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2008_CWC・・数字と内実の乖離(!?)・・(キトvsパチューカ, 2-0)・・(2008年12月17日、水曜日)

「パチューカは、細かくパスを回すことに長けたチームだ・・我々は、それを止めることを意識し、成功したと思っている・・中盤で(より高い位置で)ボールを奪うことに専念した・・そのためにトレーニングを積んできた・・細かいパスを回すパチューカだから集中(狙いを定めた協力プレス網!)することを特にイメージしていた・・」

 ポゼッションサッカー対カウンターサッカー!? そんなゲームの構図が成立するかどうかは、定かじゃありませんが、ゲーム展開による自然な流れとして(!?)そんな感じにはなりましたよね。

 何せ、ボール支配率(ポゼッション)では66%のパチューカが放った「枠内シュートの数」は、キトと同数の「4本」にしか過ぎなかったのだからね(シュート数全体では、パチューカの17本に対して、キトは9本・・でもパチューカは、後半だけで12本のシュートを放ち、そのうち枠内に飛んだのは、たったの一本だけだった!)。

 ゲーム展開による自然な流れ・・。それは、キトが、前半立ち上がりの4分に先制ゴールを挙げ、同26分に、見事なフリーキックを決めて「2-0」という、彼らにとっては「絶対的」ともいえるリードを奪ったからです。そんなゲーム展開によって、ガンガン攻め上がっていかざるを得なくなったパチューカ。そんな攻勢を「余裕をもって」受け止め、必殺のカウンターを仕掛けていくキト。

 パチューカの攻めだけれど、アルアハリ戦のときよりは(人数を掛けて、より積極的に仕掛けていったという意味も含めて!)よかったと思いますよ。メサ監督が、アルアハリ戦でのプレス会見で、わたしの質問に対して、「あなたの質問の意味がよく理解できない・・我々は攻撃的なチームだと評価されているんだ・・」と胸を張ったバックボーンが、何となく理解できた。その、アルアハリ戦のコラムは「こちら」

 ただ、やっぱり「一本パスが多すぎる」という印象はぬぐえないのですよ。そんなパチューカのポゼッションサッカーを表現したらこんな感じになるでしょうかね。

 ・・とにかく確実にボールをキープしながら(相手守備ブロックを揺さぶりながら!?)チャンスを見計らい、急激なテンポアップで相手守備ブロックのウラスペースを突いていく・・そのキッカケは、小さなコンビネーションの組み合わせ・・その小さなコンビネーションで相手ディフェンスの組織バランスを崩し、そこから繰り出していく「必殺スルーパスやラストクロス」・・彼らのなかでは、そんな「最終勝負を仕掛けていくタイミングと状況」のイメージが明確にシェアされていると感じる(優れたイメージシンクロ)・・その意味でも、彼らにとって「ポゼッション」は、それ自体がクリエイティブで動的な「タメ」ということか・・等々・・

 でも、この試合では(特に前半は)そんなポゼッションサッカーがうまく機能しなかった。要は、ミスパスやコントロールミスなどで、うまくボールをキープし切れなかったということですが、アルアハリ戦でも言えたことだったけれど、パチューカはスロースターターなのかな? まあ、それは分からないけれど、とにかく前半では、冒頭で紹介した、キトのアルゼンチン人監督バウサ氏が述べた、パチューカの攻撃のやり方に対応したキトの守備での意図(ゲーム戦術)が申し分なく機能したということです。

 彼らは、パチューカの「一つ多いパス」を明確に意識し、次の、その次のボール奪取ポイントまでもイメージして守備アクションに入っていた。だから、パチューカのパスミスが目立ったのですよ(パスを予測しているキト選手のインターセプトが目立った!)。何せキトの選手は、「ヤツらは、必ずこのタイミングで安全な横パスやバックパスを使う・・」とイメージしてボール奪取勝負を仕掛けていたからネ。

 ただ後半は、ちょっと流れが変わる。パチューカが、抜群のプレッシングでゲームを支配しはじめたのです。そして、ボールがないところで前へ飛び出していく味方プレイヤーが多くなったこともあって、「一つ多いポゼッションパス」が半減し(タテへの仕掛けパスが増大!)実際に何度もシュートチャンスを作り出した。でも決められない。

 「ボールの支配ではパチューカの方が上だったが、決定力がなかった・・」

 パチューカのメサ監督が、そんな表現をした決定力のなさ・・。その背景には、もちろんキトの守備力の高さがあった。

 このことは記者会見場で後藤健生さんとも話し合っていたことなのですが、キト守備陣が、ウラを取られても、抜群の「予測カバーリング力」によって、ギリギリのタイミングで身体を寄せつづけていたということです。

 パチューカが展開する、活性化したボールの動きによって(もちろん、それに人の動きもシンクロする!)何度かウラの決定的スペースを突かれたけれど、それでも、決定的なラストスルーパスやラストクロスが送り込まれる「最終勝負スポット」に入り込んでくるパチューカ選手は、ことごとくキトの選手に身体を寄せられていた(密着マークを受けていた)のですよ。それが、あれだけのシュートを放ちながら(後半12本)枠内シュートが1本だけだったという結果の背景にあったということです。

 私には、キトが、「あのパチューカの攻めだったら、余裕をもって守りきれるな・・」という確信をもっていたように感じられました。だからこそ、彼ら本来のカウンターサッカーも光り輝いた。とにかく、少しでもパチューカのボールの動きが停滞気味になったら(ポゼッションパスが一つでも多くなったら!?)キトが、集中守備(狙いを定めた協力プレス網!)を仕掛けていくのですよ。ホントに、その狙いを定めた(心理的な意味での)集中力には感服した。

 「キトの方が強かった・・彼らの方が、決勝へ駒を進めるにふさわしいチームだった」

 パチューカ、メサ監督だけれど、さすがに百戦錬磨の強者だね、ゲームの「内実」をしっかりと理解している。

 とにかく、パチューカが展開する「クラシカル」なポゼッションサッカーには、大いなる興味が尽きない筆者なのです。三位決定戦が楽しみです。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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