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2010_ナビスコ決勝・・さまざまな見所(ポイント)豊富なエキサイティング勝負マッチでした(ゲームが成長していった!)・・(JUvsSA, 5-3)・・(2010年11月3日、水曜日)

「選手たちは延長までいくとは思っていなかっただろう・・これは、日本サッカーのネガティブな側面だと感じているのだが、彼らは、リードしていると過度にディフェンシブになってしまう傾向があると思う・・そんな状況でも、チャンスがあれば、しっかりとリスクを冒して攻め上がっていかなければならない・・同点を目指す相手の強烈な勢いをしっかりと受け止め、そして効果的なカウンターを仕掛けていく・・相手は前掛かりだから、使えるスペースはたくさんあった・・」

 「・・ただ我々は、チャンスがあるにもかかわらず、人数を掛けて攻め上がっていかなかった・・後半の最後の10分間は、特にその傾向が強くなってしまった・・我々は、ジュビロ守備ブロックのなかに出来ていたスペースを目ざし、勇気をもって出ていかなければならなかったのに・・あっと、延長に入る前のミーティングね・・そこでは、これまでのことは忘れで自分たちのサッカーを思い出し、全力で実行していかなければならないと選手たちに声を掛けた・・」

 サンフレッチェ広島のペトロヴィッチ監督が、わたしの質問に応え、真摯に、そんなニュアンスのコメントをくれた。わたしの質問・・

 「残り一分というタイミングで同点ゴールをブチ込まれた・・それは選手にとっても、監督にとってもショッキングな出来事だったと思う・・後半に勝ち越しゴールを奪ってからのサンフレッチェは、ちょっと引き過ぎになった・・そして、人数が余っているから、逆にディフェンスが(マークやカバーリングなどが)甘くなってしまった・・まさにドーハの悲劇を観ているようだった・・だから、ショッキングな同点ゴールは時間の問題のように感じていた・・そして延長に入ったわけだが、それがはじまる前、選手たちにどんな声を掛けたか?・・また、そこで最も大事なポイントは何だったか?」

 またまた長〜い質問になった。それだけではなく、ペトロヴィッチ監督は、思い出したくもないネガティブな現象を蒸し返された。それでも彼は、一瞬だけれど笑みまで浮かべ、冒頭のコメントをくれた。まあ・・立派なもんだ。

 ということで、素晴らしくエキサイティングな展開を魅せた決勝マッチのポイントは、後半の立ち上がり3分にサンフレッチェ山岸智が奪った素晴らしい勝ち越しゴールの後で、サンフレッチェ守備ブロックに発生していた「擬似の悪魔のサイクル」ということになります。

 全体的なゲーム展開だけれど、前半の「注意深すぎる沈滞サッカー」から、どんどん盛り上がっていった。特に、 先月から負けなしのジュビロ。ダイナミックな守備を絶対的なベースに繰り出していく、素早く広いボールの動き(組織プレー)、サイドからの勇気をもったドリブル勝負チャレンジ、中央ゾーンでクロスを待つ味方の、強烈な意志を放散する「飛び込み」などなど、内容的には、ジュビロが順当に勝ち取った勝利だったとするのがフェアな評価だろうね。

 それほど、ジュビロの「意志の爆発」は素晴らしかった。もちろん、自分たちは「やるっきゃない・・」わけだけれど、それにしても、そこで魅せつづけたチャレンジプレーは見応え十分だった。特に、前田遼一が、本物の「ブレイクスルー・プロセス」に乗ったとさえ感じさせてくれるようなスーパーなプレーを展開したのが目立っていた。

 ポストプレーだけではない。確実なトラップ&展開シンプルパスから、間髪入れない爆発パス&ムーブで次のスペースへ移動し、リターンパスを受けて決定的な仕事をしてしまう。

 この試合は、日本代表のザッケローニも観にきていたはずだよね。鮮烈なアピールになったはず。もちろん、彼に対してだけじゃなく、日本サッカーファンの方々にとっても、「これから」に対する期待を膨らませてくれる素敵な刺激になったに違いない。

 これまで彼の「自己主張」は控えめに過ぎた。それが、ここにきて、ガラリと雰囲気が変わったと感じられたのですよ。まあ・・もう彼も29歳だからね、やっと、ここで一花咲かせなければ・・っちゅう心境になったということなのだろうか・・??

 ・・そう・・オマエは天賦の才に恵まれた優秀なストライカーなんだから、味方の(彼らが描いている!?)プレーイメージのことや、リスクチャレンジを失敗したときのことなんて、まったく気にする必要ない・・もちろん、ある程度は、いまの前田がもっているはずの日本的な(謙虚で思いやりのある)感性(≒学習能力!?)を大事にしながらも、グラウンド上では、とことん(狩猟民族フットボールネーションの!?)エゴイズムに徹することが大事だゾ〜〜・・なんてことを、ヘネス・ヴァイスヴァイラーなら言うはずだぜ・・あははっ・・

 あっと・・またまたハナシが逸れた。ということで、サンフレッチェの守備ブロック。

 ペトロヴィッチも言っていたとおり、後半の彼らのディフェンスは(時間の経過とともに、どんどんと内容が減退していったわけだけれど・・)とてもいただける代物じゃなかった。

 ドリブル勝負を仕掛けてくる相手に対し、中途半端にアタックを仕掛けるものだから、簡単に、そのアクションの逆を取られて置いてけぼりにされる・・そのドリブラーが、次のサンフレッチェ選手に突っ掛けていくことで、そのサンフレッチェ選手がマークしていたジュビロ選手がフリーになる・・そして、まさに、その(バイタルエリアにいる)フリーなジュビロ選手に決定的な仕事をされてしまう・・

 ・・サイドからの仕掛けでも、味方選手が集まりすぎ、逆サイドを空けてしまうから、その出来たスペースを、後方からオーバーラップしてくるジュビロ選手に使われ、まったくフリーでシュートされたりする・・また、マークが甘いから、後方からフリーで上がってきた選手に、危険なミドルシュートをブチかまされてしまう・・等々・・

 とにかく、バイタルエリアで次々にフリーになっていくジュビロ選手たちと、アタマのなかが真っ白になっている(ボールウォッチャー気味!?)サンフレッチェ選手のアクションが後手後手に回るシーンを観ながら、何度もフリーズしたものです。

 結局サンフレッチェ守備は、少なくとも三回は、ジュビロが繰り出す大迫力の仕掛けに決定的ピンチに陥ったのですよ。誰もが、「エッ・・どうしてアレがゴールにならないの??」ってな絶対的ピンチ。それでも、何とか生き延びた。そして残り一分というタイミングで、コトが起きてしまったというわけです。

 それは、セットプレー(コーナーキック)から。主役は、ジュビロの中盤の底で、攻守にわたって素晴らしく「渋い」活躍をつづけていた那須大亮。玄人好みの渋いプレイヤー。その彼は、強烈なヘディングでも知られている。だから、セットプレーで最も警戒しなければならない存在だったわけだけれど・・

 その同点ゴールは、那須大亮の強烈なヘディングシュートがこぼれたところを、前述の「エゴイスト」前田遼一が、クールに押し込んだモノでした。その後も那須大亮は大活躍。延長前半12分にも、またまたコーナーキックからのボールをヘディングで競り勝ち、それを(交替出場し、素晴らしいプレーで存在感をアピールした!)菅沼実がブチ込んだ。勝ち越しゴール・・

 その後のゴールは、主にカウンターから。やはりカウンター攻撃の主役は「才能」だよね。そう、ジュビロの前田遼一や(この試合では抜群の活躍を魅せた)菅沼実や山崎亮平・・

 そんなジュビロに対し、サンフレッチェも、最後の最後まで強烈な意志をブチかましつづけてくれた。だからこそ、試合が、最後の一分まで盛り上がりつづけた。

 ペトロヴィッチも言っていたけれど、この試合は、サッカーの面白さが手に取るように感じられるという意味で、日本サッカー界にとって、とても価値のあるモノになった・・ということでした。

 あっと・・最後になりましたが、わたしが、ジュビロ柳下正明監督に対して投げてしまった、大失敗の質問について・・

 「後半は、自然発生的に、ジュビロが爆発的なサッカーでサンフレッチェを圧倒した・・それは、本当に素晴らしい内容だった・・観ているこちらも(柳下監督が言っていたように・・)いつ同点ゴールが生まれてもおかしくないと感じていた・・実際、少なくとも三本、絶対的なチャンスを作り出した・・でもゴールを挙げられない・・そして残り一分・・そんな状況で、これはもうダメだな・・今日はサッカー神様に見放された・・なんて思わなかったか?」

 そんな愚問に対して、柳下監督は、一言。「いいえ・・わたしは、絶対に追い付くと確信していましたから・・」、だってサ。

 大失敗。そこは、「あれほどの決定機を何度も作り出したのにゴールを奪えない・・そして、刻々とタイムアップが迫っている・・そのとき、どんな心境だったか・・?」なんて質問すべきだった!?

 いや・・それでも「あの」柳下正明のことだから、そこでも、「そんな状況でも、同点に出来るという確信の揺らぐことなど、まったくありませんでした・・」なんて、軽〜く、いなされちゃったりして・・あははっ・・

 とにかく、ものすごくエキサイティングで見所豊富な勝負マッチではありました。あ〜〜、面白かった・・。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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