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2007_なでしこジャパン・・タイの積極的な攻撃サッカーのおかげで、なかなか面白い勝負マッチになった・・(日本vsタイ、5-0)・・(2007年8月12日、日曜日)

「そうですね・・このゲームに備えて、二列目からの飛び出しとか、ドリブルでの飛び出しなど、相手の最終ラインを突破するトレーニングは積んできたつもりだったのですが、たしかにまだまだのところもありましたね・・」

 それは、「オフサイドを取られるシーンが多かったが・・」という質問に対する、大橋監督の生真面目なコメントでした。でも私は、その質問のニュアンスにはまったくアグリーじゃなかった。あれほど高い頻度で、相手最終守備ラインのウラを突いていけたのだから、オフサイドを取られたことなんて(その回数なんて)まったく問題じゃなかったと思っていたのですよ。

 大橋さんはホントに真面目だね。私だったら、「その質問にはアグリーじゃない・・相手の浅い最終ラインをギリギリのタイミングで突破するというリスクにチャレンジし、何度もそれに成功した・・その成功回数からすれば、失敗(オフサイドを取られたこと)の割合なんて、まさにゼロに等しかった・・良いサッカーは、ミス(リスクチャレンジ)を積み重ねなければ決して成就できないんだ・・」なんて、その質問に対してカウンターパンチを見舞っていただろうね。

 この試合での見所は、まさにそのポイントに集約されていたのですよ。タイが、ガンガンと最終ラインを押し上げ、プレーゾーンをコンパクトに狭めるというイメージで、なでしこジャパンに勝負を挑んできたということです。それは、それは見所満点でした。もちろん大橋監督も、タイがそんな攻撃的サッカーを仕掛けてくることは百も承知。だから、対処ゲーム戦術を練ってトレーニングしてきたということです。

 私の目には、立ち上がり20秒での先制ゴールも含め、まさに、その大橋さんのイメージトレーニングが功を奏したと映っていたのですよ。まあ、先制ゴール後の20分間は、タイの術中にはまり、全体的なサッカーの内容としては、ちょっと攻守にわたる機能性が沈滞してしまったけれどね。逆に言えば、タイが、自分たちがイメージしていた攻撃的なサッカーを立派に展開できていたということです。私は、タイが展開した積極サッカーにも舌鼓を打っていました。

 でも、やはり日本代表はチカラがある。そんなタイの前掛かりサッカーの逆を突き、何度も何度も、素晴らしいカウンターパンチを繰り出していくのです。もちろん、大橋さんがイメージ作りをした「フラットライン破り」の攻め方でね。

 タメからの一発スルーパスや、後方からの、決定的スペースへの一発ロングパス・・。もちろん、パスの受け手とのイメージシンクロをベースにしてね。横方向から急激に方向転換して飛び出していくような決定的スペースへの抜け出しフリーランニングも素晴らしかった!

 私は、タイが展開した攻撃サッカーに感銘を受けていたから、逆に、その最終ラインの稚拙なプレーには閉口していました。とにかくラインコントロールがなってない。

 ラインが一体ではない(オフサイドラインがデコボコになっている)だけではなく、上げ下げのやり方も不明確(たしかに積極的に押し上げることだけは忠実に実行していたけれど・・)。また、ラインを「ブレイク」するポイントも、まさにいい加減そのものなのですよ。これでは、選手の間のスペースから抜け出されてウラスペースを攻略されるのも道理ってな具合でした。フラットライン守備や、ラインのブレイクについては、長い、長〜い「このコラム」を参照してください。

 そのことについて、タイの監督さんは、「今回は、中盤の選手を最終ラインに下げたり若い選手を使ったりと、最終ラインのテストをしたかった・・ただ、やはり日本が相手だから厳しかった・・」と言っていました。私の目には、ラインコントロールやブレイクなどは十分にトレーニングされていなかったように見えたのだけれど、そのことを質問するのはちょっと酷だと思ったからやめました。

 でも大橋さんには、こんな質問をしてみました。「身体的な能力やスキルの差はどうしようもないが、そんな世界トップと闘う上で、日本にとって大事になってくる要素を、いくつかキーワードで表現してもらえないだろうか・・」

 それに対して大橋監督は、生真面目に、こう答えてくれました。「ヨーロッパは体格的なアドバンテージがあるし、その他にもスキル的に抜け出している国々もある・・そんな世界に対抗していくためには、例えばグループでボールを奪うなど、組織的にプレーするのがいいと思う・・協力してボールを奪い返し素早く仕掛けていく・・もちろん(相手に素早い攻めを抑制されてしまうだろうから)ビルドアップという局面も多くなるだろうから、そこではサイドを起点に仕掛けていきたい・・そんなイメージだが、そこでのキーワードとしては、やはり素早く正確な判断、(日本人の得意な)細かな技術やスキルといったものを挙げることができると思う・・」

 とにかく、急速に世界との距離を縮めている彼女たちには、世界と闘っても決して臆することなく常に100パーセント以上の力を発揮できるような充実した準備を期待して止みません。ガンバレ、なでしこジャパン。

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 ところで、なでしこジャパンの大橋監督とは、2004年の3月30日にシンガポールで対談したことがありました。そのときの記事は「こちら」。当時の大橋さんは、アルビレックス新潟のコーチとして、シンガポールで奮闘していました。ご一読あれ。

 また、しつこくて申し訳ありませんが、拙著(日本人はなぜシュートを打たないのか?・・アスキー新書)の告知もつづけさせてください。本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」を参照してください。

 




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