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2009_日本代表・・本当に素晴らしいダイナミックサッカーを魅せてくれた・・(日本vsチリ、4-0)・・(2009年5月27日、水曜日)

スゴイね〜〜、日本代表。

 とはいっても、ゲームの立ち上がりはちょっと心配させられた。しっかりとした個のチカラを基盤にアグレッシブなプレッシングサッカーを展開するチリに対し、徐々に、受け身のプレー姿勢が目立つようになっていったのですよ。岡田監督も、『下がるな〜〜!・・前から仕掛けていけ〜〜!!』といった正しいゲキを飛ばしていた。

 それでも日本代表は、時間が経つにつれて、チリのプレッシャーに輪を掛けた積極プレスで盛り返していった。

 この試合からピックアップすべき第一のポイントは、とにかく、日本代表が魅せた、サッカー文化の正しい発展によって培われた自信と勇気による(!?)押し返す意志のチカラだと思いますよ。その背景に、「J」というプロ環境の発展、国際的な「成功体感」の積み重ね・・といった地道で本格的な「歴史」があることは言うまでもありません。

 中盤での「プレッシングのぶつかり合い」だけれど、そこでのボール奪取のせめぎ合いで日本代表が明確な勝利を収めたからこそ、終始ゲームのイニシアチブを握るだけではなく、守備と攻撃の「目的」である、ボール奪取プロセスとシュートの「量と質」でチリを圧倒できた。

 やはりサッカーにおける全てのスタートラインは、ボール奪取の「内容」に拠るんだよな・・。そのプロセスに「意志」という実が詰まっていけば、次の攻撃にも、しっかりと人数を掛けていける。そう、人数を掛けた(できる限り多く数的に優位に状況を作り出すような)組織的な攻めこそが日本の生命線だからネ。

 そんな「盛り返しプロセス」で主役を張っていたのが、牛若丸(中村憲剛)遠藤ヤット、そして長谷部誠で構成する「中盤のバランサー・トライアングル」。本当に素晴らしい(攻守にわたる)仕事を探しつづけるプレー姿勢だった。

 彼らは、互いに使い、使われるという「メカニズム」を深く理解している。だからこそ、攻守にわたって、縦横無尽にポジションチェンジを繰り替えしても、次の守備でバランスの崩れることがない。
 このポイントについては、こんな表現もできる。リスクチャレンジが生命線である「良いサッカー」は、常にバランスが崩れるモノ(積極的にポジショニングなどのバランスを崩していかざるを得ない!)・・だからこそ選手には『優れたバランス感覚』が求められる・・崩れたバランスを、素早く、効果的に再調整するために・・

 ところで、日本代表の攻撃メンバー(要は選手のタイプ)について、ある方からこんな質問を投げかけられた。

 「湯浅さん・・いまの日本代表には、センターフォワードタイプの選手がいないと思うのですが・・みんな小兵じゃないですか・・それでいいんですかね・・」

 ・・いや・・それでいいと思いますよ・・もちろん釜本邦茂(さん)のようなレベルを超えたセンターフォワードがいれば、その選手の能力を存分に活かせる攻撃イメージを構築するという考え方もあるけれど・・いまの日本には、フットボールネーションの屈強なディフェンダーと互角以上にヘディングで競り合えたり、最前線で孤立した状態でボールを持っても、一人で頑張って(あるレベル以上の確率で!)ボールをキープしちゃうような効果的ポストプレーができる選手はいないからネ・・

 ・・クロス攻撃にしても、ニアポストスペースや相手ディフェンダーの『眼前スペース』をうまく活用するという最終勝負イメージを徹底すれば、それはそれで相手にとって危険この上ない仕掛けになるはずだよね・・そのスペースに走り込んだ味方をクッションにしてボールを流し、次で決める・・とかね・・

 ・・とにかく今の日本代表では、ゼロトップというコンセプトが合っているように思うね・・岡崎慎司にしても、前戦での(ボールがないところでの)縦横無尽のポジションチェンジがあるからこそタイミングよく決定的スペースへ飛び出していけるわけだしネ・・

 ・・そうネ〜〜・・本格的なセンターフォワードタイプね〜〜・・巻誠一郎か矢野貴章といったところだけれど、まあ今の状態では、矢野貴章がいいよね・・さて〜〜・・

 ハナシ変わって山田直輝。いや、ホント、素晴らしいデビュー戦だったじゃありませんか。

 たしかに「局面でのせめぎ合い」では、極限のスピードやパワーといったポイントである程度のリミットは感じるけれど、彼の真骨頂は、何といっても『ボールがないところでの動き』にありだからね。

 守備はもちろんだけれど、とにかく(攻撃での)ボールがないところでの効果的な動きが素晴らしかったのですよ。

 自らパスを受けるために決定的スペースへ全力スプリントで抜け出すだけじゃなく、味方ボールホルダーへ爆発的に「寄っていく」ことでも、他のチームメイトにスペースを作り出したりする。

 周りのチームメイトも、そんな「激しい動き」に触発され、直輝が動き出したら、ボールがないところで、三人目、四人目の選手がアクションをスタートする。とにかく、山田直輝が演出した「味方のアクションを誘発する動き」には、抜群の刺激エネルギーが内包されていたのです。

 彼のプレーでは、こんな印象的なシーンがあった。右サイドからセンターゾーンの味方へパスを出し、そのままパス&ムーブで、逆の左サイドスペースへ向けた「大回りの全力フリーランニング」を敢行したのですよ。その動きに、チリのディフェンダー二人が「吸い寄せ」られ、そのことでフリーになった味方が、うまくワンツーコンビネーションでタテへ抜け出していった。

 山田直輝のプレーでは、そんなクリエイティブなムダ走り(実際はムダではなく素晴らしい実効を伴ったの動き!)がテンコ盛りだった。レベルを超えた「刺激プレイヤー」。このテーマについては、彼の(浦和レッズの)ユースチーム時代の監督、堀孝史について書いた「このコラム」も参照してください。

 山田直輝は、ボールを持っても「非凡な意志」を魅せつづけていた。そう、リスキーなタテパスへのチャレンジ姿勢。(派手ではないけれど!?)堅実なボールコントロールをベースに、常に『決定的ゾーンでの勝負』をイメージしている。

 特筆だったのは、何度失敗しても、そのリスクチャレンジ姿勢がまったく減退しなかったということ。強烈な意志のチカラ・・。だからこそ、素晴らしいデビュー戦になった。フムフム・・

 最後にもう一人、採りあげましょう。本田圭佑・・。彼もまた、「環境」によって本物のブレイクスルーを果たしたということなんだろうね。

 オランダ(プロ)リーグ二部で、徐々に存在感をアップさせていった本田圭佑。サッカーの本場であるからこその『さまざまな深〜い闘い(心理的な発展プロセス)』を経たことでしょう。それがあったからこそ、実質的なプレー内容が、攻撃と守備の目的達成を明確に意識した実効あるモノへとポジティブに変容していった。

 後半は運動量が落ちる(消えてしまう時間帯が増える)など、攻守にわたる組織プレーの「継続的」な実効レベルでは「まだまだ」だけれど、それでも、シュートへ向かう強烈な意志や、自信オーラを放散するリスキーなボールキープ(=効果的なタメ!)といった勝負プレーでは、実効が伴っているからこそ、チームにとって確実なプラスだと感じさせてくれた。

 それにしても岡崎慎司の「決定力」は日本人離れしている。それは、心理(イメージ)トレーニング含め、ものすごい精進(努力)の賜物(たまもの)に違いない。

 ・・本田圭佑の「本格感あふれる個のドリブルシュート力」・・岡崎慎司が魅せつづける(組織ベースのパスを呼び込むプレー!?)チャンスメイク力と決定力・・それに、中村俊輔の「レベルを超えた上手いシュート力」・・

 いまの日本代表は、高い実効レベルにあるセットプレーだけではなく(この試合でも阿部勇樹がインターナショナルクラスのニアゾーン勝負でスーパーヘディングゴールを決めたし、次はトゥーリオも戻ってくるけれど)流れのなかからも危険なシュートチャンスを作り出せるまでに発展している!? 次のベルギー戦が楽しみになってきた。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 




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