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2010_WM(20)・・ブラジルの底力が・・(ブラジルvsチリ、3-0)・・(2010年6月28日、月曜日)

昨日の帰り。450キロを一気にドライブしたのですが、一昨日のルステンブルクからの復路と同様に、またまた大渋滞に巻き込まれた。

 もちろん、イングランドとドイツを応援していた方々のクルマ。そして、安全運転のクルマが、ヘビのように連なる長い車列を引っ張るのです。フ〜〜・・

 渋滞の「程度」は、ルステンブルクからの復路ほどではなかったけれど、それでも、400キロを超えるドライブだからね(ルステンブルクからは150キロ程度)、とても大変だった。結局、普通の2倍以上の時間が掛かってしまったのでした。そして、「オレも年食ったな〜っ・・」なんて、しみじみ思っていた。以前だったら、次の日にはケロッとしていられるのに・・

 ブルームフォンテーンからヨハネスブルクへ向かう「フリーウェイ」は、南アの幹線高速道路なんですよ。でも・・まあ、ルステンブルクとプレトリア間の道路ほどひどくはないにしても・・、片側一車線の対面通行の区間も多いから(それに、対向車も含めて全体的に走行スピードが速いことで)追い越しが難しいのです。とにかく気を遣う。

 完全に対向車線と分離された二車線の「本物のハイウェイ」区間は、まあ・・半分くらいですかネ。それ以外では、前述したように、速く走るのがとても難しい何コースなのです。でも、まあ・・わたしは、対向車がほとんどこないこともあって、それに帰ってからのワインがガンガンと抜いていったけれど・・。でも、ホントに疲れた。

 とはいっても、そんな厳しさの体感こそが、ワールドカップという人類史上最大のイヴェントに参加しているという実感と達成感を確固たるものにしてくれるんだよね。もちろん、ドイツの快勝が、心理的に、とても大きな余裕を与えてくれたことは言うまでもありません。

 ちょっと、交通(移動の)事情ばかりに話題が偏っているような・・。まあ、ここはヨハネスブルクということで、あまり出歩かない方が無難だし、いまは出歩いている時間もないことで、どうしても話題が狭くなってしまう。もちろん、ヨハネスブルクでも、場所を選べば、そんなに気を遣わなくても大丈夫なんだろうけれど・・。もちろん何度かは、たとえばプレトリアの安全だと思われる街中を歩いたことはあるけれど・・。とにかく、その話題については、別の機会に。

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 さて、ブラジルとチリの勝負マッチ・・本当に、とても興味深い勝負マッチ。

 現地では、この試合に対する注目度は、天文学的なレベルまで高まっていました。何せ「あの」ブラジルと、アルゼンチンの名将マルセロ・ビエルサが率い、とてつもない攻守のハードワークに支えられた、まさに究極の(素晴らしい)組織サッカーを体現するチリ代表との激突だからね。

 わたしのメディアシート・チケットの状況は、ウェイティング・リストに載ってはいたけれど、今日の昼になって「断りメール」が送られてくるなど、とても厳しかった。でも、どうしてもスタジアムで観たい。だから、しつこく、メディアセンターまで行き、最後の可能性に懸けることにしました。

 もしダメだった場合は、スタジアムの外で、ダフ屋と交渉するつもり。もちろん、試合開始を待ってから・・ね。でも、そんなことを考えていたら、とても信じられないようなラッキーなことが起きたのですよ。

 チケットのディストリビューションデスクの周りでは、顔見知りの日本人ジャーナリストの方々も待っていました。でも、ウェイティング・リストでチケットを配布される人の名前が呼び上げられるデスク周辺の雰囲気は、いつもとはまったく違う。普通は、何重にも人だかりの輪が出来るのに、この日に限って、ほとんど人がいないのですよ。みんな、初めから諦めていた・・!?

 結局わたしの名前は呼ばれなかったのですが、そこに救世主が・・。知り合いの日本人ジャーナリストで、ダメだった場合を考え、事前にダフ屋からチケットを購入していた方がいたのです。その方の名前が、最後の最後に呼ばれた。そしてわたしを探して、「湯浅さん、観られますか?」とチケットを差し出すのですよ。

 とても嬉しかったけれど、複雑な気持ちでもあった(この複雑な気持ちについては、後で反芻してみよう・・)。そこで、ちょっと躊躇(ちゅうちょ)し、そして「本当にいいんですか・・それではお言葉に甘えされていただきます・・本当に心から感謝します・・」と、そのメディアチケットを受け取った次第でした。本当に、有難うございました。

 そんな経緯でスタジアム観戦できたわけですからね、何か、使命感にも似た感覚に後押しされるように集中してゲームを観はじめたのでした。

 そして、ゲームを見終わってすぐにテーマが決まった。ブラジルの底力・・。

 ゲームは、例によっての「前から仕掛けていく」ダイナミックな組織ディフェンスを基盤に、チリがイニシアチブを握るカタチで立ち上がります。中盤を制し、効果的にボールを奪い返してカウンター気味の素早い仕掛けを繰り出していこうとするチリ。とはいっても、最後のシュートへ至るまでの最終勝負プロセスが、うまくいかない。

 しっかりと人とボールを動かすけれど、決定的スペースを攻略するところまで、うまくたどり着けないのですよ。ドリブル勝負でも、組織コンビネーションでも・・。そして徐々に、ペナルティーエリアに入り込む前のバイタルエリア付近からミドルシュートを打つ・・なんていう展開になっていく。そう、相手に「打たされる」ミドルシュート。

 とにかく、ブラジルの守備は強い。ボールをめぐる競り合いに強いだけじゃなく、ボールがないところでの人の動きまでも、正確に、そして厳しく抑えてしまうのです。勝負は、ボールがないところで決まる・・。ブラジルの場合は、攻撃の才能を数多く輩出しているからこそ、守備も自動的に強くなるというわけです。

 チリが「打たされていた」ミドルシュート。もちろん、それだって、ツボにはまればゴールになる。ただし、ブラジル守備にコースを限定され、ブラジル選手の効果的なプレッシャーの影を感じながらのシュートだからね。やはり限界がある。

 そして、そんな流れのなかで、徐々にブラジルが、チリの協力プレスを「いなし」はじめるのです。もちろん、局面での「個のエスプリプレー」もあるけれど、基本は、組織コンビネーション。大きく人が動くのではなく(まあ・・カカーは、とても大きなフリーランニングを繰り返すけれど・・)、ポジションを「スッ・・スッ」と細かく調整しながら、素早く、そして角度を付けてボールを動かしてしまう。

 この人の動きが、本当に巧みなのです。チリ選手がインターセプトを狙っていても、巧みに、狙われているコースを外すように人が動いたりする。そんな人の動きと(基調はダイレクトパス)のボールの動きが、とても軽やかなハーモニーを奏でるのです。

 チリ選手は、次の協力プレスを狙いながら、守備での人の「効果的な集散」を繰り返そうとするけれど、ブラジル選手の、あまりに「巧み」なボールコントロールと(私は、それを局面でのエスプリプレーと呼びます)、イメージが完璧にシンクロした人とボールの動きに、視線と意識が(次のボール奪取イメージが)フリーズさせられて足を止めてしまう。

 そして、そんなスキを突いて、ブラジルが、素晴らしい組織パスプレーでボールを動かし、最後は、後方からの三人目、四人目のフリーランニングも活用しながら、チリ守備ブロックのウラに広がる決定的スペースを攻略していくのです。

 チリが展開する組織的なプレッシング守備は、ボール奪取ポイントへ向けた「人の集散」を繰り返さなければ機能しない。それに対してブラジルは、チリ選手が協力プレスを掛けるため集まることで(別のゾーンに)空いてしまうスペースへ、素早く、巧みにボールを動かしてしまうのです。

 もちろんチリは、ものすごく忠実でダイナミックな全力スプリントで、次、その次と、カバーリングや協力プレスを機能させようとはするけれど・・。結局は、エネルギー消費が嵩(かさ)んでいくばかり。フ〜〜・・

 そして徐々に、チリが、協力プレスを、ブラジルの組織コンビネーションやエスプリプレーで「外され」はじめるのです。それでもチリは、気持ちが萎(な)えることなく全力のハードワークを繰り返そうとはするけれど、一人でもハードワークのエネルギーや集中力が落ちたら、やはり、組織プレーの「全体的な機能性」は大きく減退してしまうよね。

 究極の組織プレーを機能させるための最も重要なキーワードは、何といっても、チームが一体となったユニット・プレーなのです。そう・・有機的なプレー連鎖の集合体。

 徐々に勢いが減退し、ブラジルにペースを奪い返されるチリ。ただ、イニシアチブを握り返したブラジルとはいっても、そう簡単にゴールを奪うところまでいけないのもサッカー。たしかにチャンスは作り出すけれど、最後の最後で、チリの必死のディフェンスに、最終勝負プロセスに入るところで潰されてしまうブラジルなのです。

 そんなタイミングで飛び出したのが、コーナーキックからのヘディングゴール。ドイツ、ブンデスリーガの雄、レーバークーゼンでもプレーしたことのあるフアンの一発。前半34分のことでした。

 ブラジルは、流れのなかだけではなく、セットプレーでも無類の強さを発揮するからね。だから勝負にも強い。まあ、美しさと勝負強さが、とても高い次元でバランスしたチーム・・ということだね。

 そして、先制ゴールを奪われたチリが、より前からボール奪取勝負を仕掛けていく。全体的に、前へ重心がかかっていくチリ。もちろん「それ」は、ブラジルが秘める勝負強さのもう一つの源泉を際立たせることになる。そう・・必殺の、蜂の一刺しカウンター。

 ロビーニョ、ルイス・ファビアーノ、カカー・・などなど。そんな天才連中に、後方からのオーバーラップがカウンターの勢いを加速させていていく。そのオーバーラップは、中盤でボールを奪い返した選手がそのままの勢いで上がっていくケースが多い。

 そして、先制ゴールの4分後には、美しい、あまりにも美しいコンビネーションから、ブラジルが追加ゴールを奪うことになるわけです。

 左サイドのロビーニョがドリブルで突破し、チリ守備の意識と視線を引きつける。そして次の瞬間、ロビーニョが、中央ゾーンのカカーへ鋭い横パスを送る。そしてカカーは、そのボールを、ダイレクトで、ウラの決定的スペースへ走り込むルイス・ファビアーノへスルーパスを送り込んだという次第。

 最後は、ルイス・ファビアーノが、チリGKまでもかわしてゴールを奪ったけれど、このシーンでは、ロビーニョの「突破とタメのドリブル」と、ルイス・ファビアーノの、決定的スペースへの斜めの飛び出しが秀逸だった。彼らは、カカーが、そのタイミングで「そのプレー」をすると、確信していたのですよ。

 やはり、このブラジル代表は「一つのユニット」になっている。

 その後は、もうブラジルの独壇場。もちろんチリも必死に攻め上がり、何度かチャンスを作り出しはしたけれど、逆に、前へ重心が移動していたことで、何度もブラジルに効果的なカウンターを仕掛けられてしまうのですよ。そして3点目が入り、万事休す。

 立ち上がりの10分間のゲーム展開だけれど、決してブラジルは、チリに「攻めさせた」というわけではなかったと思う。イメージとしては、こんな感じだった!?

 ・・最初ヤツらはガンガン来るに違いない・・だから、まず落ち着いて、守備ブロックをしっかりと機能させよう・・そのなかで、ロビーニョとかルイス・ファビアーノ、またカカーが、個人勝負にチャレンジする・・そうしているうちに、オレ達も、ヤツらのプレッシングのタイミングに慣れてペースを奪い返せるはずだ・・

 とにかく、ブラジルの(本来的な!?)底力ばかりが目立ったゲームではありました。

 今日も2時を回ってしまった・・昨日までの二日間のハードワークもあったから、もうアタマが回らなくなってきた・・赤ワインを飲んで寝よう・・オヤスミナサイ・・

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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