トピックス
- 2008_天皇杯決勝・・様々な困難を乗り越えた戴冠・・ガンバに心からの祝福を!・・(ガンバ対レイソル、1-0)・・(2009年1月1日、木曜日)
- 「ウチは、組織がスターなんだよ・・そのポイントに注目してもらいたいな・・」
天皇杯決勝の解説を依頼されたラジオ文化放送の(わたし自身ではなく他のレポーターの方による)前日取材で、ガンバの西野朗監督が、そんな趣旨のことを言ったとか。質問は、「レイソルでは、フランサが中心的なスターだが、ガンバの場合は・・?」といったニュアンスだったらしい。フムフム・・
ゲームは素晴らしくエキサイティングな「勝負」になりました。一点をめぐるギリギリのせめぎ合い。だから、ディフェンスが見所のコアになるのも自然な成り行きでした。
両チームが魅せつづけた、ボールがないところでの忠実なディフェンスには感銘を受けた。「一人目」のパスレシーバーの動きだけではなく、それに連動する二人目、三人目のフリーランニングも着実にマークしつづける両チーム守備ブロック。クリエイティブな受け渡しカバーリングとでも表現しようか、彼らは本当によくトレーニングされている。
ということで、たしかにメインの見所は「守備」ということになったけれど、もちろん攻撃でも、その様々なタイプという視点で、興味惹かれるポイントが満載だった。
忠実な守備をベースに、オーソドックスにボールを動かしながら、サイドから仕掛けていくというイメージに徹するレイソル・・それに対し、積極的なプレッシング守備をベースに、あくまでも人とボールが良く動く組織パスプレー(多くのプレイヤーが絡みつづけるコンビネーション)で対抗するガンバ・・ただ後半のレイソルは、フランサという「諸刃の剣スター」を投入することで、仕掛けのニュアンスが大きく変化していく・・
ゲームだけれど、その立ち上がり10分間は、強烈なプレッシング守備と積極的な押し上げによってレイソルが試合のイニシアチブを握った。そんな流れのなかで、何度か惜しいチャンスを作り出すレイソル。ただそれは、最後の瞬間にはしっかりと(ガンバの)ディフェンダーが対応していたことで、実質的には「危険なシーン」と呼べるようなレベルのものではなかった。そんなこともあってか、余裕をもって、まず相手を観察することからゲームに入っていくガンバ・・ってな構図なのです。
ただ、そんなガンバが冷水を浴びせられることになる。前半10分。右サイドをドリブルで駆け上がったレイソル右サイドバックの村上佑介が、ラッキーにも、フリーでウラの決定的スペースへ抜け出し、中央ゾーンでフリーでパスを待つポポへ、決定的なラストパスを供給したのです。
たしかに、ポポがダイレクトで放った完璧なフリーシュートは、コースが甘かったこともあって、ガンバGKのパンチングではじき出されてしまったけれど、それは、ガンバ全員が「フリーズ」した瞬間でした。「エッ!? 完璧に崩されて決定的シュートを打たれちゃったじゃネ〜〜か・・」。
彼らは、誰もが、決勝戦で、それも(守備の強い)レイソルを相手に先制ゴールを奪われることの意味を、痛いほど理解していたはずなのですよ。だからこそ、その決定的ピンチによる「刺激」はレベルを超えていた・・!?
そして、そのピンチを機に、ガンバが目を覚ましていくのです。そこでのペースアップの原動力は、もちろん守備での圧力アップ(ハードなチェイス&チェック&ハードマーク&ハードアタックetc.)。だから、ボール奪取の量と質(そして位置)も格段に向上し、次の攻撃にも勢い(人数)が乗っていく。
ところで、ゲーム立ち上がりの(レイソルが主導権を握った)展開。私は、そんな流れを観ていて、こんなことを思っていた。
・・たしかにレイソルの仕掛けを余裕をもって受け止められているけれど、それにしてもガンバの動きは緩慢・・このままじゃ、準決勝マリノス戦の二の舞ということになってしまうのかな!?・・ガンバの疲労は頂点に達しているだろうし、昨日のホテルトラブル(!?)で十分にトレーニング出来なかったことも悪影響を与えているのだろうか?・・とにかく、攻守にわたって様子見になってしまう選手が多すぎるとか、ガンバ選手の動きはニブ過ぎる・・
でも、やはり、自分たちの確信(心理)ベースが粉々に打ち砕かれた「絶対的ピンチ」という刺激には大変な(覚醒)エネルギーが内包されていたということなんだろうね。そしてガンバは、どんどんと組織プレーパワーを増幅させ、ゲーム展開を逆流させていくのです(そこからは、明らかにガンバがペースを握りつづけた)。
そんな流れの変容プロセスを観ながら、こんなことを思っていた。たしかにガンバには、ドリブルやタメといった個人プレーで相手守備を不安に陥れてしまうような(チームメイトもその個人プレーに頼るような!)絶対的な仕掛けのコアになる選手はいないよね。
遠藤にしても、原則的には、シンプルな(そして巧みな)パスとボールがないところでの動きを積み重ねることで「派手な個人プレーアクションのない優れた実効プレー」を演出する、クリエイティブな組織プレイヤーだからネ・・。
もちろん、突貫ドリブラーの安田理大や、柔軟なドリブル&小さなコンビネーションを駆使するルーカスといったところが、ココゾッ!の勝負所では、個人勝負プレーで局面打開にチャレンジするけれど、それでもシュートへつながる最終勝負プロセスでは、山崎雅人や播戸竜二に代表される「突貫フィニッシャー」の爆発フリーランニングによって決定的スペースを『組織的に』攻略するというシーンが主流だよね。
この試合でも、何度か、山崎雅人の爆発的な抜け出しと、彼が狙う決定的スペースへのスルーパスの「有機的な連鎖」によってチャンスが生まれていた。
現状の「個と組織のバランス」でも十分にやっていけることは(CWCも含めて)確実に証明したガンバ。とはいっても、西野監督もホンネでは、もう少し「個の要素」も高めたいとは思っているはずだろうけれどね。
まあ、西野監督も含め、守備も出来、ボールがないところでもしっかりと走る「組織的な天才プレイヤー」については、世界中の誰もが欲しているわけだから・・。もちろんこちらは、だからこそ西野監督には、荒削りの天才を「本物の組織プレイヤー」に育て上げるということにもチャレンジして欲しいと思っているわけですよ。まあ、そんな余裕はないか・・
ちょっとハナシがアッチコッチに飛ぶなど、コラムが冗長になってしまった。ラジオの解説をしていたので全くメモを取っていない。まあ、テーマやポイントを思い出しながらのコラムだから「まとまり」がなくなってしまうのも道理ということなんだろうな〜〜
ということで、最後に、再び「フランサ」というテーマ。レイソル選手は、フランサの世界(これについては『準決勝コラム』を参照!)の価値を明確に認め、それを頼りにしている・・だからこそ、それをうまく機能させるために(フランサが登場してくる前にも増して!)攻守にわたる汗かきに精を出す・・ということなんだろうね。
そのチーム一丸となった徹底サッカーが、チャンスを見計らい、彼にボールを預けて全力でスペースへ抜け出していく・・等、フランサのチカラを存分に引き出していると思いますよ。とにかくフランサによくボールが集まり、そこを中心に(正確な『活きた』パスが飛ぶなど)危険な仕掛けがスタートしていくから、勝負所(時間帯)でフランサが登場することの効果が、非常に大きなモノになっていると感じます。これもまたレイソル石崎監督のウデということだね。
その他にも、両チームの「5番」が展開した、守備とセットプレー(攻撃)での存在感、ガンバ中盤の隠れたヒーロー明神智和(とにかく彼は代替の効かない選手!)、ガンバ遠藤保仁のクールなガンバリ、ガンバ寺田紳一の勝負マッチを通じた発展(試合を通して、明らかにプレーが活性化した!)、レイソル李忠成の徹底サッカー、(前半ある時間帯での)レイソル右サイドコンビ(村上佑介と太田圭輔)によるサイドの攻略・・などなど、たくさんテーマはあったけれど、まあ今日のところはこんなところにしよう・・。
とにかく、あれだけのハードスケジュールを乗り越え(疲労の克服というテーマ・・この試合でのサッカー内容は、ガンバが、精神力だけではなく、物理的にも、ある程度は疲労を効果的に克服していたことの明確な証明だった!!!)、クラブワールドカップで、世界に対して日本サッカーをアピールした(してくれた)だけじゃなく、意地で、来年のアジアチャンピオンズリーグへの参戦権ももぎ取ったガンバに対して、心からの拍手を贈ろう。
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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