあるけれど・・。
もちろん効果的なボール奪取を狙うためには、チームメイトの協力が不可欠です。要は、相手ボールホルダーに対するチェイス&チェックをしっかりと機能させなければ(相手のパスの可能性を抑制しなければ)、インターセプトは難しいということです。もちろん、パスを受けようと戻ってくるスイス最前線選手への(スイス後方の選手からの)タテパスを狙うという可能性もあるだろうけれどね・・。
たぶんトゥーリオは、周りに様々な声を掛けていた(刺激を飛ばしていた)ことでしょう。「もっとボールを追い掛けろ!」とか、「マークをもっとタイトにしろ!」とか・・。そして自分は、インターセプトという「戦術的なキッカケ」がなくても押し上げていくという具合に、どんどんとプレー姿勢が積極的になっていく。また、そんな積極的なアクションに、守備の起点を演出することが多い鈴木啓太も乗っていく。ということで、彼らをバックアップするのは稲本潤一しかいないということになる。
要は、まだまだ「無為な様子見」が多かった稲本が、好むと好まざるとに関わらず、彼らのバックアップに回らざるを得ない状況が増えていったということです。この「無為な様子見」については、9月10日のコラムを参照してください。
そして日本代表の中盤に、徐々に「タテ方向のエネルギー変化」が感じられるようになっていくのです。その典型的な現象は、言うまでもなく、タテのポジションチェンジ。もちろん「それ」は、周りの選手たちのマインドをも「動かし」ます。要は、タテ方向の変化によって、稲本と同じで、誰もが動かなければならない(主体的にイメージを描写し、仕事を探しつづけなければならない)状況が生まれはじめたということです。
攻撃のコンセプトは「広さ」だからね。守備とは逆で、何人もの選手が一つのゾーンに集中してしまっては(ポジションが重なり合ってしまっては)元も子もないのですよ。そこでは、守備と攻撃が激しく切り替わるなかでのスムーズな「集散」がテーマになるのです。だから、次の攻撃で人の動きが出てきたら、スペースをうまく活用するために(ポジショニングバランスを保つために)周りも動かなければならなくなるというわけです。
イメージ描写と実際のアクションが「動き」はじめた日本代表。そんな「ダイナミックな流れ」がはじまったら、自然に、選手全員が攻守にわたって仕事を探しはじめるのも道理。もし、そんなダイナミックな(心理的にも動的な!)流れに乗れない(乗らない)選手がいるとしたら、すぐにでも「代表失格の烙印」を押されてしまうでしょう。オシム監督が常に強調している「チームマネージメント姿勢」から、そのことは選手たちも敏感に感じているはずです。そこには、(適度な)緊張感や危機感が機能しているのです。
そんな背景メカニズムを基盤に、トゥーリオが中心になって(!?)演出したタテ方向のエネルギー変化が、縦横のエネルギー変化(チーム全体の活発な動き≒ポジションチェンジの流れ≒攻守にわたって積極的に仕事を探すプレー姿勢)へと大きく発展していったということです。選手の足が動きはじめることによって、攻守にわたる次のプレーへのイメージ描写と意志が高揚していく。それは、ごく自然な発展プロセスだったのです。
ところで、前半25分あたりからゲームの流れが変容していったキッカケだけれど、本当にトゥーリオの「前への勝負姿勢の活性化」だったのかどうかは、実のところ、明確に認識できているわけではありません。私の目には、それがポジティブな変化の流れを促進したと映っていたのですが、もしかしたら「その刺激」は、前線からの松井大輔や中村俊輔のチェイス&チェックだったかもしれないし、遠藤ヤットの目立たない汗かきプレッシング守備だったかもしれない。はたまた、最前線からの巻のチェイス&チェックだったかもしれないし、鈴木啓太の汗かきチェイス&チェックだったかもしれない。
もちろん選手は、自分たちのプレーの流れが好転していることを肌で感じていたに違いありません。でも、そのキッカケは・・? それが、選手に聞いてみたいポイントなわけです。彼らは、その現象をどのように認識していたのか。何がキッカケになってプレーのペースが高揚していったのか。
オシム監督は、「その背景には非常に複雑なファクターが絡み合っている・・」と表現する。まあ・・そういうことなのかもしれないけれど、わたしは、どこかに明確なキッカケ現象があったに違いないと思っているのですよ。
私がここで言いたかったことは、W杯予選が、肉を切らせて骨を断つというギリギリの勝負になるということです。それを勝ち抜いていくためには、とにかく出来る限り多くの「チームに内在する刺激ツール」が必要なのですよ。本番になったら、大熊さんやオシムさんの声(指示や刺激)がグラウンド上の選手に届くはずないからね。
「停滞」を打破するのは、何らかの「刺激」。その「刺激ツール」のオプションを多く持っているチームこそ、力強いグループと呼べるのです。強いリーダーシップとか、ものすごいパワーを秘めた「個のチカラ」とか、誰もが嫌がるダーティーワークを爆発的なエネルギーで実行しつづける優れたパーソナリティーとか・・。
スイス戦では、そんな「セルフモティベーション(主体的な意志の高揚)」がうまく機能し、相乗効果を発揮したということなんでしょう。
もちろんそれは、相手が強かったからに他なりません。日本が完全にゲームを支配したオーストリア戦では、稲本の「無為な様子見」が改善する傾向は見られなかったからね。相手が強かったからこその「ゲームを通した成長」。私は、今回のスイス戦を、そのような視点でも見ていました。
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