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2009_UCL準決勝・・フ〜〜ッ!・・ホントに神様ドラマは疲れる・・(2009年5月7日、木曜日)

フ〜〜ッ!・・結局、ローマで行われる決勝のカードは、世界中がもっとも見たい組み合わせに落ち着いた。バルセロナ対マンチェスター・ユナイテッド。それにしても・・

 まあ、まず、マンチェスター・ユナイテッドとアーセナルのせめぎ合いから簡単にいきましょうかネ。

 全体的な勝負の流れとしては、明らかに、マンUの順当勝ちというのが正しい考え方でしょう。第一戦では、ホームのマンUが、内容でも勝負でもアーセナルを凌駕したし、アーセナルのホームスタジアムで行われた第二戦でも、アーセナルが盛り返す雰囲気はあったけれど、結局はマンUが大勝を収めた。

 「盛り返し」とは、第二戦の立ち上がりに魅せたアーセナルの「勢いのある積極サッカー」のことです。そこには注目すべきテーマが内包されている。すべてはディフェンスからスタートする・・という絶対的なコンセプトが。

 第一戦では、完全にゲームを支配されたアーセナル。とにかく、局面でのボール奪取勝負が、まったくといっていいほど機能しなかった。

 もちろん、マンUのホームということで、アーセナルが慎重にディフェンスブロックを固めてゲームに入っていった(だから前戦へのサポートの厚みがうまく演出できなかった!?)という側面もあるだろうけれど、それにしても、ゲーム全体を通して、可能性のあるシュートシーンがたったの一度きりだったというのはいただけない。

 ただアーセナルは、無様なサッカーは出来ないホームでの第二戦では、とにかく積極的にボールを奪いにいった。そう、いつも書いている通り、ボール奪取プロセスでのプレー姿勢(意志のコンテンツ)こそが、全体的なサッカーの内容を決めるのですよ。全ては、ボール奪取プロセスの内容(意志のコンテンツ)からはじまる・・。もちろんそこでは、第一戦で「1-0」という勝利を収めているマンUが、少し様子見に立ち上がったという側面もあっただろうけれどネ。

 とにかくゲーム立ち上がりのアーセナルは、グラウンド前面で積極的にボール奪取勝負を仕掛けつづけることで完全にゲームを掌握していた。そんなアーセナルを観ながら、「これは・・」という期待がふくらんだわけだけれど、そのポジティブな観戦エネルギーが、試合開始からたったの8分で、ガクッと砕け散ってしまうのですよ。

 ディフェンダーのギブスが足を滑らせてしまったことで、彼がマークしていたパク・チソンに先制ゴールを叩き込まれてしまったのです。あのギリギリの緊張感が支配する状況で、足を滑らせたギブスに手で引っ張られてバランスを崩したにもかかわらず、突っ込んでくるアーセナルGKの身体の「上」を通すような素晴らしく冷静なシュートを決めたパク・チソンに、心からの祝福の拍手をおくっていた筆者でした。

 この時点で「ゲームが終わって」しまったことは言うまでもありません。アウェーのマンUが「0-1」とリードしたことで、アーセナルは少なくとも「3ゴール」を奪わなければならなくなったわけだからね。その後も、クリスティアーノ・ロナウドがスーパーFKを決めるなど、結局はマンUが大勝を収めた。

 この準決勝マッチでの視点は、両チームが展開した、チェイス&チェック、インターセプト狙いや相手トラップ瞬間のアタック狙い、協力プレスといった守備での有機連鎖と、ボールがないところでの最終勝負(決定的スペースをめぐるせめぎ合い=フリーランニングとマーキングのせめぎ合い)でのせめぎ合いという戦術ポイント(≒ボール奪取プロセスのコア要素でもあるプレー姿勢)に集約されていました。

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 さて、次はバルサとチェルシーが激突したギリギリのドラマチック勝負。

 ゲーム展開を観ながら、こんなことを思っていた。「この展開じゃ、チェルシーが決勝へ進むことになるよな・・二年連続でイングランド勢同士の対戦か〜〜・・興ざめだな〜・・そうなったら、純粋にゲーム戦術「だけ」に特化して観戦することになるんだろうけれど、それにしてもネ〜〜・・」などなど・・

 そんな興ざめの心理が支配していたから、後半ロスタイムに飛び出したイニエスタの同点ミドルシュートが決まったときには、ガツンッ!とぶん殴られたような興奮に襲われた。そりゃ、「ヒエ〜〜!!・・ホントかよ!?」なんていう頓狂な声だって出るヨ。何せ、それまでのゲーム展開では、バルセロナの仕掛けがことごとく抑制されていたことで、シュートが枠に飛ぶ雰囲気さえまったく出てこなかったんだからネ。

 そんなゲーム展開を観ながら、「さて、決勝で当たる両チーム(マンUとチェルシー)の戦術的な特長のイメージトレーニングでも始めるか・・」なんて、醒めた心境にもなったモノです。だから、イニエスタが叩き込んだ起死回生の「一発」は、ホントに、信じられないという思いで見入ってしまった。そして心の奥底から、「あ〜〜あ、ホントに良かった・・」なんていう安堵に似た感覚がこみ上げてきた。フムフム・・

 思い返せば、この試合で生まれた二つのゴールは、ともに難しいミドルシュートだった。あれほど守備ブロックが(天才連中によって!)ソリッドに組織されていた両チームの対戦だから(第一戦も含め)決定的なウラのスペースを攻略して「美しいゴール」を奪うシーンなんて、期待する方がおかしいということだね。

 このゲームがはじまる前の心境は、こんな感じだった。

 ・・美しさと勝負強さがハイレベルにバランスした高質サッカーという普遍的なテーマでは、バルセロナに一日以上の長がある・・だから、世界サッカーの発展のためにも、彼らに美しい勝利を収めてもらいたい・・とはいっても、抜群の機能性を誇るディフェンスを基盤にしたチェルシーが展開するロジカルな(必然の)勝負強さもレベルを超えている・・どんなゲーム展開になるのかは、神のみぞ知る、か・・

 ・・いや、どちらかといったら、守備をステディーに組織し、高い位置でのボール奪取をキッカケにした「ショートカウンター」も含め、前戦の天才連中が秘める「個の勝負能力」を前面に押し出してワンチャンスを狙うチェルシーの方が、このような一発勝負には有利だろうな・・

 ・・とはいっても、先日のクラシコでレアルを粉砕したバルサの攻撃力は、ツボにはまれば誰にも止められない・・でもこの試合では、メンバー不足で、中盤の重要なリンクマンである、トゥーレ・ヤヤを最終ラインに下げなければならないし、最前線の核弾頭アンリも不在だよな・・さて・・

 バルセロナは、人数を掛け、組織コンビネーションと個人のドリブル勝負プレーを、スムーズに組み合わせながら攻め込んでいく。別の見方をすれば、彼らが局面で展開する「ショート&ショートのパス回し」そのものが、相手の視線と意識を「真っ白」にしてしまう効果的な「タメ」だとまで言えるかもしれない。天才のみが演出できる『動的なタメ』。フムフム・・

 だからこそ、どんなに相手の守備ブロックが堅牢でも、それを「こじ開け」ていけるだけのチカラを発揮する。それが、世界中を虜にするバルサの魅力だろう。彼らは、優れた守備意識が深く浸透しているからこそ(次のボール奪取プロセス=守備=での相互信頼が確立しているからこそ)人数を掛けて攻め上がっていける。そんなバルサのサッカーについては、準々決勝のときに「こんなコラム」も書いた。

 とはいっても、相手がチェルシーとなると、ハナシはまったく違ったモノになる。チェルシーの勝負強さはレベルを超えているのですよ。

 チェルシーの守備ブロックだけれど、あれだけゲームを支配されつづけた第一戦でも、ウラの決定的スペースを突かれたのは数えるほどだった。

 たしかに、アンリやダニエル・アウベスがフリーでシュートを放ったり、エトーがドリブル突破からGKと一対一になったり(あのシーンは二試合を通じてもっとも決定的だった!?)また後半ロスタイムには、交替出場したボーヤンが決定的なヘディングシュートを放ったシーンもあった。そんなピンチは何度かあったけれど、結局は、流れのなかからのコンビネーションで決定的なウラスペースを攻略されるようなシーンは皆無だったのですよ。また、この第二戦では、バルセロナに、まったくといっていいほどチャンスを作らせかなったしね(枠内シュートは、同点ゴールとなったイニエスタの1本だけ!!)。

 チェルシー守備ブロックは、バルサが演出する『動的なタメ』にも動ずることなく、しっかりとウラのスペースもケアーできていた。それだけではなく、そんな「極限の忍耐」から、個の勝負能力を前面に押し出しながら「蜂の一刺しチャンス」を作り出してしまうのですよ。

 第一戦では、バルサ守備のミスから、ドログバがバルサGKと一対一になるシーンを作り出した。その「アウェーゴール」が決まっていたら、もう「勝負あり」だったかもしれない。またこの第二戦でも、カウンター気味の流れから、何度か決定的チャンスを作り出したのです。

 バルセロナでの第一戦の記者会見で、チェルシー監督のヒディンクが、こんなニュアンスのことを言っていたという。「チェフ(チェルシーのGK)がチームを救ってくれた(=ゴールを奪われなくてよかった)・・バルセロナの攻撃は破壊的だ・・第二戦では、もっといい闘いをしなければならない・・」

 そして彼は、イメージトレーニングも含め、抜群の集中力で、最高の準備をしたのです。それが、「あの」バルセロナの攻撃陣に、まったく枠内シュートのチャンスを作らせなかったという「結果」に如実に現れていた。素晴らしい。流石(さすが)に世界のストロングハンド、フース・ヒディンクだ・・

 とにかく、チェルシーが魅せつづけた徹底した勝負強さもまた、大いなる学習機会ではありました。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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