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2010_WM(4)・・ワールドカップという巨大な刺激(その3)・・(日本vsカメルーン、1-0)・・(2010年6月14日、月曜日)

岡田武史が、「究極の組織プレー」を頑(かたく)なに追求するのではなく、どちらかといったら「結果を優先させる現実的なやり方」へ、ちょっとだけシフトしたことには、ちょっと落胆もあったけれど、でも、この試合では勝つことが最優先ターゲットだったわけだし、いまの中村俊輔の状態を考えれば、まあ・・ネ・・。

 何せ私も、日本代表がカメルーンに勝利を収めたことについては、とても興奮したし、正直、とても嬉しかったわけだからネ。タイムアップのホイッスルを聞いたとき、思わず「ヨ〜〜シッ!!!」とガッツポーズが出た。

 とにかく、この試合では、守備が、掛け値なしに素晴らしかった。決して、受け身に下がって狭いゾーンを固めるというのではなく、忠実なチェイス&チェックを繰り返すなかで、安易なアタックを仕掛けるのではなく、しっかりと狙いを定め、高い位置でも、何度も「狙い通り」のボール奪取勝負を(成功裏に)仕掛けつづけていた。ウラを突かれない、素晴らしいイメージングの組織ディフェンス・・。まさに、勝負はボールのないところで決まる・・というサッカーの絶対的メカニズムを知り尽くしたプレーぶりでした。

 そこで魅せつづけた、7人のディフェンスブロックの、決して受け身ではないアクティブディフェンス。本当に素晴らしかった。あっと・・、この試合ではスリートップを形成した日本代表の個の才能連中、本田圭佑、大久保嘉人、松井大輔「も」、必要なところでは、しっかりと守備に入っていたよね。

 まあ・・、彼らについては、まだまだ、攻守にわたるボールがないところでのアクションの量と質には不満がつのるわけだけれど、でも、攻守にわたる「汗かき」をやろうとする意志がアップしたことは、素直に評価しなければいけないよね。ワールドカップという巨大な刺激・・

 だから「7人ブロック」ばかりを誉めるのは、フェアではないかもしれない。この勝利は、全員のハードワークが素晴らしい結果を生み出したということだね。

 とはいっても、日本の才能トリオが、個のチカラでチャンスを作り出したシーンが皆無に等しかったことも確かな事実だった。後半には、大久保嘉人や松井大輔が、とても魅力的で上手いボールコントロールから、何人ものカメルーン選手を翻弄したシーンはあったけれど、それも、結局は具体的なチャンスに結びかなかったわけだからね。単発の個人プレー・・

 それでも、彼らが前戦にいたら、ファールを誘ってフリーキックを取ることも含め、「そこ」でボールが「比較的うまく収まる」ことも確かな事実。もちろん、トップフォームの中村俊輔だったら、たぶん「彼ら以上」のパフォーマンスと実効を演出できたはずだけれど・・。とにかく、彼らが演出した「ボールが収まる」という現象には、たしかな価値があったと思うわけです。

 そして決勝ゴールは、遠藤ヤットの展開力、松井大輔の局面でのクリエイティブなボールコントロールと正確なクロス、そして本田圭佑が魅せた「異質の落ち着き」によって生み出されたわけだから・・。

 まあ、そのシーン以外にはチャンスらしいチャンスはなかったわけだけれど(長谷部の中距離シュートからの岡崎慎司のポストシュートシーンはオフサイドだったしネ)、それでも、日本代表が、受け身にゴール前を固めるような無様なサッカーをやったわけではないのは確かな事実です。彼らは、何度も、積極的に、そして組織的に、「高い位置」でボールを奪い返し、そこから魅力的で危険な、カウンター気味の攻めを仕掛けていったのですよ。

 もちろん、そのカウンター気味の素早いタテへの攻めが、観ている方の期待をかき立てれば立てるほど、そのピンチでカメルーン守備が魅せた、異次元のスピードと強さ、そして彼らの(追い込みとボール奪取の)巧さに舌を巻いたものでした。

 ところでトゥーリオ。ホントに素晴らしかったよネ。ヘディングでも、ココゾのアタックでも、蛮勇ではなく、とてもコントロールされた、効果的なディフェンスだった。何度トゥーリオのスーパーボール奪取勝負に快哉を叫んだモノか。素晴らしい〜〜っ!!

 ところで、コミュニケーターとしてのトゥーリオ。彼の攻撃的なパーソナリティーが、選手間のコミュニケーションを促進したということを聞いた。本音のぶつかり合いがあったということなんだろうけれど、たぶん阿部勇樹も、そんなプロセスを通し、レッズ時代の「心理的な重し」から解放されたんだろうね、とても素晴らしい(自信と確信にあふれた)プレーぶりだった。それもまた、ワールドカップという次元を超えた巨大な刺激のお陰っちゅうことでしょう。

 とにかく、日本代表の素晴らしい守備と、あれほどの優れた個の能力を有するカメルーンが、それらの「個」を組織として結集できなかったことは、わたしにとって、とても素敵な学習機会でした。

 もちろん、このポイントについては、「あの素晴らしい」個の才能を、組織的に機能させなかった日本代表のディフェンスを誉めるべきだよね。もう何度も繰り返したように・・。カメルーンが、ドリブルやショートコンビネーションを駆使してウラのスペースを突いていこうとするのに対し、日本代表ディフェンスブロックは、ものすごく忠実に、ものすごくハイレベルな「イメージ描写力」を見せつけていたものです。

 そう・・勝負は、ボールがないところで決まる・・のです。逆に言えば、この試合のカメルーンは、ボールがあるところで勝負を決めようとし過ぎていたと言えないこともないよね。そんな現象もまた、効果的な日本ディフェンスが、彼らを誘った(陥れた)結果だったと言えないこともない。

 とにかく、おめでとう岡田ジャパン。でも、岡田武史が言うように、まだ何も得たわけじゃないからネ。次は、本当の意味で「世界」のオランダ。その試合には、もっともっと強烈な「意志」が求められる。岡田武史の、心理マネージャーとしてのウデに期待しましょう。

 もし、このオランダ戦で、岡田武史が、ガチガチの「ゲーム戦術」を駆使しても、もう何も言わないし、言えないよな。今日のカメルーン戦では、たしかに方向性は「堅実ベクトル」だったけれど、それでも「ガチガチのゲーム戦術」というほどじゃなかったわけだけれど・・。

 でも、もう「ここまで来たら」、決勝トーナメント進出のために、何でもアリになってもいいかもネ。オランダ戦は、ガチガチの「ゲーム戦術サッカー」。そしてデンマーク戦で(もちろん状況に応じて)世界の評価を獲得できるような「日本的な、究極の組織プレー」という美しさと勝負強さを、極限の剣が峰でバランスさせる・・。

 アッ・・スミマセン、わたしの発言は、ある意味、プールサイダー的だよな。「プール・サイダー」という表現については、イザヤ・ベンタサンの「日本人とユダヤ人」という本を参照してくださいネ。

 とにかく、サッカー監督は、政治家のように(!?)さまざまに「背反する要素」を、目標イメージ(理想)に近づいていけるように、巧みにバランスさせながらマネージしていかなければならないのですよ。スミマセンね・・プールサイダーになってしまって・・

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ところで、わたしがブルームフォンテーンのスタジアムに到着したのは、試合開始1時間前というギリギリのところでした。

 予定通り、朝一でヨハネスブルクに到着したものの、荷物のピックアップに時間を取られたり、SIMカードの「プリペイメント」で長い行列に並ばされたり、さらには、レンタカーにナビゲーションが装備されていないことが土壇場になって判明するなど、ストレスが限界までアップしてしまった。

 それらを一つひとつ、我慢強く解決していったわけですが、結局、空港を出発できたのは、午前10時をまわった頃になってしまった次第。それから430キロを走破し、16時キックオフのカメルーン戦に間に合わせなければならないのに・・。それだけじゃなく、スタジアムに行く前に、プレスIDも、アクレディテーションセンターで作らなければならない。フ〜〜

 ところがサ・・そんな、ストレス状態のなかで、あろうことか、ボーダー・コムで「別立て」で借りた(そこでも長い時間が掛かった!)ナビゲーションが、うまく機能しないのですよ。そこを左、そしてすぐに右・・また左、そしてすぐに左・・などなど、何かおかしい。ディスプレーを見たら、何と、インド洋沿いの道を走っていることになっている。バカヤロ〜〜ッ!! 思わず、叫んだ。

 仕方なく、何度か他のドライバーの方に道を聞いた。でも、何度も、間違い情報に振り回され、結局、ヨハネスブルクのダウンタウンに入り込んでしまった。たしかに危ない雰囲気・・。フ〜〜・・

 それで、まず、ナビゲーションを何とかしようと、電源を切ったのですよ。そうしたら、生き返った。そうだよ〜〜、電源を切れば、自動的にリセットされるんだよ〜〜。フ〜〜・・

 そこからは、ホントに、気合いを入れて飛ばしに飛ばした。ゴメンなさい・・。そしてようやくブルームフォンテーンに到着した次第。

 最初から、やるっきゃない・・と覚悟を決めていたし、なるようにしかならない・・とも思っていたから、パニックに陥ることはなかった・・と思うけれど・・。

 とにかく、そんなハードなプロセスを経て、日本サッカーにとって、とても素敵な出来事の証人になれたわけだから(まあ・・まだ岡田ジャパンは何も成し遂げたわけじゃないけれど・・)、感慨もひとしおではありました。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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