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2011_アジアカップ・・その後のテーマ(その2)・・見事なイメージ・シンクロ勝負・・(2011年2月1日、火曜日)

いま、日本代表が作り出したチャンス(ゴール)シーンを見直しています。そのほとんどが、パスの出し手と受け手のイメージが(人とボールの動きが!)見事にシンクロ(同期)した最終勝負だった。

 リスキーなラスト(タテ)パス勝負や、クロスボール勝負・・など。やはり日本代表には、組織コンビネーションゴールが似合う。

 そんな勝負の仕掛けコンビネーションが、組み立て段階でスムーズに「流れはじめるキッカケ」を中心的にコントロールしていたのは、言わずと知れた大人のダブルボランチ、遠藤保仁と長谷部誠だったね。

 彼らについては、このコラムとは別立てで書くつもりだけれど、とにかく、相手守備ブロックの薄い部分(相手守備プレイヤーが少ないゾーン)を強く意識してボールの動きをコントロールする彼らの組み立てプロセスは見事だった。

 だからこそ、本田圭佑や長友佑都、岡崎慎司や前田遼一といった攻撃陣が、より効果的に仕掛けに入っていけた。ということで、ここでは、そんな最終勝負シーンのいくつかをチョイスし、日本代表が魅せた見事なイメージ・シンクロ勝負を掘り下げていこうと思う。

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 まずカタールと対峙した準々決勝で、一点リードされた前半28分に魅せた、本田圭佑と岡崎慎司の「あうんのコンビネーション」。そのシーンでは、最後は香川真司が同点ゴールを押し込んだ。

 そこで本田圭佑は、(最終的には自身がゴールを挙げることになる)香川真司からの横パスを受ける直前、オフサイドぎりぎりのところにポジションを取っていた岡崎慎司と、素早いアイコンタクトで最終勝負イメージを確認していた。

 「最終勝負はお前が行くんだ!・・(香川からの横パスを)ダイレクトで、お前の眼前の決定的スペースへ出すぞ・・だから準備していろ・・」

 それは、まさに一瞬のコミュニケーション。そして二人のイメージが完璧にシンクロした。そのとき彼らには見えていた。カタール最終ラインが高い位置で(ラインを)コントロールしていたことで、その背後に広大な決定的スペース(最終ラインと相手GKとの間のスペース)があることを・・。

 だから岡崎慎司は、決して動かず、香川真司から(本田圭佑への)横パスの動きと、そのパスを受ける本田圭佑の体勢、またカタール最終ラインの動きを冷静に「見定め」、そして最後の瞬間、ギリギリのタイミングで爆発した。そして本田圭佑は、迫りくる相手ディフェンダーを避けるように、絶妙な「浮き球」のダイレクト・ラストパスを決定的スペースへ送り込んだ。

 そのパスで勝負あり。最初にボールに追い付いた岡崎慎司は、飛び出してくる相手GKのアタックを、チョンッ!と(ボールを)浮かしてかわし、そのボールを、(本田圭佑への横パスを出した次の瞬間に)忠実なパス&ムーブでゴール前へ走り込んでいた香川真司が決めた。感動的な同点ゴールだった。

 決勝ゴールも感動的だったけれど、そこでのヒーローは、大人のダブルボランチだった。

 ・・左サイドでボールをキープし(タメの演出!)、相手ディフェンダーを引きつけた遠藤保仁・・最後の瞬間、相手アタックに倒されながらも、正確なバックパスを長谷部誠へ送る・・長谷部誠は、そのパスに寄りながら、最前線のオフサイドぎりぎりのポジションで待ち構える香川真司と、瞬間的なアイコンタクトを交わしていた・・そして次の瞬間、ズバッという音が聞こえてきそうなほど鋭いグラウンダーのラストパスを、ダイレクトで香川真司へ送り込んだ・・

 ・・それで勝負あり・・カタールの(香川真司をマークすべき)ディフェンダーは、そんな鋭いグラウンダーパスを予想していなかったから、完全に置き去り・・最後は、こぼれ球を伊野波雅彦が決めた・・実は、そこに至るまで、香川真司は二度もファールを受けていた・・でも彼は、ホイッスルが吹かれることに確信が持てなかったから(!?)危険なファールに対しても、最後まで倒れずに堪(こら)えた・・あっと、最後は、ファールタックルで倒されちゃったけれどネ・・

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 次は、韓国戦の前半36分に前田遼一が押し込んだ同点ゴール。それは、まさにスーパーコンビネーションから生まれた感動的なゴールだった。

 このシーンでは、何といっても、本田圭佑が演出した「タメのボールキープ」と、その横をオーバーラップする長友佑都が魅せた、自分をマークするチャ・ドゥリの「視線を盗んだ」爆発スプリントが特筆だった。

 ・・香川真司からタテパスを受けた本田圭佑・・そのまま振り向き、スッ、スッと、タテへボールを運んでいく・・それは、全力スピードの突破ドリブルじゃない・・もちろん、すぐに後方からイ・ヨンレが忠実に追い付いてくる(この忠実なチェイス&チェックもまた韓国の強さのバックボーン!!)・・

 ・・本田圭佑には思惑があった・・彼には、イ・ヨンレが追い付いてくることも、韓国最終ラインの重鎮、ファン・ジェウォンが、自分の前のスペースへ寄ってくることも、見えていた・・でも、本田圭佑には、もう一つ「やりたいこと」があった・・彼は、韓国の右サイドバック、チャ・ドゥリの意識と視線をも引きつけたかったのだ・・

 ・・本田圭佑は、事前に、日本左サイドのマイティーマウス、長友佑都と話し合っていたことがあった・・それは、長友佑都が、スプリントのスピードに変化をつけるということ・・常に全力スピードではなく、ゆっくりと仕掛けに入り、ココゾッ!のタイミングで爆発する・・というイメージ・・

 ・・ただそのためには、長友佑都をマークする相手ディフェンダー(チャ・ドゥリ)の注意を逸らさなければならない・・それが、その勝負プロセスで本田圭佑が抱いていた「本当の勝負イメージ」でもあった・・

 ・・そして、本田圭佑の天賦の才が光り輝く・・彼は、スッ、スッと切り返しながら巧妙にボールをコントロールすることで、三人の韓国ディフェンダーの視線とアクションをフリーズさせたのだ・・最後の瞬間・・三人の韓国ディフェンダーのポジションは、完全に重なってしまっていた(!!)・・

 ・・そして次の瞬間・・チャ・ドゥリの視線が自分から外れた瞬間、長友佑都が『爆発』した・・それは、まさに爆発的なスプリントスタート・・チャ・ドゥリは、一瞬にして置いていかれる・・そして、もちろん本田圭佑は、長友佑都が、スプリントスピードを落とさずにボールをコントロール出来る理想的なタテパスを送り込んだ・・

 最後は、長友佑都の折り返しを前田遼一が押し込んだわけですが、そこでの前田遼一の、事前の動きも秀逸だったよね。彼は、スッと動きを止めることで(!)相手マークからクレバーに「フリー」になったのですよ。

 そしてもう一つ、このシーンには「隠し味ポイント」があった。それは、韓国選手が魅せた、ギリギリの「忠実ディフェンス」。そのシーンを観ながら、韓国選手の、決してアナタ任せにするのではなく、あくまでも「オレが守ってやる!」という強烈な意志(ギリギリの自己主張!)の迸(ほとばし)りを体感したモノです。

 ラストパスを出した長友佑都だけではなく、スライディングシュートを決めた前田遼一も、最後の瞬間に、全力でディフェンスに入ってきた韓国選手にスライディングタックルを見舞われたのですよ。

 その両方のスライディングタックルは、一歩間違えばケガにつながるほどギリギリのタイミングと体勢でした。それでも韓国選手は、最後の瞬間まで決して諦めず、(あくまでもフェアに)足を伸ばした。

 わたしは、よくこんな表現を使います。勝負の瞬間に「最後の半歩が出るかどうか・・」。そのシーンで韓国選手がブチかました「強烈な闘う意志のスライディング」には、とても深いコノテーション(言外に含蓄される意味)があった。フ〜〜・・

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 そして、このコラムの「トリ」を務めるのが、言わずと知れた、李忠成の決勝ゴール。

 もちろん、マイティーマウスのドリブル突破とスーパーなクロス・・その長友佑都へ(オーストラリア守備ブロックを引きつけて)タイミングよくタテパスを供給した遠藤保仁のクールな組み立ても素晴らしかったけれど、ここでは、李忠成の「事前のアクション」にスポットを当てましょう。

 要は、目の覚めるようなボレーシュートを決めた李忠成が、ちょっと不思議に思えるほどフリーだったという現象のことです。それには、李忠成のクレバーな事前アクションがあった。

 左サイドを目の覚めるような突破ドリブルで切り裂いた長友佑都も、「どこ」で李忠成がクロスを待っているのかについて明確なイメージをもっていたそうな。要は、長友佑都も、李忠成が、しっかりとした「事前のアクション」でフリーになっているに違いないと確信をもってクロスを上げたということです。

 それは、李忠成をマークしていたオーストラリア最終ラインのカーニーが、李の一瞬のフェイント動作で、ニアポストへ動きつづけてしまったという現象。カーニーは、李忠成のスーパーボレーシュートが決まったとき、アタマを抱えていた。

 カーニーは、一度だけ、瞬間的に李忠成の動きを「確認」するように首を振った。そして、その視線の端っこで李忠成の動きを確認した。

 李忠成は、その瞬間(フェイント動作のチャンス!)を逃さなかった。そして、ズッと、左足を大きく「一歩踏み出した」のですよ。そのアクションが、カーニーを完全に惑わせた・・というわけです。

 そして李忠成は、完全にフリーで左足を振り抜いた。それは、子供の時から、数え切れないほどトレーニングしたボレーシュートの「カタチ」だったそうな。だから、自然とボレーシュートのアクションに入っていったということらしい。

 要は、李忠成は、そんな「確信のカタチ」を持っていたということだね。

 いくつものプレー・オプションがある(才能にあふれた選手の!?)場合、そんなギリギリの勝負の状況だから、迷ったり、ビビッたりしちゃうかもしれない。それがミスにつながる。でも李忠成には、迷うようなプレー・オプションはなかった。だから・・!?

 最後に言いたかったことは、決定力。

 李忠成のシュートを決める(チャンスを実際のゴールに結びつける)チカラは、確かに優れている。それは彼の内面の「文化」がインターナショナルだから!? まあ「そんな要素」もありそうだけれど、李忠成の場合は、ボレーシュートだけじゃなく、アタマでも足でも、とにかくチャンスをしっかりとゴールに結びつけるという「現象」に対して、とても優れた「感覚」を持っているということです。

 だからこそザッケローニは、彼を代表に招集した。そして(聞くところによると)ベンチを温めている李忠成に対して、いつかはチャンスが巡ってくる・・そのときこそ、持てるチカラを存分に発揮できるように常に準備していてくれ・・なんて声を掛けつづけた・・ということらしい。

 とにかく、あの決勝ゴールのバックボーンが、偶然要素よりも、必然要素に、より大きく支配されていたということ「も」言いたかった筆者でした。

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 次は、ビデオで確認しながら、より「人寄りのコラム」を書くつもりです。まずは、大人のダブルボランチかな・・。では今日は、こんなところで・・

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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