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2007_オシム日本代表・・中村憲剛という変化の仕掛け人(刺激ジェネレーター)がゲームの流れをガラリと変えた・・(日本対オーストリア、0-0)・・(2007年9月7日、金曜日)

「日本は、我々よりも一クラス上だった・・素晴らしいコンビネーション(組織)サッカーを披露してくれた・・それでも日本は、たしかに16メーター付近までは(ペナルティーエリア周辺までは)完璧にゲームを支配していたが、いざシュートとなると、まだまだ課題も見え隠れしていた・・たしかに、ストライカーがワールドクラスではないということもあるのだろうが・・」。試合後、オーストリア監督ヒッカースベルガーが、そんなことを言っていた。

 今はもう夜中の0100時を過ぎている。記者会見の後、遠くに駐車したレンタカー(新型のメルセデスCクラス・ディーゼル・・本当にキビキビとよく走るクルマ)まで20分くらい歩き、その後、タクシーでは3000〜4000円くらい掛かってしまうような郊外のホテルに宿泊しているジャーナリスト仲間を送ってから自分のホテルに戻ってきました。部屋に入った頃には既に0030時を回っていた。というわけで、レポートも、なるべく短くまとめられれば等と、(時差ボケもあって)フラつくアタマで考えながらキーボードに向かった次第です。

 オシム監督は、この試合では内容が大事だという趣旨のことを言っていたわけですが、その内容には、中盤を組織プレーで支配するだけではなく、その流れをしっかりとシュートに結びつけるというテーマも含まれていたはず。オシム監督に、(冒頭で紹介した)ヒッカースベルガー監督の言葉を引用し、そのポイントを質問したけれど、それに対する回答では、ちょっとはぐらかされてしまった。もちろん彼も、シュートチャンスの演出にはまだまだ大きな課題ありという意見にはアグリーのはずだけれどね。

 皆さんもご覧になった通り、またヒッカースベルガー監督も明確にシャッポを脱いでいたように、全体的には、日本が完璧にゲームを掌握していました。例によって、チェイス&チェックと回りのアクションが、限りなくスムースに(有機的に)連鎖するダイナミックなディフェンスを絶対的なベースに、次の攻撃でも、ボールを効果的に動かしつづける組織サッカーを披露する日本代表。

 でも、そんな軽快なボールの動きに対し、人の動きが有効に連動していかない・・。だから、最後の仕掛けプロセスがうまく機能しない。組織プレーから個人勝負への移行がスムースではないし、個人勝負に入れたとしても、ことごとく相手ディフェンダーに潰されつづけてしまうのです(そこでは、サスガにオーストリアの守備ブロックにはホンモノの強さがあるという感慨があった)。

 田中達也にしても矢野貴章にしても、最前線で効果的な仕事ができないのですよ。まあ、タテのポジションチェンジも含め、最終勝負シーンでのボールがないところでの動き(サポート)が十分ではなかったから、肝心な最終勝負ゾーンで数的に優位な状況をうまく演出できなかったという表現が妥当だろうけれどね。要は、決定的スペースをうまく活用できていなかったということです。組織コンビネーションでも、個人勝負でも。

 中盤での素晴らしく軽快なボールコントロールとパス。でも、ボールがないところでの人の動きが十分ではないことで、効果的な最終勝負シーンの演出に結びつけられない。そんなアンバランスな手詰まり状態は後半もつづくことになります。ちょっとフラストレーションが滞留していましたよ。あれほどうまくボールを動かしているのに、肝心なところで、うまくシュートチャンスを作り出せないのだからね。もちろん何度かは決定的シーンもあったけれど、どうも、偶発という感じをぬぐえない。やはり「人の動き」が大事なのですよ。そう、考えて走ることが・・。

 でも、そんなゲームの流れが、選手交代によって大きく(ポジティブに)変化していくことになるのです。それがこのゲームでのもっとも重要なポイントでした。

 そう、後半20-25分というタイミングで、中村憲剛が交代出場してからガラリとゲームの流れが変わったのです。そこでの中村憲剛は、まさに効果的な変化の仕掛け人という表現がピタリと当てはまる大活躍でした。

 まず守備で抜群の実効プレーを魅せつづけます。チェイス&チェックだけではなく、実際にボール奪取にも効果的に絡みつづける憲剛。そして、そんなアクティブな守備での動きをベースに、次の攻撃でも、軽やかなボールタッチから、シンプルなタイミングのパス&ムーブを繰り返すことで、チームの攻撃のリズムをリードしていく。

 「ピンッ」という音が聞こえてくるような鋭いパスを出し、すぐさまパス&ムーブで次のスペースへ抜け出していく憲剛。そんなアクティブなプレーが、仲間の「刺激」にならないはずがない。それまで、ちょっと鈍重だった中村俊輔のプレーも、憲剛の「刺激」によってダイナミックに変容していくのですよ。

 そして、チーム全体としても、ボールの動きに、人の動きが連動するようになっていく。いや、人の動きが出てきたからこそ、よりうまく効果的なパスを「呼び込める」ようなった・・だからこそ、スペースをうまく使えるようにもなった・・という方が正確な表現だろうね。そう、それまでは、そんな人とボールの動きの有機的な連鎖が欠けていたんだよ・・。やっぱり、考えて走るという「人の動き」が主体でなければならないということだよね。

 それにしても中村憲剛。あの体つきにもかかわらず、大柄なオーストリア選手と互角以上に競り合ってしまう。以前にも書いたけれど、やっぱり私は、彼のことを「牛若丸」って呼ぶことにします。

 鈴木啓太、「牛若丸」中村憲剛、中村俊輔、そして遠藤ヤット。このダイナミック・カルテットは、この時点では、明らかに他の「選手の組み合わせ」よりも優れた組織プレーの機能性を発揮していると思います。もちろん優れた守備意識を絶対的なベースにしてね。

 ということで、ここからは稲本潤一と松井大輔というテーマに入っていくことになります。

 まず稲本潤一。立ち上がりの時間帯。2-3度、素晴らしいボール奪取勝負を魅せてくれた。それは、「この状況で、もし高い位置でボールを奪い返せたら、完璧なカウンターチャンスになる・・」と思った矢先に起きたボール奪取。狙いすました20メートルの全力ダッシュからのスーパーアタックでした。まさに感動。そう、それは、2002年ワールドカップでの稲本のゴールシーンが彷彿としてよみがえった瞬間でもあったのです。そして稲本のプレーに対する期待が天井知らずということになった。

 ただ結局は、期待が天文学的なレベルまで高まったからこそ、その後の彼のパフォーマンスに対する落胆も大きいということになってしまった。無為な様子見・・。そんな表現が当てはまる彼のプレー内容なのです。中途半端とも言える。

 守備では、たしかに狙いすましたボール奪取アタックでは他を寄せつけない迫力と実効がある。でも、そこに至るまでのプロセスでは、無為な様子見というシーンが続出してしまうのです。そんな様子見の稲本の脇を、鈴木啓太が縦横に動き回ってチェイス&チェックを繰り返すシーンを何度目撃したことか。

 また攻撃でも、どうもうまく波に乗れない。・・というか、彼が中心になって「波」を作り出すことができないと言った方が正確かもしれない。パスを出しても、パス&ムーブで次のスペースへ進出していかない。また、最前線を追い越していくような、ボールがないところでの決定的な動きも出てこない。かといって、後方から俊輔やヤットを積極的に「動かす」ような、リーダー的なアプローチもない。ただ無為にプレーに参加しているといった趣なのです。

 たしかに前回のコロンビア戦のときよりは良くなっている。もちろんそれは、中盤の底という本来の彼のポジションだったからでしょう。それでも、チーム全体のダイナミズムを高揚させるという役割を十分に果たしていたとは言えない。ボールがないところでの人の動きが活性化していかなかった一つの大きな背景要因として、稲本の無為な様子見があったことは事実だからね。

 だからこそ、攻守にわたって抜群の(汗かきの)組織プレーに徹する中村憲剛によって、急激にチームの組織プレーが活性化したのですよ。うまく回らないことで忘れかけていた組織プレーイメージを復活させた中村憲剛といったところ・・。そしてそこから、日本代表の仕掛け(最終勝負プロセス)に、ホンモノの危険なニオイが伴うようになっていくのです。牛若丸が登場してからのチャンスメイクの量と質は、それまでの手詰まり状態と比べたら、まさに雲泥の差ということになりました。

 さて、最後に松井大輔。はっきり言って期待はずれ。彼もまた、攻守にわたって、ボールがないところでの無為な様子見が目立ってしまっていた。フレッシュな状態で交代出場したのだから、まずディフェンスからゲームに入り、走り回ってシンプルにボールを動かすというイメージでプレーすべきだった。それがあってはじめて、彼が得意なカタチで勝負ドリブルに入れるようにもなったはずなのに・・。

 ボールから離れたゾーンにいるときの松井は、無為なジョギングが目立っていました。ほんの20メートルでも全力ダッシュすれば、相手のマークを振り切り、フリーで(スペースで)ボールを持てるのに。そうすれば、得意のドリブル勝負も有利に展開できたはずです。でも実際は、足許パスを受けてから(相手と正対してから)ドリブル勝負をスタートするものだから、相手ディフェンダーに、余裕を持って抑えられてしまう。たしかに最後の勝負ドリブルからクロスを返したシーンは良かったけれど、全体的なパフォーマンスでは・・。

 さて、まとめです。完璧にゲームを支配していた日本代表だったのに、チャンスメイクの量と質は、それに見合ったものではなかった・・そんな手詰まりの状態が、中村憲剛の登場によって、劇的に(ポジティブに)変化する・・そして、中村俊輔や遠藤ヤットのプレーコンテンツも、ダイナミックに変容していく・・。それが、この試合でのもっとも重要なポイントだったと思っている湯浅でした。

 それにしても、憲剛が入ってからの、抜群に危険度が高揚するという流れのなかで、しっかりとゲームを勝ち切ることが出来なかったことは残念でした。ヨーロッパの正統な古豪を、内容でも結果でも凌駕することで、フットボールネーションでの日本に対する評価を正しく高揚させていく・・。そう・・2002年3月27日にポーランドのウッジで行われた、ポーランド対日本戦での感動をもう一度という期待にあふれていたからね・・。

 そうそう・・、そのとき、ポーランドのウッジへたどり着くのに四苦八苦したっけ。そのコラムにもリンクを張っておきますので、興味がある方はご一読アレ。もう0300時を回ってしまった。頭がクラクラ。今日はここまで。もう寝ます。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。本当に久しぶりの、ビジネスマンをターゲットにした(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」を参照してください。

 




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