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2010_クラシコを観ながら考えていたこと・・美しさと結果のバランス・・(バルセロナvsレアル・マドリー, 5-0)・・(2010年11月30日、火曜日)

このところ、「サッカーの内容」と「勝負強さ」という、ある意味で背反するテーマを深めていく作業に、継続的に取り組んでいます。

 もちろん、その主たるオブジェクト(観察&分析対象)はJリーグだけれど、我々サッカーコーチは、これら二つの根源的要素を、それぞれのチーム事情に即した最良のカタチでバランスさせる・・というテーマと取り組んでいるということが言いたかったわけです。ちょっと大袈裟ですが・・

 このゲーム(WOWOW中継)の解説を担当した岡田武史も、ワールドカップ本大会に臨むにあたり、最後の最後は「勝負(結果)寄り」にチーム(ゲーム)戦術を軌道修正した。まあ、その修正プロセスでは、チーム内に、外部の人間には決して知ることの出来ない微妙なニュアンスの思惑が錯綜する、様々な紆余曲折があったはず。

 とはいっても、本大会に至るまで、決してブレずに、攻撃的なプレッシングサッカー(究極の組織プレー)を志向したことは大正解だった。そんな絶対的ベースがあったからこそ、選手たちの自覚と緊張感を極限までアップさせ、最高の集中力で「勝負」に臨めた。

 まあ、もちろん、そこには、ワールドカップという「巨大な刺激」があったわけだけれど・・ネ。「あの」サボリ屋の松井大輔が魅せた、攻守にわたる忠実でダイナミックな汗かきプレーが、その刺激の凄さを如実に物語っていた!? あははっ・・

 あっと・・クラシコ。

 この試合には、「サッカーの内容」と「勝負強さ」という、ある意味で背反する根源的要素のバランスタイプ(美しさと結果の最良のバランス!?)という、とても興味深いテーマも潜んでいた。

 要は、この勝負マッチのバックボーンには、二つの異なるタイプのサッカーが対峙し、せめぎ合うという構図があったということです。

 誤解を恐れずに書きます。要は、究極の勝負強さを志向するジョゼ・モウリーニョと、「美しさと結果」の最高バランスを志向するジョゼップ・グアルディオラの対峙という構図です。

 レアル・マドリーは、守備ブロックをカチッと組織し、互いの(ポジショニングや攻撃の志向性などの、心理・精神的&物理的な)バランスを取りながら、バルセロナが仕掛けてくる、「究極の組織コンビネーション」と「天才の宴プレー(世界最高峰のドリブル勝負やタメなど)」が見事にバランスした仕掛けに耐えている。

 もちろん、ボール奪取プロセスでは、決して安易にアタックを仕掛けることなく(置き去りにされることなく粘り強くマークしつづける!)、忍耐強く、互いのポジショニングを修正しつづけることで「次のボール奪取チャンス」を狙う。もちろんチェイス&チェック(=守備の起点プレー)も忠実に繰り出すけれど、基本的には、「ウェイティング」で耐えながら、バルサの「夢のような人とボールの動き」に集中することで「次」のボール奪取勝負シーンをイメージするのですよ。

 そこでかもし出されていた、鳥肌が立つような緊張感。堪えられない。

 強烈な「規律」をベースに、ココゾッ!!のボール奪取を狙いつづけるレアル・マドリー。そして一度ボールを奪い返したら、これまた、世界最高峰のスピードとテクニックで、一気にバルサのゴールへ迫っていくのです。

 難しいネ・・レアル守備のイメージを表現するのは。要はサ、彼らのボール奪取プロセスには、ボールを奪い返すプロセスに対するイメージだけではなく、ボールを奪った次の瞬間からスタートする必殺カウンターに対するイメージも内包されている・・っちゅうことが言いたかったわけです。だからこそ、カウンターに対する「意志」が天文学的なレベルまで高まる。サスガに、ジョゼ・モウリーニョ・・ってなことかな。

 ゲーム展開だけれど、バルサの天才コンビ、イニエスタとシャビのコンビに先制ゴールを奪われたレアル・マドリーだったけれど、そこから彼らは、ディ・マリア、クリスティアーノ・ロナウド、エジル、ベンゼマを中心に、二本、三本と、完璧に勝負イメージが統一された「スーパー・カウンター」で決定機を作り出していた。

 その強烈なカウンターの印象は、バルセロナのゲーム支配がとても目立っていたからこそ、まさに「唐突」そのものだった。耐えに耐えるレアルが、バルサの一瞬のスキを突いてボールを奪い返す・・そして、その数秒後には、誰もがフリーズしてしまうような絶対的チャンスを作り出してしまうのですよ。

 まさに世界最高の勝負マッチ。だからこそ私も、キーボードにむかう気になった。

 ところで、レアルのカウンター。それは、どちらかといったら「ショート・カウンター」気味というケースが多い。まあ、これは、バルセロナのゲーム支配がレベルを超えているから・・という風にも考えられるけれどネ。バルサ選手は、常にリスクを冒して前へいく・・だからこそ、彼らのスーパー組織コンビネーションも機能する・・逆に、だからこそ、レアルに(忍耐の守備をベースにした!?)スーパーカウンターのチャンスを与える・・ってな構図かな・・。

 守備のやり方のタイプだけれど、この試合でのバルセロナは、いつものように、瞬間的な「攻守の切り替え」から、忠実な全力チェイス&チェックを絶対的ベースに、抜群にクリエイティブでダイナミック、そして忠実なボール奪取勝負を仕掛けつづけていた。もちろん、そんなプロセスだから、彼らがボールを奪い返すゾーンは「高い」。そして彼らもまた、必然的にショートカウンターのシーンが多くなる。天賦の才に恵まれたバルサもまた、ショートカウンターの「鬼」っちゅうことだね。

 まあ、才能こそがカウンターの量と質を決める・・ということだけれど、レアルでは、クリスティアーノ・ロナウドとディ・マリアという超速ドリブラーと、エジルという「ボールの配球プレイヤー」が、とてもうまくコラボレートしている(違うタイプが組み合わされている)よね。そんなところにも、ジョゼ・モウリーニョの「ウデ」を感じているわけです。

 まあ・・試合は、前半17分という早いタイミングで奪ったバルセロナの2点目が決まった時点で、ある意味での「ゲームの趨勢」は決まっていたとするのが正しい見方だよね。何せ、レアル・マドリーの場合は、(特に相手がバルサということで!)とても忍耐強いディフェンスがベースになっているわけだから・・。

 それと、この試合でのバルセロナの出来がスーパーだったという事実も忘れてはなりません。

 とにかく、組織コンビネーション(3人目、4人目ウラへの走り込みとスーパースルーパスの饗宴!)と、メッシやペドロ、はたまたビジャがブチかます破壊的な突破ドリブルが、これ以上ないほどの優れたバランスを示すんだからね。とにかく、強烈なドリブル勝負を仕掛けているメッシやペドロ、はたまたイニエスタやビジャの周りでは(ドリブラーの視野の広さに対する信頼をベースに!)ボールがないところでのレベルを超えた「勝負のフリーランニング」が展開されているんだから・・。

 いや・・ホント・・今回のクラシコでは、これ以上ないほどの素敵な刺激をもらいました。それでもサ・・長いシーズンを通せば、前述した「チームのコンセプト」が、徐々に存在感を発揮してくるに違いないんだよね。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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