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2008_「ユーロ08」・・やっぱり「別物チーム」になったドイツ・・ドイツ対ポルトガル(3-2)・・(2008年6月20日、金曜日)

「湯浅さん・・いまヨーロッパ選手権にきています・・もう6試合くらいスタジアム観戦しました・・たしかに内容はすごいけれど、そんなサッカーを観ていて、自分たちのチームが闘っているJリーグが恋しくなったものです・・」

 読者の方から、そんなメールをもらいました(チケットは現地調達らしい・・スゴいヤツらだ!)。彼らの「マイチーム」はレッズ。その他にも、フロンターレやジェフのサポーターの方からも、同じようなニュアンスのメールをいただきましたよ。そんなメールを感慨深く読んだものです。日本にも、ホンモノのサッカー文化が根付きつつある(いや、既に深く根付いている)んだな〜〜・・

 もちろん「内容」も大事だけれど、やはり当事者意識とか参加意識と呼ばれる「心理ベース」ほど、サッカー観戦にとって大事なモノはないということです。

 もちろん私にとってドイツ代表は「マイチーム」だから、この試合(ドイツ対ポルトガルの準々決勝)も、眉根にシワ寄せて真剣に「観察」しはじめた。でも、「内容」を観ているつもりだったけれど、結局は「勝負プロセス」の方に心を奪われてしまうことの方が多かった。チャンスやピンチの背景要因に思考をめぐらせるのではなく、結果の方に意識が吸いよせられてしまって・・

 とにかく、読者の方からのメールに、正直、ちょっとホッとしていた湯浅だったのです。

 あっと・・試合。ここでは二つだけポイントを拾いましょうか。一つは、「試合展開によって変容しつづけたサッカーコンテンツ」。そしてもう一つが、「脅威と機会は表裏一体」というテーマ。まず「試合展開によるサッカー内容の変容」というテーマを、試合の流れを追いながら観ていくことにしましょう。

 この試合は、積極的な仕掛け合いというエキサイティングな展開で立ち上がりました。たしかにテクニックではポルトガルに一日の長があるけれど、ドイツにしても、以前ほどには「不器用」じゃなく、バラックを中心にして、プラグマティックで(実利的・実際的・実用的!)スキルを基盤に人とボールを動かしながらスペースを攻略していく。とにかく、素晴らしく「変化のある」仕掛け合いという「ダイナミック均衡状態」がつづきました。

 そんな流れのなかから、まずポルトガルがチャンスを作り出す。素早いパス交換から、最後は、決定的スペースへ走り抜けたクリスチアーノ・ロナウドへのスルーパスが通りかけたシーン(最後はフリードリヒがスライディングでパスをカット!)。

 このシーンを観ながら、こんなことを考えていた。やっぱりポルトガルは「個の局面プレー」を積み重ねるタイプの組織プレーだから、素早く、大きく「足許パス」をつないでくるよな・・それにしても、ボールの動きのコアにいるデコは、ポルトガルにとって本当に大事な存在だ・・誰もがデコを探し、彼の局面でのボールコントロールを観ながら、しっかりと次のパスに備えている・・フムフム・・

 でも先制ゴールはドイツでした。素晴らしく鋭いカウンターから(左サイドを、バラックとポドルスキーが超速のダイレクトパス交換で相手ディフェンダー二人を置き去りにしてしまう!)最後は、抜け出したポドルスキーから、ニアポストスペースへ走り込んだシュヴァインシュタイガーへの完璧な「グラウンダー・トラバース・ラスト・クロス」が美しい軌跡を描いた。そしてシュヴァインシュタイガーが、ダイレクトで「ピタリッ」とポルトガル・ゴールマウスの左下の隅へ流し込んだ先制ゴール。素晴らしい早業だった。

 そしてその4分後には、フリーキックから、ポルトガルゴール前の人の群れから(最後の瞬間に!)スッと抜け出したクローゼが、フリーでのヘディングシュートを決める。これでドイツの「2-0」のリード。

 このシーンでは、クローゼの「瞬間的な抜け出し」に目が釘付けになった。要は、クローゼが、(フリーキックを蹴る)シュヴァインシュタイガーがキックする瞬間を正確にイメージして飛び出したということ。やはりサッカーでは、ボールがないところでの「最後の瞬間の小さく素早い動き」が勝負を決するということか。要は、ラストパスを「呼び込むボールなしの動き」というテーマ。

 フランス対イタリア戦でも、先制のPKを得たトーニは、最後の瞬間に、「ピルロとのイメージシンクロ」で決定的スペースへ「相手を回り込んで」飛び出した。そこでは、ほんの数メートルという瞬間的なダッシュが勝負を決めた。

 ポゼッションサッカーという表現がよく使われるけれど、それにしても、基本的な発想は同じ。要は「緩から急へのテンポアップ」がメインテーマだということです。しっかりと「タメ」を演出し、最後の瞬間に「爆発」するという発想。

 その爆発だけれど、それは、一発のウラ取りラストパスかもしれないし、ワンツー・スリーのコンビネーションかもしれないし、爆発的な勝負ドリブルかもしれない。とにかく「最後の瞬間での爆発」という発想こそがメインターゲットなのですよ。

 まあここでのテーマは、ラストパスと瞬間的な勝負ダッシュのシンクロだったけれど、それがフリーキックだったからこそ(それは才能連中が演出する、流れのなかのタメと限りなく同義!?)瞬間的な爆発というテーマが一緒だったということです。

 またまた脱線してしまった。さて、ドイツが「2-0」とリードしたところから。とにかく、そこからドイツのサッカーの内容が変わっていくのですよ。

 もちろんポルトガルが攻め上がりドイツが守備を固めるという構図。観ているこちらは、ちょっとフラストレーションがたまってくるけれど、それでもドイツ守備ブロックの強さに(眠気もあって)ホッとしながらゲームの流れを目で追う「だけ」になってまったりして・・。

 でも、そんな落ち着いた流れが、ドイツチームの二つのマーキングミスによって、再びエキサイティングな展開へと活性化していくのです。

 最初のマークミスは、自分の外側をオーバーラップしていくシモンをマークせず(もちろんデコから!)ウラ取りのパスを通されてしまったポドルスキー。そして二つ目のマークミスは、左サイドで、クリスティアーノ・ロナウドに対するマーキングポジション(マークの位置取り)をミスしたフリードリヒ。

 要は、デコからシモン、そしてシモンからロナウドへと素早く力強い「サイドチェンジの足許パス」がつながった(ドイツ守備ブロックを振り回すようにボールが動いた)ということです。そして最後は、ロナウドのシュートを弾いたドイツGKレーマンからのこぼれ球をヌーノ・ゴメスが叩き込むという「追い掛けゴール」が決まった。

 これで「2-1」。その後も、前半のロスタイムにはクリスティアーノ・ロナウドが持ち込んで惜しいシュートを放つなど、ポルトガルがペースを握りつづけるという展開で前半が終わることになりました。

 前半のドイツが「2点」をリードするまでに展開した、エネルギッシュな協力ブレス守備や、人とボールがよく動く組織的な仕掛けに舌鼓を打っていたから、「2-0」とリードした後の、守備ブロックを固めてゲームを落ち着かせようとするドイツの意図には、ちょっと不満はあったですよ。でも、そんな意図を、すぐにチーム内で徹底できることもまたドイツの勝負強さの源泉だからと納得していた次第。

 そして後半。たしかにポルトガルペースで立ち上がりはしたものの、ドイツの前への勢いも、前半の「落ち着いた時間帯」とは「動き」という視点で次元が一つアップした。

 前半でも、特にメッツェルダーの「タテのスペースをつなぐ超速ドリブル」が何度も披露されるなど、ドイツチームの「タテのポジションチェンジ」は印象的だったけれど、後半の立ち上がりでもその傾向が強く出るようになっていったと感じたのです。その象徴が、立ち上がり6分に、クローゼからのパスを受けたヒッツルシュペルガーが放った惜しい中距離シュート。彼の左足のシュート力は抜群だからね(前半のダイナミックな時間帯では、2本、3本と、積極的に中距離シュートを放っていた)。

 この試合では、ロルフェスとともに守備的ハーフに「徹して」いた(後方からのオーバーラップに対し、その穴埋めに徹していた)ヒッツルシュペルガーが、機を見て押し上げ、そしてシュートまで打ったことには大事な意味があると思っていた筆者でした。

 そしてゲームの流れが、エキサイティングな「ダイナミック均衡状態」へと逆戻りしていく。そんな流れがつづいていていた後半の16分。またまたフリーキックから、今度はバラックがヘディングシュートを決めてしまうのです。これで再びドイツのリードが「2点」へと広がっていく。それは、誰もがドイツの勝利を確信したゴールでした。

 その後のゲーム展開が、ドイツチームの「強力な守備ブロック」による質実剛健なゲームコントロールといったものに変容していったことは言うまでもありません。とにかくこの試合は(経験ベースの)勝負強さをいかんなく発揮するドイツの面目躍如といった展開でした。

 そしてもう一つのポイントである「脅威と機会は表裏一体」というテーマに入るわけだけれど、まあ、もう詳しく書くまでもなく、グループリーグのクロアチア戦でドイツが負けたことが、このゲームでの力強く、そして勝負強いサッカーの源泉だったというのが主題なのですよ。別な表現をすれば、トーナメントを通したチームの成長・・ってなことにもなるのかな。

 このことについては「クロアチア戦のコラム」を参照してください。とにかく私は、クロアチア戦での敗北こそが(そこでの屈辱による心理エネルギーの増幅とか、チーム戦術的な見直しとか選手の入れ替えも含む)ドイツチームの立ち直りのバックボーンだったと確信しているわけです。

 寝ていないので、アタマが朦朧(もうろう)としています。後で読み直すかもしれないけれど、まあ「やっぱり別のチームになったドイツ」ってのがメインテーマだったですかネ。今日の試合の結果にもよるけれど(クロアチア対トルコ)やっぱりドイツは、クロアチアと当たってリベンジを果たしたいだろうね。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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