トピックス
- 2009_天皇杯決勝・・このような充実したサッカーだけが、健全な興味(社会的ノイズ)を高揚させる・・(2010年1月1日、金曜日)
- 「ガンバは攻撃サッカーを志向しているけれど、その意味合いは、単に攻めにリキを入れるということではない・・その(もっとも重要な!?)バックボーンは、攻撃的な守備という側面に(も!?)あるのです・・」
こりゃ・・、「ガンバのスタイル」というキーワードを解き明かしていくうえで、とても重要な発言じゃありませんか。実は、「もう何度も繰り返し質問されているとは思うが、ここで新たに、ガンバのスタイルとは何かというポイントについて、短くまとめていただけないだろうか・・?」なんていう質問をしてみようとしていたのですよ。だから、西野朗監督の(別の質問に対するコメントのなかで)口をついて出てきた冒頭の言葉には、とても重要な意味が内包されていたのです。
そう・・サッカーは、その全てが守備からスタートする。それこそが、サッカーにおけるもっとも重要なメカニズムであり、現代サッカーにかかわる全てのプレイヤーがまず理解し、実践していかなければならないことなのです。
攻撃的な守備・・。西野さんも言っていたけれど、要は、(相手のボールの動きに反応する=リアクションする=のではなく!)自分たちが主体になってボールの動きを抑制し、どこでボールを奪い返すのかというイメージをチームメイトと明確に共有することで、互いのプレーが有機的に連鎖しつづけるような『ボール・オリエンテッド守備』のことです。分かり難いですか?
まあ、要は、チェイス&チェックを絶対的なベースに、意図的に相手のボールの動きを追い詰め、イメージしたところでボール奪取勝負を仕掛けてボールを奪い返してしまうという「自分たちがイニシアチブを握った主体的ディフェンス」のことです。えっ・・もっと分かり難くなった!? フ〜〜・・
とにかく、そんな実効レベルの高いボール奪取勝負を、高い位置から仕掛けられれば、サッカーにおいて最も効果的である「ショート・カウンター」も可能になる。だから、世界中のどのチームでも、ボールを奪われた「直後のディフェンス」にリキを入れるのです。まあ、(ベガルタ仙台のような!)素早くクリエイティブな攻守の切り替えという表現もあるよな。
ここで「クリエイティブ」といったのは、素早く守備へ入るだけじゃなく、どのようにすれば、最も効果的にボールを奪い返せるのかというテーマを常に脳裏に描写しながらクレバーにプレーする(全力でアクションを起こしていく)ということです・・念のため・・。
あっと・・「ガンバのスタイル」というテーマに入り込み過ぎてしまった・・。まあ、いいや・・入り込んだついでに、もっと、そのハナシを進めちゃおう。
西野さんは、胸を張って、こんなことも言っていた。「このような(優れたガンバスタイルの)サッカーを貫きとおし、それだけではなく、しっかりと結果も出せたことは、日本サッカーにとっても、とてもポジティブな出来事だったと思う・・私は、そのことで、日本サッカーの発展に少しでも貢献できたと思っているのです・・」
まさに、その通りだと思いますよ。でも、良いサッカーを展開したのは、ガンバだけじゃなかった・・。そう、たしかに攻めのチーム戦術ではちょっと個に偏る傾向はあったけれど、総合的には(!!)グランパスもまた優れたサッカーを魅せつづけてくれたのですよ。だからこそ素晴らしくエキサイティングで魅力的な決勝マッチになった。
このゲームには、二つの見所がありました。一つは、とことん(攻撃的なディフェンスを絶対的バックボーンにした!) 組織的アグレッシブサッカーを前面に押し出すガンバという見所。そしてもう一つが、ある意味で「諸刃の剣」とも言える、ケネディーという攻めのキーパーソン(武器)を、とことん駆使しようとするグランパスの戦略。
ガンバの先制弾とグランパスの同点弾は、そんな両方の「チーム戦術コンセプト」が、まさにズバリとツボにはまったゴールでした。
遠藤ヤット(保仁)、ルーカス、山崎雅人、二川孝広、それに橋本英郎という五人の仕掛けイメージが、まさに有機的に連鎖しつづけた(素晴らしい人とボールの動きが唸りを上げた)えも言われぬほど美しい先制コンビネーションゴール。
そして、スーパードリブラー玉田圭司の面目躍如とも言える爆発的なボールの運びと正確なクロス、そこからのケネディーのヘディングによる正確な「落とし」と、三列目から押し上げ、ゴール前の決定的スペースまで入り込んでいった中村直志のヘディングによる同点ゴール。
両方とも、入場料にお釣りがくるような、目の覚めるスーパーゴールだった。
この試合、わたしはラジオ文化放送の解説を担当していたのだけれど、先制ゴールを挙げたことで落ち着いてしまったガンバのプレー姿勢と、その失点に刺激を受け、仕掛けの姿勢が目に見えるほど活性化したグランパスのサッカーを観ながら、こんなことを、マイクに向かって呟いていた。
・・この早すぎるタイミングの先制ゴールですが、これは、もしかしたら、ガンバにとっては「心理的な落とし穴ゴール」になってしまうかもしれない・・もちろん逆に、グランパスにとっては「ラッキー失点」ということなるわけです・・サッカーは本物の心理ゲームですからね・・
皆さんには、この心理メカニズムのバックボーンを説明する必要はありませんよね。そしてゲーム展開が、まさに、そのような変化ベクトルに乗りはじめていく・・。
たしかにガンバは、守備でも強さを魅せつける。だからグランパスも、そう簡単には崩し切れないけれど、玉田圭司やマギヌンのドリブルといった変化も織り交ぜながら、最後はケネディーのアタマとポストプレーを活用するというイメージを徹底することでゲームのペースを握り、徐々に、具体的なチャンスを作り出せるように成長していくのですよ。フムフム・・
あっと、もう一つ、ガンバとグランパスを比べる視点があったっけ。それは、個の勝負コンテンツの違い。
・・グランパスには、ケネディーや玉田圭司、はたまたマギヌンや小川佳純といった、とても特長のある「インディビデュアル・プレイヤー」がいる・・それに対してガンバは、あくまでも組織的なコンビネーションサッカーに徹する・・だから逆に、人数が足りないと攻め切れない・・それに対してグランパスは、人数が足りなくても、エイヤッ!の勝負を繰り出せる・・フムフム・・
そして、最終勝負シーンへ掛けていく人数が足りないことで、うまく、組み立てベースの攻撃やカウンターをフィニッシュまで持っていけないガンバに対し、名古屋が、これぞグランパスのツボ!っちゅう攻めで同点ゴールを叩き込んでしまうのです。
そして、グランパスに(微妙なニュアンスではあるけれど・・)よりゲームのペースが傾いいていくという傾向は、後半の立ち上がりもつづくのです(立ち上がり0分の続けざまのチャンスは見応え十分だったし、後半4分には、ケネディーの絶対的ヘディングシュートも飛び出した!)。
全体的には優れたサッカーを展開しているけれど、最終勝負シーンに、どうもうまく人数を掛けていけない(だからグランパス守備ブロックをうまく崩し切れない)ガンバ。それに対し、前半の好調なサッカーそのままに「徹底した仕掛けのイメージ」を押し進めることでチャンスを作り出すグランパス・・。フムフム・・
ここまでの展開では、まあ(微妙なニュアンスだけれど・・)グランパスに勝負の流れが傾き掛けていたと言えるかもしれないネ。でも、後半も10分を過ぎる当たりから(後半7分にガンバが作り出した大きなチャンスシーンが心理的なキッカケになって!?)徐々にガンバも盛り返し、仕掛けに人数を掛けていけるようになるのです。
そしてゲームが、どちらが勝ってもおかしくないという、実力チーム同士のギリギリのぶつかり合い(仕掛け合い)というエキサイティングな展開になっていくというわけです。
最後に、これも文化放送の解説で使ってしまった表現なんですが・・『マラドーナ遠藤』に乾杯!!
この試合でも、遠藤保仁は、攻守にわたって素晴らしいサッカーを展開した(もちろん、見えない守備での汗かきパフォーマンスが特筆!!)。彼のハイパフォーマンスだけれど、何となく「当たり前の環境」になっちゃったから、特別に、彼を取り上げて書く機会が減っているように感じます。あまりフェアじゃない・・。このテーマについては、この「準決勝コラム」を参照して下さい。
とにかく、ワールドカップイヤーである2010年元旦の天皇杯ファイナルは、素晴らしくエキサイティングな勝負マッチでした。このような充実した内容のサッカーをつづけていけば、必ず、本当の意味での「スポーツ文化的なバックボーン」に支えられた社会的な興味(ノイズ)が高まっていくに違いありません。
不確実であるからこそ・・最後は自由にプレーせざるを得ないからこそ・・サッカーには普遍的な価値が内包されている・・だからこそサッカーは、21世紀の日本を引っ張っていくイメージリーダーにさえもなり得る社会的存在・・わたしは、そう確信しているのです・・
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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